奔る紫電の行方、燃える炎の宿命(さだめ) ◆iDqvc5TpTI
走れども走れども人っ子一人見つかりはしない。
隅々まで探索した船ももぬけの殻。
まるでお前のやっていることは全て無意味だと目に見えぬ誰かに嘲笑われているようで。
その誰かとはオディオや、
リーザを殺した奴にしか思えなくて。
「ちくしょう……」
知らず知らずと言葉が漏れていた。
何度も何度も口にした言葉。
何度口にしてもちっとも気分がすかっとしない言葉。
「ちくしょう、ちくしょう、ちっくしょおおおおおおおおお!!」
止まらない、止まらない。
漏れ出る言葉も、がむしゃらに動かす足も。
一向に止まらない。
冷静になれと
シュウの姿を借りて語りかけてくる己自身も蹴っ飛ばす。
無理だ、冷静になんてなれるはずが無い。
何が炎使いだ。
こんなにも近く、心の底から燃やし尽くさんとしている焦りという名の炎さえ制御できないなんて。
「誰でもいい、誰か、誰か出てきやがれええええええええええええええええ!」
矛盾、不一致、二律背反。
不条理な暴力で誰も傷つかないで欲しいと思っているはずなのに、行方を失くした想いを発散する為だけに被害者を、加害者を求めてる。
そんな嫌な奴な自分から逃げるように
エルクは更に速度を上げる。
魔法を用いるのでも走法を最適化していくのでもなくただがむしゃらに息を切らして。
ああ、なんて悪循環。
その走るという行為こそ、彼より殺人者達を引き離している大きな一因なのに。
考えてみて欲しい。
エキスパンドレンジの加護を受け、ペース配分も考えずに全力で走るエルクに追いつけるものは果たしてこの島に何人残っているだろうか?
追いつかれないということは剣や魔法を問わず如何な魔手からも逃れられる。
また、例えエルクに追いつけるもの――身軽な暗殺者と速度強化魔法を模写し扱える少女のコンビがいたとして、エルクを追おうと思うだろうか?
エルク個人に恨みを持っているのなら別だが、それ以外の殺人者が追いつくだけでも無駄な体力を使うこと必至な相手を。
見るからに頭に血が昇っていて放っておいても遠からず自滅してしいそうなことが明白な少年を。
思うまい、少しでも賢き脳があるのなら。なんとしても最後まで生き残らねばならない目的があるのなら。
こうして、救うべき誰かを、倒すべき人殺しを追い求めている少年は皮肉にも同時に逃れ続けていた。
長く、長く、数時間もの間。
ひたすらに逃れ続けていた。
せめて。
途中座礁船を探った後に南方へと進んでいたら彼の迷走も終わっていたかもしれないのに。
ヘクトル伝いにリーザの仇のことを聞いていたかもしれないセッツァーが居たのだから。
しかしながら既に運命の分岐点をエルクは通り過ぎてしまった。
西へと再度進路を取ったエルクの疾走の果てにあったのはグッドエンドには程遠い二つの壁。
B-5――禁止エリア。
そして魔王
デスピサロ。
「……今ほど貴様達人間と出会えたことを幸運と思ったことはない。寄越せ、貴様の名簿を」
「っ、名簿だと? なんでんなもんを……。いや、それよりもその血、てめえ誰か殺したのか!?」
禁止エリアを警告する音声にはっとなりUターンし歩みを緩めたエルクは、現れた男を前にせっかく落ち着けた息を再び荒げる。
愛する女性が再びこの世に生を受けた可能性を知り休息を求める身体に鞭打って人が集まりそうな村に向かっていた
ピサロは。
当然のことながら返り血を洗い落としてなどいなかった。
その渇いた血に染まった己と剣を特に隠すことも無く魔王は淡々と事実を言い放つ。
「女子どもを二人程切り殺したと答えたらどうする?」
「許さねえ。お前も、同じ目に合わせてやる!」
ようやく巡り合えた怒りと悲しみを容赦なくぶつけれる相手にエルクは撒き散らすがままだった激情を炎と化して斬りかかる。
