口惜しかろう……
お前達とて……自分の欲望、感情のままに素直に行動していただけなのだから……

愚かなる人間の欲望……お前達はその犠牲となった。
お前はそれでいいのか。このまま終わっていいのか……?

若き魔族の王よ。今一度、お前に機会をくれてやろう。
目を覚ませ。お前の抱く憎しみを、もう一度思い出せ。
そして、人間達に己の罪を、その愚かさを……

思い知らせるのだ!



デスピサロ ◆n95k6APn4k





月明かりに、手を透かす。
その手は緑の醜悪な怪物の手などではなく、見慣れた自分の手だった。
「生きている……か」
男は一人、ポツリと呟いた。
勇者達の手でとどめを刺され、死んだはずだった自分の身体を見回す。
夜の風に靡く銀の長髪。赤いバンダナ。尖った耳。マントと黒い装束。
美しく整った端正な顔立ち。その表情に差しこむ、黒い影。
月の光という演出も手伝って、その姿は神秘的とすら表現できた。
「いや、死に損なった……と言うべきか」
どこか自嘲気味に自らの運命を皮肉る。
若き魔族の王、デスピサロ。
彼は大切な人を殺され、人間の全てを憎悪した。
遂には禁断の秘術・進化の秘法に手を染め、その力を自らに取り込んだ。
その代償として、記憶や人格、彼を証明する全てが崩壊した。
ヒトという種に対しての、純粋な憎しみだけを残して。
……そうまでして手にした復讐の力は、今は彼の中から失われていた。
身体は、完全に元の姿へと戻っている。
人格も安定し、記憶も……完全ではないが、ほぼ修復されていた。
進化の秘法による後遺症らしきものも、何もない。
あの勇者達との戦いの傷も、それが夢であったかのように綺麗に消えていた。

「お前の差し金か。オディオとやら」
あの部屋で見た、魔王を名乗っていた人間の姿を思い起こす。
殺し合い。ただそれだけの他愛のない遊戯を行うため、奴は50人以上の者を集めた。
所詮は人間か。こんな馬鹿げた殺人ゲームのために、よくも労力を割ける。
そんな者が魔王を名乗るなど、分不相応にも程がある。
……最初は、そう思い彼のことを見下していた。
だが、彼の目に灯っていた光。あの黒い輝きが、デスピサロの瞼に強く焼き付いていた。
そう……同じだ。あの男は、自分と同じ感情をその精神に宿している。
憎悪。人間に対する、圧倒的なまでの憎悪。
それが、デスピサロの興味を捉えて離さなかった。
共感。オディオの発する闇が、同じく憎悪を宿すデスピサロにも、不思議と強く理解できた。
「……そうか。そういうことか」
やがてデスピサロは、何かに納得したかのように笑みを浮かべた。
空を見上げる。月は変わらず、光を放ち続けていた。
「お前は思い知らせたいのか。奴らの愚かさを、罪深さを。
 奴ら人間自身に、身をもって思い知らせたい……そうだろう、オディオよ!」
空へ向けて叫ぶ。今もどこかで自分達を見ているかもしれない男に向けて。

「……面白い」
彼の笑みはさらに強まる。端正な顔立ちは崩れ、表情を醜悪に歪ませて。
「いいだろう。この茶番……付き合ってやろう」
狂気にも等しい憎悪に表情を歪ませ、口元をつり上げる。
通常の彼であれば、こんな馬鹿げた遊戯など一蹴したであろう。
憎き、滅ぼすべき人間のお遊びの駒になるなど、彼の誇りが許さなかったはずだ。
だが、彼はオディオに興味を抱いた。
あの男にもう一度会ってみたい。同じ人間でありながら、自分に匹敵する……
いや……あるいは自分以上とすら思えるほどの闇を発する、あの男と。
「この地に蔓延る人間どもを排除し……お前のもとに辿り着いて見せよう……!!」
内に秘めた憎悪を発露する。まるで、オディオの放っていた憎しみに呼応するかの如く。

支給された鞄から名簿を取り出すと……デスピサロは自らの魔力で、それを消し飛ばした。
目を通す必要などない。そこに書かれた人間どもは、どの道一人残らず生かすつもりはない。
名簿は瞬く間に灰と化し、やがて自然の中に還る。
「これが、お前達の運命だ……愚かな人間達よ」
自分の為すべきことはわかっている。

――皆殺しだ。

人間達は一人残らず殺す。奴らと組する輩も、容赦なく消す。
お前達はロザリーを殺した。その罪は、裁かれなければならない。
お前達の罪の重さを、骨の髄まで味わわせてくれる。

死の淵から蘇ったばかりの彼は、気付いていなかった。
あの場所に、自分と同じく召喚された参加者の中に、殺されたはずの大切な人がいたことに。
だが名簿を燃したことで、再びそれを確認することは難しくなった。
いや……例え彼女が傍にいたところで、彼が人間を滅ぼすという意志は、もはや止めることは
不可能だろう。人間達が己の欲望のために、彼女を惨殺したという事実は消えないのだから。
誰も彼を止められる者はいなかった。
そう、ピサロという青年は、もういない。
かつてロザリーの前で見せていたという穏やかな一面など、今の彼からは微塵も感じられない。
いるのは「オディオ」という名の感情にその身を委ねた復讐鬼。
男の名は、デスピサロ。人間を憎み、滅ぼす者。


【E-6 山 一日目 深夜】

【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:健康。人間に対する強烈な憎悪
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1~3個(未確認)、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※名簿は確認していません。またロザリーは死んでいると認識しています
※参戦時期は5章最終決戦直後

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GAME START ピサロ 030:言葉と拳に想いを乗せて


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最終更新:2010年06月19日 04:20