魔術師と呼ばれる者がいれば、賢者と呼ばれる者もいる。尤も、多くの人々は彼らを一緒くたとして考えがちだから、それはとんでもない考えである。例えるのならば、貴族達が育てた、優雅な馬小屋で生まれ落ちて今日まで走る事なく今に至る優雅な馬と、戦場で生まれ落ち、戦場を駆け抜け、数々の戦いを今日まで生き残ってきた軍隊の馬を、どちらも人よりは早く走れるだろうからという理由でおんなじようなものだと断じることに近い。
賢者は確かに魔術を使うが、その技能は魔術師達が到達するであろう最高水準をも大きく超える。最高の魔術師が唱える煉獄の炎の呪文でさえ、彼らにとっては指先から灯されるマッチ一本の炎にすら過ぎないのだ。そして、彼らが名声や尊厳を得る理由はその技能だけでなく、彼らが持つもう一つの非常に希少な技能にある。
彼らは、『この世』には謎がないのだ。其れが過去であれ未来であれ、あらゆる奥義を知り尽くし、すべての学問に精通している。賢者とは魔術だけではなく、全ての技能を等しく極めた者をそう呼称しているのだ。そして、『この世』以外の謎…その秘密は彼ら以外の者から用心深く守られている。
有名な賢者はいるのかと聞かれてみれば、歴史上であれば『唱える者(インヴォーカー)』のただ一人であり、ともすれば彼一人がこの謎に満ちた、賢者として語られ、大衆に知られている最後の一人であるのかもしれない。
一つ言える事は、賢者は確かに存在しているという事だ。
───ベルリ・アムル教授
最終更新:2022年07月24日 21:25