ソラノカケラ――(Brightest Darkness) ◆MobiusZmZg



 乾いている。

 かぎりなく単色に近い蒼。わざとくすませてある金の窓枠に断たれた、天穹が。
 白々しくも穏やかな白。曇り硝子にさえぎられて、あえかにほどける陽の光が。

 からりと冷たく、乾いている。

 目をそらせば上掛けの乱れた寝台、その、布のくずれて流れる音が耳朶を叩く。
 書物と小物が整頓されている棚、その、背表紙に刻まれた題名が視界を満たす。
 足首が埋まるほどやわらかい絨毯、そのくすぐったさを、くるぶしが感じとる。

 五感が拾い、再現した種々の要素に、連続性も規則性もなかった。
 からだに焼きつく記憶の受容を強いられ続けて、意識があてどなくさまよいはじめる。
 自身の思いが握りしめた欠片のきしむなか、自他の境界があやふやになり、認識は拡散していく。
 不確かで、心もとない、浮遊感の根にあるものは夢――。
 ひとつの単語を思い起こせば、心のすみに苦いものがさした。
 彼にとっての夢とは、見る者にとってどこまでも甘く、都合のいいものであったから。

 雲海の上にあって、夜も朝も訪れることのなく永遠の時をのぞむ、大地のかけら。
 彼の生地たる魔法王国が存在していた空中大陸こそ、まさに、人のうかべた夢のかけら。
 光の民を称する者たちが想いうかべた、うつつの夢の顕現であったからだ。

 それを分かっていても、夢を見ている彼のこころは多幸感に満たされていた。
 目覚めたそのとき、夢見る頃を過ぎて現実に立ち返ったときには、
 流すべき涙も、叫ぶべきことばも、ここに――。
 夢を見たことだけは忘れられない自分の奥底へ、澱のごとくに沈むと分かっていてもだ。
 あらかじめ喪われるもの、自分がどうしようもなくゆがめたものと向かいあう、その絶望。
 背筋にふるえを覚えてもなお、彼は、この部屋に。ありし日の居室におとなう者を待っていた。
 たとえひとときであっても、かけがえのないものに会えるよろこびにか。
 彼女はもう傍らにいないのだという現実を、ふたたび突きつけられる未来にか。
 鼻孔の奥が、あまく、痛みを含んでしびれていく。


「ねえ、あなたには今も聞こえるの? 黒き風の音が……」


 だのに。
 だのにどうして、お前なのだ。
 着衣に包まれている肩が、瞬間重みを増す。
 なにも口にすることがかなわない。言葉にいかな感情をのせたものか、判断がつかない。
 彼の目の前では、娘らしく切り揃えられた髪の、毛先が、顔を上げる動作にともなって揺れる。
 無骨なヘルメットの下、飾り気もない眼鏡の奥にある瞳が、冴えたきらめきを宿す。
 彼女の問いに応じることもかなわず、魔王は、水気をふくんだ呼吸を続けて立ち尽くした。
 鼻をすすりあげるような、無様としかいいようのない息が、容赦なく聴覚を満たしている。
 欠けていたなにかが、戻ってきたかのような思い。そのあたたかさを振り払うことが出来ない。
 目の前の少女が、大きな瞳に浮かべた色。それは、戦ったときに見せたそれとは違う。
 傷ついて、苦しんで、悲しんで、それでもなにかを……未来を受け入れる輝き。
 双眸にしずむ、青みがかった緑がかたどるのは、地上をあまねく照らすがゆえに乾いた陽光とかけ離れて柔和なほほえみ。

 それを享受させられることこそ、彼の絶望だった。

 夢のなかでさえ、あたたかみを怖れにすり替えてしまうほどに、
 魔王と呼ばれる男には、いまだ心は幼きときに在りつづけるジャキにはそれが、許せない。
 血を分けた姉といないこの瞬間に、安寧を得てしまいかけた自分こそが許せなかった。

 ここにある魔王とて、時がかわれば人も変わることなど、知っている。
 自身にかしずき忠誠を誓った者は、光の民から三魔騎士に取って代わった。
 黒い夢に魅せられた母に感じた嫌悪と怖れ。魔王となってからは、あれらを受ける側にと変わっていた。
 ラヴォスを打倒せんとした自分は、長きにわたる闘いを終わらせるべく、他者と同道さえしたものだ。

