『スタア誕生』
A long time ago, the Jaegers vanished into history...
(遥か昔、イェーガーズは歴史の闇へと消えた……)
◆
エピソード XII
『“帝都”の逆襲』
帝都の特殊警察イェーガーズに代わり、
新たなる警察組織が結成された。
時は、帝都の新たなる時代。
その名は、『ワイルドハント』。
その飢えを満たすため人を斬り続ける剣士、イゾウ。
さらなる研究のため人の命を弄ぶ女錬金術師、ドロテア。
道化師の姿で幼い子供を付け狙う殺人鬼、チャンプ。
己より弱き者を力で踏みにじることを何より愉しむ海賊、エンシン。
その微笑みの裏に残虐な本性を隠す歌姫、コスミナ。
そして彼らを率いるのは、帝国最高大臣オネストの血を引く男──シュラ。
帝都を守るという『正義』の下、
彼らに許されぬものはない。
富も、酒も、快楽も。
欲しいものは、欲しいだけ手に入れる。
もはや、それを咎める者はいない。
そして今宵もまた。
『眼鏡の歌姫』が、新たな獲物を求めて夜へ繰り出す……。
「あ! 早速いい男、はっけ~~~ん♡ ……今夜のコスミナちゃん、ついてるかもぉ♡♡ いっきま~~~すっ!!」
□
副題
『シスの復讐』
□
………
……
…
◆
月光さえ、ディスコボールの残光と見紛うほどに白々しい夜だった。
仄甘い香気の漂う大自然公園。
その一角に置かれたベンチに、男女が二人、肩を並べて腰掛けている。
男と女。二人きり。月夜の公園。
条件だけ並べれば、なるほど。
ロマンティックな逢瀬のひとつくらい始まって然るべき舞台ではある。
「じゃあですよ。マスターは優勝したら、どんな『願い』を叶えるんです?」
「…………」
──無論、ここが『最後の一人を決めるための場所』でなければ、の話だが。
「……何を、読んでいる」
「はい。夢野久作、『ドグラ・マグラ』です。なにせ一読すれば気が狂うようで」
「……。……ならお前には丁度いいのだろう」
「……なかなか言いますね、マスターは」
恋を語るでもなく、肩を寄せ合うでもない。
ただ、紙の擦れる音が──一頁。
ペラリ──。
眼鏡をかけた文学少女は、何事もなかったように頁をめくった。
「……で。そんなに答えたくないんですか? 願いの話」
「……」
「弟さんのこと。マンダロアのデス・ウォッチ。犯罪組織を束ねていたこと。断片的に聞いただけでも、随分な野心家だったようですが」
「……俺も落ちたものだ。お前に喋りすぎた」
「人間味があっていいじゃないですか。私は好きですよ。……皮肉ではなく」
──ペラリ。
これで、二頁目。
対して、隣に座る『赤鬼』めいた屈強な男は、呆れたように視線を落とした。
彼の憎悪めいた眼光に射抜かれるのは、二人の間に鎮座する「名産品の箱菓子」。
どうやらこの男、見るからに『甘ったるいもの』とは相容れないらしい。
「……奴らに叶えてもらう願いなど、ない」
「……ない?」
ふと、少女の頁を繰る指が止まる。
男は、その空白を拾うことなく続きを口にした。
「主催者が俺に何を望んでいるかなど知ったことではない。俺は生き残り、奴らの思惑を見極める」
「……」
「殺し合いを望むなら、好きに望ませておけ。俺がそれに従う理由にはならん」
「銀河の裏社会を束ねた方とは思えない慎ましさですね。好感度アップです、マスター」
「……くだらん催しに、何を望めという」
──ペラリ。
そしてまた、三頁。
いや、とうに何頁目かなど数えてはいない。
眼鏡、その薄い硝子の向こうを、『──棚から牡丹餅と言うが、牡丹餅ほど庶民臭く野暮ったるい味は──』などと偏った奇文が横切った、その時。
ぱたん。
彼女は、苦虫をゆっくり味わったかのような渋面を浮かべつつ、次なる一頁を求める代わりに箱菓子へ手を伸ばした。
