Mr. & Miss. Mysterious ◆wlyXYPQOyA
今までずっと物真似をして生きてきた。
そして、これからも。
◇ ◇ ◇
白と青を基調とした服を着た少女が、風も通らぬ鬱蒼とした木々の間をがさがさと歩く。
彼女の名は
ビッキー。瞬きの紋章をその身に宿した、宿星の一人に数えられる少女である。
他の人間と同じようにオディオの手によって乱雑なテレポートの対象になった彼女は
地図では「E-9」と記されている、割と深い森の中へと降り立ったのであった。
「ここ、どこなんだろー」
しかしそのことには彼女は気付かなかったらしい。
「一体ここはどこなのか」という、調べれば一発で解るであろう疑問を呟いている。
「あ、そういえば地図が入ってるって言ってたような……」
ここで彼女は、地図が自分の持っている袋の中に入っていることをようやく思い出した。
袋へと手を突っ込み、ごそごそとまさぐる。たっぷり時間をかけて地図を取り出すと、それを乱雑に開いた。
予想よりも多少大きかったそれを見ると、一つの大きな島が描かれている。
平地、森、山、そしていくつかの建物。それらの表記と地図自体の大きさの所為か、島の面積がとても広く感じられた。
だが地図は地図、しっかり確認すれば問題は無いはずである。ビッキーは指で地図の隅々までなぞって眺め始めた。
周りの景色を見渡し、そして視線を地図に戻す。景色を見て、地図を見る。それを何度も何度も繰り返す。
――そしてそんな行動を数十回繰り返す内に、ビッキーははっとした様に顔を上げた。
何か閃いたような顔……いや、違う。これは何かに気付いた表情だ。
そう、つまり彼女は地図のおかげで現在位置の特定が――――
「んー……うん、わかった! ここは森!」
――――出来なかったらしい。
◇ ◇ ◇
地図を確認する。見ればここはE-9という場所らしい。
月明かりに照らされた景色を見れば納得出来る。道理でここは花が咲き乱れているはずだ。
地形が地図に記載されている通りになっているということは、この地図は信用に値するだろう。
あくまでも魔王オディオと名乗ったあの男は、我々に滞りなく殺し合いを進めてもらいたいらしい。
なるほど、よくわかった。
◇ ◇ ◇
がさりがさりと、ビッキーは植物を掻き分けながら進んでいく。
意味もなく、目的もなく、ただただ本能に従って。
その足取りは何の戸惑いもない。殺し合いの舞台である、という事にも無関心な如き歩みだ。
彼女には恐怖心というものがないのだろうか。もしくは賢者の如く悟りを開いたのだろうか。
「でもわたし、なんでここにいるんだっけ……」
否。ただ単純に、自分が何を強制されていたのか忘れていただけらしい。
ここにまともな人間がいれば突込みが入るであろう言葉を最後に、ビッキーは突如足を止めた。
そして顎に手を当て、黙りこくり――ここまでの状況を思い出し始めた。
そうだ、確かいつの間にか奇妙な部屋に飛ばされて、魔王と名乗る人物が現れたのだ。
そして殺し合いをしろと言われて、反抗した人がいたんだった。
それからその反抗した人達の首輪が爆発して、首が…………。
「……そうだ、確か殺しあえって言われ――殺し合い!?」
遂に自分が何の為にここにいるのかを思い出したらしい。
自分をこの地に飛ばした、魔王と名乗った男の言葉を今更反芻する。
「殺し合い……殺し合い……」と、ビッキーは繰り返し呟く。
顔は青ざめ、足が徐々に震え出す。事の重大さに気付いた証だ。
単語一つ一つに世界全ての存在への恨みを混めたかのような魔王の言葉を思い出す。
「殺し合い」という絶望の言葉と鮮明に思い出した首輪の力のおかげで、恐怖が順調に口を開けていた。
「うう……どうしよお……」
だがビッキーは「自分がどうするべきなのか」という答えにはたどり着けなかった。
突然殺し合いをしろといわれても、納得がいくはずがない。
自分は確かに戦争の際には反乱軍等に加担していたが
別に人を殺したくてたまらなかったから仲間になったというわけでは決してない。
