ファンタズムハート ◆y.yMC4iQWE


     ◆



影狼は、穏やかな表情で逝った主を静かに見つめている。
欲望を糧に存在するのがルシエドだ。
リンクした主が絶えれば欲望を供給されるはずは無く、彼もまた消滅を待つ身であった。


――見事だ、アシュレー。アガートラームを欠いてなお、魔神を滅ぼすとはな。
――『ファルガイア』の守護獣『人間』にのみ宿る、希望を胸に未来を信じる力……か。
――これは紛れもなくお前の手で起こされた、本当に価値のある奇跡だよ。



応えはない。だがルシエドは満足している。かつて人が失った輝きを再び目にすることができたのだから。
死を迎えた主に寄り添い、共に消えるのもいい……そう、思っていたのだが。


――なんだ。まだ何か用があるのか。


ルシエドが唸ったのは、アシュレーの手から零れ落ちた二つの魔石と、砕けた果てしなき蒼の欠片に向けてだ。
明滅するそれらはルシエドにたった一つの意思を届ける。



――何を言っているのか、わかっているのか?

…………

――フン、見込まれたものだ。だが……悪くない。そう、もしかしたら、俺もまた……。

…………

――いいだろう。お前達の欲望、確かに受け取った。

…………

――礼など。むしろこちらが言う立場であろうよ。



二本しかない脚を精一杯に伸ばし、ルシエドは顎を開く。
睨みつけるのは中空に浮かぶ――。


――……ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォン……――


月に吼える。


願うように。
祈るように。
あるいは、怒鳴りつけるように。


『どこにもいない』『どこにでもいる』その存在を、呼び寄せるために。


二つの魔石と聖剣の欠片が魔狼の咆哮に応え、自身を淡い光の粒子へと還元した。
それらは一度ルシエドの体内で収斂し、胸元、喉、頭部へと駆け上がっていく。


――我が名は欲望の貴種守護獣、ルシエドッ!


吐き出された光は一つの形を成していく。。
アティ、そしてティナが最も強く掻き抱いていた想いが具象化したもの――竜の石像。


――母なる泥、グラブ・ル・ガブルより我と共に産み落とされし、我が半身よッ!


石像は、ルシエドと月を結ぶ中心線を駆け上がっていく。


――我が呼び声に応えよ、明日に吹く希望の西風ッ!


睨み据える。
今よりルシエドがやろうとすることは、決して失敗が許されない。


――お前を受け入れるに足る男が、ここにいるッ!


だが影狼は成功を微塵も疑ってはいない。
アシュレー・ウィンチェスターは己が認めた人間なのだ。
剣の聖女が、幻獣の親娘が、蒼き魔剣の適格者が認めた希望そのもの。


――どんな苦難の運命にも挫けず、誰よりも強く明日の未来を思い描く男だッ!


アティ、ティナ、マディン。
三者の想いを昇華して、遍く人の内面に沈むその想いへの扉を開く。


――この男の心が放つ輝きは、紛れもない希望の光ッ!


そう、それはかつてアシュレーがオデッサにより受けた儀式と同一のもの。




――災厄を打ち払い、まだ見ぬ明日を切り拓くためにッ!


だが呼び出すのは焔の災厄などではない。

それは守護獣達の長。

希望を司る貴種守護獣<ゼファー>の、人体への降霊儀式<ダウンロード>ッ!





――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!





――――――――『アクセス』ッ!!







        「いしのりゅうじん」が砕け散ったッ!







――我は、人が失いし心の光。『希望』を司りしもの……


――久しいな、兄よ。


――ルシエド……お前が、私を解放したというのか。


――俺ではない。何か感じたとするならそれは、お前を呼ぶための礎となった人間と幻獣、そして……


――その人間、か。


――然り。こやつこそ、誰よりも強く未来を願い今を生きる男……魔王や魔神との戦いなどで、失うわけにはいかぬ。


――だからこそ、私を……?


――それが願い……アティ、そしてティナという女の、欲望の答えだ。


――おお……感じる。人が見出した希望が私を呼び起こした……ならば。



希望の竜神と欲望の影狼が、夜の砂漠に並び立つ。


――……我が名はゼファー。希望を司りし貴種守護獣。
――……我が名はルシエド。欲望を司りし貴種守護獣ッ!


竜神の姿は消えて、欠けた一枚の石板になる。
影狼の姿も消えて、欠けた一枚の石板になる。



二つの石版が一つとなり、輝く太陽となって。

事切れたアシュレーの、破壊された心臓へと、舞い降りた。




――我らが力、お前に託そう……アシュレー・ウィンチェスター。共に未来を斬り開くためにッ!




ドクンッ。


脈動が、始まる。


幻造の心臓が、熱く激しい鼓動を刻む。


その身に魔神ではなく双子の貴種守護獣、そして人と幻獣の想いを宿して。






アシュレー・ウィンチェスターは、今ここに再誕した。





【F-3 砂漠 一日目 深夜】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:健康、気絶  希望の守護獣『ゼファー』、欲望の守護獣『ルシエド』を降霊
[装備]:バヨネット、解体された首輪(感応石)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0~1個(確認済み)、焼け焦げたリルカの首輪
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:マリナ……
2:フィガロ城でA-6村に行き、座礁船へ
3:テレパスタワーに類する施設の探索と破壊
4:ブラッドなど、仲間や他参加者の捜索
5:セッツァー、アリーナを殺した者(ケフカ)には警戒
[参戦時期]:本編終了後
[備考]:
※ロードブレイザーが内的宇宙より完全にいなくなりました。
※バヨネット(パラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます)
※心臓部に『希望のかけら』『欲望の顎』のミーディアムを内蔵しています。


【残り17人】

※果てしなき蒼、ティナの魔石、マディンの魔石は消滅しました。

時系列順で読む


投下順で読む


117-2:どんなときでも、ひとりじゃない ちょこ 123:Re:どんなときでも、ひとりじゃない
ゴゴ
アシュレー 122:第四回放送・裏


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年01月13日 10:58