「では、お言葉ですがマスター」
「……何だ」
──ぺしん。
「あうっ」
そして、当然の帰結。
つまみ食いを咎められた猫よろしく、伸ばした手を叩かれた少女は、右手を引っ込める。
「……。いいですか。従順に殺し合って、最後まで勝ち残って、ご褒美をいただく。……そんな忠実な殺人騎士、あなたには似合わないかと」
「……知ったような口を利くな」
「すみません。……では、謝りついでにもう一つ」
「……」
その間にも、少女の未練は箱菓子へ向いたまま。
箱菓子とマスターを交互に見比べ、ひどく残念そうに一度だけ瞬いた。
殺し合い開始から、早二時間。──死にゆく者も、既に分刻み。
少女と赤鬼。傍らには、未開封の箱菓子がひとつ。
マスターだなんだと、恐らく師弟関係であろう二人は、デートスポットであるこの場所など意にも介さず。
先程から、聞けば聞くほど物騒な話題を展開していた。
なにせ、黙って聞いていればこれだ。
「私とマスターが妙に馬が合う理由。……たぶん、お互い『ヴィラン属性』だからなんですよ」
「……」
「マスターも私も、世間から冷たい目で見られ、正義とやらから冷や飯を食わされる側です」
「……洒落た言い回しだと思うな。……それで、何が言いたい」
ヴィラン──『悪役サイド』。
なるほど、マスターの方については異論の挟みようもない。
真紅の肌に、禍々しい角。腰には赤き光刃。黙って座っているだけでも、善良な市民なら道の反対側へ渡る程度の説得力はある。
問題は、もう一人。
眼鏡をかけ、制服を纏い、頭頂では一本のアホ毛をゆらゆら揺らしている少女まで、その同類であるらしい。
「だからこそです。……『悪』って、誰かに命令されてやるものでしたっけ。……悪って」
「……」
──もっとも。
──彼女が語る『悪』とは、見てくれや肩書きだけの話でもないようだが。
「少なくとも私は、違うと思います」
「……誰にも、従わぬと?」
「はい。少なくとも、私は」
「…………」
返答はない。
先ほどまでならば、奇妙な戯言の一つとして切り捨てられていたはずの言葉。
だが今度ばかりは、そうもいかなかったのか。
マスターは腕を組んだまま、少女を見据えている。
それは、傍らの箱菓子さえ存在を忘れられるほどに。
二人の間には静かな時間だけが流れていた。
「──あ。……考えてみれば私、日頃から誰かさんの指示で右へ左へでした」
「…………。……それで、『悪は、誰かに命令されてやるものなのか』。引用元はどこからだ」
「ドグラマグラです。……さすがはマスター、フォースで読み取りましたね」
「……愚か者が」
──ぺしん、──「あうっ」。──二度目。
沈黙など、少女の妙なペースと、隙あらば箱菓子へ伸びる右手によって、呆気なく霧散したものだが。
────参加者No.008。ダース・モール。
「……くだらん」
そして、その傍らにいる、見るからに華奢な自称・弟子。
────参加者No.087。謎のヒロインX[オルタ]。
「そうですか。では、くだらないついでにもう一つ。……マスター、少し星の話をしても──」
「あぁぁ~~~~~っ♡♡♡♡♡ いたぁ……っ♡ いたいたいたぁ~~~っ♡♡♡」
「え?」 「──ッ」
──参加者名簿を眺めた時から、目星はつけていた。
この殺し合いにおける初陣を飾るには、まさしく絶好の──『カモ』。
「たまらないっ……!♡♡ その鋭~~い目つき! 真っ赤なお顔! それにぃ……その、はにかんだ笑顔ぉ……♡♡♡」
「え?(はにかんだ笑顔……?)」
「……」
「マ、マスターさん……ですよねぇ~~~?♡ ね、ね♡ ちょ~~っとだけ私とぉ~~、──」
「──『オハナシ』、しません~~?♡♡」
────歌姫。
