『幽☆遊☆白書VSHUNTER×HUNTER…特別ゲスト薬屋のひとりごと』
(キャラ) 猫猫、ヒソカ=モロウ、神谷実
「えーと…ぶ、ブック?」
指輪を嵌めた後そう叫んでみる。
すると支給品の説明書の通り、本が現れた。
もっとも現れた本は普段仕事で触れているような目録などではなく。
何方かと言うと木簡程の大きさを収める薄い箱の様だと。
後宮の女官である薬屋────猫猫はそんな事を思った。
「本当に出てきた…」
今度は少し慣れた雰囲気で叫ぶ。
すると今しがたまで出ていた本は煙の様に消え失せて手元には何も残らない。
文字通り、種も仕掛けも無い妖術。もし自分が無邪気な童女なら目を輝かせて喜んだかもしれないが。
猫猫の場合は自分の理解が及ぶ範囲を遠く超えた話だと、白旗を挙げさせるに十分な怪奇現象だった。
見慣れない街並み。突然拉致された自覚も無く人攫いに攫われ、嵌められた首輪。
極めつけが茘国の人間ではないであろう人間に強制される殺し合いと、妖術。
「こんなの、しがない薬屋を呼んでどうしろって言うんだか…」
当然ながら、猫猫は武官などではない。武の心得何て覚えが全くない。
多少毒と薬に詳しく、また多少後宮での処世術と顔色を窺う世渡りを身に着けただけの医官もどきだ。
いや医術は畑違いなのでやはりただの女官か。
ともかくそんな自分が戦場に駆り出される。それが意味する所はつまり。
「ここで死ねって事ね」
何処か達観した面持ちで、猫猫は結論付けた。
死にたい訳じゃない。できれば死んでもいいと思えるまでは生きたい。
味わったことのない毒はまだまだあるし、生きていればこれからもいい事があるかもしれない。
だけれど自分の中の客観的な部分が、お前がこの殺し合いを生きて行けるのかと問いかけてくる。
その問いに対して、猫猫は自分で自分の生存の可能性を否定するしかなかった。
いっそ、知らない土地の知らない毒でも入ってたら良かったのに。
そう思って用意された荷物を漁ってみたものの、お目当ての毒物は何処にもなかった。
誰かに力づくで殺されるのは御免だが、毒によって殺されるなら猫猫はそれでもよかったというのに。
はぁとため息を吐いて、ぼんやりと猫猫は考える。自分が帰らなければ、後宮はどうなるだろうかと。
考えてバカバカしくて笑ってしまう。後宮だって、人死にと無縁な訳ではない。
いやむしろ策謀と死は身近な場所と言ってもそう的外れではないだろう。そんな場所で。
卑しい女官が一人消えた所で何か変化が起きようはずもない。
友人である小蘭や子翠は悲しんでくれるかもしれないが、それだけだろう───、
───猫猫。
いや、待て。
何故そこであん畜生(ジンシ)の顔を思い浮かべる。
普通そこは花街の姉たちとかだろうと、猫猫は自分で自分の思考回路に突っ込みを入れた。
この極限状況であんな意外と粘着質で腹黒で子供っぽくて面倒ごとばかり持ち込んできて。
無駄に整った顔をいつもキラキラさせている男を思い浮かべたら何か思う所があるようではないか。
「…無駄なこと考えるのはここまでにして、毒がないか探して見ますか」
もう半ば帰れないであろう場所の想像をしても虚しくなるだけだ。
ならもう少し前向きに、自決用の毒でもないか探そうと猫猫は思い立った。
暴漢に殺されるより、自分で毒を呷って死ぬ方がよっぽどマシな死に方だろうから。
…勿論、生きて帰れる見込みが見つかればそれに越したことはない。
微かな希望と、現実的な妥協案を胸に行動を開始しようとして───、
「君」
背後から呼び止められて、びくりと肩を震わせる。
だって、さっきまで近くに誰かいる気配なんて感じなかった。
誰か忍び寄っていないか、後ろには常に気を祓っていたにもかかわらず、だ。
「私に、何の御用で?」
「そう構えなくていいよ。僕は少し話がしたいだけさ……♥」
穏やかな声だった。
同じ殺し合いをしろと命じられているとは思えない程穏やかな声。
本能が警鐘を鳴らしていた。