今、この瞬間、確かに。
エルクの頭の中はピサロへの殺意のみで埋め尽くされていた。
知らず知らずのうちにかわした凶弾が守りたかった人を襲ったことを知りもしないで。
▽
エルクがピサロと遭遇した同時刻、B-7エリア。
平野と森林の境にて一つの戦いの幕が切って落とされた。
木の上にて気配を消し潜伏していた
ジャファルが眼下を情報を交換しながら行くアズリアと松に襲い掛かったのだ。
エルクとすれ違った者と、エルクを追う者達。
当然といえば当然過ぎる邂逅だった。
▽
自分が避けた弾が当たり後ろにいた誰かが死ぬ。
戦場ではよくある光景だった。
だからこそアズリアはいつしか避けることを捨てるようになっていた。
避けず、されど殺されず。
選んだ手段は攻撃に先んじた反撃。
不朽の鍛錬の末に得た、言葉にするのは簡単だが、実践するのは難しいその技能こそがアズリアの命を救った要因だった。
「かはっ!?」
「……っ!!」
気配は察せ無くとも、自らの身に襲い来る攻撃という現象を経験と勘から感じ取った剣姫は考えるよりも本能の赴くままに槍を左後方に振るう。
槍の柄に打たれたがために暗殺者の凶刃の軌跡は狂い、一人の命も奪えぬままに終わる。
無意識のうちに放った一撃だったのが功を奏した。
既に後半歩の間にまで接近しており、刺突であったのなら刃より内側にいたジャファルには当たらなかっただろう。
吹き飛ばされいく中、空中で体勢を立て直し、何もなかったかのように着地するジャファル。
その身のこなしはアズリアにかって戦ったある犯罪組織の一員を彷彿させるものだった。
「暗殺者か。松、気をつけろ。奴らを不意打ちしかできないと見なしていれば痛い目に合うぞ」
暗殺とは何も敵の不意をついて殺すことではない。
公の戦い――戦争や決闘といった両者が認識・或いは合意した形以外で殺すことだ。
ガードマンで固めた富豪の家に真っ向から攻め入ろうとも事前に布告していなければそれは暗殺となるのである。
つまり真に優れた暗殺者とは真っ向勝負もまた常人を遥かに凌ぐ腕でこなせるのである。
知識でしかなかったこれらの事実をアズリアは無色の派閥に雇われた暗殺者集団「赤き手袋」との戦いの中で実感した。
だからこそ不意打ちを防ぎ暗殺者を闇から引きずり出しても剣姫に油断はしない。
「……」
敵を過小評価しなかったのはジャファルとて同じだ。
必殺だったはずの一撃を後出しの先制カウンターで防がれるのはさしもの彼も初の経験だった。
が、一度の奇襲の失敗で退く気は無い。
全く結果が得られなかったのなら話は別だが、ずれた斬撃は確かに深く左腕を抉った。
あれでは片腕で扱うには長すぎる槍は自由には振るえまい。
負傷した味方を庇う必要からもう一人の男も行動が制限される。
まだまだ戦況はジャファルに有利なのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
そう暗殺者が考えていた矢先、
無法松が最初に動いた。
その両の手を覆うは既に輝きを失ったかに見える壊れた武具。
松も当初はオディオが嫌がらせにガラクタを寄越したのかと思い装備していなかったくらいだ。
他に支給品が無かったとはいえ、今になって身につけたのはひとえに道中アズリアから聞いた話があってこそ。
――私の元・右腕の得物はその程度の傷で使い物にならないようなやわな物ではないさ
なるほど、その通りだと松は拳を握り実感する。
ナックルは外見に反し力を失ってはおらず、剣姫を傷付けた者を殴らせろと本来の持ち主の代わりに松を急き立てる。
ああ、いいぜ、やってやる。
昭和の男の前で女を傷つけやがった真っ黒野郎を許せないのは俺も同じだ!
