きっさんらが
2003年4月15日(火)part2
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rockshow
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学食で昼食をとり終えると、早々にその場を立ち去る。
「(ふぅ…騒がしかった…)」
「(ふぅ…騒がしかった…)」
教室に戻る途中、話し声が聞こえた。
「見て、あの子。ほら、あそこ」
窓際にいた女生徒が窓の外を指して、隣の連れに話しかけていた。
「ひとりで、パン食べてる。なんか、一生懸命で可愛い」
「どこのクラスの子だろ。あんまり見ない子だね」
それだけで想像がついた。
同じように窓から中庭を見下ろすと、石段の縁に座り、ひとりパンを食べている少女の姿。
あいつだった。
「(春原もしばらく帰ってこないだろうし…行ってみるか…)」
「見て、あの子。ほら、あそこ」
窓際にいた女生徒が窓の外を指して、隣の連れに話しかけていた。
「ひとりで、パン食べてる。なんか、一生懸命で可愛い」
「どこのクラスの子だろ。あんまり見ない子だね」
それだけで想像がついた。
同じように窓から中庭を見下ろすと、石段の縁に座り、ひとりパンを食べている少女の姿。
あいつだった。
「(春原もしばらく帰ってこないだろうし…行ってみるか…)」
靴を履き替え、中庭に出る。
「よぅ」
俺は近づいていって、声をかけた。
「どうして、こんなところでひとりでいるんだ」
ぱくぱく。
「ん?」
なるほど…確かにあんパンを食べている。
ぱくぱく。
「なぁ、聞いてるか?」
「ごめんなさいです…今、ご飯中ですので」
食べるのを止めて、それだけを答えた。
「そっか…」
隣に座って待つことにする。
先ほど見下ろしていた場所をここから見上げることができる。
今はもう、誰もこっちを見ていなかった。
あんパンを食べ終わると、牛乳パックを口にしてそれも飲みきる。
「………」
「………」
「…あの、なんでしょうか」
「ん? ああ。 どうして、こんなところでひとりで昼飯食ってるのかなって」
「よぅ」
俺は近づいていって、声をかけた。
「どうして、こんなところでひとりでいるんだ」
ぱくぱく。
「ん?」
なるほど…確かにあんパンを食べている。
ぱくぱく。
「なぁ、聞いてるか?」
「ごめんなさいです…今、ご飯中ですので」
食べるのを止めて、それだけを答えた。
「そっか…」
隣に座って待つことにする。
先ほど見下ろしていた場所をここから見上げることができる。
今はもう、誰もこっちを見ていなかった。
あんパンを食べ終わると、牛乳パックを口にしてそれも飲みきる。
「………」
「………」
「…あの、なんでしょうか」
「ん? ああ。 どうして、こんなところでひとりで昼飯食ってるのかなって」
「この学校は好きですか」
聞いたことのあるセリフ。今度は俺に向けられていた。
「いや、取り立てては」
「そうですか…わたしはとってもとっても好きです。 でも、なにもかも…変わらずにはいられないです。 楽しいこととか、うれしいこととか、ぜんぶ…ぜんぶ、変わらずにはいられないです…」
すべて、昨日の朝、聞いたセリフだ。
「それで、この場所が好きでいられなくなったのか」
最後の言葉は俺が言っていた。
「…はい、そうです」
「具体的に言ってくれよ。なにがなんだかわからない」
「病気でずっと休んでいたんです」
「あんたが?」
「はい」
「どれぐらい?」
「長い間です」
「ふぅん…それで?」
「もうこの学校は、わたしが楽しく過ごせる場所じゃなくなってたんです」
「それでもよくわからないな…。友達とかいたんだろ?」
「友達と呼んでいいのかわからないですけど、話が出来る人は少しだけいました」
「別に仲は深くなくてもいいよ。いたんならな。 つまりこういうことだ。長い間休みすぎたから、友達とも話しづらいと。自分がいない間に、結束が固まっているようで。 そうだろ?」
「………」
「でもあんたの友達ってさ、そんな薄情な奴らなのか?」
「普通、どれだけ時間が経ってもさ、快く迎えてくれるもんだけどな」
「迎えてくれないです」
「そら薄情な奴らだな」
「…いえ。悪いのは、長いこと休んでいたわたしのほうなんです。だって、彼女たちと過ごした時間はほんの少しで…今はもう、この学校のはいないんですから」
「…え? どうしてさ」
「みんな卒業しました。今年の春に」
「………」
「…あんた、どれだけ休んでたの」
「九ヶ月です」
「なるほど…」
ひとりきりの転校生。
そんな気分なのだろう、彼女にしてみれば。
「浦島太郎の気分を味わいました」
そういう表現もできるか…。
「だからひとりで昼ごはんを食べていました」
「了解。もういいよ。よくわかった」
「はい」
………。
どうしたものだろうか…。
遠慮なく、話を聞きすぎたような気がする。
ここまで聞いておいて、じゃあ、がんばれよ、と言って立ち去るのも気が引けた。
――ぜんぶ、変わらずにはいられないです…
俺は、その言葉を思い出していた。
「…当然だ。時間は進んでいくんだから」
「はい?」
「昨日も言ったよな、俺」
「変わらないものはないんだから、また別の形で楽しみを作ればいいんだよ。友達、作ればいいじゃないか、また新しく」