この異常な環境で逆に平静を保っている者。あぁ、それは逆に何と異様で、不気味なのか。
緊張で少し声を強張らせながら、振り返りつつ名を尋ねてみる。
すると男はあっさりと応えた、フレンドリーに。微笑みさえ浮かべながら。
男の名は、ヒソカと言った。
◆
「…そう、それじゃ君は他の人間に会うのは僕が初めてなんだね♠」
「えぇ、他の人間にはまだ誰も」
顔のいい男だと、一目見てそう思った。
穏やかな所作に湯浴み直後なのか無造作に降ろされ、けれど不思議と整って見える赤みがかった髪。
格好は茘国ではまず見ない変わった装束で、けれどヒソカが纏えば不思議な気品を伴っていた。
その雰囲気はどこか壬氏に似ている気がした。主に顔がイイのと腹黒そうな部分で。
「そうか、なら僕も教えられることはなさそうだし、これでサヨナラだね♧」
「……私を殺すつもりですか?」
どうせ取り繕った所で、本人がその気なら猫猫にはそれを阻む術はない。
だから単刀直入にヒソカに尋ねた。やるなら一思いにやってくれと、そう頼むつもりだったから。
だがヒソカは猫猫の言葉を肯定する事はなく、何故そんな事を尋ねる?と問いかけてくる。
「いえ、何となく貴方、にこやかに握手した手とは逆の手で握手した相手の首を掻き切りそうと思った物で」
「歯に衣着せないね。否定はしないよ♦」
否定しないのかよ。そう思う猫猫に対して、
ただ僕は君を殺すつもりはないし、ひとまずこの殺し合いに乗ってもいないと、ヒソカは断言して見せた。
もっとも、その言葉が信用に足る物かは非常に怪しく、猫猫は訝し気な視線を向ける。
「勿論それしか手段がなければ降りかかる火の粉は払わざるを得ないが…
集団戦闘(パーティープレイ)は趣味じゃないし、死人に興味も無いんだ♥放っておけば死ぬ相手を態々殺す意味もないだろ♦」
「………そう、ですか」
心中を見透かされ、存在を全否定された気がして。
けれどその言葉を否定する事も出来ず、猫猫は言葉に詰まってしまう。
それを確認した後、ヒソカは少し肩をすくめて立ち去ろうとした。
その時の事だった。
ドギュン。
悪寒が走る。
その感覚は猫猫のみならず、ヒソカすら同じだった。
まるで得体のしれない生き物の住処に不用意に足を踏み入れた様な、そんな不吉な予感。
だが、本当の悪寒が襲ってきたのはその直後の事だった。
チクリ。という小さな痛みがヒソカの掌、猫猫の首筋に走る。
「痛…ッ」
「成程……♥」
猫猫が反射的に声を上げ。
ヒソカが驚きと期待を孕んだ声を漏らす。
それを切欠として、二人は同時に地面に膝をついた。
体中に走る痛み。悪寒。吐き気。がたがたと突然水風呂に入れられた様な寒気。
(これは、毒……?)
であれば、自分の耐性を完全に貫通する未知の毒と言う事になる。
地面に倒れ伏しながら。
朦朧とした意識の中で猫猫はその事実を認識した。
◆
皆殺しだ………ガキも………女も………
神父も…………妊婦も…………墓でこの世を埋めてやる………
掘っても掘っても足りないくらい…………
全ての人に墓を掘る………
俺達七人で墓を掘る…………
◆
塩化ビニル樹脂のタイルをコツコツと音を立てながら突き進む。
既に今いる施設───病院の地図は頭に入れた。
下手人のいる位置も凡そ割り出せている。後は毒で動けなくなるまでに下手人を血祭りにあげるのみ。
「うう……き、きみ………」
一階、の近辺まで来た所で。
頭から血を流した男がずるずると這い寄って来る。
白衣に袖を通し、丸眼鏡をかけた人畜無害そうな黒髪の男。
病院と言う場所柄もあり、医師である事は見て取れた。
「さっき……大男に急に襲われて…………」
弱弱しく手を震わせながら、医師と見られる男は手を伸ばしてくる。
そんな怪我人の救助要請に対して。
"奇術師"の対応は明快な物だった。
「そうかい、じゃあ楽にしてあげるよ♠」
言葉と共に、ヒソカは正拳を放った。
躊躇も迷いも存在しない一撃。恐らく猫猫が見れば、毒に犯されていなくともヒソカの手が一瞬消えた様に映っただろう。