 だから、すでに、分かっている。
『蛇に睨まれたカエル』が勇者サイラスの剣を受け継いだように、勇者はひとりではなかったように。
 心を満たせるものとて、ひとつでもひとりでもないことなど、分かっているのだ。

 ゆえに自他の弁別もつかない夢のなかで、魔王は手を伸ばそうとしていた。
 ルッカの微笑に応えるためではけしてなく、彼女らの影を、振りほどくために。
 自分は彼らに、救われてはいけないから。

  ――――サラ。

 おなじ母の血を継ぎ、おなじ王家の魔力を受け継ぎ、ともに母の変わるさまを観てきた者。
 あの姉以外に、ジャキが救われるわけにはいかないから。
 彼女から得た安息だけは、他の誰かやなにかによって代替のきいていいものではないから。
 黒の夢を砕き、覚めぬ夢を否定した魔王の、それが、唯一信じている《夢》だから。

 だから夢のなかにおいて、彼は編めぬはずの魔力さえこの手に望む。
 いっさいの夢を焼き払う現実をこそ希求して、燃えるような真実を刻もうとあがく。


 にわかに《夢》が塗り替えられたのは、そのときだった。


 世界の塗り替えられた先に待ち受けていたものもまた、夢。
 だが、姉とともにあった頃を反芻してのちの、それは確かに覚醒であった。
 色もなくあやふやにひろがる場において、魔王は空にあるかのごとくに俯瞰を保っている。
 自身の視点で美化し、ゆがめてしまったゆえにこそいとおしい、サラとの別れ。
 あの夢が終わってのちの数瞬がごとくに、ルッカとの『別れ』に寂寥を覚えなかったことを喜ぶいとまさえなく、

「彼女もまた、『オディオ』だからだ。
 私なら彼女が背負っているものを肩代わりすることができる」

 もうひとりの魔王の言葉が、文字のごとき鮮明さで突きつけられた。
 音を立てて血の気が引くような感覚を覚えると同時、かかとが、認識の底に着地する。
 オディオの、「人は裏切る」とうそぶいていた『魔王』の立つ場所は遠い。
 彼は、どこか遠いものを見ているかような目をしてサラを。一国の王女というに至当な女性をその腕に抱き寄せる。

「サラの心は、たった一人で悠久の時を過ごすことに耐え切れなかった」

 もの言わぬ姉の、結い上げた髪が、そのことばでほどけていった。
 胸当てに身を固めた《魔王》の背に、蒼い色が涙のように流れ落ちる。
 オディオ。敗者となり、憎しみに堕ちたものを抱きとめるように――いいや。
 彼に悲しみを、死へのねがいを流しこむかのように。
 蔦のように広がったサラの髪は、金髪の青年をやんわりととらえていく。
 悪夢というのならば、これこそ、そうなのだろう。
 自身への悪意でしかつむがれていないと分かる光景を目の当たりにした、魔王は、しかし黙して息を呑む。
 夕焼けを間近にした陽にも似た青年の鎧。それにすがるような姉の表情にある憂色のふかさに。
 絶え間ない苦痛に灼かれているかのような口許に、気付いてしまったがために。

 どうしてサラは、姉は、悠久の時に耐え切れなかったか。
 その理由に、思い当たってしまったがゆえに。

 きっと――彼女はずっと、覚えているのだ。
 生きるために、時さえ経てば薄れてしまう愛も、痛みも、彼女だけは覚えている。
 星に巣食うものたるラヴォスが、星に生きるものの命すべてを写し取っていたのと同じに。

「彼女もまた、『オディオ』だからだ」

 魔王の無意識によって選ばれた一節が、彼自身の認識を殴りつけた。



『オディオ』だから。



 それはオディオの側も、サラと同じ……。
 正しくは、ラヴォスに取り憑かれてしまったサラと同質の存在であるということではないのか。
 オディオがラヴォスにも似て、古代より星に生じ、さまざまな時に現れるものであるのだとしたなら。
 それゆえにオディオが彼女に逢えると、彼女を救えると言い得たのだとすれば、さあ――どうなる。

