BIG-TOKA SHOW TIME ◆iDqvc5TpTI



「とりあえず支給品見てみましょうよ、支給品!」

トッシュからすれば殺し合いをさせるような男の施しを受けたくは無かった。
けれども、一度モンジを倒そうと先走って結果危機に陥り仲間に助けられたこと。
そしてまた感情に走ったせいで何の罪もない少女を傷つけかけたこと。
その二つが彼を僅かながらにも冷静にさせていた。

「まあ、そうだな。先立つものが無けりゃあどうしようもねえしな」

ナナミに頷きつつ若干憮然としながらもデイパックの中に手を伸ばす。
殺し合いを促す支給品だというのだ、武器――刀剣の類の一つや二つ入っているだろうと軽く考えながら。
だからこそランタンや食糧やらに続いてそれが出てきた時、絶句した。

棒、だった。
そこらへんに転がっていそうな木の棒だった。
どこからどう見てもただの棒以外にありえなかった。

「……」
「…………」
「………………」
「……………………え、えっと、それ、ヒノキの棒だって。す、すごい、高級品だよ!」
「木の棒なのにゃ変わりねえじゃねえかあぁぁ!!」

思わず地面に叩きつけたくなるのをトッシュはありったけの理性を動員してなんとか抑える。
おーしおしおし、落ち着け、俺。
アーク達との冒険じゃ石ころですら役に立っただろ。
ただでさえ所持品を全部没収されて無一文なのだ。
何一つ無駄にはできない。
それに支給品はまだあるみたいだしナナミの分も存在するのだ。
欲を言えば酒もあるかもしれないと。
期待して、同じくリュックを漁っていた少女を振り向き、絶句した。

「うっそ、何これええええ!!」
「おい、どうし……どうなってんだああ!?」

――それはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさに鉄塊だった。

いや、良く見れば生物を模しているのだと取れなくもない。
大地をしっかりと踏みしめる太い脚、鋭い鉤爪を持つ細い腕。
四肢は確かにある。
だが、樽のようなタンクを背負った胴の上には頭部が見られず、ぽっかりと穴が開いており、代わりとばかりに椅子が設置されていた。

――魔導アーマー

世界征服をし得るだけの力を持っていたガストラ帝国の主力兵器にして、その強大な軍事力の象徴。
魔力と機械技術とを組み合わせた驚異的な攻撃力と防御力とを併せ持つ兵器。
搭乗することで常人にも魔導の力を振るうことを可能にするそれは、人が搭乗していないにも関わらず、
どこか見る物を圧倒するだけの威圧感を誇っていた。

とはいえ二人が声を上げたのは、その滲み出るオーラに圧倒されたからではない。
トッシュはどう見てデイパックそのものよりも大きな物が出てきたという非常識に対して。
ナナミは彼女の生きてきた世界には存在し得ない機械という物体そのものに。
二人は純粋に驚いていたのだ。

そんな状態だからこそ気づくのが遅れてしまった。
このバトルロワイアルに乗った人物がすぐそこまで迫っていたことに。

「や、やるせねぇーッ!! 我輩が魔法的な支給品で枕を涙で濡らしたというのに、諸君らはそんな科学的な物をー!
 それがあれば、さっきの女のような昨日今日逢った三下どもに遅れをとることなど、ムダ毛ほどもありはしないのにッ!
 身震いするほど腹が立つッ!! そうだ、奪っちまえばいいんだー!! 覚悟ーッ!!」

闇を引き裂く怪しい奇声にはっとして我に帰る二人。
トッシュはナナミを護ろうと棒を構え、またしても驚愕する。
トカゲだった。
紫のマントを纏った子ども大のサイズはあるトカゲが必死な形相で短い脚を動かしつつ突撃してきたのだ。
余りの気持ちの悪さに思わずトッシュが棒を振るうも、獲物の違いに加え咄嗟に繰り出したトッシュの一撃はいわば死んだ剣。
対するトカはエイラに追いつかれたら厄介だとクレストカプセルによりクイックを使い、全速力で逃げていた状態だ。
ハイ・ヒールで尻尾の傷も多少は癒してある。
要するに戦闘準備はばっちりだったのだ。
故に魔導アーマーを自称科学的な導きにより発見し、テンションマックスなトカに檜の棒は届くことは無かった。

「本日のびっくりどっきりメカー! 何ですと? メカじゃない? そんな時は心の眼で見るのだトカ。
 それでも見えないならブってブってブちまくって、眼を節穴にしちまうぜ!!
 見よ、これぞ正しく隠し玉! 出血大サービスッ!! ほんとに怪我してるんじゃ、こっちはーッ!」