それは寸分の狂いなく白衣の男に吸い込まれ……廊下の奥まで彼の者を吹き飛ばした。
その際男の胸元についていたネームプレートが吹き飛び、『神谷実』と銘打たれたそれをヒソカは一瞥する。
「……何故分かった?」
「理由は2つ、君が病魔に犯されている様子がなかったこと。もう一つは守衛室の方向から現れた事♥」
この状況で病魔に犯されていない人間が、監視カメラの映像を確認できるセキュリティルームから出てきたとなれば。
例え濡れ衣であっても疑わしきは罰せよ。そう判断するには充分だった。
皮膚に斑模様の病紋を浮かび上がらせながらも、ヒソカは不敵に語り微笑んだ。
「くく……ッやはり俺は『医者(ドクター)』であって役者じゃあないな」
プロのハンターですら受ければ一撃でKOされるヒソカの一撃を受けて。
しかし笑みすら浮かべる余裕を纏いつつ、医者(ドクター)と呼ばれる領域(テリトリー)を持つ男。
神谷実は周囲に夥しい数の蜂と蠅の複合の様な怪虫を伴い立ち上がる。
「俺の念でできたウイルスを受けながらまだそれだけ動ける当たり……アンタも俺と同じ様な能力者らしいが……もう終わりさ」
病院の敷地内丸々一つを覆える範囲の領域(テリトリー)で生み出されたウイルス虫。
それに刺されれば、無能力者であれば10分程で死を迎える。
例え能力者であってもまともに戦闘が可能な状態ではなくなるし、遠くない内に死に至るのには変わりはない。
刺された時点で勝敗は既に決しているのだ。
「……78点♦」
だがヒソカは窮地に置いてやはり微笑むのみだった。
自棄になったわけではない。何か手の内を隠していると確信させる笑み。
面白いと神谷は興が乗り、ヒソカを素手で解剖するべく駆け出す。
彼の膂力、そして指先は胴体すら容易く切り裂くメスへと変貌している。
「素手で解剖してやるぜぇええあああああああああッ……ブッ!?ブブッ!!ガハッ!!!ぐげあああッ!!」
毒に犯され、人体を容易に切り裂く猛攻に晒されながら。
しかし奇術師ヒソカは一発として致命の一打を受ける事は無かった。
逆に神谷の人体を効率的に破壊できる知識を伴った毒手の雨を掻い潜り、カウンターさえ決めて見せたのだ。
3発、4発と拳打を浴びせて、神谷を廊下側面の壁に叩き付ける。
「くっ………くくくくくく………」
常人ならば内臓が破裂して死んでいてもおかしくないヒソカの”練”を籠めた反撃を確かに受けたものの。
神谷の表情にあるのは痛苦ではなく、愉悦の笑みだけだった。
何故なら彼の医者(ドクター)の能力は殺人ウイルスの媒介だけが脳ではなく。
「能力に目覚めて直ぐ、身体能力をめちゃめちゃに高める技術を身に着けた。今の攻撃も脳内麻薬のお陰で気持ちいいくらいだよ」
もっとも、今のアンタの攻撃はそれを加味しても軽かった。
薄ら笑いを浮かべちゃあいるが、本当は立ってるのもやっとなんだろ?
勝利を確信した笑みを浮かべながら、神谷は白衣についた埃を払いながらヒソカへと指摘を投げつける。
「君の見た僕の姿の通りだよ♠」
ヒソカは表情を崩さない。
相変わらずの微笑を浮かべるのみ。
そして彼は語った。自分は毒に耐性がある体質だと。
少しばかり解毒に時間がかかっているものの、もうすぐ完了すると。
「みえみえのでまかせは見苦しいぜ」
「では、でまかせかどうか──お見せしよう……♦」
言葉と共に、ヒソカが踏み込む。
その速度は先ほどまでと変わっていない。いやむしろ落ちてさえいる。
やはりハッタリか……神谷はそう判断し、ヒソカの攻撃をいなし切り刻もうと反撃の姿勢を取るが───
ゴッッッ!!!!
直後に自身を襲った衝撃と痛みを理解できたのは。
神谷がヒソカが歩いてきた廊下の奥に吹き飛ばされてからだった。
唾液をまき散らし、苦痛を示す声すら間に合わずもんどりうってぶっ飛ばされていく。
(………!?!?………?………い、一体何が………俺は、殴られたのか?)
