ある日の蒼星石のミーディアムの時計店…。
「はい蒼星石、あーんかしら」
「あ…あーん…」
金糸雀が爪楊枝にウサギリンゴを刺して、それを蒼星石に迫りながら口に持っていく。
蒼星石は若干引きながらもそれにしたがってリンゴを一口かじる。
「美味しいかしら?」
「う、うん、美味しいよ…」
キラキラと輝く瞳で覗き込んでくる金糸雀に蒼星石は押され、抗えずにそう言った。
いや、確かにリンゴは美味しかったが。
それを聞いて金糸雀は感極まったといった感じで思い切り抱きついてきた。
「そう言ってくれて嬉しいかしらー! やっぱ蒼星石はカナのダーリンかしらー!」
「あぐ…く、苦しい…」
全力で首が絞まっていき、確実に蒼星石の顔が青くなっていく。
金糸雀は気付かずに抱き付いたまま頬擦りをするが、それは翠星石が二人を引き離したことで終わった。
引き離された金糸雀はキッと翠星石を睨み、同じように翠星石も金糸雀を睨む。
「何でこんな事するかしら!」
「やかましいですぅ!! 大体蒼星石はお前のダーリンなんかじゃねえですぅ!!」
「そんな事無いかしら! カナ達は確かに愛し合っているかしら! ね、蒼星石!!」
「ゲホゲホ…え?」
離されて咳き込んでいると金糸雀が急にこっちを向いてきた。
同じように翠星石も向き、二人の迫力に蒼星石は押されて何も言えなくなってしまった。
どう答えても片方から確実に非難を浴びるこの質問に、蒼星石は困り果てた。
「え…えっと…」
「蒼星石、この際はっきり言ってやるです! お前は僕のものじゃないって!!」
「い、いや…それは…」
翠星石に迫られ、蒼星石は後退りする。
「…そんな、蒼星石…カナの事嫌いなのかしら…!?」
そんなヘタレた蒼星石を見て、金糸雀は絶望的な顔をしてその場に崩れ落ちた。
その目からは大粒の涙が流れ出し、蒼星石は思わず駆け寄った。
「いや、嫌いだなんて…」
「…いいかしら…蒼星石に嫌われたなら、このローザミスティカを砕いて消えてやるかしら…」
「嫌いなんかじゃないから! だからそんな事言わないで!!」
「…蒼星石ぃ!!」
必死に蒼星石に励まされ、金糸雀は泣きながら蒼星石に抱きついた。
その金糸雀に蒼星石も迷いながらも抱き返し、翠星石の視線が一層険しくなる。まさに目で殺すだ。
「蒼星石、何してるですか!!」
「いや…だってあの様子だと本気で自殺しかねないから…」
「そんな奴勝手に…! …ん?」
翠星石がふと金糸雀を見ると、翠星石の方を向いてニヤリと笑っていた。
計画通りかしら、その目は確実にそう言っていて翠星石の神経を確実に逆撫でる。
「蒼星石、そいつ嘘泣きしてやがったです!! さっさと離すです!」
「え?」
「蒼星石ぃ~!! 翠星石が因縁つけてくるかしらぁ~!!」
更に嘘泣きをし始めて抱きつく力を強くする。
それを見て翠星石も我慢の限界といった様子で、今度は蒼星石に迫り行く。
「いい加減にこいつから離れるですぅー!!」
「蒼星石~! ずっと傍にいてかしら~!!」
「蒼星石と一緒にいるのは私ですぅ!!」
「カナかしらぁ!」
(…なんで僕がこんな目に合わなきゃいけないんだ…)
二人に挟まれ、蒼星石は軽く眩暈を感じながらこんなことになった経緯を思い返す。
―※―※―※―※―
一週間前、ジュンの家。
「今日も良い天気だ。草木も元気に育ちそう」
いつもどおりにジュンの家に来て、偶には庭師らしく植木の世話でもしてみようと庭に出た。
「やす~まずにキング♪はぁた~らくよキング…♪」(庭師KING/平沢進)
それから鼻歌でも口ずさみながら手馴れたように植木を整備していく。
すると、不意に空の方から声が聞こえて来た。
「誰か助けてかしらぁ~!!」
「…ん? 今の声…」
声がした方を見ると、金糸雀が屋根の縁に掴まってぶら下がっているではないか。