松は力強く踏み込み蛮勇を振るう。
「イナズマアッパー!」
相手の顎下から拳を振り上げ、かち割るつもりで叩き込んだ一撃は空を切る。
松の動作から次に来る攻撃を読んだ暗殺者は、突き上げられるよりも早く自ら上後方へと跳んだのだ。
着地するのはひょろりと伸びる木の枝の上。
人一人乗せるには細すぎて今にも折れそうな枝をたわませもせずジャファルは弾丸となり再度地へと飛来する。
されど狙うは松にあらず。
一度目にそうしたように、またしてもアズリアへと高所から放たれた暗殺者の牙が襲い掛かる。
「やらせるかよっ!」
獲物に察知されずに行えた初弾とは違い、今回は既に手口は割れていた。
左腕の負傷で迎撃が僅かに遅れたアズリアを松が守りに割ってはいるのも分かっていれば不可能ではない。
問題ない。
もとより狙いは庇いに入ると踏んでいた男の方なのだから。
「……しっ!!」
「うお!?」
繰り出された右拳にジャファルは刃を持った右手と持たざる左掌を重ねるように突き出す。
半壊していても尚頑丈な手甲を軸に再跳躍。
跳び箱を軽く超えるように松の頭を超え、その際に頭部へとダガーを突き立てようとする。
「させない!」
失敗。
ジャファルは刃の行く先を変えて寸前のところで投擲されたロンギヌスを弾く。
本来なら重量級の槍を短刀如きで叩き落とすのは難しいことだが、片腕で投げられた勢いに乗っていない物が相手なら話は別だ。
とはいえダガーを防御に回したということは松への攻撃は中断されたのは事実。
「ヘビーブロウ!」
仕返しとばかりに松がジャファルを渾身のブローで殴りつける。
当たれば意識を飛ばされかねない必殺拳をまともに受けるわけにはいかず、ジャファルは横に跳んで避ける。
松は追撃を加えつつ足で地に転がったロンギヌスを助けられた礼と共にアズリアの方へと蹴飛ばす。
「へっ、悪いな」
「いや、元はといえば私が負傷したばかりに余計な世話をかけてしまっているんだ」
「なあに、気にするなって。昭和の男は女の前に出て守るもんさ」
体勢を整え切り込んでくるジャファルの刃から背のアズリアを護りつつ時が過ぎるにつれ松は内心焦りだす。
まずい、と。
ジャファルの刃は文字通り全てが必殺。
防御か回避が少しでも遅れれば即死だ。
今はなんとか急所に当てられないよう凌いではいるが、暗殺者は外した刃さえ即座に向きを変え次の必殺の為の布石として松の体力を削いでいく。
タフさには自信があるが、アズリアに向けられた分も身代わりとなって傷を負っている為、そう長くは耐えられまい。
対して松の反撃は当たれば重いのだがその殆どが木々を利用して縦横無尽に立体的に駆け巡るジャファルを捉えられずにいた。
全力で追えば何とか当てられるかもしれないが、そうすると間違いなく松が離れた隙に槍を存分に振るえなくなったアズリアが狩られる。
護るにしろ攻めるにしろ待っている未来は暗い。
そのどうにもしあぐねた状況に頭を悩ませる松に、アズリアが笑いかける。
「松、ここは一つ女を立てて欲しい」
アズリアは護られてばかりをよしとする女ではない。
振り向くまでも無く背中に投げかけられる視線に篭った意思を感じ松は頷く。
「わあったよ!」
取り回しの易さを活かしてラッシュを畳み掛けていたジャファルが蹴りのモーションを読んで後退。
松の狙い通りその隙に剣姫が大きく前に出る。
「うおおぉぉぉっ!!」
相手が回避に長けているというならばかわし切れない量の攻撃で畳み掛ければ良い。
イメージするは点ではなく面。
槍頭で壁を無しその一突き一突きに必殺の念を込める。
狙うは秘槍・紫電絶華。
取り戻しつつある実戦の勘と、眼に焼き付けたエルクの槍使い。
成功率はそれらを考慮しても五分五分だったが目の前の暗殺者を倒せる確率としてはこれ以上高い数値は無かった。
「秘槍――」
穴の開いた左腕も添え捩れても構わないとまでに引き絞る。
弓手が砕けようとも馬手の一撃が通ればいい。
異様な音を立て左手が悲鳴を上げる中、覚悟と共に突き出された槍は今までの最速をもって主に応える。
「紫電絶華あああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
それでも、秘槍は秘剣の域には届かなかった。
槍の乱舞を受け止めながらも一歩ずつ近づいていった魔人同様、死神もまたファランクスもかくやという刃の壁を前に平然と歩を進める。
