まあまず考えて欲しいのは、同じ人間なら、基本相手にできて自分にできないことってのはない。もちろん、ある行為に対する練度の問題だとかで違いは出るかもしれないし、絶大な才能の差でできない事もあるだろう。そういうのはさて置くとしても、基本はそうだ。そのはずだ。
じゃあ人間とエルフならどうか、っていう人もいる。それについても気にならない。魔法は目に見えないものだし、俺たちの魔法の体系とあいつらの魔法の体系は違う。見えない違いを生むのに見えない違いがある。納得できるだろう?
でだ、こう考えると理不尽な奴がいる。獣人、あいつらだ。あいつらの多くはほとんど人間の見た目をしている。違いがあるとすれば頭部についた獣耳と尻尾くらいなものだ。だが奴らの身体能力は常軌を逸してる。
たかが耳と尻尾がついただけの女が全速力で走る馬を追い越していくし、人間と全く同じ顔の形した男が人間とは桁違いの嗅覚を持ってる。これは常識的に考えて説明がつかないだろ?でもあるんだよ。本当さ。
つーことで色々調べたんだよ。あまりにも気にいらねぇからさ。
連中の来歴は不明。どこからどう湧いたのか分からねぇ。というのも歴史が深すぎる。調べた文献だと俺らのひいひいじいさんじゃくだらねぇくらい昔の文献にも出てくる。古くは力仕事を手伝ってた家畜みたいな扱いだったようだが、時代が進んで宗教が発展すると、見た目の違いと力の違いで恐れられてそうした使われ方はしなくなったらしい。するとこいつらを御す法を作るやり口が継がれなくなって、宗教任せに迫害する事で抑えるようになって、結果身体能力任せに暴れられて痛い目にあったと。で、獣人狩りの末に数を大きく減らして、今や絶滅危惧種だ。しかも未だに宗教的には嫌がられ、知らない奴は見た目と力に大ビビり、と。……こう書くと哀れだなこいつら。
だが何度もいうがこの身体能力のヤバさは本物だ。耳と尻尾の形の違いで多少違いがあるとはいえ、基本的に聴覚、嗅覚に優れ、人間と相似どころか全く同じ形の手足で獣と同等の動きをする圧倒的筋力。ここらは間違いなく舐めちゃいけねぇ。弱点はねぇ。ただ強いていえばこいつらが国をおこしたり、政治的活動をしたって記録がないあたり、頭は弱いのかもしれねぇな。
……よし、とりあえずあいつらの頭の弱さを恃んで、痺れ薬でも盛ってやるとするか。これで明日のレースは俺の勝ちで決まりってもんよ。やってやるぜ。
……あいつこんなもん書いてやがったのか。この日記の持ち主、俺の言うあいつなら今病院だよ。水に一服持ってやろうと奴らの部屋に忍び込んだらバレて蹴飛ばされたんだと。鼻っ柱へし折られて鼻血ブー。情けねぇ。
……頭弱ぇのはどっちだよ。テメェで感覚が鋭いって書いてんじゃねぇか。
───ある運動競技選手の手記
(手記の同じページ、その片隅に追記されている……。)
※実際のところ彼らは高い身体能力の源である強靭な筋肉を維持するために非常に多くのカロリー、栄養を必要とするため、食事量が多い傾向にあるようだ。生存においてそれは明確な弱点と言えるだろう。
調べが足りていない。減点。
───阿呆の担当コーチ
最終更新:2022年07月24日 21:42