脳内麻薬の調整により人間を超えた反応速度となっている神谷ですら、一体何が起きたのか分からなかった。
拳を突き出し、悠然と佇むヒソカを視界に捉えてようやく、自分が殴られたのだと認識が追い付く。
おかしい。先ほどの一撃は明らかにさっきよりも明らかに重かった。手加減していたというのか?
いや、踏み込み自体は先ほどまでと同じ速度だった。だが拳の重さは比較にならない。
混乱が脳内に渦巻く中、冷静になれと神谷は思考を巡らせる。
(落ち着け……俺のウイルスがそんなに早く快癒するはずがない。さっきのパンチも……妙な感覚だった)
壁にもたりかかりながら何とか身体を起こし、先ほどの攻撃の微妙な違和感を想起する。
先ほどのパンチ。確かに重かった。重かったのだが………
虚を突かれたのでは説明にならない、妙な感覚があった。まるで"引っ張られ、引き寄せられた"ような……
奴もまず間違いなく能力者、何か種があるはずだ。
神谷がそう結論付けるよりも早く、ヒソカから声が上がった。
「おや……どうやら君のウイルス───もう治りかけているみたいだね♥」
「……ッ!?」
馬鹿な。
目を見開いた神谷の口から漏れたのはその一言だった。何故なら。
先ほどまでヒソカの皮膚を覆っていた黒死病(ペスト)のようなまだら模様が消え失せ。
元の瑞々しい血色の肌に戻りつつあるのだ。
(な……こいつ………まさか、本当に)
あり得ない。
ある程度本人の体質や抵抗力で行動が可能だったとしても。
自然界に存在しない自分の念ウイルスが完全に解毒されるなど。
いや、もしや。そう言った領域(テリトリー)の能力だとすれば?
「そろそろ君の底も見えてきたかな♦」
「ぐ………!」
薄ら笑いを浮かべ、ヒソカが歩み寄る。
考える時間を与えてはくれないのは明らかだった。
彼の奇術師の表情は、獰猛な殺意に歪んでいる。
それを垣間見た神谷の脳裏に、選択が迫られる。
このまま自分の能力を信じ戦うか、それとも撤退するか───、
うぅ………、
うめき声を漏らしながら。
第三の選択肢がやってきたのは、その時の事だった。
現れたのは、未だ肌を毒々しいまだら模様に染め上げた和装の少女。
これだ。神谷は即座に決断を下す。
───いい所に来てくれた、お嬢さん。
元々腕力で優れるとは思えない華奢な肢体の上、ウイルスの影響で弱っている小娘。
今の神谷には赤子の手をひねる如く簡単に捕える事ができた。
そして此方に歩み寄ろうとしていたヒソカに、動くなと声を張り上げ命令する。
動けば、この女の首をへし折ると。
「その子はこの場で初めて会ったばかりで、僕が配慮する必要は微塵もないよ♧」
「どうかな……?なら、このまま攻撃してみるといい。さっきのパンチを撃って見せろよ」
ぐ……と、意識を失わない程度に現れた少女の首を二の腕で締め上げ、神谷は誘う。
ヒソカが女ごと攻撃しようとしまいとどうでもいい。肝心なのはヒソカがウイルスの解毒に成功したのが真実かどうか確かめること。
本当であれば少女を盾に逃走ないし少女を盾にしたまま突撃し、ヒソカを切り裂く。
嘘であればこのままのらりくらりと時間を稼ぎ、ヒソカが真実戦闘不能になるまで時間を稼ぐ腹積もりだった。
「だが……アンタは見た所腕も立つし頭もキレるようだ。俺としてもこんな序盤にアンタと本気で戦うのは危険を伴う。
だからどうかな?もしこの小娘がどうでもいいならここを立ち去ると良い。そうすればウイルスは解除してやるよ………」