オディのようにタフさに任せた進撃ではない。
迫り来る嵐の間隙を潜り抜けつつ毒蛇のようにアズリアへと這い寄っていく。
全身全霊を賭けた奥義であるが故に攻撃以外に一切の気を回せない剣姫を仕留める絶好のチャンス、暗殺者は防ぐよりも攻めることを選んだのだ。
だが、乱れ舞っていたのは槍の穂先だけではなかった。
刃を掻い潜り、アズリアにダガーを突きつけんとしたジャファルの前に立ち塞がったのは短剣よりも更に出が早い拳の弾幕。
「どおおおおりゃあああああああ!!」
人を人とも思わず命を奪い行く者たちへの怒りが込められた松の鉄拳の奔流にジャファルが押し出される。
紙一重で避けようとしたのが暗殺者に災いした。
怒涛の四連打が生じさせる拳圧は軽く大気を伝い暗殺者を打ち据える。
そして懐から押し出されたジャファルを待ち受けるは桜花絢爛、紫電の華々!
「ぐッ!?」
電光石火の一撃は今度こそ暗殺者を捉え穿っていく。
何発かはアサシンダガーで受け流したが、舞い散る紫電の華を防ぎきることはいかなジャファルといえど不可能だった。
「……く」
黒き衣服の三割以上を赤く染めたジャファルは苦々しげに口内に溜まった血を吐き出すと戦闘を放棄。
当初の俊敏さをいささか欠いたふらついた動きで北へと逃走を開始する。
それを黙って許す気は松には無かった。
「逃がすかよ!」
今回はたまたま狙われたのがアズリアだったからこそ、助かった。
最初の奇襲の標的が自分だったなら、情けない話だが心臓を一刺しされていたに違いない。
直接戦ったことでそのことを痛感した松は逃がすわけにはいかないとジャファルを追いかける。
ここで取り逃がして新たな犠牲者が出るなんて冗談ではない。
「あ、が、は……」
アズリアも想いは同じだが、僅かに松に出遅れる。
無茶をしたせいで完全にいかれてしまった左腕がもたらす痛みに蹲ってしまったのだ。
抑えたつもりだった呻き声を聞きとめ、前を走る松が足を緩めかける。
乱暴でこっちを振り回すようでいて、こういう細かいことには気が周るんだなとアズリアは苦笑しつつ、発破をかける。
「私は大丈夫だ。それよりも奴を! この近くにいるかもしれないエルクも危ないんだ!」
「おうよ!」
気持ちいい返事と共に、止まりかけていた松の足に再び力が戻る。
少なくともアズリアと暗殺者の距離は大きく開いた。
この距離では一駆けで傷ついたアズリアを襲うことは無理だ。
むしろ下手にペースに合わせたほうが、やぶれかぶれになった暗殺者の反撃にアズリアを巻き込みかねない。
だったらと松はジャファルを追ってぶん殴ることだけを考える。
▽
もしもこの時。
松がアズリアの治療を優先しジャファルを追うことを後回しにしていれば。
これから先の展開は変わっていたかもしれない。
しかし現実には松はジャファルを追い、まんまと誘い出されてしまった。
先の3人の戦いに一切影も形も見せなかった暗殺者の同行者が待ち受ける場へと。
▽
いくら優れたポテンシャルを持つ肉体を模そうとも、
シンシアには素人故の弱さが付き纏う。
場数を踏んでいないことによる瞬時の判断力の欠如、技術・経験の不足によりどうしてもモシャスをしたオリジナルよりも戦力的に劣ること。
何よりもジャファルにとって痛かったのはシンシアが気配を殆ど消すことができないことだ。
これではジャファルがどれだけ上手く気配を消して隠れていようとも、この会場で初めて戦った同業者級の相手には見破られる可能性が跳ね上がってしまう。
だったらわざわざ連れ歩く必要は無い。
ジャファルは発想を逆転させ、シンシアを補助・支援役へと徹しさせた。
司祭達が距離をおいて魔法を唱えるものであった世界出身だからこその発想である。
僧侶も前線で連れ立って戦う傾向のあったシンシアは面をくらったが、危険な戦いを全てジャファルが受け持ってくれるのはありがたく快諾した。
すぐ隣で監視されない時間ができるのも、いずれはジャファルを蹴落とす気であるシンシアには好都合だ。
ジャファルも少女のそんな企みくらいお見通しだが、少なくとも生存者が多い現段階ではシンシアが裏切ることはないと踏んでいる。
たとえ裏切られたとしても殺されるつもりはさらさら無いが。
ともあれ二人の思惑が一致したこの作戦は、事実有効だった。
