メイジーメガザル(後編) ◆jU59Fli6bM
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『起きろよ』
「ミネア!」
「起きてよ!」
誰かの呼ぶ声がした。
ふわふわと漂う感覚のまま、私はそれを聞いていた。
夢の中には姉さんがいて、とても居心地が良くて。
私はしばらく目覚めたくないと思った。なのに無理やり起こしてくるのだもの。
声が聞こえなくなったと思ったら、次には全身を冷水に叩きつけられたような感覚。
驚いた。驚きました。思わず起きちゃったわ。
……もちろん、今は感謝しているけれど。
「ここは……?」
「ねえ、しっかりして……!」
開いた瞼の中へ我先にと光が潜り込む。目覚めたばかりの瞳はその量に対応しきれず、見えるもの全てを白で覆った。
そんな身体の動きを意識がただ傍観する。私は目の前の真っ白な世界に感心さえ
していた。
直後、目は耐えきれず瞼を閉じ、強い白から逃げ出す。
再び現れる暗闇。
(外を、見たいんだけど)
眩しい。
眩しい。
暗闇でしか生きられなくなったのかしら?
だったら、このまま地底でひっそり過ごすのもいいかも……。
頭の片隅から出てきた仮定を聞いて、ああ、疲れているなと思う。
うんざりして、無理やりにも目を開けた。
光に怯む瞼は抵抗を続ける。
開ける。閉じた。開けた。眩しい。暗い。明るい。白。黒。
私の意識はただ黒と白を観察している。他人事のように私の身体に居座って、じっと見ている。
やがて身体は一つの色を映し出すことに決めたのだろうか、しばらくすると視界全てが一色で染まっていた。
「ここは……」
「もしかして、街の中?」
どのくらい虚空を見つめていただろうか。
重い腰を上げるかのように、傍観していた意識がようやく動き出す。
右にも左にも茶があった。いや、これ、壁だったのね。
そういえば、さっきまでここに誰かいなかったかしら?
その時私は、いまこうやっているように……
暗い意識の底から、真っ暗な無音の空間から。
空を眺めていたような気がする。
(あ、頭が動いた)
(左腕の感覚が無い)
そういえば、こんなことさっきもあったような……?
というより、何で私はここで寝ているの?
(ああ。そうよ、そうだった)
私、何言ってるのかしら……。
酷い火傷して、今まで気絶してたのね。うっかり忘れるところだった。
さっきまでリンさんが話してたの、聞いていたのに。
でも、変な気分。こんな怪我したのに、私はまだ生きてたのね。
ようやく目が慣れた頃にはもう、リンさんの姿はなかった。
代わりに見えるのは、規則正しく並ぶタイルに、水滴の張りつく浴槽。ここは風呂場なのかしら。
すぐに起き上がる気にはなれなかった。
またびしょ濡れになってしまった服が肌に張りつき、疲労感や倦怠感のようなものに変わっていた。
ただ目だけは、周りを見ようと世話しなく動く。
そういえば私は誰かを探している……はずだった。リンさんじゃない誰かを。
はずだったというのも、今ここには私しかいないから、そう言ってるだけだけれど。
そんなことを思っていると、扉の向こうから足音が近づいてきた。
「ミネア!」
上から、リンさんの声。
その声で私の中のぼやき声はかき消えた。
「リンさん?ここは……」
「ああ、良かった……!家の中よ。寝室もあったの。今、連れていくわ!」
言い終わるより早く、私の体はタオルを被り、リンさんに抱きかかえられる。
持ち上げられながら、私の目はリンさんの姿を追っていた。
すらりと伸びる足を過ぎ、ぴったりとした青い服と、揺れる緑の長い髪を経て、
焦りのような安堵のような表情を見た。
リンさんと目が合う。目を反らしたその顔が、ほんのりと紅くなるのに私は気付いた。
部屋を出て走りながら、リンさんは口を開く。
「ミネア、本当に良かったわ。そうだ、身体は、身体は大丈夫!?」
見慣れない天井を見ながら、私は内心首を傾げた。
正直、起き上がれないので体の様子がよく分からない。……そう、痛みがないのよね。
大火傷が何ともないのだから、大丈夫かと聞かれたら大丈夫ではないのだろうか。
「分かりません……。火傷した腕は全然感覚が無くて、動くかどうかも分からないのに……」
息を吸う。普通に話しているのに、何か違和感を感じた。
言葉を整理しているうちに次の部屋が開き、私はベッドの目の前にいた。
「なのに、意識はちゃんとしていて……。眠いとか全くなくて、今ずぶ濡れのはずなのに、身体が暑くて……」
「ミネア……?」
一言一言、ひどくゆっくりとした声が出た。
リンさんが私の腕に裂いたシーツを巻きながらも、不安そうに私を見る。
その時初めて、私は白黒まだらの自分の腕を見た。
そして、気づく。傷に触れられても感覚が分からないことに。あと――それを他人事のように眺めている私に。
そう、そうだわ。
本当は不安になるんじゃないかしら?
