そもそも、筆者が最も理解して欲しい事は『大前提として、これらは本来必要がない』という事である。

呼吸し、魔力を込め、発動する。知識と数さえ重ねれば簡単な一連の動作を、何故わざわざチョークを手に持って複雑な紋章を描き、挙句それらが破断しないように気を使いながら魔力を込めなければならないのだ、と言いたい。

これを読んでいるのが人間で、かつ最低限の教養がある者であると仮定して、言葉を話す時にいちいち紙に書き下ろしてから、どこぞのロマンチストの様に相手の前で読み上げるのだろうか?いや、あり得ないだろう。

しかし、より強力な、或いは恒久的に魔法を利用したいのであれば話は別だ。それらを踏まえても正しい知識が無ければ、或いは少しの手順のミスで、誤った魔法が発現し、最悪死に至る事もあるかもしれない。その様な博打を魔法を会得する程度には賢い物達が、好んで使うかと言われれば…

至極簡単な話であれば、知識人にとっては強力で、便利な物であるが、我々普通の魔術師にとっては縁もゆかりも無い物なのである。


───メルシィ・テラ教授
最終更新:2022年07月24日 21:24