むしろ人を殺すなんて出来る限りはあってはならないことだと考えている。
「で、でもわたし以外の人は……」
だが、そう考えているのは自分だけかもしれない。
共に戦った仲間達なら、信用は出来る。皆は殺し合いに乗るなんていうことはしないだろう。
だが問題は、あの部屋には自分には見覚えのない人間が沢山揃っていたことだ。
名も顔も正確も知らぬ誰かさん。それが星の数ほど――は言いすぎだが、沢山。
もしかしたらこの状況で嬉々として他の人間を殺し始めるかもしれない。
「皆に会いたい……」
自分への重圧と、徐々に込み上げる恐怖が体を蝕んでいく。
恐怖を紛らわせる為に言葉を呟いてみるも意味はなかった。
だがしかし、今何をすればいいかわからない――だから。
「とりあえず、どこか行こ……」
だから、まずは自分の足で歩く事にした。
森の中から再び音が生まれる。がさり、がさり。少女の歩く音が鳴り始める。
とにかくこの光すら射さない暗い森から出ることにしよう。
そうすればきっと、この気分も晴れるはずだ。ビッキーはそう信じる事にした。
◇ ◇ ◇
俺の足元の花々は何も言わずそこに在り続けている。
擬音も作れぬ程、ただただじっと動かない。
――そういえば、あの「魔王」が呼び寄せた者たちの中には俺の仲間がいたな。
ティナ、エドガー、マッシュ、
シャドウ、セッツァー。あとついでにケフカ。
最後に仲間では無い危険人物が含まれていた事もあって多少は気になる。
だがここで気に病んでも仕方がないことは理解している、何も問題はない。
相変わらず花々は何にも動じていないように、そこにある。
決めた。手持ち無沙汰なのもある。まずはこいつらの物真似をすることにしよう。
誰かが来るまで、何にも動じずにじっと在り続けよう。
◇ ◇ ◇
「わぁ……きれい……」
延々と森の中を歩く続けていたビッキーは、突如感嘆の意を口にした。
目の前に広がるのは、色とりどりの美しい花。まさに彼女好みの平和な光景だった。
鬱蒼と茂っていた森の中は同じ景色ばかりだったが、ここは言うなればオアシスでパラダイス。
月明かりに照らされて美しくコーディネイトされた自然の風景が、視界の全てを覆い尽くす。
そのおかげで、色々なことを考えすぎて気が滅入っていた彼女はどうにか持ち直したらしい。
先程までの暗い表情が嘘だったかのように、今は清々しい位の笑顔を浮かべている。
「すごーい!
ナナミちゃん達にも見せてあげたいなー」
世界中の全ての色が揃っているかのような景色に、ビッキーは興奮する。
再び自分が何の為にここにいるのかを忘れ、花園へとダイブした。
本来、彼女は多少大人しめな性格なのでこの様な行動は珍しいのだが
やはり気が滅入っていた反動なのだろう。全てを忘れようとするかのようにはしゃぎ回っていた。
「あれ?」
ふと、顔を上げる。よく見てみれば、少し離れた先にぽつんと人が立っていた。
先客だったのだろうか。見てみる限り何もしていない。その誰かさんはじっと立っている。
誰だろう。まさか自分を殺すチャンスをうかがっているんだろうか。だがそれにしてもおかしい。
相手は何もしていない。どこに動こうともしていない。まるで植物のようだ。
怪しい。けれど、襲い掛かってきているわけじゃない。こちらの様子を伺って来ているのかも。
いや、しかしそれにしたって……いや、だが――――と、考えるうちにビッキーの頭はこんがらがってきた。
よし、とりあえず話しかけてみよう。結局そんな結論に達した彼女は、うつ伏せになっていた体勢から立ち上がった。
咲き乱れる花の道路を歩いていく。不安と期待の板ばさみになりながら、ビッキーは謎の人物の目の前に到着した。
お互いの足元では、花々が自分達の事を見守っているかのように咲いている。
「ふ、不思議な服……ですね」
ビッキーは何の躊躇いもなく話しかけた。
「不思議な服だな」
すぐに答えは返ってきた。その声に敵意はない。
目の前の人は自分を怪しんでないんだな、とビッキーはなんとなく理解した。