「時期が時期ですから、みんなそういう雰囲気じゃないです」
「三年生だったか…」
確かに…。
この受験を目前に控えた時期に、好んで友達を増やしたいと思う奴はいない。
「あ、部活は。部活は入ってなかったのか」
思い出したように訊く。
「入ってないです」
「そっか…」
「でも、入りたいクラブはあります」
「よし。それは、なんだ?」
「演劇部です」
「演劇ね…あったかな、うちの学校に…」
「ありました。一年前には」
「そっか…」
「よし、じゃ、放課後、見に行ってこいよ。部室」
「………」
「そうしたいだろ?」
「はい、そうしたいです」
「じゃ、頑張らないとな」
「はい、がんばりますっ」
俺の後押しがきいたのか、ぐっ、と手を握って意を決した。
それを見て、立ち上がる。
「え、どこに行かれるんですか」
「戻るんだよ。じゃあな」
「はい、それではまた」
俺は教室へと戻った。
聞いたことのあるセリフ。今度は俺に向けられていた。
「いや、取り立てては」
「そうですか…わたしはとってもとっても好きです。 でも、なにもかも…変わらずにはいられないです。 楽しいこととか、うれしいこととか、ぜんぶ…ぜんぶ、変わらずにはいられないです…」
すべて、昨日の朝、聞いたセリフだ。
「それで、この場所が好きでいられなくなったのか」
最後の言葉は俺が言っていた。
「…はい、そうです」
「具体的に言ってくれよ。なにがなんだかわからない」
「病気でずっと休んでいたんです」
「あんたが?」
「はい」
「どれぐらい?」
「長い間です」
「ふぅん…それで?」
「もうこの学校は、わたしが楽しく過ごせる場所じゃなくなってたんです」
「それでもよくわからないな…。友達とかいたんだろ?」
「友達と呼んでいいのかわからないですけど、話が出来る人は少しだけいました」
「別に仲は深くなくてもいいよ。いたんならな。 つまりこういうことだ。長い間休みすぎたから、友達とも話しづらいと。自分がいない間に、結束が固まっているようで。 そうだろ?」
「………」
「でもあんたの友達ってさ、そんな薄情な奴らなのか?」
「普通、どれだけ時間が経ってもさ、快く迎えてくれるもんだけどな」
「迎えてくれないです」
「そら薄情な奴らだな」
「…いえ。悪いのは、長いこと休んでいたわたしのほうなんです。だって、彼女たちと過ごした時間はほんの少しで…今はもう、この学校のはいないんですから」
「…え? どうしてさ」
「みんな卒業しました。今年の春に」
「………」
「…あんた、どれだけ休んでたの」
「九ヶ月です」
「なるほど…」
ひとりきりの転校生。
そんな気分なのだろう、彼女にしてみれば。
「浦島太郎の気分を味わいました」
そういう表現もできるか…。
「だからひとりで昼ごはんを食べていました」
「了解。もういいよ。よくわかった」
「はい」
………。
どうしたものだろうか…。
遠慮なく、話を聞きすぎたような気がする。
ここまで聞いておいて、じゃあ、がんばれよ、と言って立ち去るのも気が引けた。
――ぜんぶ、変わらずにはいられないです…
俺は、その言葉を思い出していた。
「…当然だ。時間は進んでいくんだから」
「はい?」
「昨日も言ったよな、俺」
「変わらないものはないんだから、また別の形で楽しみを作ればいいんだよ。友達、作ればいいじゃないか、また新しく」
「時期が時期ですから、みんなそういう雰囲気じゃないです」
「三年生だったか…」
確かに…。
この受験を目前に控えた時期に、好んで友達を増やしたいと思う奴はいない。
「あ、部活は。部活は入ってなかったのか」
思い出したように訊く。
「入ってないです」
「そっか…」
「でも、入りたいクラブはあります」
「よし。それは、なんだ?」
「演劇部です」
「演劇ね…あったかな、うちの学校に…」
「ありました。一年前には」
「そっか…」
「よし、じゃ、放課後、見に行ってこいよ。部室」
「………」
「そうしたいだろ?」
「はい、そうしたいです」
「じゃ、頑張らないとな」
「はい、がんばりますっ」
俺の後押しがきいたのか、ぐっ、と手を握って意を決した。
それを見て、立ち上がる。
「え、どこに行かれるんですか」
「戻るんだよ。じゃあな」
「はい、それではまた」
俺は教室へと戻った。
しばらくして。
「ただいま…」
春原が教室に戻ってきた。
「おまえ、泣いてる?」
「泣いてなんかないやいっ」
「あ、そ」
「ただいま…」
春原が教室に戻ってきた。
「おまえ、泣いてる?」
「泣いてなんかないやいっ」
「あ、そ」
授業が始まり、また窓の外を見て過ごす。
「ふぅ…」
俺は昼休みに会った女の子のことを思い出していた。
「(しかし不憫な奴だよな…)」
本人は浦島太郎だとか言ってたけど…実際そんな気分なんだろう。
考えてみればいい。部活にも入っていなければ、後輩との関わり合いなんてない。
この学校で彼女が知っている人間といれば、教師以外にはいないのだ。
「(放課後か…)」
演劇部の連中は、あいつを快く迎え入れてくれるだろうか…。
三年といったら、もうクラブも引退寸前なのに…
それをこれから頑張ろうなんて…他人の目にはどう映ってしまうんだろうか…。
「ん…」
