冬の夜は苦手。肌を突き刺すような寒さがあるから。
それに比べてこの時期は少し汗ばんだ肌に風が涼しいから、夜が好き。
「ちょっと遅くなっちゃったかしら」
時計を見つめて、ふっと息を漏らす。将来を期待されているのもなかなか大変だ。
「かっなりあせんぱーい!」
自分を呼ぶ声にふっと振り向くと、頭についている桃色のリボンを揺らしながら駆けてくる少女。
「ひな!」
自分のもとまで辿り着くと手を膝に着き、大きく肩を揺らしながら呼吸をしている。
しかし、すぐにパッと顔を上げると夜の闇をも照らす太陽のような笑顔を浮かべる。
「一緒に帰ろっ金糸雀先輩!」
私はにこりと笑って頭一つ分低い彼女の頭を撫でた。
「今は、『かな』でいいよ」
そう言うと大きな瞳を丸くさせたが、すぐに極上の笑みを浮かべてくれた。
それに比べてこの時期は少し汗ばんだ肌に風が涼しいから、夜が好き。
「ちょっと遅くなっちゃったかしら」
時計を見つめて、ふっと息を漏らす。将来を期待されているのもなかなか大変だ。
「かっなりあせんぱーい!」
自分を呼ぶ声にふっと振り向くと、頭についている桃色のリボンを揺らしながら駆けてくる少女。
「ひな!」
自分のもとまで辿り着くと手を膝に着き、大きく肩を揺らしながら呼吸をしている。
しかし、すぐにパッと顔を上げると夜の闇をも照らす太陽のような笑顔を浮かべる。
「一緒に帰ろっ金糸雀先輩!」
私はにこりと笑って頭一つ分低い彼女の頭を撫でた。
「今は、『かな』でいいよ」
そう言うと大きな瞳を丸くさせたが、すぐに極上の笑みを浮かべてくれた。
──そして、あなたと
大好きな初夏の夜を、大好きな子と歩く。ああ、なんて心地よい時間。
「──でね、真紅せんぱいったら意地悪するのよ」
「ふふ、相変わらずかしら。真紅は」
「あ、翠星石せんぱいから貰った飴食べる?」
「食べるかしら。──莓?」
愛らしい薄いピンクのそれを口に含むと優しい甘さが広がる。
「それにしてもひな、遅かったのね」
「うん、もうすぐコンクールだから」
そう言った彼女の笑顔は少しだけ陰った。
「そう──」
中学時代、動くの大好き元気印の雛莓の所属クラブはなんと美術部。
絵が描きたいから、という簡単な理由で入部したが、デッサン等の基礎的な知識はなく、そこから猛勉強。
しかし、その素人さが受けたのかもともとの素質なのか、彼女の絵はあるコンクールで金賞。
そこから彼女のシンデレラストーリーが始まった。あちこちのコンクールで優勝するは名高い芸術家の目に止まるは、で彼女はあっという間に有名になった。
そのおかげで彼女は推薦で私と同じ高校に。とてもじゃないが普通に受けたら雛莓は受かるはずのないとこ。
「──でね、真紅せんぱいったら意地悪するのよ」
「ふふ、相変わらずかしら。真紅は」
「あ、翠星石せんぱいから貰った飴食べる?」
「食べるかしら。──莓?」
愛らしい薄いピンクのそれを口に含むと優しい甘さが広がる。
「それにしてもひな、遅かったのね」
「うん、もうすぐコンクールだから」
そう言った彼女の笑顔は少しだけ陰った。
「そう──」
中学時代、動くの大好き元気印の雛莓の所属クラブはなんと美術部。
絵が描きたいから、という簡単な理由で入部したが、デッサン等の基礎的な知識はなく、そこから猛勉強。
しかし、その素人さが受けたのかもともとの素質なのか、彼女の絵はあるコンクールで金賞。
そこから彼女のシンデレラストーリーが始まった。あちこちのコンクールで優勝するは名高い芸術家の目に止まるは、で彼女はあっという間に有名になった。