ジャファルが紫電絶華を耐え切っのは
フロリーナの支給品だった黒装束を身に纏っていたことに加えプロテスをかけられていた点にもある。
また、シンシアと合流しさえすれば、彼が受けたダメージも回復魔法によりいくらか軽減できる。
加えてもう一つ。
ジャファルはシンシアに大きな役目を与えていた。
それはジャファルが仕留め損なった時を想定しての固定砲台としての役目!
一際高い木の上にて合図を待ち構えていたシンシアは森の北側から打ち合わせどおり刀身により反射された太陽光の光を目にし、隠れ蓑を翻し姿を現す。
標的の姿は未だに見えてはいないが構わない。
敵が来る位置が分かっているのだから呪文を唱えだしておいてもなんら問題は無い。
シンシアが紡ぎ出すは最高位の超広域殲滅魔法――メテオ。
魔法が得意とは言いがたいエドガーの魔力をしても魔法抵抗力の無い相手を一掃するには十分な威力を誇るそれ。
ジャファルの相手をして疲弊しているだろう相手にはオーバーキルとさえ思える力を感じシンシアはほくそ笑む。
展開する魔方陣、歪む次元、繋がるは宇宙。
さあ来たれよ、蹂躙の使途達よ!
シンシアの視界にジャファルが現れ、準備が整っていると確認するや否やそれまでの弱ったふりを止め、全速で前へと離脱。
その急な挙動の変化に松がようやく疑問に思うももう遅い。
シンシアの気配に気付いた時には終わっている。
これはそういう作戦なのだから。
「メテオ」
魔方陣が消え、代わりに現れるは数多の隕石群。
膨大な熱を帯びた大質量の物体が松へと降り注ぐ。
「おいおい、嘘だろ?」
隕石が目前へと迫っている中、現実離れした光景に呆然と言葉を漏らし立ちすくむ松。
なまじ科学が発展しだした近未来に生きていただけに、彼は初めて目にする大魔法の壮絶さに一瞬だが飲み込まれてしまった。
その一瞬を突かれ、無防備を晒していた松は背後から強い力で殴られ押し倒される。
暗殺者が戻ってきたのかと地に伏せたまま振り向いてみれば、そこにいたのは追いついてきた
アズリア・レヴィノス。
メテオを一種の召喚術と認識した彼女は予想しうる威力に青ざめつつも、冷静に手をうった。
あれだけの範囲で展開され、間近にまで来ている巨石からは今から走って逃げたところで間に合うまい。
かといって直撃軌道の隕石を払い落とそうにも完璧にいかれた左腕では頼みの綱の秘槍は使えない。
よって彼女が選んだ道は一つ。己が身を盾にしてでも誰かを守ること。
「おい、前をどけ! 昭和の男が女に庇われるなんざダサいにも程があるだろ!」
「そうか、それはすまなかったな。けどな」
腕一本ではろくに扱えない聖槍で松のマフラーを地面に縫いたて、アズリアが手に取ったのは聖なる剣。
あいも変わらず剣姫を担い手として認めていない剣は腕一本で持つには重過ぎるものだったが、盾として使うには問題ない。
アガートラームを地に突き立て、後ろから右掌を当て倒れないように支える。
「私はどうやら芯の底から軍人に染まっていたみたいだ」
抗議の声に悲しそうな、それでいて誇らしげな笑みで返し、
「女を護るのが男の役目なら。民間人を護るのは軍人として当然の責務だ!!」
アズリアはスカートを破ることなく、積み重ねてきたあらゆる思い出を背負ったままかってあるべしと望んだ姿に立ち返る。
戦う術を持たぬ者に代わって、理不尽な暴虐へと立ち向かう軍人に。
護るべきものが力を持っていたとしても、それでも生きていて欲しいと思ったのなら迷うことなく身を挺してでも護る剣姫に。
「お前もいわれのある剣の類なら……」
――私も元・軍人ならば……
「人一人くらい護ってみせろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ありったけの想いをぶつけてくるアズリアにもアガートラームは応えなかった。
それでも紫電の剣姫は降り注ぐメテオを一身に受ける中、決して剣を離そうとはしなかった。
隕石雨が止んだ時、そこには誰一人立っている人間はいなかった。
襲撃者二人は初めて使う禁忌クラスの魔法に万一巻き込まれないようにと警戒し、発動と共に場を離れた。
最後の最後で軍人へと戻ってしまった女性は見るも無残な血と肉片の塊と化した。
聖剣を盾にしたことで直接隕石群に抉られることは無かったものの、受け止めるには余りにも重過ぎる質量に押しつぶされてしまったのだ。