みんなが一斉にかりかりとシャーペンの音を立て始めたことに気づく。
――時期が時期ですから、みんなそういう雰囲気じゃないです。
「(俺とて、そうなんだけどな…)」
何をやっているんだか。
俺は授業も聞かずに、ずっと外の風景を見ていた。
五時間目の授業が終わり、退屈な授業も、残すは一時間。
隣を見ると、春原は椅子の背もたれに後頭部を乗せて、豪快な格好で寝ていた。
「(よく、滑り落ちないもんだな…)」
話し相手もいないので、また窓の外に目を向ける。
「…ん?」
先ほどまではなかった光景が、そこにはあった。
今、坂を登ってきたのか、バイクが2台、校門の近くに止まっていた。
ライダーは二人ともノーヘルで、若い男だということがここからでもわかる。
そのうちのひとりが、手を振って合図すると、2台のバイクは、爆音をあげながら学校の敷地内を爆走し始めた。
確か、去年の暮れにも似たようなことがあった。
そのときの犯人は、近くの工業高校の生徒だった。
町一番の進学校というのが、そんなに気に入らないものなのだろうか。
「お、なになにっ」
春原の体がいきなり目の前に現われる。
「てめぇ、人の机の上に乗るな」
「いいじゃん。お、すげぇ、爆走」
その騒音を聞いて、他の男子も、何事かと窓際に集まり始めていた。
…鬱陶しいこと、この上ない。
教員は、どういう対処を取るのだろうか。
俺は成り行きを見守ることにする。
突然、わっと、別の教室の野次馬たちが湧いた。
「次は何だよっ?」
ひとりの生徒が、窓から身を乗り出し、真下の地面を指さしていた。
見下ろすと、そこにはバイクを駆る連中に向かって、悠然と歩み寄っていくひとりの生徒の姿があった。
長い髪に、細身の体…女生徒だった。
黄色い声まであがり始めている。
「ひゅーっ」
つーか、春原だった。
「説教する気かなっ」
「まさか…しゃれにならないぞ…」
教師たちは何をしているのか、一向に出てこない。
「うぉっ、始まるぞっ」
女生徒を前に、バイクは停止していた。
双方向かい合い、何事か話し合っている様子だ。内容はわからない。
「智代さん、やっちまえ!」
階下から、声援。
「やるって、あの子が? はは、やられるっての」
一瞬、女が笑った気がした。
おもしろい、と。
その後は、瞬きをしている暇すらなかった。
気がつけば、歓声の中、戻ってくる女生徒の姿があった。
両手に不良たちを引きずって。
「………」
「………」
しばし、言葉を失う。
「はは…なにあれ?」
少し、興味が湧いた
暇つぶしには最適。
席を立ち、教室を後にする。
「僕も行くよ、待てっての!」
春原も追いかけてくる。
「あんなの絶対、おかしいってっ。ありえないよ」
「ま、この目で確かめてみようぜ」
「ふぅ…」
俺は昼休みに会った女の子のことを思い出していた。
「(しかし不憫な奴だよな…)」
本人は浦島太郎だとか言ってたけど…実際そんな気分なんだろう。
考えてみればいい。部活にも入っていなければ、後輩との関わり合いなんてない。
この学校で彼女が知っている人間といれば、教師以外にはいないのだ。
「(放課後か…)」
演劇部の連中は、あいつを快く迎え入れてくれるだろうか…。
三年といったら、もうクラブも引退寸前なのに…
それをこれから頑張ろうなんて…他人の目にはどう映ってしまうんだろうか…。
「ん…」
みんなが一斉にかりかりとシャーペンの音を立て始めたことに気づく。
――時期が時期ですから、みんなそういう雰囲気じゃないです。
「(俺とて、そうなんだけどな…)」
何をやっているんだか。
俺は授業も聞かずに、ずっと外の風景を見ていた。
五時間目の授業が終わり、退屈な授業も、残すは一時間。
隣を見ると、春原は椅子の背もたれに後頭部を乗せて、豪快な格好で寝ていた。
「(よく、滑り落ちないもんだな…)」
話し相手もいないので、また窓の外に目を向ける。
「…ん?」
先ほどまではなかった光景が、そこにはあった。
今、坂を登ってきたのか、バイクが2台、校門の近くに止まっていた。
ライダーは二人ともノーヘルで、若い男だということがここからでもわかる。
そのうちのひとりが、手を振って合図すると、2台のバイクは、爆音をあげながら学校の敷地内を爆走し始めた。
確か、去年の暮れにも似たようなことがあった。
そのときの犯人は、近くの工業高校の生徒だった。
町一番の進学校というのが、そんなに気に入らないものなのだろうか。
「お、なになにっ」
春原の体がいきなり目の前に現われる。
「てめぇ、人の机の上に乗るな」
「いいじゃん。お、すげぇ、爆走」
その騒音を聞いて、他の男子も、何事かと窓際に集まり始めていた。
…鬱陶しいこと、この上ない。
教員は、どういう対処を取るのだろうか。
俺は成り行きを見守ることにする。
突然、わっと、別の教室の野次馬たちが湧いた。
「次は何だよっ?」
ひとりの生徒が、窓から身を乗り出し、真下の地面を指さしていた。
見下ろすと、そこにはバイクを駆る連中に向かって、悠然と歩み寄っていくひとりの生徒の姿があった。
長い髪に、細身の体…女生徒だった。
黄色い声まであがり始めている。
「ひゅーっ」
つーか、春原だった。
「説教する気かなっ」
「まさか…しゃれにならないぞ…」
教師たちは何をしているのか、一向に出てこない。