 一連の空想は、オディオの言が正しいものと判断したうえでつむげるものであった。
 しかしてこれが真だとすれば、魔王には笑うことも、怒ることも、泣くことさえも出来ない。
 仮にそれを認めるとしたなら、先刻自分が感じたものと隣合わせの絶望が待っているのだから。
 それは、自分ではないなにものかの手によって、サラが救われてしまうことへの絶望。
 再会と救出を望んだサラへの思いや、己の決意すら裏切るほどに、それは、強く胸を衝いた。
 母親すら、ラヴォスの見せる夢によって奪われた永遠の夢の国。
 あの場所で、ジャキがサラに少しでも与えていたのかもしれない安息を、救いを。
 彼でない誰かが与えてしまえる事実など――納得、できない。
 心という器を満たすものにかぎらず、勇者も侍従も部下も兵士も代替がきいてしまう現実を分かっていても、
 幼い頃に奪われた姉を心の拠り所にしてきた魔王であるからこそ許容できない。

 この手にかけた母はともかく、姉弟だけは、ほかに替えのきくものと思いたくない。

 そうして今も、オディオのそばで水のように流れる、サラの髪。
 魔王がひととき見てしまった夢のなかで生まれた水は、ささらに流れて風を呼んだ。
 風の色は、なにを混ぜても、どう薄めても、どうしようもない黒。
 まぎれもない絶望をまとった風は、ささやかなれど強い炎を、魔王のこころにおどらせる。
 それでも彼らは、この胸にともった炎を見ることはない。
 しょせんは夢の中。
 それも、夢の世界から解き放たれてなお眠り続けた結果がこれなら、オディオにもサラにも、うずいた彼の傷は見えない。
 なればいっそ叫びたかった。現実に起こりうるかもしれない未来を再現した、この悪夢から脱するべく。
 あるいは叫んで、泣いて、姉を求めてしまえればいいのに、その声も伸ばした腕も、届かない。
 口を開いているのが夢の中の自分か、それともうつつの自分なのか、分からなくなる。



 ×◆×◇×◆×




 ――――さて、そろそろ魔法が解ける時間だ。




 ×◆×◇×◆×



 結局のところ、叫びをあげたのかどうか――。
 目覚めて最初に目にしたものは、玉座の背もたれであった。
 視界いっぱいに映る布地と、四肢の鈍痛が示すのは、つよく我が身を抱きかかえるような姿勢。
 明らかな無防備と、不要なまでの警戒心。そのあらわれを自覚して、魔王は少しく眉根を寄せる。

「目が覚めたか。お前はいちど目を覚まして、またすぐ寝ちまったのさ」

 眉間にきざまれた谷は、背後からの声を聞いてさらに深いものとなった。
 振り返れば瞬膜を閉じ、仏頂面をつくったカエルが、背負い袋からなにかを取り出してほうる。
 薄闇のなか、手にしたものが干した果物であると気付いて、魔王は黙ってそれをかじった。
 蓄積した疲労ゆえに糖分を、運動と傷のために水分を欲する体をなだめつつ、ゆっくりとしがむ。
 この格好で酒場にいたというカエルならば、ここに温めたワインでも合わせるだろうが、魔王の側は酒などやらない。
 無造作に開けたボトルの水で、歯に引っかかった繊維を押しながす。
 傷には影響しないとみたのか、果実の次にパンを取り出しても、カエルは止めるそぶりもない。

「今の時間も聞かんのか?」
「奴等はここに来るだろう。それさえ分かれば十分だ」

 しかして懐中時計に目もくれない魔王を前に、元騎士はふたたび瞬膜をひくつかせた。
 自分が動じないことを、彼が疑問に思うのは当然であった。
 第三回の定時放送を尻目に始まった乱戦。その後にもう一度放送が行われたというのなら、戦いのさなかに
意識を失った者には時間の空白がある。
 優勝を目指す自分たちのことだ。カエルともども、すでにして死者の名前は関係ない。
 だが、彼にとってみれば禁止エリアのような自身の生死に関わる情報を聞かない部分は疑問であろう。

「お前……寝ている間に、なにがあった……」

 なによりカエルも、古代王国のいち都市を知っているのだ。
 エンハーサ。眠りのよろこびのなかで真理を探す者たちが集った夢見る町。
 夢の中にこそ真実があるとの寝言も、ラヴォスを呼び覚まさんとしていた『黒の夢』を見た後ならば一笑には付せまい。