そんな彼女が守ろうとした無法松はメテオの着弾の衝撃で発生したクレーターの底、粉々に割れたピンクの貝殻を前に項垂れ、地面に拳を叩きつる。
「これだから軍人は嫌いなんだ。あいつといいアズリアといい頑固すぎんだろぉぉぉ」
地面に突き立ったままの聖剣だけが憎たらしいほど無傷で輝いていた。
【アズリア@サモンナイト3 死亡】
【残り34人】
【B-7クレーター 一日目 昼】
【無法松@
LIVE A LIVE】
[状態]ダメージ(中)、全身に浅い切り傷、やるせない思い
[装備]壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
[思考]
基本:打倒オディオ
1:エルクに追いついて協力する。暗殺者とその協力者(ジャファル、シンシア)も追う?
2:アキラ・ティナの仲間・
ビクトールの仲間・
トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。
3:第三回放送の頃に、ビクトールと合流するためA-07座礁船まで戻る。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナ、ビクトール、トッシュ、アズリアの仲間について把握。ケフカ、
ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
ジョウイを警戒すべきと考えています。
【B-7 一日目 昼】
【ジャファル@
ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:ダメージ(中)打撲と刺し傷多々
[装備]:アサシンダガー@FFVI、黒装束@
アークザラッドⅡ
[道具]:不明支給品1~2アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
0:まずはシンシアに回復させる
1:シンシアと手を組み(前線担当)、参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
2:いずれシンシアも殺す。
3:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]:
※名簿確認済み。
※ニノ支援A時点から参戦
【シンシア@ドラゴンクエストIV】
[状態]:モシャスにより外見と身体能力がエドガーと同じ
肩口に浅い切り傷。 魔力残量少
[装備]:影縫い@FFVI、ミラクルシューズ@FFIV
[道具]:
ドッペル君@クロノトリガー、かくれみの@LIVEALIVE、基本支給品一式*3 デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
[思考]
基本:ユーリル(DQ4勇者)、もしくは自身の優勝を目指す。
1:ユーリル(DQ4勇者)を探し、守る。
2:ジャファルと手を組み(支援、固定砲台、後始末担当)、ユーリル(DQ4勇者)を殺しうる力を持つもの優先に殺す
3:利用価値がなくなった場合、できるだけ消耗なくジャファルを殺す。
4:ユーリル(DQ4勇者)と残り二人になった場合、自殺。
[備考]:
※名簿を確認していませんが、ユーリル(DQ4勇者)をOPで確認しています
※参戦時期は五章で主人公をかばい死亡した直後
※モシャスの効果時間は四時間程度、どの程度離れた相手を対象に出来るかは不明。
▽
隕石の大群に打ちひしがれ、押しつぶされる中、アズリアは三つのことを想った。
一つ目は迎えに行けないままだった弟への謝罪。
二つ目はライバルでもあり友でもあった女性への頼みごと。
三つ目は炎の青年が無事であって欲しいという祈り。
アズリアは知らない。
この地にいる友と弟が、それぞれ彼女が生き抜いた世界とは別の道を辿った、或いは辿るであろう世界から呼び出されていたことに。
要するに、本当の意味でのこのアズリアの弟は殺し合いに巻き込まれることも無く、優しい先生と共に今この時も日々を過ごしているのだ。
もう二度と帰ることの無い姉をずっと、ずっと待ち続けながら。
それがアズリアにとって幸運なことか不幸なことかは彼女が死んだ今、誰にも分からない。
では、残る三つ目の願いはどうだろうか?