「うぉっ、始まるぞっ」
女生徒を前に、バイクは停止していた。
双方向かい合い、何事か話し合っている様子だ。内容はわからない。
「智代さん、やっちまえ!」
階下から、声援。
「やるって、あの子が? はは、やられるっての」
一瞬、女が笑った気がした。
おもしろい、と。
その後は、瞬きをしている暇すらなかった。
気がつけば、歓声の中、戻ってくる女生徒の姿があった。
両手に不良たちを引きずって。
「………」
「………」
しばし、言葉を失う。
「はは…なにあれ?」
少し、興味が湧いた
暇つぶしには最適。
席を立ち、教室を後にする。
「僕も行くよ、待てっての!」
春原も追いかけてくる。
「あんなの絶対、おかしいってっ。ありえないよ」
「ま、この目で確かめてみようぜ」
職員室前の廊下。
そこにも野次馬が集まっていた。
知らない顔ばかり。下級生の連中だろう。
三年で、ここに来ているのは俺たちふたりだけだった。
さっきの女生徒が教師とやりとりしている。
「で…」
「正当防衛だ。そうだろ、おまえたち」
「は、はいっ、オレたちから仕掛けました!智代さんは、悪くありませんっ!」
「智代さん? 名前知ってるってことは、知り合いなの、君達?」
「違う。さっき、名前を聞かれたから答えただけだ。そうだろ、おまえたち」
目が光る。
「ひ、ひいぃっ! はい、そうです!」
「そうか…。まぁ、今回のことは、こいつらも反省していることだし、お咎めなしということにしておくが…。二度とこんな危険な真似はしないよう。対処は我々に任せておけばいい」
「ああ、次からはそうしよう。では、これで失礼するぞ」
「ああ」
「後…おまえたちも、な」
目が光る。
「ひいぃぃ!」
「………」
あの女何者だ…。
「おい、おまえ」
野次馬の一人を捕まえる。
「あいつ、誰」
「えっ? 智代さんじゃないですか」
あんな有名人を知らないのか、と言わんばかりに答えた。
「坂上智代。この春から二年生に編入してきたんすよ」
「いつも、あんなことしてんの?」
「たまにですよ、たまに。 怯えて職員室に引っ込んでる先生たちをよそに、ひとり立ち向かっていくんですよ。カッコイイっす!」
「一歩間違えたら、単なる馬鹿だろ」
「馬鹿だったら、この学校に編入なんてしてこれませんよ!」
「そういう意味で言ってるんじゃないんだけどな…」
「なんだ、おまえたちは…通れないじゃないか」
野次馬達を掻き分け、女生徒は立ち去る。
俺はじっと、その背中を見つめていた。
…あんな変わった奴が、この学校にいたのか。
知らなかった。
まぁ、春からまともに登校していなかったから、それも当たり前かもしれなかったが。
主役はいなくなり、野次馬たちも三々五々散っていく。
「絶対、おかしいっての…。 ありえないよ」
「置いていくぞ」
「わ、待てってっ」
俺たちもその場を後にした。
そこにも野次馬が集まっていた。
知らない顔ばかり。下級生の連中だろう。
三年で、ここに来ているのは俺たちふたりだけだった。
さっきの女生徒が教師とやりとりしている。
「で…」
「正当防衛だ。そうだろ、おまえたち」
「は、はいっ、オレたちから仕掛けました!智代さんは、悪くありませんっ!」
「智代さん? 名前知ってるってことは、知り合いなの、君達?」
「違う。さっき、名前を聞かれたから答えただけだ。そうだろ、おまえたち」
目が光る。
「ひ、ひいぃっ! はい、そうです!」
「そうか…。まぁ、今回のことは、こいつらも反省していることだし、お咎めなしということにしておくが…。二度とこんな危険な真似はしないよう。対処は我々に任せておけばいい」
「ああ、次からはそうしよう。では、これで失礼するぞ」
「ああ」
「後…おまえたちも、な」
目が光る。
「ひいぃぃ!」
「………」
あの女何者だ…。
「おい、おまえ」
野次馬の一人を捕まえる。
「あいつ、誰」
「えっ? 智代さんじゃないですか」
あんな有名人を知らないのか、と言わんばかりに答えた。
「坂上智代。この春から二年生に編入してきたんすよ」
「いつも、あんなことしてんの?」
「たまにですよ、たまに。 怯えて職員室に引っ込んでる先生たちをよそに、ひとり立ち向かっていくんですよ。カッコイイっす!」
「一歩間違えたら、単なる馬鹿だろ」
「馬鹿だったら、この学校に編入なんてしてこれませんよ!」
「そういう意味で言ってるんじゃないんだけどな…」
「なんだ、おまえたちは…通れないじゃないか」
野次馬達を掻き分け、女生徒は立ち去る。
俺はじっと、その背中を見つめていた。
…あんな変わった奴が、この学校にいたのか。
知らなかった。
まぁ、春からまともに登校していなかったから、それも当たり前かもしれなかったが。
主役はいなくなり、野次馬たちも三々五々散っていく。
「絶対、おかしいっての…。 ありえないよ」
「置いていくぞ」
「わ、待てってっ」
俺たちもその場を後にした。
HRが終わり、放課後となる。
「ふわ…よく寝た…。さてと…どっか行くか、岡崎っ」
「おまえ、すげぇ能天気な」
「ま、放課後ぐらいは楽しまないとねっ。 どこ行く、岡崎っ」
「だから、俺、金ねぇっての」
「そっか。僕も、すっからかんなんだよねっ。 とりあえず学食いったら、誰かいるだろうからさ、ジュースでもおごらせようぜ」