さっきまで死んでもおかしくなかったのに、体の不自然さに気づいたのに、変じゃないかしら?
そう思っても、心は何故か安心感で満たされていて、不思議と落ち着いていた。
単にぎりぎりの状態だと、こんな感じになるのかしら?
「私……、私、どうなっているの?これから大丈夫なんでしょうか?」
頭に浮かぶ純粋な疑問。
でも、本来ついてくるはずの感情は無くて、口から出るのも他人の言葉なのではないかと思えた。
「ミネア!」
タオルを私の体に巻いて、ぎゅっと、リンさんが私の手を握る。
身体の、手の暖かさは、確かに私に伝わってきた。
「大丈夫、大丈夫よ。ミネアはここで休んでいて。今度は……、私が守るから!」
「私は……え、リンさん?」
私が口を開いたときには、既にリンさんは走り出していた。部屋の外へ、風のような速さで。
私はベッドの上でその後ろ姿を見送るしかできなかった。
思わずため息が出る。
「ちっとも大丈夫じゃないみたいね……」
私は自分の手を見つめた。リンさんに腕を握られて、やっと気づいた。
私が火傷した、首筋から二の腕の部分全て、組織自体が焼け死んでしまっていることに。
だから痛みはもちろん、あらゆる感覚が分からないのだ。
火傷で壊死した部分を覗いた全ては、暖かさも、触れた感覚も当然分かる。
手首も指も一本一本動かせるし、肘から下なら無傷そのものだ。
火傷の軽い部分は……探したけれど、もう治っていた。変な話かもしれないけど、傷痕しかなかった。
ただ、体が熱いとか、変な気持ちとか、そういう理由はよくわからないけど……。
「これなら……」
私はベッドから降りた。そう、降りることができた。
ほら、立てるじゃない。
少しふらつくけど、意識して動かさないといけないけど、私は立てるし歩ける。
頭のぼうっとする感覚も、いつの間にやら消えていた。
そこまで確認して、ほっとため息が出る。そしてその瞬間から、私は身体より別のことが気になり始めていた。
まず、ここがどこなのか。どうしてこんな場所に飛ばされたのか。
リンが何も言わなかったのは不親切ではなく、単に分からなかったのだろう。
だから、今急いで出ていったのかしら?
あわてていたのはどうして?