「あの魔王が、塩を贈った。傷口に擦り込んだと言うべきかもしれんが」
「もっと、はっきり話してくれ」
「人は裏切る」
「なに?」

 怪訝そうに語尾を上げたカエルにどこまで話すべきかなど、改めて考える必要すらなかった。
 あの《勇者》、ユーリル。オディオに反旗を翻すと叫んだ、アキラ。最たる勝者とされたアシュレー。
 気を失っていた者たちの夢の中で、オディオが放送を行ったこと。
 その前に、ガルディアが近い未来に人の手で滅びることや、時空を彷徨うサラはラヴォスに憑かれたなどと語ったこと――。

「待て! ……いや、俺が言ったことだが……それを素直に話して、お前は!?」
「気絶した者のなかには魔王も、勇者と呼ばれた者もいた。勝者も敗者もいた。
 加えて現状はオディオに敵対し、状況を打開しようと目論む者こそあれ、奴と面識がある者の有無もハッキリとしない」
「ならば――これが伝わることを前提に、姿を現したか……」

 間をつなぐようにつむがれたケアルガ。
 水の魔法がもつやわらかな光が、玉座に座した魔王を照らす。
 カエルの危惧ももっともだが、あの場所で得たものを話すことこそがオディオの望み。そのはずだ。
 そうでなければ、《勇者》ユーリル――グランドリオンを継いだ者が、そのありようを前に怒りを示した
少年に向けて、どうしてオディオはガルディアの滅ぶさまを口にしていたというのだ。
 たしかに、あの少年はクロノと面識があるらしかったが、それだけでは不足だ。数多の敵を破ったという
最たる勝者……アシュレーとやらに自分を対比させ、共感の念さえ表していた《魔王》。
 彼が、この自分と同道する者のありようを把握していないということはまずもってない。

「そうであっても、俺のやるべきことは変わらんさ」
「ふん……」

 オディオの望みと、夢をうけた魔王の望みが、どこかで合致しようことも、
 あの魔王はきっと、知っている。

「だが、お前の護りたいものとやらは、本当にガルディア王国か」
「――聞こえていたのか」
「元騎士なら知っているだろう。数分もあれば気絶からは立ち直れる。……あの一撃は効いたがな」

 魔王が問いかけたいのは、カエルが離脱の際に放った言葉――。
 気絶から醒めてなお激痛と疲労の支配する意識に響いた台詞に関することであった。

「私に同盟を持ちかけたあの時、相手はルッカだった。ならば、ああ言ったことも理解は出来る。
 だが、あんな言葉を放つ時点で、ガルディアは血に濡れた国との謗りをまぬがれまい」

 誰よりも、そんな思いを言葉にしたカエル自身が、ガルディアを汚すことは望まぬはずなのだ。
 カエルの――グレンの友であった騎士、サイラスを相手にした魔王は、それを知っている。
 デナドロ山にてあの勇者が最期を迎えたとき、彼は友である青年に、言葉を残していたのだから。
 リーネ王妃。ガルディア王国ではない、君主たる王を支える女性のことをこそ頼むと。
 たしかに、このまま最後のひとりになれば、王国は問題なく守れるだろう。
 クロノとマールが結ばれてから五年で滅びるとの話を聞いても、滅びの未来を迎えれば、あの国はどのみち無くなっているのだ。
 中世の、ひいては現代のガルディアだけを護ろうとする彼の行いを、魔王には否定出来ない。
 彼にとって、永遠に続く王国とは唾棄すべきもの、まさに黒い夢としてあるのだ。
 組めると踏んだカエルは、そんな『おとぎ話』を描いて恥じる要もない子どもでも、現実の見えぬ愚か者でもありはしない。
 それ以前に、この男は、「国のため」などという言い訳の出来るような者でもなかった。

「では……ストレイボウとやらを、試したか?」
「俺が、そんなことの出来る立場にある者か?」

 真正面からの問いに、カエルは吐き捨てるような口調で応じた。
 反語のかたちをなした言葉が、部屋のそこここに溜まった闇に反響していく。
 それを気にしたふうもなく、元人間はよく伸びる舌でパンと干し肉をさらっていった。
 大きな口で食事を呑み込んでしばらく、彼は『こればかりは不満だ』とばかりに鼻から息をつく。

「だが、間違いではない。
 あいつは、俺をひと目で騎士と見抜いたんだ……おそらく友もそうだったんだろう。
 ならば国を守ることと、人を護ることの違いくらいは分かるはずだ」
「それでお前が死ねば、ガルディアは汚名の塗られ損だが」
「俺は、もう騎士ではない。それに、」
「それに……?」

