第三回定時放送 ◆xFiaj.i0ME



「……時間だ。
 手を止めろ、などと言う意思も理由も無い。 せいぜい聞き逃さぬように注意することだ。

 禁止エリアは
 19:00からC-5 と I-6
 21:00からE-1 と H-2
 23:00からD-10 と G-7


 以上の7名が、新たに死者の列に加わった。
 速度が落ちた、などと無粋な事をいう必要は無いな。 何しろこれで死者は半数を超えたのだから。
 もう半数とするか、まだ半数と取るか、いずれにせよ半分を過ぎた。 残された者たちはせいぜい奮起するがいい」




事ここに至って、余計な事柄を述べる必要は無い。
遠くから響くのみの言葉など無くとも、今彼らを包む世界は雄弁に主張を続けている。
短く、事実のみを告げた。
……だが、それだけか?


「らしくもない……」

玉座の端を握る手の力が、僅かに強い。
僅かに感じるのは苛立ちか、それとも怒りか。

――私の声が、届いていますか?
――届いているのなら、お願いです。どうか、耳を傾けてください。
――私の名は、ロザリー。魔王オディオによって、殺し合いをさせられている者の一人です。
――それでも、私は魔王の思惑に乗るつもりはありません。何があろうとも、傷つけ殺し合うなどと、あってはならないのです。
――私はかつて、この身に死を刻まれました。そのときの痛みと苦しみは、忘れられません。
――ですが、身に付けられた痛みよりも、迫りくる死の恐怖よりも辛い苦痛を、私は知っています
――何より辛かったのは、私の死をきっかけに、私の大切な方が、悲しみと憎しみに囚われてしまったことです。
――愛しいその方は私を殺めた人物だけでなく、人間という種族を滅ぼそうとしてしまいました。
――その方を陥れようとした悪意によって企てられた、謀略であったことに気づかずに。 
――勇者様とそのお仲間のおかげで、私は再び生を受け、あの方を止めることができました。
――そんな経験を経て、私は、改めて実感したのです。
――命を奪う行為は悲しみを生み憎しみを育ててしまいます。悲しみと憎しみはまた別の悲しみと憎しみへと続いてしまいます。
――大切な人が亡くなり、悲しみに暮れている方もいらっしゃるでしょう。仇を討とうと、憎しみを抱いている方も少なくはないかもしれません。
――どうか、その大切な人のことを思い出してください。その人が、貴方のそんな姿を望んでいるはずがありません。
――殺し合いに乗ってしまった方々、少しだけでも考えてみてください。
――大切な人の死によって生まれる悲しみを、痛みを、苦しみを。
――憎しみを抱き刃を向けるのは止めにしましょう。憎しみは目を曇らせ、刃は取り合うべきを切り落とします。
――互いに傷つけ合い殺し合うのは止めにしましょう。私たちは、必ず手を取り合えるはずです。
――私は今、生きています。それは、たくさんの強く優しい方々に出会い、手を取り合えた証です。
――オディオに屈さず、未来のために手を取り合える強さを、私は信じています。
――憎しみに流されず、悲しみ囚われず、互いに理解する心を。
――人間も、エルフも、魔族も、ノーブルレッドも。誰もが、抱いているのですから。
――願わくば、私の声が多くの方々に。
――ピサロ様に、届きますように。


……否定する気は無い。
手を取り合う強さも、互いを理解しようとする心も。 それそのものは強く、美しい感情であったのは事実なのだから。
背中合わせに戦う友が、呼びかけに応えてくれたかつての英雄が、最後まで己を信じてくれた仲間が、そして何よりも、己を待ち続けている人が。
旅立ちの時も、戦いの日々にも、新たな仲間を得た時も、失意に囚われた時も、道が見えず闇雲に彷徨う時でも、一人になった後でさえ、力を与えてくれた。

エルフの姫御。 強く、聡明な女性よ。
貴女は勘違いをしている。
貴女の声は決して届く事はない。 
いや、届く相手はいる、聞き届けるものも居るだろう。 
それでも、その声は本当に届けたいものには、届く事はない。
貴女の声は、そもそも貴女の言葉など必要としていないものにしか届かない。
かつて手を取り合った、勇者という存在にすら届かない。 もはや必要としていないのだから。

哀れみはしない。
貴女は強い人だ。
かつて最後まで私の事を信じてくれた仲間のように。
その道を、信じ続けて死ねる者もいるのだから。

そして、だからこそ貴女には、今の貴女では決して理解することは出来ない。

貴女は何も知らない。
貴女は何も失っていない。 ただ失わせただけだ。
己の全てを賭して守りたい物を失ったその先、そこに何があるのか……貴女は何一つ知ってなどいないのだ。
それを知らぬ貴女の言葉は、その先にたどり着いたものには決して届きはしない。
貴女は、その真実を知らないのだ。

「……いや」

或いはそれが…それも、真実なのか。
理解にすら至らない場所。
生物としての根本的な差異。
貴女達には、貴女には、それが真実だったのか?

なあ、……シア……
貴女達は、我々とは根本的に違っていたのか?
いくら考えても、わからない。

私は、決して届かない、……届かなかった言葉を、こうして考え続けることしか出来ないのか?

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087:第二回定時放送 オディオ 121:第四回放送


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最終更新:2010年12月15日 21:59