「ふむ。僕が立ち去ればその子はどうする?殺すのかい♠」
「ああ殺すよ。俺の能力の実験台になって貰う。けど構わないだろ?だってアンタは俺と同じ人種とみたね」
神谷から見たヒソカの印象は自分と同じ何人死人が出ようと構わず、屍の山の上で笑っていられる人間だ。
それに加えて、この誘いにヒソカが乗ればやはりウイルスを解毒したのはブラフである可能性が濃厚になる。
乗った瞬間猫猫を盾にヒソカを殺す……!その意志の元、神谷はヒソカの反応を伺おうとした。
だが、ヒソカが返答を行うよりも早く、和装の少女が神谷に向けて口を開く。
蚊の鳴くような声で、なぜこんな真似をするのか。あの森口と言う女が約束を守ると思っているのか、そんな旨の言葉を彼女は述べた。
「俺にはやらなきゃいけない事があるのさ……地上で最も醜い生き物を……人間全てを殺す」
俺は自分の死に方を決めかねて今まで生きてきた。
時間に殺されるのも病気に殺されるのもまっぴらだ。
だが……この殺し合いで死ぬのも悪くない。優勝したら全ての人間を殺すよう願うのもいい……
そんな狂った自殺願望じみた己のスタンスを、神谷は時間稼ぎも兼ねて少女に朗々と語った。
「そう、ですか。じゃあ……やめました」
「あ?」
和装の少女は絞り出すような声をまた漏らして。
けれど、次に発した声ははっきりとした意志を伴った物だった。
声と共に腕を振り上げる。
───貴方の毒で死んであげるのは。
死にたいなら一人で死ね。それが和装の少女───猫猫の神谷の思想に対する回答だった。
びしゃりと神谷の顔に液体が叩き付けられたのは、猫猫が腕を振り上げた直後のこと。
完全に不意を打たれた影響で、神谷はそれを飲みこんでしまう。
経口摂取した量はほんのひと口分の量であったが、異変はすぐさま現れた。
「ぐ、おおおおおお……ッ!!」
神谷は腹を抱えて後退する。
襲ってきたのは猛烈な腹部の痛み。
それもその筈。今しがた彼が猫猫の手によって飲まされたのは。
魔獣猛獣に対処する狩人(ハンター)を志す新人を潰すことに数十年という時間を費やしてきた、トンパという男が拵えた超強力な下剤入りジュース。
一口飲めば3日はウンコが土石流のように止まらなくなる代物だった。ハンター(志望)って凄い。
「ちぃいいッ!」
すぐさま脳内麻薬の分泌成分を調整し、便意と腹痛を止めるものの。
その一瞬のスキをついて、腹部目掛けて衝撃が走った。猫猫が体当たりしたのだ。
元々腹部からの痛みで拘束が緩んでおり、更に脳内麻薬の調整に意識を割いていた所に受けた想定外の衝撃。
馬鹿な、ヒソカならばともかくこんな小娘にまで。驚愕と共に神谷は猫猫の脱出を許してしまう。
「キャッチ♠」
そして脱出した猫猫を、ヒソカはまさしく子猫を扱うように受け止める。
その時彼が浮かべている表情は、こうなる事が分かっていたかのようなアルカイックスマイルだった。
───もっとも猫猫が腕の中に納まり、彼女から表情が見えなくなると。
その笑みは嗜虐心と異常性に満ちた、神谷すら怖気が走る殺人鬼の表情へと変貌する。
「さて……終わりにする頃合いかな♦」
そう言って、ヒソカは再び神谷に歩み寄ろうとする。
不味い、と。神谷は咄嗟にそう思ってしまった。
ヒソカが自分のウイルスを克服したというのはブラフだろうと踏んでいたのだが。
先ほどの猫猫の体当たりによってその認識が揺らいでしまう。もし森口と言う女が何か自分の能力に細工を行い、
その結果、医師の能力が弱められていたとしたら?