研ぎ澄ましているつもりだった警戒心が急速に薄れる。これは勘だ。だが信じるに値する気がする。
しかし見れば見るほど不思議だ。鸚鵡返しな答えもそうだが、様々な部分で奇妙さが伺える。
まず服装からしてなんとも言えない。奇抜な色をした布を何枚にも重ね着したような奇抜なデザインだ。
頭は目以外を隠す被り物で包まれており、髪型はおろか表情も判断しづらい。
両目と眉間には赤い線のメイク。服装の所為で見た目だけでは性別も解らない。
「俺は物真似師ゴゴ。今まで物真似をして生きてきた」
と、ここで今度はビッキーからではなく向こうから話しかけてきた。
どうやらゴゴという名前らしい。物真似師、という言葉はよくわからない。
自分のことを「俺」と言っているのに、その声からもゴゴが男なのか女なのかを察する事は出来なかった。
本当に不思議な人間――いや、それ以前にこんな服装と第一印象では「人間なのかどうか」すらもわからない。
性別も種族も不明。身に纏うものや紡ぐ言葉は奇妙。ゴゴの全ては不思議尽くしだ。
――だが、ビッキーにとってはそんなことはどうでも良い。障害にはならない。
「物真似師……? じゃあ、今は何してたの?」
臆せず、というより臆すという発想も浮かべずにゴゴに質問をするビッキー。
「今はこの一帯に咲く花の物真似をしていた」
そしてそれに対し、ゴゴはすぐさま答える。
やはりその声に敵意はない。ついでにやっぱり性別や種族もわからない。
だがここでビッキーは遂にゴゴを怪しむのを完全にやめ、一切の怪訝も浮かべずにゴゴの姿を眺めていた。
ゴゴはビッキーのその行動に嫌悪感は抱いていないらしい。嫌がるそぶりも見せない。
「……お前は今、何をしているのだ?」
それどころか、ゴゴは遂に質問を向けてきたのだ。
ただの雑談ではない、突然の質問。だがビッキーは怪しむ事もせずに、素直に答えを考え始めた。
そういえば自分は、ここで何をすればいいのかわからず――その勢いでここに来たのではなかったか。
「今、何をしているのか」という質問は、ちょっと難しい。ビッキーは悩みに悩む。
友達を探している? どこかに向かっている? 誰かを殺そうとしている?
どれも違う。どれも正しくない。「自分は今こんなことをしています」という答えには相応しくない。
だが、そこまで考えて彼女はふと気付き――答えが閃いた。
「"今"なら……ゴゴさんとお友達になりたいな、って思ってるよ」
そう、彼女は「まさに今」考えていることを口にした。
別に「今さっきまで何をしていたのか」だとか「ずっと何をしているのか」まで答える必要はない、と踏んだのだ。
だから「今はゴゴと友達になりたいと思っている自分」を答えにした。
相手に興味を持ち、繋がりを持ちたいと考えた彼女自身の考えは本物なのだ。
ゴゴはそんな彼女の答えに「そうか」と呟く。そして一寸何かを考えるような仕草をする。
「では、俺はお前の物真似をすることにしよう。お前の名は?」
そしてゴゴは突然、こんな突拍子のない宣言をした。ビッキーは「私の、物真似?」と驚いたように呟く。
それから数秒の時を置いて、自分がやっと名前を尋ねられていることに気がついた。
更にそこで自分が相手に名を名乗っていないことを連鎖的に思い出す。相変わらずのド天然だ。
「わたしはビッキー。あ、私ね、紋章の力で人を色んな所に移動させられるの。えへへ、凄いでしょー」
名前ついでに聞かれてもいないことをペラペラと喋り出すビッキー。
これも肩の荷が下りた反動だろうか。先程までの警戒心も消えうせ、喋り捲る。
殺し合いという状況で孤独だった事の反動でもあるのかもしれない。
だがゴゴはそれに文句一つ言わずに耳を傾けている様だ。
「それにこう見えてもわたしは戦えるのよ! 赤月帝国とか、ハイランドってところとも……」
「へー! ビッキーちゃんって凄いんだあ!」
「……え?」
ビッキーは興奮しながら自慢げに話を進めていた。が、突然動きが止まる。
今ゴゴが何かを言ったような気がする。いや、ゴゴではない誰かが。今の声は? 一体?