▽
エルクは幸運だった。
度重なる戦いでピサロは全身に傷を負い、魔力もまた底が見え始めていた。
息切れ寸前まで肺と手足を行使していたエルクに比しても体調は目に見えて悪い。
ピサロを倒すのは今この時をおいて他にはないかもしれない。
けれども同時にエルクはどこまでも運が無かった。
それだけの好条件であって尚、エルクの剣は一太刀とて届かず、炎さえ霧散するがままだった。
無造作に振り上げられたヴァイオレイターに炎の剣の刀身を弾かれ、エルクがたたらを踏む。
そこに叩き込まれるピサロの回し蹴り。
剣を跳ね上げられガードが開いたエルクは受け止めることかなわず、突き刺さった爪先に内臓を揺さぶられる。
「くっ……! うっ! まだだ、怒りの炎よ、敵を焼き払え!!」
大気が爆ぜ、赤く染まり猛り狂う。
爆発の意そのままの紅蓮の炎がピサロへと吹きすさぶ。
数刻も経たずして自らを焼くであろう炎にしかし、
「随分とちっぽけな怒りだな、笑わせる」
言葉通り冷笑さえ浮かべてピサロは呪文を紡ぐ。
マヒャド。
魔王の口にする言葉はただの一言でさえ確たる力を持つ。
次の瞬間には破裂するはずだった炎の渦は凍える吹雪に飲み込まれエネルギーを失っていた。
「くそっ、くそっ!」
軽く攻撃をいなされたことにエルクは苛立ちを隠せない。
今の一幕だけでない。
戦いが始まって以来いくつも試みた攻撃は同様にかすりさえしていない。
明らかに手を抜いている相手に対してだ。
事実、エルクが未だに息をしているのも、ピサロが魔法を控えているからに過ぎない。
ただでさえ少ない残りの魔力の温存と名簿を巻き込み消滅させてしまわないようにと考慮しているのだ。
油断とも慢心とも取れるスタンスだが、二人の間に圧倒的な実力差があるのは事実。
ここにいたのが闇黒の支配者を打倒した未来のエルクならば。
いや、そこまでいかずとも炎の精霊から真相を聞き、ガルアーノと決着をつけ、アークに対する確執を捨て去った一皮剥けた後だったのなら。
勝負は違った展開を見せていたであろうに。
「どうした、その程度か、貴様の怒りとやらは?」
エルクを見下ろす魔王の目は冷ややかだ。
煩い羽虫をめんどくさげに手で払っている。
そんな印象さえ受けたエルクは無力感を募らせていく。
またか、また俺は何も守れないのか?
ミリルも、リーザも守れず、人殺しを止めることもできないまま終わるのか?