「ま……待て、落ち着け。此処に血清がある。これを使えば俺のウイルスを治療できる。これをやるから───」
「それはこれの事ですか?」
白衣から取り出したアンプル。
そこに詰められた偽の血清を掲げて。苦し紛れにヒソカの注意と油断を誘い殺そうとした矢先。
先んじて猫猫が声を上げる。彼女の手には、神谷が持っているものと同じ血清があった。
体当たりで脱出する際、ポケットからスっていたのか。
慌てて確認する神谷を尻目に猫猫は蓋を開き、中に入っていた粉末を一舐めして。そして一言。
────これ、毒です。
────OK…信じよう♥
猫猫が言い終わるのと殆ど同時に。
ヒソカと神谷、両名が弾かれた様に行動を開始する。
ヒソカは腕を振りかぶり、神谷はバックステップで後退。廊下の角まで逃げ去ろうとして。
しかしそれが叶うよりも早く、ドスドスドス!!と。
神谷の全身に、10枚以上の刃物が突き刺さった。
否、突き刺さったのは刃物ではなく。何か……目を凝らさないと見えない領域の様な力に包まれた医療用カルテだった。
「く………くくくく」
全身に鋭い刃物が突き刺さり。まごう事無き敗北を喫して。
それでも仰向けに倒れる最中の神谷の表情に絶望は無かった。
再度壁にもたれ掛かりながら、ぼそりと呟く。
「保険を打っておいてよかったよ………」
ヒソカがトドメを刺さんと疾走するが、それよりも早く。
ヒソカと猫猫。両名の身体が光に包まれる。
その光にヒソカは見覚えがあった。負けた時の隠し札として残しておいたのだろうと合点が行く。
「呪文(スペルカード)か♧」
最後に一言の呟きだけを残し。
ヒソカと猫猫の二名は、猛烈な光の力に身体が吸い寄せられ病院の勝手口から外へと排出される。
斯くして、その場には神谷だけが残された。
◆
医師(ドクター)の能力は殺人ウイルスの散布と、身体能力の強化だけではない。
外科医療まで範囲は及ぶ。
それを示す様に神谷はヒソカによって付けられた裂傷のことごとくを縫合していった。
彼が指先を走らせるたびに、ぱっくりと避けていた皮膚が元通り繋ぎ止められていく。
「……よし」
手洗い場の鏡で傷が完全に塞がったのを確かめ。
次いですっかり元通りになった身体の具合を確かめながら、神谷は笑みを浮かべた。
その後喉の奥に手を突っ込み、ツボをついておええと嘔吐する。
先ほど飲まされた下剤を吐き出すためだ。
「全く……消化器官の弄り方も練習せねばならんな」
ジャー、と音を立てて吐き出した吐しゃ物を洗い流し。
手早く血で汚れた白衣を新しいものへと取り換えていく。
汚れた白衣は手早く詰まらないサイズまで切り刻み、トイレに流す。
そして新しい白衣に袖を通し、野暮ったい眼鏡をかけなおせば元通り。
鏡の向こうには、優しい神谷先生の姿がそこにあった。
「まだ……傷ついた人間を受け入れる優しい神谷先生でいたいからなぁ………」
そう言いながら、神谷はその手のダイスを振るう。
リスキーダイスと呼ばれる5%の確率で使用者に破滅を齎し、95%の確率で使用者に幸運を齎す賽子。
神谷は予めこれを振るい、大吉を出す事で歴戦の念能力者であるヒソカへの奇襲を成功させたのだった。
20回に一度は破滅する確率のそれをもう一度躊躇なく振るい───出た出目である『大吉』の文字を見てほくそ笑む。
排除(イリミネイト)のカードも早々に使ってしまったのは痛手だが、複製(クローン)のカードでもう一枚残っている。
まだまだ……生ある限り、人類の抹殺のために働く事ができそうだ。
欲望は果てしなく、何でも喰らい。何でも殺す。
挙句の果てに自らの身体を壊して病院で肉の塊になる。
「そうだ。そいつらを殺せるなら俺は、俺が死んでも構わない」
全ての人に墓を掘る………
俺達7人で墓を掘る………
【神谷実@幽☆遊☆白書】
[状態]:ダメージ(小)、全身に裂傷(処置済みのため行動に支障なし)、大吉状態。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、リスキーダイス&排除(イリミネイト)のカード@HUNTER×HUNTER、ランダム支給品×0~1
[思考]:皆殺し。優勝したら人類滅亡でも願う。
1:次は医師として優しい神谷先生を演じる(ステルスマーダー)のもいいかもな。
2:ヒソカと猫猫は次に会ったら始末する。
真実を述べると、ヒソカは神谷実の医師の能力を克服も無効化もできていた訳ではなかった。
重い一撃を放てたのは、ガムとゴムの性質を持つオーラである縮自在の愛(バンジーガム)の引き寄せで。
肌を元通りに見せかける事ができたのは、あらゆる質感を再現する薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャ)で。
後はヒソカ自身の詐術で、神谷を精神的に追い詰めてみせた。
しかし念能力者同士の戦闘に置いて、相手の殺害はイコール勝利を意味しない。
死後強まる念という、術者が死亡して威力を増す念能力が存在するからだ。
だからヒソカは神谷を迂闊に殺すのは不味いと踏んでいた。
それ故に彼は、自身の"発"である伸縮自在の愛(バンジーガム)で神谷を拘束し。
窒息させることで、能力の解除を誘発しようとしていた。
死とは違い、大半の能力が使用者の意識の喪失で解除される場合が殆どだからだ。
「ま、何事にも例外はあるから、距離で解除されるのが分かったのは収穫だったね…♠」
「私としては毒を用意したのがあんなのじゃなければ、死んであげても良かったんですけど」
「毒の効果が薄かったのは体質かい?」
「えぇ、これでも毒物に関しては目がないので」
べ、と舌を出しつつ、事も無げに猫猫はヒソカに告げる。
それを聞いてフッとヒソカは微笑を浮かべ。
今度こそ別れようと、踵を返そうとする。
猫猫がヒソカを呼び止めたのは、その時の事だった。
「できれば、もう少し生きていたくなりました」
いや、元々できる事なら生きて帰りたかったけれど。
もしここで死ぬにしても、ああいう未知の毒で死にたい。
だから、それを見つけるまで私に協力してくれませんか?