トカが手にするはクレストカプセルより溢れ出た光がトッシュとナナミを打つ。
途端に身体が重く感じられ事実打ちつけられんとしていた棒の速度が落ちる。
逆にトカの動きは常の逃げ脚すら上回る俊敏さを得ていた。
魔法スロウダウン、及びクイック。
風と水は吹きつける向き、流れゆく方向により人の背を押すこともあれば、動きを阻むこともある。
そのことを体現した二つの魔法がカプセルに封じられていたクレストソーサーに刻まれたものだった。

「スローエネミーだと!?」

爬虫類に相応しい軽快な動作で地を這うトカに攻撃をかわされたトッシュが唸る。
心当たりがなく只困惑するだけのナナミよりも立ち直りは早かったが、時既に遅し。

「我輩ダー、オーンッ!!」

トッシュが追撃するよりも早く魔導アーマーの足から腕を駆け昇り切ったトカは、見事コクピットに至ってしまっていた。
その様を現すなら『嵌まっちゃった』と言うべきか。
すっぽりと、胴体部の空席を埋める形になったトカの心は舞い上がっていた。

「これぞ素晴らしき科学の力。更に素晴らしきはそれを使いこなす、わ・が・は・い。
 とりあえず適当なスイッチをぽちっとな」
「って、全然使いこなしていないじゃない!」
「馬鹿野郎、つっこみ入れる暇あるなら離れてろ!」

荒ぶる気性が通じるところがあるのか、魔導アーマーの胸の丸い球に炎の力が集まりつつあるのを察し、素早くナナミを連れ射線上から離れる。
直後トッシュ達が直前まで居た場所を薙ぎ払う業火を帯びた光線が夜の平野を駆け抜ける。
これぞ魔導アーマーのメインウェポン、魔導レーザー。
魔導の名を冠するだけあって、搭乗者の魔力に比例して威力を上げる攻撃な為、科学者であるトカでは今一本来の能力は発揮しきれていない。
それでも、魔法系列の攻撃が苦手なトッシュからすれば厄介この上ないものであった。

「む、赤いボタンで熱線とな。つまりは科学的に考えて両隣の黄と青のボタンは電撃と冷気。
 恐ろしい。つくづく我輩の頭の冴えが恐ろしすぎる!!」
「いや、誰でもわかるでしょ!!」

加えて痛いのは、魔導レーザーの汎用性だ。
ファイアビーム、ブリザービーム、サンダービーム。
火、冷、雷。
三種の属性を相手によって使い分けることができるのだ。
ナナミの突っ込みを掻き消すように放たれた二発、特に冷気の方がトッシュの体力を奪う。
このままでは
ジリ貧なのは明らかだった。

「くそがっ!!」

ナナミを半ば強引に左腕で抱きかかえたまま、叩きつけられる爪を棒で受け流す。
強度に期待できない以上、まともに受けるわけにはいかない。
余裕があれば残りの支給品に手を伸ばしたいところだが、未だスピードを奪われた二人では、速さを味方につけたトカの猛攻を凌ぐので精一杯だった。

「おい、ナナミ! てめえの紋章とやらで、なんとかなんねえのか! できれば電気が効きそうだがよ!」
「ご、ごっめ~ん。わたしが今宿してるの、そういう火を吹いたり、雷落としたりするのじゃないの!」

腕の中で謝るナナミ。
そうそう都合良くは行かないかと攻撃を続けてくる敵に注意を戻す。
図体がでかいとはいえ精々三メートル。
何度か打ち込んでみたが、装甲の厚さもヂークベックより薄い。
どういった仕掛けか自己修復されもしたが、一撃の下に断てばいいのだ。
決してトッシュが勝てない相手では無かった。
それ相応の獲物さえあれば。

「ちっ、仕方がねえ」

武器の方に期待できない以上、頼れるのは己が磨いてきた剣技のみ。
トッシュは棒を上段に構え、逃げ回っていた足を止める。

「我輩の科学力の前に遂に観念したと見る。
 安心し給え、科学の発展に犠牲は付き物。
 その潔さは我輩が故郷に帰った暁に発行する自伝のうちの三行を埋めるトカ埋めないトカ」

そう、確かにトッシュは観念した。
無事に敵に打ち勝つことをだ。

――鬼心法

死中に活を見出す一種のカウンター技、竜牙剣の初手。
敵の攻撃のエネルギーを己が剣に込め利用する絶技。
正直魔法によわいトッシュと貧弱な獲物があの鎧の攻撃に耐えられる保証は無い。
丁か半か、博打もいいところだ。
それでも、トッシュは迷わず勝負に出る。勝つにはもうこれしかないのだ。

「危ねえから下がってろ、ナナミ。かかってきやがれ、木偶の坊にチビトカゲ!!」
「むごいこと言ってくれるじゃねぇかッ! けどそんな毒舌もこれが聞き納めだと思うと我輩の眼にも涙。
 それでもファルガイアは回ってるトカ。アデューッ!!」