 カエル。外道とも悪鬼とも《魔王》ともなると誓った騎士。
 彼の、削ぎ落とされたような横顔を見た胸に同属嫌悪にも似たものを覚えた魔王は、続きをうながさずにいられなかった。
 すでに喪われたものを追い求める、自身の半身ともいうべき存在の、ことばを聞かずにいられなかった。

「それに……なにかを懸けて、みたかったのさ」

 オディオの言葉を、愁嘆場じみた悪夢を受けて以降、この胸を衝く思いの正体を確かめるために。


 ……それは、王国を守るという願いを捨てることではない。
 決死を覚悟してなお死なぬことにつながるのだと、カエルは続けた。
 ブラッド・エヴァンス。魔王にとっては、この地において初めて出会った参加者が、マリアベルという娘に繋いだもの。
 今も魔王に刻まれている傷は、あのふたりが文字どおりの『決死』――実際のところは八方破れと変わらない、
十割の死に懸けた諦観に支配されていれば生まれなかったものであると。
 マリアベルに「力を使え」と言った、あのとき。
 ブラッドは死を九割九分まで覚悟して、かつ、一分の生を残る仲間に懸けていたのだと。

 あす世界が燃えつきるのだとしても、構うものか。
 今日、この瞬間にひとかけらでも自身に残る血肉の欠片もあるとするなら――。
 血と肉でつむがれ、『生きる』ために生を享けた命は、自身に残るものを賭けずにいられない。


エイラは言っていたよ。死んでいないことと生きていることとは違うのだと。
 先の戦いの、敗因どおり……ひとりで死ぬことも、生きることも、死んでいないことと同義だ」

 しずかな震えが、止まらなかった。
 これほどまでに、カエルの底を見せられたことはない。
 覚悟ではなく、『生きる』意志を前にして、茶化すことなど出来ない。
 茶化そうにも魔王自身が、ガルディア王国とストレイボウの、ふたつの願いに欲を張るカエルに共感しているのだ。
 降りてきた沈黙にため息をつかれても、皮肉のひとつも返せはしない。

「ともかく、奴らは必ずここに来る。その前に少しでも休んでおけ」

 紅い魔剣の力で治癒の力を得ているというカエルの、不器用にすぎる話題の転換に折れてやりながら、
魔王は、悪夢から目覚めたときとはまったくと違う心持ちで玉座に横たわった。

 夢。
 朝も夜も来ない異常な場所にあってさえ、見ている間は幸せだと思っていられるもの。

 オディオ……ラヴォスに近いものの力に拠ってでも、サラの手だけは自分が取る。
 あるいはオディオの力を借りずとも、自分こそが彼女のもとにたどりついてみせる――。
 ルッカの仮説を切り捨てた際に、限りなく低い可能性だとは自分が口にしたことではあった。
 しかしこのときは、そんな夢に懸けても良いのではないかと、やわらかな布地を背に天を仰ぐことが出来ている。

 礫の大地に切り取られ、空気のよどみで千々に裂かれた、空のかけらは目に見えなかった。
 いまは遠い雨はおろか、月光のひと筋さえ、瞑目した魔王の頬には落ちることがない。


「いかにことが運ぼうとも、俺にはもう、いかな朝も来ることはあるまい。
 栄光を得るだろうガルディアに、ひととき夜が来ることもなくなるのと同じに、な」


 癒しの光を切り裂いた騎士の――もうひとりの《魔王》の声。
 もとより返事など望まぬ独白もまた、夜も朝も変わらぬ、地下に沈んだ。



【F-7 遺跡ダンジョン地下五十階 二日目 深夜】
【魔王@クロノ・トリガー
[状態]:睡眠、ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノ・トリガー
[道具]:不明支給品0~1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける
[参戦時期]:クリア後
[備考]
※ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の下が危険だということに気付きました。

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕脱臼&『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(やや大)、疲労(大)、自動微回復中
[装備]:紅の暴君@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う
1:出来る限り殺す
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)
[備考]
※キルスレスの能力を限定的ながら使用可能となりました。
 開放されたのは剣の攻撃力と、真紅の鼓動、暴走召喚のみです。
 遺跡ダンジョン最下層からある程度離れると限定覚醒は解けてしまいます。


時系列順で読む


投下順で読む


115:ハッピーエンドじゃ終わらない 魔王 :王国暦1998年の紅蛙
カエル


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年12月05日 01:35