御免だった。
守れないことも、止められないことも、逃げることももう沢山だった。
燃え滾る想いを胸に、エルクは勝ち目が薄いと分かっていながらも退くことをよしとせず大勝負に出る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
選んだのは一発逆転の特攻。
何もやぶれかぶれになったのではない。
ピサロはこれまでの戦いで満身創痍なのはエルクからも見て取れた。
加えて数度にわたり炎の剣を受け流したヨシユキの刀身もまた熱により脆くなっている。
渾身の力を込めた炎の剣の一振りならヨシユキによるガードごとピサロを両断できる。
地力に確固たる差がある現状、エルクが思いつく限りピサロに勝つにはこの手しかなかった。
「うっとおしい、そろそろ死ね」
エルクの剣が届くよりも早く、ピサロの剣が振り下ろされる。
これまでの打ち合いから剣の技量が劣っていることが身に染みていたエルクはこうなることも想定済みだ。
「そんなに名簿が欲しいのなら、くれてやる!!」
顔面に向けて飛来するデイパックにピサロの気が僅かだが逸れる。
蓋の開いた口からは視界を覆う形で中身が飛び出し、鬱陶しいことこの上なかった。
かといって名簿混じりの荷物群を魔法で一掃するわけにもいかず。
ピサロは無駄な回避行動を取るしかなくエルクに一つの呪文を唱える間を与えてしまった。
インビシブル。
其は炎の近づくもの全てを焼き尽くし拒絶する側面を形にした精霊魔法。
ありとあらゆる災厄を無効化する無敵の盾。
一滴残さず魔力を費やした無敵の盾に阻まれ、エルクを両断しようとしていたヨシユキが――止まらなかった。
「え?」
無敵なはずの盾は無残にも剥がれ落ちていた。
魔王から迸った波動が精霊の加護を凍てつかせ無に帰したのだ。
「!?」
「……終わりだ」
動揺し剣先を鈍らせた神の名も冠さないハンターを魔王が切り捨てるのはいとも容易いことだった。
どすりと鈍い音を立て、上下に寸断されたエルクの身体が地に落ちる。
その様を見届けもせず、ピサロは散らばったエルクの荷物の方へと向かう。
風体も気にせずピサロは膝をつき一心不乱に名簿を探す。
笑い種だ。
魔王デスピサロともあろうものが勇者一味にたぶらかされ、たかが紙切れ一枚を求めてかように無様な姿を晒しているのだから。
心の中で自らをそう嘲笑いながらもピサロはランタンや地図をどける手を止めようとはしなかった。
そんなピサロを嘲笑うかのように。
ようやっとの想いで拾い上げ目を通そうとした名簿はそこに記載された名前を伝える前に灰となって大気に消えた。
「な、に?」
炎。
そう、炎だ。
炎と呼ぶのも憚られる火の粉が飛んできて名簿を裾から燃やしたのだ。
誰がやったのかは問うまでもない。
「へっ、ざまあみろ……」
ピサロの事情を露とも知らず。
文字通り死力を尽くして一矢報いたエルクは地べたに転がるがまま笑っていた。
「きさまああああああああああああ!」
魔力の消耗を抑えることも忘れ、死に体の相手にピサロは怒りのままに地獄の雷を迸らせる。
防ぐ手立てがあるはずもなく黒き極光に蝕まれる中エルクの脳裏をいくつもの情景が浮かんでは消えていく。
ピュルカ村が襲われるまでの両親達との平和な日々。
白い家でジーンやミリルと交わした約束。
シュウに拾われハンターとして生きてきたかいくぐって来た数々の依頼。
リーザと互いの過去を語り合ったヤゴス島での夜。
走馬灯の端々に現れる大切な人たちにエルクは謝っていく。
すまねえ、ごめんなと。
結局アークやガルアーノ、リーザの敵と誰一人討てなかったのが悔しかった。
「ちくしょう……」
これだけは離すもんかと炎の剣を手にしたまま、涙さえ流す間もなくエルクは炭化し崩れ去る。
最後に浮かんだのは置いてきてしまった知り合ったばかりの誰かの顔だった。
【エルク@アークザラッドⅡ 死亡】
【残り33人】
【B-6 森林 一日目 昼】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。激怒
疲労(大)人間に対する憎悪、自身に対する苛立ち
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:不明支給品0~1個(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:
ロザリーの捜索。
2:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※名簿は確認していません。ロザリーが生きている可能性を認識しました。
※参戦時期は5章最終決戦直後
※エルクの死体と炎の剣@アークザラッドⅡは消滅しました。
※データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION 、
オディ・オブライトの不明支給品0~1個(確認済み)、
基本支給品一式(名簿焼失)がピサロのそばに転がっています。
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最終更新:2017年05月05日 01:37