────コスミナが『最初の舞台』を上げるなど、時間の問題であった。
………
……
…
◆
「Xオルタちゃん……長いし、今日から『えっちゃん』ね♡ えっちゃんって、剣使いなんですね~~! イゾウさんとおんなじだぁ~~♡」
「……」
声の主は、二人から幾らか距離を置いて立つ女──コスミナ。
今やベンチから立ち上がったXオルタらと向かい合い、さも旧知の仲であるかのように馴れ馴れしい笑みを浮かべている。
その折、どこから迷い込んだものか、一匹の『カマキリ』がコスミナの肩へちょこんと降り立った。
「剣を振り回す人ってぇ、なんだかカマキリみたいですよね~?」
「…………」
「でもぉ、知ってますかぁ~? こ~んな立派な鎌を持っててもぉ……『蜘蛛の巣』にかかったら、手も足も出ない♡」
歌姫は驚きもせず、肩のカマキリを横目に、ちょうどいい小道具を得たとばかりにくすりと笑う。
「私ぃ、昔は『蜘蛛の女』とかぁ~~……そんな感じで呼ばれてた気がするんですよねぇ♡」
「……蜘蛛?」
「そう♡ 一度歌えば、引きつけてぇ……絡め取ってぇ……──」
そう言って、何でもないように肩へ手をやり、
「──もう二度と離さない。……なぁんて♡」
パシッ──。
まるで取るに足らないものでも扱うように、その『カマキリ』を払い落とした。
「…………」
先ほどからコスミナの視線を独占している者は、ただ一人。
──ダース・モール。
遠慮も慎みも、そもそも隠す意思さえない。
気に入った商品でも品定めするように、ねっとりと、何度も。
コスミナは『獲物』となった男を、視線だけで舐め回す。
“『蜘蛛』”──。
“手も『足』も出ない”──。
「……」
Xオルタは、何も気づかなかったことにした。
「…………。マスター。何か言いたそうですね」
「……何もない」
「そうですか。では、そういうことにしておきます」
正確には──あえて、『我が師』の顔を見ないよう努めた。
代わりにその視線は、地面でぴくぴくと震えるカマキリへ、一瞬だけ落ちる。
それから、何事もなかったように前へ戻る。
前方。コスミナは『クロメのおかし』なる丸菓子を、舌先で弄ぶように舐めている。
唇から離せば、「ぷはっ♡」と吐息が漏れ、濡れた菓子との間に細い糸が引いた。
先程まで、執拗なまでに箱菓子へ手を伸ばしていたXオルタである。
たとえ唾液塗れだろうと甘味とあらば目を奪われそうなものだが、今ばかりは違った。
「………………」
──少女の目から、気怠げな色が消える。
Xオルタの眼鏡。
その奥の瞳が見据えるは、目の前の異様な『殺人者』──コスミナのみ。
そして、その手に握られた、一本の『マイク』のみ。
「じゃ、決まりですねぇ♡ ……ね、えっちゃん。約束ですよぉ? もし負けちゃったらぁ~~……モールさんは、そのまま私がいただきま~~す♡♡」
「……面倒ですね。マスターは物品でも、勝者特典でもないというのに」
Xオルタは、未だ光を宿さぬ『邪聖剣ネクロカリバー』を構え、──歌姫のマイクと一直線に重ねた。
──さて、時計の針を少しばかり戻そう。
剣とマイクが向かい合うまでの顛末は、ほんの数分もあれば事足りる。
好みの男は欲しい。できれば生きたまま欲しい。
しかし、ここは殺し合い。そして彼女は『ワイルドハント』である。
気に入った男だから殺せないなどという殊勝な倫理観は、持ち合わせていない。
欲望と殺意。
──両方『やれば』いいのである。
ちなみに、コスミナのマイクは愛用の帝具『大地鳴動ヘヴィプレッシャー』。
その性能を得意げに語り、モールへウィンクまで飛ばしたところで、Xオルタはふと疑問を挟んだ。
“……よく分からないけど。あなた、『こっち側』なんだよね”
“だったら『ヴィラン』同士、潰し合わない方が効率的じゃない?”