そう猫猫は持ち掛けた。
「………君の頼みを聞く、僕への見返りは?」
「ブック!」
猫猫は先ほど、病院から飛ばされる時。
ヒソカが神谷の使ったカードが何であるか、知っている反応を見せていた事に気づいていた。
それならば、自分に支給されたこの本とカードに交渉材料としての価値が生まれる。
「貴方ならこれが何であるか知っているでしょう。中に幾つか呪(まじな)いの札が入っています。
私に協力してくれるのであれば中にある札を使ってもらって構いません。後は私にできることがあれば」
正直に言って交渉材料としては弱い。
交渉を持ち掛けている猫猫すら、その自覚があった。
だが、現状の自分には差し出せる物がこれしかない。
人生は、配られた札で勝負するしかないのだ。そう自身に言い聞かせながら、ヒソカの反応を待つ。
彼の答えは、ある意味猫猫の予想を裏切るものだった。
「いいよ。僕の行動を制限しない事……それが守れるのなら構わない♥」
「……意外ですね。てっきり殺して奪い取ると言うかと」
別に、単なる気まぐれさ。さっきまでの君だと断っていたけど…
今の君の雰囲気が、知り合いに少し似ているからね。
と、ヒソカは猫猫にそう答える。
「……ちなみに、それはどんな方で?」
「活動は主に盗みと殺し、偶に慈善事業もする盗賊♥」
「…………」
「あぁ、もし自分で報酬が弱いと感じているなら、仕事を終えた後に食事でも………」
「あ、そう言うのは結構です。私的に交友を深めたいわけではないので」
「………♠」
【猫猫@薬屋のひとりごと】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、トンパの下剤入りジュース×2@HUNTER×HUNTER、
本(ブック)&G.Iカード×5@HUNTER×HUNTER、ランダム支給品×0~1
[思考]:脱出の手段か、未知の毒が欲しい。
1:さしあたってヒソカと行動する。壬氏はここにいないだろうな…
2:さっき会った医官(神谷)の毒に殺されるのは願い下げ。
【ヒソカ=モロウ@HUNTER×HUNTER】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0~3
[思考]:脱出の手段を探す。集団戦闘では興奮できないからね…♥
1:脱出に役立ちそうな人材か、玩具を探す……♦
2:脱出の手段がなければ仕方ないが…僕も振りかかる火の粉は払わざるを得ない…♠
【本@HUNTER×HUNTER】
付属の指輪を嵌め、「ブック」「ゲイン」と呼称する事で出し入れする事ができる。
グリード・アイランドのカードを出し入れできるバインダー。この島では念能力者以外も使用可能。
100種の指定ポケットカード、45種の呪文カードの管理が可能。
猫猫に支給された時点で複数枚のカードが入っている。詳細は後続の書き手にお任せします。
【トンパの下剤入りジュース@HUNTER×HUNTER】
3本セットで支給。
新人潰しのトンパと呼ばれるほど、毎年ハンターを志望する新人達を潰してきた男・トンパが作ったジュース。
味も色も無味無臭だが、一口飲めばウンコが3日は土石流の様に止まらなくなる(原文ママ)。
ただし、味覚が鋭ければ腐っていると味に違和感を覚える事が可能。
また、幼少期から毒物に対する訓練をしてきたような相手には通用しない。
神谷もまた脳内麻薬の調整で便意を無効化できたが、咄嗟にそれが行えるほど能力に目覚めて間もなかったため、
強烈な腹痛は暫しの間感じてしまい、猫猫の脱出に繋がった。ありがとうトンパさん…!
最終更新:2026年07月21日 20:16