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「傍にいたいと思うのは」

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rozen-yuri

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「傍にいたいと思うのは」


「もう暦の上では秋だっていうのに今だに暑いですね~…」

学校からの帰り道。
日が暮れ始めた空を仰ぎながら隣を歩く翠星石が呟いた。
日が暮れると言っても空はまだ明るい。
彼女の言う通り、暦の上では秋なのだが、蒸し暑く、蝉さえ鳴いている。秋どころかまだ夏だと言ってもおかしくはないと思う。

「寒いよりはいいじゃないか。翠星石は寒がりだし。」
「う~…そうですけどぉ…暑いのだって嫌ですよ。
夜は暑さで寝にくいですし、髪だって汗で肌に張り付いてべたつくですし…とにかく暑いのも嫌なんですぅ!」

「…何それ。我が儘だなぁ。」

気持ちはなんとなくわかるが、筋の通っていない理屈に呆れつつ吹き出してしまう。

「もうっ!何で笑うですか!」
「だって…言ってることがめちゃくちゃだからさ。
夏も冬も何回だって来るのにそんなこと言ってたらキリがないよ?」

頬を膨らませる彼女にからかうように言った。

こんなことを言ったらまた怒るだろう、ということを予想しながら言ったことだったのだが…予想は外れ、彼女は言い返しては来なかった。
それどころか突然大人しくなってしまった。

少し間が空いてから、翠星石は口を開いた。

「…わかってるですよ、それくらい。
でも…翠星石だって少しずつ好きになってるですよ。」
「え?」

なかなか口を開かない彼女の様子に、傷つけてしまったのではないかと内心焦っていた僕は安堵したと同時に翠星石の発言に驚いた。

季節が巡る度、特に夏と冬を嫌っていた翠星石がそんなことを言うなんて…。

「…どうして?」

僕が尋ねると、翠星石は歩みを止めた。
僕もそれに倣い、歩みを止める。

「気づいたから…ですかね」
「…気づいたって何に?」

再び尋ねると、翠星石が僕の方に向き直る。
頬が微かに赤く染まっているのは気のせいだろうか。

「今年も、今までの夏もお祭りに行ったり、花火見たりしましたよね、一緒に」
「え? …うん、花火綺麗だったね。」
「冬は一緒にクリスマスケーキ食べたりこたつに入ったり紅白見たりしましたよね」
「うん、ケーキ美味しかった。イルミネーションも見に行ったっけ…懐かしいなぁ」

色々な思い出が鮮明に蘇ってくる。
その時の光景を思い出すごとに自然と温かい気持ちになる。

「…でも、それがどうかしたの?」

何が言いたいのだろう?翠星石が夏と冬が嫌いでなくなった理由とどこが関係しているのだろう。そんなことを思案していると視線を感じた。
視線を感じる方に目を移すと、翠星石がじと目で僕を見ている。

「…わからないですか?」
「何を?」

首を傾げた僕に、はぁ…と呆れたように溜め息を一つついて翠星石は言った。

「翠星石は…夏と冬が好きじゃなかったです。
でも…こうやって今までのことを思い返すと楽しいことばかりなんです。…変ですよね、嫌いな季節なのに。
だから、どうしてなのか考えてて…気づいたんです。」

そして、ふっと笑って彼女は言った。

「今まで当たり前すぎて気づかなかったですけど…どんな時も蒼星石が一緒だったんですよ」
「え…」
「貴方が一緒だったから、嫌いな物が楽しいとか嬉しいとか思えるのですぅ。
…だから、夏も冬もそこまで嫌いじゃなくなったのですよ」
「…!」

目の前の翠星石の頬はやっぱり赤く染まっている。どうやら言った本人も照れているらしい。
…気のせいじゃなかったみたいだ。

そういう僕も、顔が熱くなるのを感じる。
何を言い出すのかと思ったら…そんな可愛い笑顔で、そんなこと言わないでよ。…恥ずかしいじゃないか。

…でも…わかるよ、その気持ち。


「…そっか」
「まあ、悪魔でそこまではってことですけど…って、ふぇ!?」

目の前の彼女の腰に腕を回し、包み込むように抱きしめる。

「…そっ蒼星石?」
「…同じだね」
「え?」

…嫌いな物は違うけど、気づいたことは同じだよ。僕もそうだ。
眩しい太陽も、自分自身も、嫌いだった。
太陽はいつも輝いていて、迷いなど微塵も見せはしない。
その点、僕はいつも物事を深く考えすぎて、結局解決策は見つからず後ろめたさが残る。
そんな太陽が妬ましくて、それに嫉妬する自分が嫌いだった。
だけど、君と歩けば太陽の眩しさなんて気にならなくて、君が僕を好きだと言ってくれる度、自分に自信が持てていく。
君と一緒にいるだけで、嫌いな物も好きになっていける。

「…君と同じで僕も、君と一緒なら嫌いな物があっても好きになれる。好きな物は…きっと、もっと好きになる」
「好きな物はもっと好きに…?ふふっそうですね。…蒼星石、大好きですよ」
「うん…僕もだよ」
腕の中の翠星石が嬉しそうに、それまで躊躇うようにしていた腕を僕の背中に回してくる。

「これからもずっと…ずーっと一緒ですよ?
翠星石の傍にいて下さい…」
「もちろん。…ずっと傍にいるよ…」

言うと同時に彼女を抱きしめる力を強め、そっと唇を重ねた。

ずっと傍にいる。
例えどんなに季節が巡ろうと、どれほど時間が流れても。今も昔も傍にいたいと思うのは、一緒にいたいと思うのは…
ただ一人、君だけだから。




END

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