“まして、まだ始まったばかりなのに”
だがコスミナの反応は、僅かに首を傾げただけ。
Xオルタの問いが傾けた頭をすり抜け、そのまま後ろへ抜けていくのを見送るように、こう答えた。
『え?』
『悪い子同士だからって、仲良くしなきゃいけない決まりなんてないじゃないですかぁ~!』
──そして現在。
剣とマイクを挟んで向かい合う二人の間に、先ほどの問答の続きが落ちる。
「……」
「それにぃ~殺したい時に殺すのが、一番『悪い子』ですもんっ!──」
「──というわけでぇ♡ えっちゃん、そろそろ始めちゃいましょ~~?」
「……そう。なら、話は早いね」
静寂。会話が途切れた。
夜風が木々を撫で、遠くで葉擦れの音がした。
つい先ほどまで軽薄な声で満たされていた公園が、今だけは妙に広く、静かに感じられる。
キィィィン……。
その静寂へ、マイクの微かなハウリングだけが細く伸びる。
ダース・モールは腕を組み、口を挟むことも、止めることもしない。
赤黒い貌に浮かぶのはコスミナへの苛立ちか、呆れか──あるいは、弟子の力量を見定める師としての沈黙か。
Xオルタは振り向かない。
剣を構えたまま、背後の師へ問いを投げた。
「マスター。……率直に。私が負ける可能性は?」
「…………」
返答はない。
「……では、必勝法は?」
「…………」
やはり、返答はない。
代わりに静寂を断ったのは、乾いた起動音だった。
──カチリ。
コスミナの指が、マイクのスイッチを押し込む。
一拍遅れて、Xオルタも邪聖剣ネクロカリバーを構えた。
刀身を奔った赤い魔力が、夜の公園を妖しく照らす。
次いでその形を変え、邪聖剣は双刃の姿を取った。
答えを寄越さぬ師へ不満を漏らすこともなく、赤い光刃を構えたまま、
少女は、──戦いとは何の関係もない言葉を、師へ求めた。
「…………なら、マスター。最後にひとつだけ。師匠らしいお言葉を」
「……。…………あえて、だ」
「はい」
「忌々しきジェダイの言葉を借りるなら、『フォース』を信じろ。──」
「────いや、『オルタ・チョーク』か」
「はい。オルタニウムの導きがあらんことを。……五秒で終わらせる」
「えぇ~~~!? ちょっと待ってくださいよぉ~~! 私の曲、十五分もありますけどぉ!?」
三度目にして返された、師からの答え。
──それこそが、開演の合図となった。
轟音。
六体の『バトル・ドロイド』が一斉に展開。
歌姫をセンターに、六つの銃口が花弁のように開く──。
「──それでは一曲♡ 『♪アブ・ノーマル《撫でるのは髪だけにして……♡》』」
◆
『♪アブ・ノーマル《撫でるのは髪だけにして……♡》』
「♪帰り道ふたり 夕焼け小焼け~~。自転車押して 遠回りしたね~~」
「♪……ところで昨日の**********、どうだった?♡」
「♪撫でるのは髪だけにして……♡」
「♪約束したのに ウソつきさん♡」
「♪最後はみんなで******♡」
「──アブ!」
「──アブ!」
「────アブ・ノーマル!」
『♪イエス!』
「♪純愛だけじゃ ***くなる♡ アブ! アブ! アブ・ノーマル~~~~~」
ガガガガガガガガッ──
ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ
──────ッ──────ッ──────ッ──────ッ──────ッ──────ッ──────ッ
──────────────────────────────────────────────────────ッ
──────────────────ッ
────
──
……
地獄の超音波が、半径二キロメートルを蹂躙する。
──ビル。
──樹木。
──木の葉。
およそ『音』という現象から逃れられないすべてが震え、軋み、悲鳴を上げる。
コスミナの歌声そのものに、罪はない。
かつて西国で歌姫として名を馳せた彼女の声は、人を振り向かせ、足を止め、その続きを望ませるほどに美しかった。
狂気に堕ちた今なお、その美しさだけは失われていない。
──だからこそ、『大地鳴動ヘヴィプレッシャー』は残酷だった。
美しく響くほど、その歌は破壊へ変わる。
──ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ッ ッ ッ
「♪いつか大人になったなら~~***を笑って思い出すかな~~~!」
──ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ッ ッ ッ
「♪……だから今夜~~~~~!!」