そのおかげで彼女は推薦で私と同じ高校に。とてもじゃないが普通に受けたら雛莓は受かるはずのないとこ。
彼女は一躍有名人。学校で彼女の名を知らない者はいないほど。加えてこの愛らしい容姿と人懐こい性格。
雛莓の周りにはいつも人だかりができていた。
「勉強、忙しいの?」
「とぉっても忙しいかしら。ヒナなんか目が回っちゃうかも」
「うぅー、嫌なのぉ」
「ふふふっ、覚悟するかしら」
「頼りにしてるのよっ。かなっ」
ぎゅ、と腕にしがみつかれて危うくバランスが崩れるとこだった。
笑いながら、ふと考える。この調子なら彼女は何もしなくても有名大学からお声がかかるだろうに。
いつの間にこの二つ年下の幼馴染みは大きくなって、私の前を歩くようになったんだろうか。
先輩と後輩の名がついてから、二人で遊ぶことなんかほとんどない。
これから先も私の知らない人と出会い、関係を作っていくんだろう。私なんかいなくとも、歩いていくんだろう。
明るくて楽しくて可愛くて、そして、そして、──。
友情だけではとてもごまかせなくなってしまった感情を私はどうすればいい。
雛莓の周りにはいつも人だかりができていた。
「勉強、忙しいの?」
「とぉっても忙しいかしら。ヒナなんか目が回っちゃうかも」
「うぅー、嫌なのぉ」
「ふふふっ、覚悟するかしら」
「頼りにしてるのよっ。かなっ」
ぎゅ、と腕にしがみつかれて危うくバランスが崩れるとこだった。
笑いながら、ふと考える。この調子なら彼女は何もしなくても有名大学からお声がかかるだろうに。
いつの間にこの二つ年下の幼馴染みは大きくなって、私の前を歩くようになったんだろうか。
先輩と後輩の名がついてから、二人で遊ぶことなんかほとんどない。
これから先も私の知らない人と出会い、関係を作っていくんだろう。私なんかいなくとも、歩いていくんだろう。
明るくて楽しくて可愛くて、そして、そして、──。
友情だけではとてもごまかせなくなってしまった感情を私はどうすればいい。
「カナ、あのね──」
「ん?何かしら」
「ヒナね、カナのこと好き」
「はっ?」
「よかったら、付き合ってクダサイ──」
彼女の瞳は視線がはずせなくなってしまうほど真剣で、とてもじゃないが冗談に見えなくて。
その名の通り苺色に染まった頬につられて私も顔を真っ赤にさせる。
「よ……」
こんなことってあるんだろうか。
「よろしく、お願いしますっ!」
カバンを持つ両手に無意識に力が入る。告白を受ける側なのに、こっちがしたみたいに心臓が強く跳ねる。
「っ……へへ、」
頬を掻きながら蕩けそうなほど甘い笑顔を浮かべた雛苺の髪をゆっくり撫でる。
「よろしくね、かな」
「こちらこそ」
重ねた手を強く握り合う。涼しい風が二人の髪の毛を通り抜ける。
この季節なのに嫌じゃない手のひらの暖かさはもう離したくないと言っていた。
「ん?何かしら」
「ヒナね、カナのこと好き」
「はっ?」
「よかったら、付き合ってクダサイ──」
彼女の瞳は視線がはずせなくなってしまうほど真剣で、とてもじゃないが冗談に見えなくて。
その名の通り苺色に染まった頬につられて私も顔を真っ赤にさせる。
「よ……」
こんなことってあるんだろうか。
「よろしく、お願いしますっ!」
カバンを持つ両手に無意識に力が入る。告白を受ける側なのに、こっちがしたみたいに心臓が強く跳ねる。
「っ……へへ、」
頬を掻きながら蕩けそうなほど甘い笑顔を浮かべた雛苺の髪をゆっくり撫でる。
「よろしくね、かな」
「こちらこそ」
重ねた手を強く握り合う。涼しい風が二人の髪の毛を通り抜ける。
この季節なのに嫌じゃない手のひらの暖かさはもう離したくないと言っていた。
終わり