たんぽぽ娘07 - きっさんらが

彼は皿を洗ってコーヒーをいれた。
そして桟橋で心を空にして釣りをし、午前中を潰した。
そしてしばらく後、彼は心の中の少女と対面した。
その時間は、彼が彼女の愛を理解するのに十分な時間だった。
そしてまた少しの時間をあけて、彼はもう一度少女を思った。
確かにタイムマシンは小さな町からこの丘へ彼女を連れてくるのに問題は無いだろう。

彼は早めにそこに到着して、いつもの岩に腰掛けて、少女が来るのを待った。
彼は自分の心臓がドキドキと脈打っていることを感じた。
そして彼の手は震えていた。
おとといはウサギを見かけたの。
きのうは鹿。
そして今日は、あなた。

彼は待ちつづけた。
しかし少女は現れなかった。
次の日も来なかった。
影が長くなって、空気が冷たくなった頃、彼は丘を下って、カエデの森に入っていった。
ほどなくして、彼は小道を見つけた。
そしてその道に沿って森の中を適当に歩くと、森を越えて小さな町に着いた。
そして、小さな郵便局のところで足を止め、手紙が来ていないか確認した。
老齢の郵便局員が手紙が無いことを告げたのち、彼はしばらく迷っていたが、ついに聞いてしまった。
「この辺に…ダンバーズさんという家族が住んでいないでしょうか？」

郵便局員はびっくりして言った。
「そんな家族は聞いたことがないですね。」

「最近この町でお葬式がありませんでしたか？」

「ここ一年はありませんでしたよ。」

それから休みが終わるまで、彼は毎日午後に丘を訪れたが、彼女が二度と戻ってこないことは分かっていた。
彼女はもう居ないのだ。
彼はたびたび午後に町を訪れ、必死になって郵便局員が間違っていたという可能性を探した。
しかし、ジュリーの手がかりは全くつかめなかった。
通りすがりの人に少女のことを聞いたが、手がかりとなるものは全く無かった。

１０月初め。
彼は町に戻った。
彼は最善を尽くして少女とのことを隠したので、アンとの間には特に変わった点は無かった。
しかし、彼女は彼が何か変わっているということに気づいていた。
彼女はそれに関して何も問わなかったが、彼女は時を重ねるごとに静かになっていった。
そして彼女の瞳の中の恐れは、困ったことにどんどんはっきりとしていった。

彼は日曜の午後、田舎へ向かい、例の丘を登った。
木々は既に紅葉して、空は一月前よりもさらに青かった。
一時間ほど岩の上に腰掛けて、少女が消えた場所へ向かい始めた。
おとといはウサギを見かけたの。
きのうは鹿。
そして今日はあなた。

そして１１月半ばの雨の夜に、彼は自宅でスーツケースを見つけた。
それはアンのもので、偶然見つけたのだ。
その時、彼女は町へ行っていて居なかった。
彼は一人で自分の家に居た。
飽き飽きしたテレビ番組を４つほど見て時間を潰してから、以前の冬にとっておいたジグソーパズルを思い出した時だった。

ジュリーのことから気をそらそうと、彼は必死だった。
そして屋根裏部屋にそれを取りに行った。
彼が部屋をかき回している間に、下に多数の箱が積んであるのにもかかわらず、スーツケースは棚から落ちていた。
それは落ちたはずみで開いた。

彼はそれを持ち上げた。
それは彼女が結婚式の後、小さなアパートに持っていったものと同じスーツケースだった。
それを彼女がどれだけ大事にしていたかも知っている。
笑いながら、「この中には妻が夫から守らねばならないものが入っている」と言ったこともおぼえている。
鍵は時間が経つことで錆び、落ちた衝撃で壊れたのだ。

彼はふたを締めはじめた。
しかし、ふちからはみ出た白いドレスを見て手を止めた。
はっきりとは見覚えが無い。
彼は遠くない過去に、似たものを見たことがある。
綿、キャンディ、海の泡、そして雪のようなものを思い出した。

彼はふたを開けて、震える指でそのドレスを取り出した。
そして、肩で抱えながらそれを広げてみた。
それは優しく積もる雪のような色のドレスだった。
彼は長い間それを見ていた。
言葉が出なかった。
それから、丁寧にもう一度折りたたんだ。
そしてスーツケースに元のようにしまい、ふたを閉じた。
彼はスーツケースのことを考えた。
おとといはウサギを見かけたの。
きのうは鹿。
そして今日はあなた。

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