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重なる右手と左手

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rozen-yuri

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 ふぅ、っと息を吹いた。
 冷えきった体に熱々のココアが染み入る。かじかんだ指先にもやっと感覚が戻ってきた。
 喫茶店内にはあまり人はいない。カップル達は、みな色々と遊びに行ってるのだろう。
 水銀燈は携帯を開くと、時間を確認した。午後七時をもうすぐ指そうとしている。
 自分にしては時間通りに来れたと思う。
 受験生にクリスマスはないと言われ、嫌がらせの如く組み込まれた学習塾のカリキュラムを終え、その足で来た。
 やることもないのでイヤホンを耳にはめようとした時だった。
「早いじゃない」
 上から聞こえた声に顔を上げると、外は相当寒かったのだろう、頬を少しだけその名の通り紅くに染めた少女。
「早めに切り上げたのよぉ」
「いいの?受験生がそんなことで」
「テストを合格した者から順番に帰って良かったんだものぉ」
「そんなんで、」
「あ」
 恒例のお説教が始まりそうだったので呆れて外を見れば、その光景に思わず声が漏れた。
「雪」
 神様からの贈り物。今日はホワイトクリスマスイブになった。


 ──重なる右手と左手


 チラチラとちらつく雪は、本当に誰かが演出したようで、喫茶店の軒下に溜まる人々も雪をぼぉっと眺めては、感嘆の息を溢す。
 目の前で見るのも良いだろうが、窓際の席でこうやって木枠に囲まれたのを見るのも綺麗だ。
 イルミネーションで明るく、けどけばけばしくはない夜を、雪の演出でカップル達が歩く。
 まぁ、正直憧れないはずはないはと思う。
「どうする?このまますぐ出てもいいけど……」
 真紅も多少そう感じているのだろうか、脱ぎかけのコートを手持ち無沙汰にしている。
 しかし、その手が寒さで真っ赤になっているのを見ると、それに賛同する気は起きず、首を振った。
「別に急がなくてもいいわぁ。雪はまだ止まないでしょうから」
 そう言うと、真紅は少し安心したように私の向かい席に座った。
「結構待ったの?」
「いいえぇ、入ってすぐだったわぁ」
「なら、良かったけど──あ、ミルクティを」
 客もそういないので手早く出てきた紅茶に真紅は口をつけると、短く溜め息を漏らした。
「どこ行きたいぃ?」
「…………」
「まぁ、そうだろうと思ったけどぉ」
 真紅はこういうデートの行き先を決めるのが苦手らしく、大抵コースを決めるのは私だ。
「とりあえず駅前のイルミネーション行きたいんだけどぉ……」
 声には出さないもの真紅の表情がほんの少しだが明るくなった。

 意外なところで、女の子らしく、しかもそれを口に出さないからなかなか大変だ。
 駅前のイルミネーションとは、毎年この時期になるとデパート等が入っている大きな駅の表側がライトアップされるのだ。
 まぁ、言わばカップル御用達というデートスポットだ。
「まぁ、もうちょっと暖まってからねぇ」
 と言って真紅の頬を触ると、まだ少しだけひんやりとしている。
 その行為に敏感に反応した彼女は、私の手をパシりと弾いた。
「人前」
 と、私を睨みながら言った真紅は再び紅茶を口に含んだ。
 女同士でこういうことをすれば、多少なりとも変だと思われてしまうからだ。
 私に言わせれば少し頬に触れるくらい誰だってやるだろうに、と思うのだが、どうやら真紅はそう思わないらしい。
「ケチ」
「何ですって?」
「何でもなぁい」
 それでも懲りずにもう一度触れようとすると、サッと避けられてしまった。
 さすがにもう懲りて、何もしなかったが、足先に何か当たったのを感じた。
 真紅の顔を見ると意味ありげな瞳でこちらをみている。
 足を少しだけ伸ばし、足を挟んでやるようにすると、満足したようにくすりと笑い、目を伏せた。
「ふふ、可愛いとこあるじゃなぁい」
 真紅にだけ聞こえるようにそう言ってやると、今までとは別の意味で顔を真っ赤に染めた。

 駅に向かうに連れて、人混みが増してきたのは当然のことで。
 さっきから身長低めの真紅を見失わないかが心配で、歩きながら時折探してやる。
 こんな時、手を繋がせてくれればそんな心配はないのに。
 拒んでも無理矢理手を繋いでやろうかと思ったとき、クイとコートの裾を引っ張られた。
 止まりたかったが、人の波に止まることもできず、歩きながら振り返ると真紅が捕まっていた。
「ごめん……」
 少し後ろを歩いていた真紅を強引に前に進ませ、指を絡めて手を繋いだ。
「ちょっと、人前……」
 この期に及んでまだそう言う真紅に少しだけ呆れる。
「こんなに人いるんだものぉ。見つかりっこないわよぉ」
「こんなに人がいるからこそ、誰かが見るのよ」
 ああ言えばこう言う。しかし、私だって離してはやらない。

 水銀燈は唐突に繋いだ手を自分のコートのポケットに真紅の手と一緒に入れた。
「ちょっ、……貴女、何考えて、」
「これなら見えないからいいでしょぉ?」
 彼女の有無を言わせない言い方を感じ取ったのか、少し不服そうに横を向いて言い返さなくなった。
 表情は見えないものの、耳元まで紅くなっていた。
「真っ赤ぁ」
 クスクスと笑いながらそう指摘してやると、空いている方の手でまた弾かれた。
「ばか」
 少しだけ振り返った、碧眼の瞳はそう言いながらも少し嬉しそうに見えたのは私の欲目だろうか。
「わ、」
 と思わず小さく驚いたのは、駅前のイルミネーションが予想より綺麗だったから。
 大きなクリスマスツリーを中心に輝かしい光が描かれていた。
 その前を通るものはついついと言った感じで目を奪われるだろう。
「すご……」
 真紅もそう呟いて、ツリーに見入っている。ツリーの光は真紅の滑らかな頬を鮮やかに彩っている。
 音を立てないようにその頬に小さくキスをしてやる。それに反応してこちらを振り返った真紅は、信じられないようなものを見る目でこちらを見てくる。
 大きめの目が更に真ん丸になった瞬間、真紅の空いていた右手が振りかざされた。
 それをいち早く掴み、今度は唇に啄むようなキスをする。
「ば、っ……」
 口を押さえて頬を真っ赤に染めた真紅がこちらを睨む。
「……メリークリスマス。真紅」
 そう言ってやると恥ずかしそうに俯いた。覗いている耳が真っ赤だ。
「メリークリスマス」
 小さく真紅がそう呟いたのを、私は聞き逃さなかった。

終わり


続き ero入りますので、これより先は自己責任で。
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