第二回定時放送 ◆SERENA/7ps
時計の短針と長針が頂点でピッタリと重なる。
同時に、オディオは自身の務めをはたすべく、重い口を開けた。
玉座に腰を下ろしたまま喋るオディオの声は、深い憎しみに彩られている。
天から降り注ぐように、
地の底から響いてくるように、
あるいは、風に紛れてどこからともなく、
どんな場所にいようとも、この絶望という名の宴の参加者である限り逃れられないような、オディオの声が響く。
「時間だ……一度しか言わぬから心して聞くといい。
まずは禁止エリアの発表だ。
13時からI-1とD-3
15時からB-9とA-5
17時からF-10とJ-8
そして、死者の名だ。
前回と同じ11名がその命を落としている。
変わらぬ勢いを持続してお前たちも嬉しいだろう。
自分が生き延びる確率がまたも増えたのだ。
胸に灯ったその感情の命ずるまま、すべて殺し尽くせ。
なお、今回まで生き延びた者たちに少しだけ先のことを教えてやろう。
18時より次の日の0時まで、特定のエリアにて雨を降らせる。
水を己の領域とするものはそこに行くがよい。
お前たちにも見えてきただろう、人間の本性が。
分ってきただろう、隣にいる人間が何を考えているか。
獣とて、必要な時以外殺しはせぬ。
しかし、人間の欲は際限なく他者を巻き込む。
……ならば、勝ち続けろ。
歴史とは、人生とは勝者の物語。
敗者には、明日すらも与えられぬッ!
信用するな、手を取り合うな、戦い続けろ、奪い尽くせ!
53の屍の上に立ち、見事勝者になって己の望みを私に言うがいいッ!」
◇
『勇者』と呼ばれ、人類を救った若者のことを思う。
人間の醜さを知らず、ただひた向きだった頃の自分と彼は似ていた。
無知だという点において。
自らが生贄だと知りもせず、ただ請われるままに勇者であり続けた若者。
自らのなすべきことに疑いを持たず、ただ人々の期待に応え続けた自分。
彼もまた、この島で人間の愚かさに気付き始めている。
『勇者』も『英雄』も単なる生贄でしかなく、
平和を願う心だけは一人前なのに、そのくせ自分で戦うことをしない他力本願な民衆によって祭り上げられた存在だということに。
勇者を、完全無欠の神のごとき超常の存在だと勘違いしている愚民に踊らされた哀れな若者。
彼を見るのは、とても気分がいい。
かつての自分を見ているかのようだった。
彼は傷ついているのではない。
自分がどういう存在だったのか、人間がどういうものか気付き始めているだけだ。
若者の心に生まれた小さな暗闇を、オディオは決して見逃さない。
何故なら、その暗闇の権化がオディオそのものだからだ。
口の端を凄惨に吊り上げて、魔王は笑う。
それは悪魔でさえも震えあがるような、底知れない憎しみを孕んだ笑みだった。
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最終更新:2010年07月02日 15:45