「そんなのばっかだな、おまえは…」
「よし、じゃ、いこう」
やることもないから、ついていくことにする。
「ふわ…よく寝た…。さてと…どっか行くか、岡崎っ」
「おまえ、すげぇ能天気な」
「ま、放課後ぐらいは楽しまないとねっ。 どこ行く、岡崎っ」
「だから、俺、金ねぇっての」
「そっか。僕も、すっからかんなんだよねっ。 とりあえず学食いったら、誰かいるだろうからさ、ジュースでもおごらせようぜ」
「そんなのばっかだな、おまえは…」
「よし、じゃ、いこう」
やることもないから、ついていくことにする。
学食につくと。
「ねぇねぇ、ジュースおごってよ」
春原が後輩を捕まえて、そうせびっていた。
「百円じゃなくて、二百円。ふたりぶんだから。あっちの人も。 うん、君、いい奴だねぇ。なんかあったら、僕たちに言っておいでよね。僕たち、学校の外ではぶいぶい言わせてるからさっ。この前も、喧嘩売ってきた奴の眉間にさ、人差し指一本当ててやったの。そしたら、そいつの顔面、こっぱみじん!」
…嘘をつけ。
何気なく俺は壁の時計を見た。
六時間目が終わってから、二十分が過ぎていた。
「(あいつ、勇気出して行ってんのかな…)」
俺は、昼に会った女生徒のことを思い出していた。
気になって仕方がなかった。
俺は踵を返し、その場を離れる。
「ありゃ、岡崎、どこにいくんだよっ」
春原の声が聞こえたが、無視して、そのまま学食を後にした。
「ねぇねぇ、ジュースおごってよ」
春原が後輩を捕まえて、そうせびっていた。
「百円じゃなくて、二百円。ふたりぶんだから。あっちの人も。 うん、君、いい奴だねぇ。なんかあったら、僕たちに言っておいでよね。僕たち、学校の外ではぶいぶい言わせてるからさっ。この前も、喧嘩売ってきた奴の眉間にさ、人差し指一本当ててやったの。そしたら、そいつの顔面、こっぱみじん!」
…嘘をつけ。
何気なく俺は壁の時計を見た。
六時間目が終わってから、二十分が過ぎていた。
「(あいつ、勇気出して行ってんのかな…)」
俺は、昼に会った女生徒のことを思い出していた。
気になって仕方がなかった。
俺は踵を返し、その場を離れる。
「ありゃ、岡崎、どこにいくんだよっ」
春原の声が聞こえたが、無視して、そのまま学食を後にした。
階段を駆け上がり、旧校舎の三階までやってくる。
確か、この階の部室が文科系の部室に宛がわれていたはずだ。
「(結局、来ちまった…)」
廊下の一番先に、あいつは立っていた。
「はぁ…なにやってんだよ…」
俺はしばらく遠くから見ていた。
「………」
それはまるで、朝の再現のようだった。
またもそこで足踏み状態なのだろう。
目の前にある部室。
その中では、演劇部の連中が賑やかに練習しているかもしれないのだ。
それは、彼女が今朝に味わったであろう、自分のクラスに対する違和感と同じだ。
今更中に入っていけない、気まずさ。
彼女は何を期待して、そのドアを開けることができるだろう。
新入部員だといっても、三年生だと知れば、部員達の反応は当惑に変わるだろう。
ひとりでも知り合いがいれば良かったのだろうけど…。
「………」
同じネガティブなイメージが彼女の脳裏にもよぎっているのだろう。
彼女の口が小さく動いたような気がする。声は聞こえなかった。
「(ハンバーグ…?)」
いきなり夕飯の算段だろうか。
なんか、口の動きは合っていた気がする。
でも、それでようやく決意が固まったようだ。
ドアの取っ手に手をやり、そして引く。
からり。
「あのっ…」
声が出た。
でも、そこから言葉は続かなかった。
目はまっすぐ部室の中を見据えたまま。そこにどんな辛辣な光景が待っていたのか。
「(くそっ)」
俺は走って、彼女の元に駆けつける。
そして、後ろから教室の中を見た。
………。
乱雑に積まれたダンボール。
部室であるはずの、教室は物置になっていた。
誰かと交わした他愛もない無駄話の中で、一度だけ話題にのぼったことがあった。
…演劇部は廃部になったらしい、と。
「………」
ぽむ、と彼女の小さな頭に手を置く。
「あ…いらっしゃったんですか」
「ああ、悪いな。見てた」
「頭の手は…なんですか?」
「いや、別に」
「そうですか…」
「ああ」
しばらく彼女は呆然と、俺はその後ろで彼女の頭に手を置いて、ふたち立ち尽くしていた。
端から見れば、おかしなふたりだっただろう。
「俺はD組の岡崎朋也。 あんたは?」
「…B組の古河渚です」
「よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
遅すぎる自己紹介。
ふたりだけは、出会いの日の中にあった。
「………それで…演劇部はどこにいったんでしょうか」
「よろしく」
「………はい、よろしくお願いします。………で、演劇部は…」
「よろしく」
「はい、よろしくお願いします。で、演劇部は…」
「よろしく」
確か、この階の部室が文科系の部室に宛がわれていたはずだ。
「(結局、来ちまった…)」
廊下の一番先に、あいつは立っていた。
「はぁ…なにやってんだよ…」
俺はしばらく遠くから見ていた。
「………」
それはまるで、朝の再現のようだった。
またもそこで足踏み状態なのだろう。
目の前にある部室。