「何やってるんだそんな所で!」
「真紅達の様子を探ってたら滑って…! 助けてかしらぁ!」
「待ってて、今行くから!」
「そんな事言っても、もう…きゃあっ!!」
「金糸雀!!」
金糸雀の限界を超え、手が縁から離れて重力に逆らえず落下していく。
蒼星石は持っていた鋏を投げ捨て、全速力で金糸雀の落下するであろう地点へ突っ走っていった。
「蒼星石ぃー!!」
「金糸雀! クッ!!」
金糸雀の体が地面に叩きつけられる瞬間蒼星石は飛びついて受け止め、そのまま二人して転がっていく。
全力で金糸雀を守ろうと抱きしめ、転がるのが止まっても力みすぎてしばらくはそのままだった。
それからしばらくして金糸雀が目を開け、蒼星石に抱きしめられているのに気が付いた。
「蒼…星石…」
「あいったた…大丈夫?」
「うん…ありがとかしら…。…ああっ!」
「どうしたの!? どこか怪我を…?」
金糸雀が大声を上げ、蒼星石が慌てて体を離す。
あちこち小さい擦り傷が見えるがどれも大した事無さそうに見えた。
だが金糸雀は確かめるように額を撫でると今度は段々と顔が赤くなってきた。
「…オデコ…」
「オデコがどうかした?」
「オデコに…キスされちゃったかしら…」
「…え?」
確かに抱きしめた時、額に唇を押し付けてしまった気がする。
だがそれは不可抗力だし仕方が無い事だっただろう。
「まさか…蒼星石にされちゃうとは思わなかったかしら…」
顔を赤くさせたかと思うと、今度はうっとりした目で抱きついてきた。
突然の事で、蒼星石は目をパチクリさせて慌てふためく。
「か、金糸雀!?」
「…でも、蒼星石の事は嫌いじゃないし…カナの事大事にしてくれそうかしら…」
「な、何を言ってるの?」
状況が理解できない蒼星石はそう尋ねた。
「カナね、ずっと昔からオデコにキスした人と結婚する…そう決めてたかしら」
「…はい?」
「…カナ、蒼星石のお嫁さんになるかしら」
金糸雀の発言に、蒼星石の時間が止まった。
そして時は流れ出す。
「ええええええぇぇぇ!!!???」
それからはもう大変だった。
真紅や水銀燈達に勝手に結婚の報告をしまくり、のりにウェディングケーキを作ってもらって訳の分からないうちに式を挙げられ、挙句の果てには蒼星石のミーディアムの家に住み着くようになってしまった。
全てが全て状況に流され、何も理解出来ないままこうなってしまった。ただ一つ分かる事は…。
―※―※―※―※―
「だから蒼星石は私のものですぅ!! お前みたいな奴との結婚なんか絶っっっ対に認めないですぅ!!」
「別に翠星石に許しをえるつもりなんか毛頭無いかしら!!」
自分に平和な日々はもうやってこないということだけだった。
アリスゲームとは別の意味で翠星石と金糸雀の争いの毎日…。
と、不意に部屋のドアが開き蒼星石のミーディアムが現れた。
「おお金糸雀ちゃん。今日も元気じゃのう」
「あ、お義祖父さん! こんにちわかしら!」
「変なアクセントつけるなですぅ!!」
「みんな元気で結構なことだ。…それにしても、早く孫が見たいのぉ」
「んな、何言ってるんですかこのおじじは!?」
「任せてかしら! いずれサッカーチームが出来るぐらいの子を産むつもりかしら!」
「馬鹿げた事いうなですぅ!! 大体女の子同士、しかもドールで子どもが出来る訳ないですぅ!!」
「そこはローゼンメイデン1の策士、金糸雀にお任せかしらー♥」
「きいぃー!! 本当にローザミスティカ粉々に砕いてやろうかですぅーー!!」
(あはは、なんでこうなったんだろう…)
泣きたくても泣けない、そんな状況に蒼星石は笑うしかなかった。
終われ
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