何かもう一つ気になることがあったような気がして、私は部屋を見回した。
「……! あなた……!?」
(変な格好……)
第一印象はさておき、奥のベッドに見えたのは知らない男の人だった。
私はこの人の名前も知らない。でも声は知っている。
あの時確かに話をして、それより前にもどこかで聞いた気がした。それがどこなのかは分からないけれど。
でも一目見て分かった。この人こそが、先ほどから私が無意識に探していたその人だと。
そして、手のひらに残る暖かさ。これが、私を繋ぎ止めてくれたのだと私は気づく。
同時に、この人が倒れている理由も理解する。
理解して、肩身が狭くなった。私はそれも分からず、声を聞いても眠り続けてた気がしたから。
少しうつむくと、床のデイパックに私の目が留まった。
この人のものだろうか。気付くと私はそれに手を伸ばしていた。
勝手に覗くのはためらわれたけど、何だか中を見ないといけない気がして。
「っく……、よい、しょっ」
私は火傷の酷くないもう片方の手で、なんとかデイパックをベッドの上に引き寄せる。
すると、見覚えのあるものが転がり出た。
いや、見覚えのあるというには軽すぎるだろうか。
銀色のタロットカード。かつてそこに宿る魔力を戦闘にも使った、私の愛用の道具。
私はためらうことなく手を伸ばし、その一枚を引き抜く。
「こ、これって……」
思わず目を疑う。
これを引いた時、勇者様も笑ってたっけ。……だけど、まさか今出るなんて。
――くさった死体の、正位置。
「……昼寝しているとさがし物が出てきますが くさっているでしょう。
セーターの毛玉にだまされそう。
ラッキーナンバーは931。ラッキーカラーはえび茶色――
――案ずるより産むが易し、ですか」
産むが易しなんて。この状況で言うには、なんて無責任で軽々しい言葉だろう。
でも、誰に、何に対して言っているのかしら。私達三人のことなのかしら?
そもそも今のは、誰を占うか決めたわけでもない占い。本来ならこの結果は何にも使えない。
だけどそれを分かっているかのように、はっきりと未来を指し示すカードではなくて。そこに、私は少し引っかかった。
……まあ、このカードは気まぐれだから、深く考えても分かるわけもないのだけれど。
「そうよね。言っているうちは、気楽よね」
【A-6 村 チビッコハウス 一日目 昼】
【
リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:腹に傷跡 、焦りと不安、疲労(小)
[装備]:マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣 、拡声器(現実)
[道具]:毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、 フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ、
デスイリュージョン@
アークザラッドⅡ 、天使ロティエル@サモンナイト3
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ミネアを治療できる人、あるいは薬を急いで探す。
2:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
3:白い女性(アティ)が気になる。もう一度会い、話をしたい。
[備考]:
※終章後参戦
※ワレス(ロワ未参加) 支援A
【A-6 村 チビッコハウス寝室 一日目 昼】
【アキラ@
LIVE A LIVE】
[状態]:気絶中。疲労(大)、精神的疲労(大)、神経衰弱
[装備]:激怒の腕輪@
クロノ・トリガー
[道具]:清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1: -
2:ミネアを助ける。
3:
高原日勝、サンダウン・キッド、
無法松との合流。
4:
レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(
カノン)の仇を取る。
5:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※
ストレイボウの顔を見知っています
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。
【ミネア@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:精神的疲労(中)。上腕、肩から胸元にかけて火傷(少し治療済み)、催眠中。
[装備]:ぎんのタロット@ドラゴンクエスト4
[道具]:基本支給品一式(紙、名簿欠落)
[思考]
基本:自分と
アリーゼ、ルッカの仲間を探して合流する(
ロザリー最優先)
1:十分に周りを警戒。リンとアキラの様子が気になる。
2:ロザリーがどうなったのかが気になる。
3:ピサロを説得し、行動を共にしたい。
4:ルッカを探したい。
5:飛びだしたカノンが気になる。
[備考]
※参戦時期は6章ED後です。
※アリーゼ、カノン、ルッカの知り合いや、世界についての情報を得ました。
ただし、アティや剣に関することは当たり障りのないものにされています。
また時間跳躍の話も聞いていません。
※回復呪文の制限に気付きました。
※ピサロがロザリーを死んだままであると認識していると思っています。
※アリーゼの遺体に気付いていません。
※暗示がかけられています。一定時間、火傷の影響を感じなくなります。
※アリーゼの死体はC-7に埋葬されました。
※A-5の村に、チビッコハウス@LIVEALIVEがあります。
【ぎんのタロット@ドラゴンクエスト4】
ミネアの専用武器。戦闘中に道具として使用するとさまざまな効果をもたらす。
カードを引いてみるまでは結果がいっさい予測できないので、中には味方に大ダメージを与えるものも。
普通に占いとしても使えます。
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最終更新:2010年07月01日 21:40