身を翻し、粉塵の向こうへ視線を送る。
そこは、ダース・モールの姿を最後に捉えた場所。
今は濛々たる煙に閉ざされ、その影すら窺えない。
──ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ッ ッ ッ
「**********~~~~~~~っ!!!♡♡♡」
\****************!!!/
──ガガガガガガガガッ。
次いで、濛々たる粉塵を内側から突き破り、無数の赤いブラスター光が走った。
撃っているのは、先ほどコスミナの背後へ展開した六体のバトル・ドロイド。
骨格を機械へ置き換えたような細長い四肢と、縦長の頭部を持つ戦闘用機械である。
今、その姿は見えない。
ただ銃撃音と赤い光だけが、
────ガガガガッ、ガガガガガガガガッ。
奥にいるであろうXオルタへ殺到する。
その銃火を従え、コスミナは次なる一節を紡いだ。
「♪もう一回~~~~!!──」
コスミナの手を離れ、マイクが夜空へ舞い上がる。
月光を掠め、銀の筐体が一閃。
回転しながら落ちてきたそれを、見上げることさえなく右手で掴み、一息。
マイクが、歌姫の唇へ重なる。
「──だから今夜、**********~~~~~~~っ!!!♡♡♡」
──────────────────────────────────────────────────────ッ
──────────────────ッ
…………、
……、
粉塵。
そして、死んだような静寂。
木々は薙ぎ倒され、地面は抉れ、先ほどまで公園だった場所は見る影もない。
喝采など、あるはずもなかった。
その破壊の中心でただ一人。コスミナだけがマイクを手に立っていた。
「…………ふふっ♡」
笑っている。だが、その眼は『心から』笑っていない。
やがて視線だけが動く。濛々たる粉塵の、その奥へ。
敵影は見えない。
生死も知れない。
──だから、終わっていない。
「『地の利は得た』って感じですかねぇ~~~♡──」
「──さぁ~~て! 二番、いっきまぁ~~~~~~~す♡♡♡」
歌姫にとって、一曲とはそういうものだった。
そして、先ほどの『地の利』という言葉も、ただの軽口ではなかった。
剣士なら、近づかなければ斬れない。
ならば音圧と銃火で、身を隠す場所ごと消し飛ばす。
【故に、歌った。】
剣士が身を隠し、間合いを詰めるための場所そのものを消し去るために。
「♪ピィ~~~~~~ス! ********~~~~~~~ッ!!」
歌声は公園を越え、夜の街を呑み込み、なお遠くへ響いてゆく。
どこにいるとも知れぬワイルドハントのみんな、その耳にさえ届くほどに。
自分がここにいると知らしめるための凱歌。
コスミナという歌姫が、今なお生きているという証明だった。
「♪もういっちょ! ア***……ゲホッ!! ゲホ、ベホッ!? あ~~もう、むせちゃったじゃないですかぁ~~~~!!」
歌っている間だけは、何も聞こえない。
自分の声以外は。
記憶も、後悔も。とうに捨てたはずのものまで、音の底へ沈んでゆく。
歌い続けてさえいれば、それでよかった。
──だから。
「♪もういっちょぉ~~♡ ピィ~~~~~~~~──」
…
……
………
“やめろ! その子に触るな!”
“いいから歌って! 歌ってくれ!”
“大丈夫だ! 俺たちは分かってるから!”
『アンコール!』
『アンコール!』
“──歌ってくれッ……!!”
………
……
…
「…………。──」
一度だけ、喉が鳴った。
歌ではない。何かを呑み込む音だった。
「──……三番、いっきま~~す!!♡」
今度は、誰のためでもない。
呑み込んだものまで歌に変えるように、彼女はマイクを握り締める。
そしてまた、胸の奥に残ったすべてを、声にして吐き出した──。
「もういっちょぉ~~!!!!♡ ピィ~~~~~~~~~~~──」
「……ずいぶん長い五秒。──アンコールは、……ないから」
「……え?」
吐き出そうと、したかった。
「『フォースを信じろ』……なるほど。ありがたい助言でした、マスター。──」
「──………………ネクロカリバーを、振るうだけで……これは、かなり……空腹、……いや体力、持っていかれます……。──」
「──はぁ……っ。剣使いに、この『制限』。……少々、厳しすぎませんか。主催者の人……」
コスミナが、粉塵の晴れたことに気づいたのは、この時やっとだった。
眼前にあったのは、赤い斬痕を刻まれた六体分の『残骸』。
そして『最後の一体』だけが、未だ宙に浮いていた。
「ロ、Roger, Rog──」
──バヂィッ!!
