前途多難のサイキッカー ◆ZbL7QonnV



あんた……今、幸せか?
俺の方は……そうだな、ちょいと幸せとは言えねーな。
いきなりワケのわからねえ野郎に「殺し合え」とか命令されて、気付けば見知らぬ場所に放り出されちまってたんだからよ。
こんな状況に幸せ感じるほど、人間腐っちゃいねーつもりだ。
おっと、すまねえ。グチになっちまってたな。
オディオ、とか言いやがったか。
あの魔王ヤローが何を企んでやがるのかは知らねえが、ロクなもんじゃねー事は明らかだ。
あの目……ドブ河みたいに濁り切った、とても人間とは思えねえ目……。
あんな目をした連中を、俺は知っている。人間の命なんて、どうにも思ってないヤツの目だ。
そんなヤツの思惑に乗るのは面白くねーし、なにより人殺しなんざ真っ平御免だ。
だから、俺のするべき事は一つ。
あの魔王ヤローを叩きのめして、このくだらねー殺し合いを止めさせる事だ。
そのために、まず必要なのが……。



(この首輪を外す事、か)
爆弾つきの首輪を指先で弄くり、田所アキラは心の中で呟いた。
いわゆるパンクファッションであるアキラの服装に、首輪は全く違和感無く溶け込んでいる。
ともすれば最初から身に着けていたのかと、勘違いすら起こしてしまいそうなほどに。
それを皮肉に思いながら、アキラは今度の行動指針に対する考えを纏めていた。

この首輪が殺し合いを想定して作られた代物であるならば、ちょっとくらい突付いた所で誤作動を起こす可能性は無いはずだ。
ちょっと弄くった程度で爆発するのであれば、この殺し合い自体が成立しなくなる。
無理に外そうとしない限り、プレッシャーを感じる必要は無い。それが、アキラの結論だった。

ならば、どうするか。
発明家である籐兵衛の店に入り浸っている事もあり、アキラは比較的機械には強い方だった。
だが、それでも専門的な知識を持ち合わせている訳ではない。
首輪の解体作業をしろと言うのは、流石に無理が過ぎると言うものだった。
考え得る首輪の解体方法は、二つ。
科学知識を持った人間に首輪の解体を依頼するか、それとも首輪の設計者を捕まえて解除方法を読み取るかだ。
そうして首輪を解除した後に――魔王のツラを、ブン殴る!

「テレポートの応用で、首輪だけ吹っ飛ばせりゃ楽なんだろうが、それほど小器用な技じゃねーしな、ありゃ……」
アキラは稀に見る強力な超能力者だが、それでも決して万能の力を使える訳ではない。
テレパス、サイコキノ、テレポート、ヒーリング。
多岐に渡る能力を高水準で使いこなせる事は確かだが、それでもやはり得意・不得意は存在する。
精神感応。それも自分の“イメージ”を具現化させると言う事に関しては、アキラの力は群を抜いているだろう。
心を持たない機械にすら、イメージによる影響を与えられるほどなのだから。

だが、それに比べるとテレポートは苦手な方に分けられる。ごく稀にではあるのだが、失敗する事もあるからだ。
アキラ自身、詳しい理屈は分かっていない。だが、どうやら彼のテレポートは“水”に引き寄せられる性質があるらしい。
バスルームやトイレなど、水の有る場所に意図せず飛んでしまったと言う経験が、アキラには少なからず存在する。
いや、それだけではない。いつぞやのように、奇妙な迷宮に迷い込んでしまう可能性もある。
これが平和な街の中であれば、特に問題は無い事であった。
だが、この状況下でテレポートを失敗する事は、最悪の場合死を意味する。
もし間違って禁止エリアにテレポートしてしまった場合、その瞬間にゲーム・オーバーとなってしまうからだ。
……テレポートは、使えない。



「ちっ……面倒な事になっちまったな、まったくよ……」
目の前に広がる光景を見ながら、アキラは陰鬱な声で言う。
そこは、どこまでも深い森の中。見渡す限りの樹木に取り囲まれて、アキラは一人立ち尽くしていた。
ランタンの輝きは頼り無く、鬱蒼と生い茂る木々の中で、満足な働きを為しているとは言い難い。
幸か、不幸か、どうやら付近に他の参加者は居ないようであった。
少なくとも、人の気配は感じられない。そしてランタンの輝きもまた、アキラの手元から放たれる光条以外には存在しなかった。
もし自分以外の参加者が居れば心を読み取り、信用出来るようであれば仲間を得たかった所なのだが、そこまで楽にはいかないらしい。
殺し合いに乗った参加者と遭遇しなかった事だけでも、ひとまずは良しとしておくべきだろう。

「さて、と……それじゃあ、こんな辛気臭え森なんざ、さっさと出ちまうとするか……」
いまひとつやる気の無い声で呟きながら、アキラは当て所無く森の中を彷徨い始めた。
まずは、森を出なければならない。
並び立つ樹木の間隔は極端に狭く、足場も決して良いとは言えない。ちょっとした気の緩みから、すぐに転げてしまいそうになる。
おぼろ丸のような野戦を得意とする相手に不意を付かれたら、為す術も無く追い詰められる事は目に見えていた。
森の中で身を潜めて、朝を待つ手も無くはないが、まだ体力には充分余裕がある。
せめて身体を落ち着けられそうな場所くらいは、早い内に確保しておきたかった。
ほんの微かな木々の隙間に身を潜め続けていたのでは、かえって体力を消耗する結果にしかならないからだ。
……それに、なるべく早い内に至急品の確認も済ませておきたい。
足元の確認すら覚束無い暗闇の中だったからこそ、アキラは未だ参加者の名簿に目を通してさえいなかった。
だからこそ、気付けなかった。
高原日勝レイ・クウゴ、サンダウン・キッド。
わけの分からない異世界で出会い、成り行きと必要から力を合わせて戦う事となった戦友の幾人かもまた、この殺し合いに巻き込まれている事に。
そして、無法松
アキラにとっては父親の仇であり、また漢の生き様を教えてくれた兄貴分でもある青年。
陸軍との戦いによって命を落としたはずの彼が、何故か生きていると言う事に……。



【C-7 森林 一日目 深夜】

【アキラ@LIVE A LIVE
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ランダムアイテム1~3個(未確認)、基本支給品一式
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める
1.他の参加者と接触する
2.どうにかして首輪を解除する
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※名簿を含む支給品の確認が未だ出来ていません
※日勝、レイ、サンダウン、無法松が参戦している事に気付いてません
※テレポートの使用を控えています
※超能力の制限に気付いていません
ストレイボウの顔を見知っています

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GAME START アキラ 036:剣と炎と召喚師


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最終更新:2010年06月19日 04:18