その中では、演劇部の連中が賑やかに練習しているかもしれないのだ。
それは、彼女が今朝に味わったであろう、自分のクラスに対する違和感と同じだ。
今更中に入っていけない、気まずさ。
彼女は何を期待して、そのドアを開けることができるだろう。
新入部員だといっても、三年生だと知れば、部員達の反応は当惑に変わるだろう。
ひとりでも知り合いがいれば良かったのだろうけど…。
「………」
同じネガティブなイメージが彼女の脳裏にもよぎっているのだろう。
彼女の口が小さく動いたような気がする。声は聞こえなかった。
「(ハンバーグ…?)」
いきなり夕飯の算段だろうか。
なんか、口の動きは合っていた気がする。
でも、それでようやく決意が固まったようだ。
ドアの取っ手に手をやり、そして引く。
からり。
「あのっ…」
声が出た。
でも、そこから言葉は続かなかった。
目はまっすぐ部室の中を見据えたまま。そこにどんな辛辣な光景が待っていたのか。
「(くそっ)」
俺は走って、彼女の元に駆けつける。
そして、後ろから教室の中を見た。
………。
乱雑に積まれたダンボール。
部室であるはずの、教室は物置になっていた。
誰かと交わした他愛もない無駄話の中で、一度だけ話題にのぼったことがあった。
…演劇部は廃部になったらしい、と。
「………」
ぽむ、と彼女の小さな頭に手を置く。
「あ…いらっしゃったんですか」
「ああ、悪いな。見てた」
「頭の手は…なんですか?」
「いや、別に」
「そうですか…」
「ああ」
しばらく彼女は呆然と、俺はその後ろで彼女の頭に手を置いて、ふたち立ち尽くしていた。
端から見れば、おかしなふたりだっただろう。
「俺はD組の岡崎朋也。 あんたは?」
「…B組の古河渚です」
「よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
遅すぎる自己紹介。
ふたりだけは、出会いの日の中にあった。
「………それで…演劇部はどこにいったんでしょうか」
「よろしく」
「………はい、よろしくお願いします。………で、演劇部は…」
「よろしく」
「はい、よろしくお願いします。で、演劇部は…」
「よろしく」
校門まで古河を送る。
「ひとりで帰れるか?」
「はい、もちろんです」
「ハンバーグでも食って、元気つけろよ」
「え? 岡崎さん、すごいです。今晩、ハンバーグにしようと思ってました」
「だろうな…」
楽しいことひとつ見つけられなくなってしまった学校。
そんな場所で、こいつは…
三色の献立すら、頑張った自分へのご褒美に変えて、前に進んでいこうとしていた。
「(あんパンなんて、んな質素なもんじゃなくてもいいだろうに…)――明日は遅刻すんなよ」
「がんばってみます」
「ああ。じゃあな」
「はい。さようなら、岡崎さん」
「ひとりで帰れるか?」
「はい、もちろんです」
「ハンバーグでも食って、元気つけろよ」
「え? 岡崎さん、すごいです。今晩、ハンバーグにしようと思ってました」
「だろうな…」
楽しいことひとつ見つけられなくなってしまった学校。
そんな場所で、こいつは…
三色の献立すら、頑張った自分へのご褒美に変えて、前に進んでいこうとしていた。
「(あんパンなんて、んな質素なもんじゃなくてもいいだろうに…)――明日は遅刻すんなよ」
「がんばってみます」
「ああ。じゃあな」
「はい。さようなら、岡崎さん」
日が暮れる前に、俺は帰宅する。
そして、いつものように着替えだけを済ませて、再び家を出た。
そして、いつものように着替えだけを済ませて、再び家を出た。
学生寮の玄関を抜けて廊下を歩いていると、前方から、巨体がいくつもこっちに向かって転がる勢いで迫ってくる。
どどどどどどどーーっ…
「うぉっ…」
寸でのところでよけて、それらを見送る。
ラグビー部の連中だった。
そのままそれぞれの部屋へと駆け込んでいった。
ばたんばたん、とドアが閉じられる。
「こらぁーーーーっ!」
それを追いかけてくる、ひとりの女性。
「はぁ…ったく、あいつらは…」
俺の隣で足を止めた。
ここの寮母だ。名は相楽美佐枝。
寮生でない俺も、これだけ通い詰めていれば、嫌でも顔見知りになる。
「こぞって、女子寮を覗いたりして…あいつらは小学生か…」
「美佐枝さんは、甘いんだよ、連中に」
「なによ、岡崎…」
疲れきった表情をこちらに向けた。
「スポ薦の奴らは、馬鹿だからな。手あげるぐらいしないと、わかんねって」
「はぁ…それしかないんかねぇ。そういうのは主義じゃないんだけどさ」
「お嬢様学校の寮母じゃないんだから、その場に合わせてかなくちゃな」
「じゃあ、しゃあない。次はひっぱたいてやるか」
「そんなんじゃ、また逃げられるって」
「じゃ、どうすればいいのよ」
「反省するまで腕を取ってりゃいいんだよ」
「そのほうが逃げられるじゃない。相手はラグビー部よ」
「そこはテクニックでカバーだな。 こう、相手の腕を取って…で、このまま体をひねって、床に倒す、と」
「そんなうまくいくかねぇ…」
がちゃり。
「何? 人の部屋の前で密談?」
春原が出てきた。
「よぅ、覗きの主犯」
「…へ?」
「てん…」
美佐枝さんが、春原の腕を取る。
「ばーーーーつっ!」
春原の体がくるっと半回転。
「ぎぃああああああああーーーーーーーーっ!」