赤黒い『電撃』が全身を駆け抜ける。
落下した部品は音を立て、足元の残骸へと加わる。
「…………え?」
少し離れたベンチ。
男は、先ほどと寸分違わぬ姿勢で腕を組んでいる。
──ならば、今の電撃は。
「……え???」
視線が、僅かにずれる。
コスミナの肩越し。そのさらに先。
彼女の、背後。
「……え???」
ひび割れた眼鏡。
その奥で、静かに据わる双眸。
右目の下を伝う一筋の血さえ、拭おうとはしない。
──ただ、そこに立っている。
赤き双刃を携えた、一人の少女が。
「え、え、え。ちょ、ちょっと……!! タイム──」
「我が暗黒の光芒で……素粒子に還れ……。──」
「──…………『剣は斬るためじゃない、とどめを刺すため』……でしたね。…………マスター」
赤い閃光が、コスミナの頭部へ迫る。
全てを悟った刹那、その脳裏を過ぎ去ったはずの生涯が駆け抜けた。
──、
──。
………
……
…
◆
──ひどく、ちっぽけな走馬灯だった。
エンシンが酒を呷っている。
チャンプが品のない雑誌を広げている。
ドロテアは小さなマグカップに注いだ、何とも知れぬ液体を啜っている。
イゾウはいつものように、少し離れたところで佇んでいた。
そして、シュラが笑っている。
「ねぇ~~、今度はあの人がいい~~♡」「こっちはダメぇ」「……背中がちょっとぉ~~」とか。
くだらない話をして。くだらないことで笑って。
捕まえてきた男を肴に、ベッドの上で足をばたつかせて。
明日のことなど、誰一人として考えていなかった。
楽しかった。
それだけは、嘘ではない。
今は今で、ちゃんと楽しかった。
『みなさんと楽しくやれればそれでハッピーです♪』
『コスミナ。今日からよろしくお願いしま~~~~っす!!♡』
もっと昔。
もっと遠く。
そこには、いつだって人がいた。
自分の歌を待つ人がいた。
名前を呼び、手を叩き、もう一曲とせがんでくれる人がいた。
だから、歌った。
それだけでよかった頃が、確かにあった。
けれど、そこへ辿り着くより先に、走馬灯は妙な場所へ迷い込ませる。
知らない酒場だった。
記憶にあるはずがない。入った覚えもない。
なのに、不思議と懐かしかった。
そのどこかの記憶の場所で、
──イゾウが待っていてくれた。
“……土産でござる。名は知らぬ。味も知らぬ”
『えぇ~~!? じゃあ何で買ったんですかぁ~~?』
“茶に合いそうだった。それで十分だ。……江雪とて、異論はあるまい……フッ────”
────、
──、
「むぐっ!?」
頭蓋を断つはずの一撃は、最後まで訪れなかった。
代わりにコスミナの頭部へ。──否、その『味覚』へ直撃したのは……脳髄を刺すほどの甘み。
白く柔らかな餅の内から、濃厚な生クリームが舌いっぱいに溢れ出す。
S台市名産、『生クリーム大福』。
その甘みをふと、忘れ去った記憶の中から思い出した時。
「……え????」
その正面では、Xオルタもまた──何事もなかったように、同じ大福を頬張った。
「……はぁ、めんどくさかった」
もぐもぐと、二口。
それで戦いを片付けるように飲み込んでから、Xオルタはふとコスミナを見た。
「…………ところでです。コスミナさん──」
………
……
…
◆
【♪──BGM】
かつて、一人の少年が星空を見上げた。
星がたくさんある、と。
砂漠の惑星に生まれた少年は、その向こうの未知に目を輝かせた。
だが、遠く輝く一番星が、どんな世界なのか。
その地を踏まぬ者には、知る由もない。
邪紫の一等星が、夜空に輝く大自然公園。
その星明かりを鈍く返す、電源の落ちたマイクを片手に。
Xオルタは師を、状況を吞み込めないコスミナを順に見据え──『悪』を語り始めた。
「……別に演説をする気はありませんがね。『悪いことをする人に悪い人間はいません』」
「え? なんですかぁ、それ?♡」
「──出典:『ドグラ・マグラ』。……嘘です。夢野先生に怒られるので、訂正します」
「……」
沈黙さえも言葉の一部とするように、Xオルタは続ける。
「大義があるとか、事情があるとか。本人なりの正義があるとか。……まあ、そういうのはあるでしょう。──」
「──だからといって、悪者じゃなくなるわけではありません。悪者は悪者です。それは、私も、コスミナさんも。──」
「──……マスターは、言うまでもありませんね」
片や静寂。片や、腕を組み直すのみ。