ナナミを背後に突き飛ばし、覚悟を決めたトッシュに対し、よりにもよってトカが選んだのは青いボタン。
冷気が収束し、胸部から撃ち出され。

トッシュは、気を失った。

ただし一瞬だけ、それも味方の手によって。

「ぐげっ!!」
「駄目駄目だあめええ!! 自殺行為なんて、お姉ちゃん、許しません!!」
「誰がいつてめえの弟になった!?」

ビームが直撃する刹那、ナナミが全速力で駆けよって、後ろから襟元を引っ張り、回避させたのだ。
その上避けた今になっても、心配なのかぐいぐい服を引っ張るのでトッシュの喉は圧迫されっぱなし。
不覚にも何度か意識が落ちかけた位だ。

「どうすんだよ、てめえのせいで俺の作戦台無しじゃねえか!!」
「大丈夫、わたしに任せて!! 最終奥義を使うから!!」
「最終奥義だあ!?」


そのことも合わせて邪魔をしたことを非難するも予想外の言葉を返されるトッシュ。
ふと、彼の脳裏に浮かんだのは師にして、ダウンタウンの皆の仇に成り下がったモンジの切り札。

――紋次斬り

かって習得できなかったあの技なら、この状況も打開し得る。
ナナミもまた、あれに匹敵する切り札を持つのだとしたら。

「……わかった、任せる」
「うん、ゲンカクじいちゃん直伝の技、見てたまげること間違いなし!」

会って間もない相手だが、不思議とトッシュはナナミの言葉を信頼できた。
何故かはわからない。
無鉄砲なところが似ているからかもしれないと、苦笑して。

「さあ、喰らええええ、必殺!!」
「ちょ、必殺!? 必ず殺すと書いて必殺!?
 ミミズだって、オケラだって生きているから超カッコいいんだトカ!!
 だから命を奪うのは超かっこ悪いってヘルプミー!!」

文字通りたまげることとなった。

「超絶荒唐無稽花鳥風月百花繚乱竜虎万歳拳!!」

ちょええーっと、ポーズを決め、はったりだと丸わかりな技名を叫びつつ、殴りかかると見せてUターン。
ナナミは唖然とするトッシュを無理やり引きずりつつ、撤退を開始する!

「こら、ナナミ! 逃げんな、あいつをまだ叩き斬っていねえだろ! っつうか、喉、喉締まって!!」

「古人曰く、逃げるが勝ちとかそうじゃないとか!!」
「それは我輩のセリフって、に、逃げるトカ? 諸君らが愛してくれた我輩ですぞ!?
 口笛吹いて、空き地に行ったとしても我輩ほど、ビックリするような英雄好漢とはもう、逢えないやもしれませぬぞ!」

ハッタリをばっちり真に受け、両の手で眼を覆い及び腰になっていたトカ。
勿論両手を眼を隠すことに使っていれば、魔導アーマーの操縦はできないわけで。
気付いた時にはもうナナミ達の姿は小さく、それでも諦めきれずに未だ使ったことの無いボタンをポチリ。

が、何も起こらない。

「何故にいいい!? ここは科学的に禁断の静寂を破って猛悪と驚異に彩られた破壊の象徴たる最終兵装が現れる場面のはずー!?」


そんなトカの断末魔(?)を背景に、ナナミと不本意ながらもトッシュは見事当面の危機を乗り越え、逃走に成功したのであった。


【B-7 草原 一日目 黎明】
【トッシュ@アークザラッドⅡ
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、若干の呼吸困難
[装備]:ひのきの棒@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品1~2個(未確認)、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:とりあえずナナミに同行する
2:基本的に女子供とは戦わない。
3:あのトカゲ、覚えてろ……。
[備考]:
※名簿は確認していません。よって仲間が参戦している事を知りません。
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未修得です。

【ナナミ@幻想水滸伝II
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品0~2個(未確認)、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:とりあえず、あのトカゲからこのまま逃げる。
2:施設を探して、現在位置を確認する。
[備考]:
※名簿は確認していません。よって仲間や弟たちが参戦している事を知りません。
※紋章の一つはフェロの紋章です。他の紋章に攻撃系のものはありません。


【B-6 草原 一日目 黎明】
【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:疲労(中)、尻尾にダメージ小。 科学的な武器ゲエエット!
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、魔導アーマー@ファイナルファンタジーⅥ
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)、基本支給品一式
[思考]
基本:リザード星へ帰るため、優勝を狙う。
1:他の参加者を殺し生き残る。
[備考]:
※名簿を確認済み。
※参戦時期はヘイムダル・ガッツォークリア後から、科学大迫力研究所クリア前です。
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーのバイオブラスター、コンフューザー、デジュネーター、魔導ミサイルは使用するのに高い魔力が必要です。

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001:ナナミ、『お約束』を学ぶ トッシュ 046-1:本気の嘘(前編)
ナナミ
015:Wild Lady,Strange Scientist トカ 051-1:エドガー、『夜明け』を待つ


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最終更新:2010年06月26日 20:27