美佐枝さんの腕ひしぎが決まっていた。
「二度と、女子寮を覗かない!?」
「はい、覗きませんっ!」
「誓う!?」
「誓いますーーっ!」
「よし。 すごい…効果覿面ね…」
ああ…シロをクロにしてしまうほど。
春原は床でピクピクしている。
「ああ、でもなんか…自分が暴力的な寮母になっていくようで、悲しいわ…。はぁ…」
ため息をつきながら、歩いていく。
その先で…
「ぎゃああああああぁぁぁーーーーーーーっ!」
別の叫び声。
飲み込みの早い人だった。
「あのさ…僕、なんかした…?」
「認めてたじゃないか」
「激痛でなんかよくわかんなかったよ…」
どどどどどどどーーっ…
「うぉっ…」
寸でのところでよけて、それらを見送る。
ラグビー部の連中だった。
そのままそれぞれの部屋へと駆け込んでいった。
ばたんばたん、とドアが閉じられる。
「こらぁーーーーっ!」
それを追いかけてくる、ひとりの女性。
「はぁ…ったく、あいつらは…」
俺の隣で足を止めた。
ここの寮母だ。名は相楽美佐枝。
寮生でない俺も、これだけ通い詰めていれば、嫌でも顔見知りになる。
「こぞって、女子寮を覗いたりして…あいつらは小学生か…」
「美佐枝さんは、甘いんだよ、連中に」
「なによ、岡崎…」
疲れきった表情をこちらに向けた。
「スポ薦の奴らは、馬鹿だからな。手あげるぐらいしないと、わかんねって」
「はぁ…それしかないんかねぇ。そういうのは主義じゃないんだけどさ」
「お嬢様学校の寮母じゃないんだから、その場に合わせてかなくちゃな」
「じゃあ、しゃあない。次はひっぱたいてやるか」
「そんなんじゃ、また逃げられるって」
「じゃ、どうすればいいのよ」
「反省するまで腕を取ってりゃいいんだよ」
「そのほうが逃げられるじゃない。相手はラグビー部よ」
「そこはテクニックでカバーだな。 こう、相手の腕を取って…で、このまま体をひねって、床に倒す、と」
「そんなうまくいくかねぇ…」
がちゃり。
「何? 人の部屋の前で密談?」
春原が出てきた。
「よぅ、覗きの主犯」
「…へ?」
「てん…」
美佐枝さんが、春原の腕を取る。
「ばーーーーつっ!」
春原の体がくるっと半回転。
「ぎぃああああああああーーーーーーーーっ!」
美佐枝さんの腕ひしぎが決まっていた。
「二度と、女子寮を覗かない!?」
「はい、覗きませんっ!」
「誓う!?」
「誓いますーーっ!」
「よし。 すごい…効果覿面ね…」
ああ…シロをクロにしてしまうほど。
春原は床でピクピクしている。
「ああ、でもなんか…自分が暴力的な寮母になっていくようで、悲しいわ…。はぁ…」
ため息をつきながら、歩いていく。
その先で…
「ぎゃああああああぁぁぁーーーーーーーっ!」
別の叫び声。
飲み込みの早い人だった。
「あのさ…僕、なんかした…?」
「認めてたじゃないか」
「激痛でなんかよくわかんなかったよ…」
春原の部屋で、寝そべって雑誌を読み始める。
「おまえさ…昼に、来るなって言わなかったか?」
「そう寂しいこというなよ、雑誌読みたいんだよ。 後、おまえも居るしさ」
「僕、おまけっすかっ」
「おまえの隣でむさぼるように雑誌を読みたいんだよ」
「それ、僕が隣に居る意味あるんすかねぇ!」
ぺら…。
「ふーん…」
「すでに、聞き流しモードっすかっ!」
「なんだよ、うるさいな…」
「それ、返せよっ、僕だってまだ読んでないんだぞっ」
「昔の読み返してろよ。 ほら、ここ、クロスワード埋まってないじゃん。頑張って埋めろ」
「お前の持ってる次の号に、答え載ってるんですけどっ」
「ちょうどいいじゃん。後で答え合わせしようぜ。当たってたら、ほめてやる。頑張れ」
「あんた、何様だよっ!」
「おまえの師匠」
「なんのだよっ!」
「うるせぇなぁ! 気が散って、読めないだろっ!」
「うおおぉーっ! なんで、逆ギレされにゃならんっ!」
どぉんっ!
『静にしろやぁっ!』
「ひぃっ」
隣部屋からの怒声に春原が体を縮こませる。
「ほら、静にしてねぇと、また、袋にされるぜ?」
「あんた、鬼っすね! くそぅ…マジでクロスワード解いてやるっ。 てめぇ、当たってタラ、参りましたって言えよなっ」
「ああ、言ってやるよ…」
「ええと、縦の1…元日から三日までをなんと呼ぶか…。 ははは、馬鹿かっての。三連休…と」
先生、ここにアホな子がいます。
「おまえさ…昼に、来るなって言わなかったか?」
「そう寂しいこというなよ、雑誌読みたいんだよ。 後、おまえも居るしさ」
「僕、おまけっすかっ」
「おまえの隣でむさぼるように雑誌を読みたいんだよ」
「それ、僕が隣に居る意味あるんすかねぇ!」
ぺら…。
「ふーん…」
「すでに、聞き流しモードっすかっ!」
「なんだよ、うるさいな…」
「それ、返せよっ、僕だってまだ読んでないんだぞっ」
「昔の読み返してろよ。 ほら、ここ、クロスワード埋まってないじゃん。頑張って埋めろ」
「お前の持ってる次の号に、答え載ってるんですけどっ」
「ちょうどいいじゃん。後で答え合わせしようぜ。当たってたら、ほめてやる。頑張れ」
「あんた、何様だよっ!」
「おまえの師匠」
「なんのだよっ!」
「うるせぇなぁ! 気が散って、読めないだろっ!」
「うおおぉーっ! なんで、逆ギレされにゃならんっ!」
どぉんっ!