──男にとっては、『答えるまでもない問い』らしい。
夜風が粉塵を攫う。
善も悪も、等しく星の彼方に消える。
「──正義の反対はまた別の正義とか、そういうのはよく分かりません。私たちはヴィランです。それでいいでしょう。──」
「──……ただ。柄じゃないですけど。たまには、悪役らしいことを言ってみてもいいですかね。──」
「──焼き付けてやりましょう。主催者と、これを見届けた参加者。そのすべての目に。──」
Xオルタは、最後の言葉を紡いだ。
「────【真なる悪役】が、如何なるものかを」
──、
────。
「……という演説を、お願いします。マスター」
「……断る」
「あはっ! えっちゃん、面白ぉ~い♡」
それ以上は食い下がらず、Xオルタはマイクをコスミナへ返す。
代わりとばかりに大福をひとつ頬張り、少女はふわりと欠伸を漏らした。
デイバッグを担ぎ直すダース・モール。
コスミナだけは、変わらず笑っている。
感銘か、嘲笑か。その胸中は、誰にも分からない。
──ただ、一つだけ。
「さて、長居は無用です。これ以上の悪党に出会っても困りますので。──」
「──ね。『歌のお姉さん』」
「………………え?──」
「──……は~~い。コスミナちゃん、怖いコは苦手なので~~す♡」
その胸の奥に、一つの『星』が灯ったことを、まだ、誰も知らない。
【E-4/大自然公園(跡地)/深夜/1日目】
【ダース・モール@スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ】
[状態]:下半身義足、疲労(少)
[装備]:両刃ライトセーバー(赤)
[道具]:基本支給品一式
[思考]:この殺し合いで権力を振るう者どもへ『復讐』を。……シディアス。貴様もだ。
1:弟子、Xオルタを鍛える。
2:ゲーム打破。立ちはだかる者に容赦はしない。俺に積み重なったこれまで全ての憎しみを見せてやる。
3:「あらゆる願いを叶える」、か。……弟の眠りを妨げるなど、冒涜に等しい。
4:コスミナへの警戒は解かない。だが、ああいう手合いを従える術なら心得ている。
【謎のヒロインX〔オルタ〕@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(少)、目の下に傷(小)、大福を食べている
[装備]:邪聖剣ネクロカリバー
[道具]:基本支給品一式、ドグラ・マグラ、不明支給品×2
[思考]:森口先生。ヴィランにも、それなりの流儀がありますので。
1:主催者へ、『真なる悪』の回答を。……ではマスター、あとはいい感じにお願いします。
2:マスターの命令や指図にはそれなりに従う。それなりに。
3:……面倒ごとは嫌いです。まぁ、その割には張り切って「クロスカリバァァ」とか叫んじゃう私なんですが。
4:コスミナさんも私も『悪』です。ならば信じ合うと書いて、ここでは『悪』と読ませてもらいます。
5:生きて帰り、Xさんと決着をつける。……それまで経験値は稼いでおかないと。
【謎のヒロインX〔オルタ〕の制限】
※全能力が通常時から約40%低下。
※特に邪聖剣ネクロカリバー使用時の消耗が大幅に増加しており、長時間の連続戦闘・大出力攻撃は困難。
【コスミナ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(少)、喉に軽い負担、上機嫌、大福を食べている
[装備]:帝具「大地鳴動ヘヴィプレッシャー」
[道具]:基本支給品一式、クロメのおかし@アカメ、不明支給品×1
[思考]:えっちゃんたちと、とりあえず一緒に行きま~す♡
1:Xオルタ(えっちゃん)とは仲良くしまーす!
2:モールさん、やっぱりすっごく好み♡ あんなので諦めるコスミナちゃんじゃありませんよぉ~?
3:主催者を倒す、かぁ……。ドロテアちゃんやイゾウさんなら、分かってくれる……かな? ふふ♡
4:…………。……『歌のお姉さん』。
【支給品説明】
【喜●福大福@呪術廻戦】
……ダース・モールの支給品。
仙●名物として知られる大福。作中では五条悟が出張の際に購入していた。
ふわふわの餅と生クリームを組み合わせた菓子で、味の種類も豊富。
なお、戦闘中にもかかわらず五条が土産を買うため寄り道した結果、現場への到着が遅れた。
最終更新:2026年08月22日 21:41