色々な疑問を浮かべ、その末に「はて、一体何が起こったのだろうか」と頭に「?」なマークを浮かべるビッキー。
「ビッキーちゃん、どうしたの? あ、見るの初めてだから混乱してるの?」
悩みに悩んでいると、ゴゴが再び「ビッキーの声色を使って話しかけた」。
だがそのはっきりとした相手の行動も、今の状況では理解出来ず体が固まる。
相手は先程まで違う声で話していたというのに、突如声が変化したのだ。当然の反応だろう。
数秒置いてやっと「え? え、今? 私?」と文章の体系を成さない言葉をゴゴにぶつける事が出来た。
「えへへ、凄い? 今わたしはビッキーちゃんの物真似をしてるの!」
「え、ええええ!? ご、ごごごゴゴごごさん!? の声!?」
「物真似師だって言ったでしょ? そんなに驚かれるとは思わなかったなあ」
ビッキーの心臓は大きな音をたてて動き始めた。
整理すればつまり、今自分の声が自分からだけではなく相手からも聞こえてくる。
その理由は「ゴゴが物真似をしているから」というシンプルかつとんでもないもの。
物真似師というのはここまで凄いのか。これが物真似の力なのか。
「でもそっかぁ、ビッキーちゃんの周りには物真似師なんていないもんね」
相変わらずビッキーの声で話し始めるゴゴは、遂にその挙動や雰囲気までも真似をし始めた。
ゴゴの奇抜な服装や身の丈以外がビッキーそのものになる。今相手が服さえ着替えればほぼビッキーだ。
あまりにも素っ頓狂で、あまりにも酔狂。そしてあまりにも完成度が高すぎる特技には驚くばかりだ。
「す、す……凄い! 凄いよゴゴさん、私感激しちゃった!」
遂にビッキーは、まさに飛びつかんという勢いでゴゴを褒め称え始めた。
心の底から本当に感動したらしく笑顔で拍手を送っている。
まさにスタンディングオベーション。感動のあまり、完全に現状を忘れているらしい。
だが同時に、今のビッキーの表情からは先刻まで抱いていた不安は一掃されていた。
ゴゴ、大手柄。
◇ ◇ ◇
早速物真似が喜ばれたらしい。敵意を抱かれなかったのは何よりだ。
俺は物真似師ゴゴ。今まで物真似をして生きてきた。
だから今もこうして彼女の物真似をしている。
俺は自分の意思で行う純粋な殺し合いには興味は無い。
俺は物真似師だ。物真似にしか興味は無い。
始めから物真似以外の事をするつもりは毛頭無いのだ。
故に、これからが楽しみだ。
魔王とやらが呼んだ者達の数は自分の予想以上に多かった。
見渡すばかり人。最初に自分達がいた謎の空間はこう表現するのが正しいほどであった。
それが今、この謎の地で散り散りになっているのだ。いつ新たな人物に出会ってもおかしくは無い。
本当に楽しみだ。俺はこれからどんな人物と出会っていくのだろうか。
陽気な者、暗い者、狂ったもの、正義感溢れるもの、殺し合いに乗ったもの――色々な者に会うはずだ。
それを証明するかのように、俺は早速ビッキーという少女と出会った。早速繋がりが出来た。
実に面白い。何故なら人と出会い、真似する事こそが物真似師の最大の喜びなのだから。
だから俺はこの世界では物真似しかしない。この先出会うであろう数々の者達の物真似をするだけだ。
まずは手始めにビッキーの物真似をしているが、俺はこれで満足はしないし、まず出来ない。
これから先新たな仲間にでも出会ったなら、今度はそいつの真似をしてみるのも良いだろう。
もしも彼女と別れることになったなら、次はまた別の者に出会って物真似をするのも悪くない。
いつか徒党を組む事になって大勢になった仲間達の物真似をし尽くすというのも良い、夢が広がる。
これからどんなスタンスの人間に会おうが、物真似師である俺は誰かの物真似をするのみだ。
俺が誰の物真似をするかは俺自身が決める。
つまり、俺がどう生きていくかは俺が決めるという事だ。
魔王オディオとやらに行動を縛って貰うつもりは無いのだから。
結局のところ、環境が変わろうが俺に出来る事は物真似しかないのだ。
逆にいくら環境が変わろうとも、俺には物真似が出来る。
俺は俺の出来る事をするだけ。俺は物真似でこの世界を渡り歩く。
数々の出会いと別れの中で、俺は物真似をし尽くしてみせる。
【E-9 花園 一日目 深夜】
【ビッキー@幻想水滸伝2】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:不明支給品1~3個(未確認)、基本支給品一式
[思考]
基本:決めてない。どうしよう。
1:ゴゴとお友達になりたい。
[備考]
参戦時期は後続にお任せします。
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:ビッキーの物真似中、健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1~3個(未確認)、基本支給品一式
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:まずはビッキーの物真似をする。
[備考]
参戦時期はパーティメンバー加入後です。詳細はお任せします。
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最終更新:2010年06月19日 04:15