『静にしろやぁっ!』
「ひぃっ」
隣部屋からの怒声に春原が体を縮こませる。
「ほら、静にしてねぇと、また、袋にされるぜ?」
「あんた、鬼っすね! くそぅ…マジでクロスワード解いてやるっ。 てめぇ、当たってタラ、参りましたって言えよなっ」
「ああ、言ってやるよ…」
「ええと、縦の1…元日から三日までをなんと呼ぶか…。 ははは、馬鹿かっての。三連休…と」
先生、ここにアホな子がいます。
「ダメだ、おかしい・・・」
「何がだよ」
「答えとマスの数が合わないんだよ、絶対、間違ってるって」
間違ってるのは、おまえの答えだ。
「やめだ、やめっ。 くそつまんね…」
雑誌を部屋の隅に投げ捨てる。
「なんか、おもしろいことないかねぇ」
「そういや、あれ…面白かったじゃん」
「あれって、なによ」
「校門前の騒ぎ」
「ああ、あの、智代とかいう女のね」
「そう、それ」
「ああいう目立ち方は好きじゃないね。とんだ茶番劇じゃないか」
「あん? どういう意味だよ」
「女ひとりで、男ふたりを熨すだって? んなことはありえません」
「おまえも、見てただろ。現実から目を逸らせるなよ」
「あんなの、やらせに決まってんじゃないかよ。つまり相手はサ・ク・ラ。 だからバレないように、遠目でしか見えないところでやってんだろ。それに、注目を集めるには格好の場所だ。 それで実際、一部じゃ人気者になってんだろ? まぁ、喧嘩を見慣れていないウチの学校だから、通用するセコイ作戦だけどさ。でも、残念。ここに幾多の戦局を切り抜けてきた百戦錬磨の男がいたんだな」
「照れるじゃないか」
「僕のことだよっ!」
「嘘つけ」
「てめぇが知らないだけだ。僕は一年の頃は、夜の町で、ストリートファイトを繰り返してたんだぜ?」
「おまえ、んな弱そうな体で、言えるセリフかよ」
「岡崎…実力は見た目じゃない。その強さだ。違うか?」
「おまえ、すんげぇ矛盾してるよな。女ひとりじゃ、ヤラセとか言っておいて」
「わかったよっ、じゃあ、こうしてやる。 明日、その女に、喧嘩を売ってやる。僕が強いのと同時に、そいつがヤラセだったってこと、わからせてやるよ」
「ああ、まぁ、頑張ってくれ」
俺は雑誌を持って、寝返りを打つ。
「ふん…久々に腕が鳴るぜ」
「何がだよ」
「答えとマスの数が合わないんだよ、絶対、間違ってるって」
間違ってるのは、おまえの答えだ。
「やめだ、やめっ。 くそつまんね…」
雑誌を部屋の隅に投げ捨てる。
「なんか、おもしろいことないかねぇ」
「そういや、あれ…面白かったじゃん」
「あれって、なによ」
「校門前の騒ぎ」
「ああ、あの、智代とかいう女のね」
「そう、それ」
「ああいう目立ち方は好きじゃないね。とんだ茶番劇じゃないか」
「あん? どういう意味だよ」
「女ひとりで、男ふたりを熨すだって? んなことはありえません」
「おまえも、見てただろ。現実から目を逸らせるなよ」
「あんなの、やらせに決まってんじゃないかよ。つまり相手はサ・ク・ラ。 だからバレないように、遠目でしか見えないところでやってんだろ。それに、注目を集めるには格好の場所だ。 それで実際、一部じゃ人気者になってんだろ? まぁ、喧嘩を見慣れていないウチの学校だから、通用するセコイ作戦だけどさ。でも、残念。ここに幾多の戦局を切り抜けてきた百戦錬磨の男がいたんだな」
「照れるじゃないか」
「僕のことだよっ!」
「嘘つけ」
「てめぇが知らないだけだ。僕は一年の頃は、夜の町で、ストリートファイトを繰り返してたんだぜ?」
「おまえ、んな弱そうな体で、言えるセリフかよ」
「岡崎…実力は見た目じゃない。その強さだ。違うか?」
「おまえ、すんげぇ矛盾してるよな。女ひとりじゃ、ヤラセとか言っておいて」
「わかったよっ、じゃあ、こうしてやる。 明日、その女に、喧嘩を売ってやる。僕が強いのと同時に、そいつがヤラセだったってこと、わからせてやるよ」
「ああ、まぁ、頑張ってくれ」
俺は雑誌を持って、寝返りを打つ。
「ふん…久々に腕が鳴るぜ」
「ふわ…僕、そろそろ寝たいんだけど」
時間はすでに午前3時。
「ふーん…」
ぺら…。
「泊まってくの? じゃ、電気消すよ」
「うわ、やめろっ」
「え?」
「泊まらねぇよっ…」
「あ、そ。じゃ、もう寝るから、でてってくれる?」
「言われなくてもそうするよ…」
雑誌を投げ捨てて、立ち上がる。
ドアノブを引いたところで、俺は動きを止める。
「そういや最近この寮って、真夜中になるとさ…」
「なんだよ」
「………やっぱいいや」
「最後まで言えよっ!」
「じゃあ、おやすみ」
俺はドアを閉めた。
中から悶絶する声が聞こえ続けたが、無視して、俺は寮を後にした。
時間はすでに午前3時。
「ふーん…」
ぺら…。
「泊まってくの? じゃ、電気消すよ」
「うわ、やめろっ」
「え?」
「泊まらねぇよっ…」
「あ、そ。じゃ、もう寝るから、でてってくれる?」
「言われなくてもそうするよ…」
雑誌を投げ捨てて、立ち上がる。
ドアノブを引いたところで、俺は動きを止める。
「そういや最近この寮って、真夜中になるとさ…」
「なんだよ」
「………やっぱいいや」
「最後まで言えよっ!」
「じゃあ、おやすみ」
俺はドアを閉めた。
中から悶絶する声が聞こえ続けたが、無視して、俺は寮を後にした。