残酷 ◆vV5.jnbCYw
幸せが壊れる時には、いつも血の臭いがする
(これは……)
炭治郎が市街地の路地裏へ入って、しばらく進んで行くと、またも嫌な臭いが鼻に付いた。
それは、争いの臭いだとすぐに分かった。
複数人の血の臭いだけではない。
いくら嗅いでも嗅ぎなれない鉄錆の臭いに、何か言いようもない嫌な臭いが混ざっている。
例えるならば彼が斬って来た鬼が発するような臭いだった。
だが、そういった鬼のものとも違う。
かと言って、先の中年男性、五大院宗繁のような悪意ある人間が発する臭いとも違った。
胸が悪くなるのは確かだが、どこか嗅ぎなれてはいない臭いだった。
(何にせよ誰かが危ないのは確かだ……!!)
草鞋を履いた足を速め、悪臭の方向へ急ぐ。
鬼ならともかく、人間相手に善逸やカナヲが簡単に後れを取るとは思わなかったが、それでも不安を隠せなかった。
そして彼が案じていたのは、仲間や見知らぬ無力な人間のことだけではない。
(この臭いの主が人間なら……)
走りながら、考えていた。
この争いの主が人間ならば、どうすべきか。
勿論、鬼であれ人間であれ止めなければならない。
(俺は人を殺さなきゃいけないのか?)
自分とて異能の鬼と戦い抜いてきたから、よほど奇妙な道具でも持っているか、人間離れした身体能力の人間でない限り、それが出来る自信があった。
この刀を振るわずとも、訓練を積んでいない成人男性ならば、取り押さえることが出来る。
出来るはずだ。
最初に五大院に治せない傷を負わせてしまったのは、刀を使い慣れていなかったからだ。
刀を使わなければ、先のような失敗はしなくて済むはずだ。
そう言い聞かせながら、消えない不安と共に走る。
(そう言えば、五大院は……)
取り逃がしてしまった、あの男のことを不意に思い出した。
あの時は指を斬り落としてしまったショックと、一刻も早く北条時行という少年を見つけて保護せねばという考えが頭に占めていた。
なので、ここへ来てあの危険な男を追いかけ、拘束ぐらいはしておけば良かったと後悔した。
いくら鬼よりかは脅威が薄れる男とはいえ、この会場では彼を脅威とする参加者が、少なくとも1人はいる。
逆にあの指の傷が原因で、五大院に死んで欲しくも無かった。
拘束でもない、治療でもない、焦燥していた状況とは言え自分のしたことの愚かさを後悔した。
だが、五大院はもう遠くに行ってしまったはずだし、今さら森に戻ってはいよいよどっちつかずになってしまう。
今は目の前の争いを止めるのが先だと考え、無理矢理頭から五大院を投げ捨てる。
臭いが強くなってくると、町の崩壊も激しくなっていた。
かつて堕姫と戦った時の遊郭を彷彿とさせるほど、建物の崩壊が目立つようになっていく。
それこそ上弦の鬼でも無ければ、短時間でこうまで壊すことは出来ない。
しかし、炭治郎の心臓をより高鳴らせたのは、争いの臭いの強さに反する静けさだった。
彼は鬼殺隊の同期、善逸ほど耳が良いわけでは無いが、ここまで静かなのは不自然だと感じた。
詰まる所は、この戦いはすでに終わっているということだ。
(頼む、逃げていてくれ。)
そんなことを念じても意味が無いと分かっていながら、さらに足を速めた。
死者や殺人者がその場にいなくても、負傷して動けなくなっている人がいるかもしれない。
「大丈夫ですか!俺は殺し合いに乗っていません!!」
まだ人の姿は見えないが、大声を上げた。
返事は帰ってこない。けど、走り続ける。
鬼殺隊の修行で狭霧山を駆け回った炭治郎は、この程度の距離を走ったぐらいで息が乱れたりはしない。
そのはずなのだが、何里も走ったかのように全身を滝のような汗が走り、呼吸は荒くなる。
炭治郎が鼻にした見慣れぬ異臭の原因は、そこにあった。
金髪と顔の傷が印象的な男が、気絶して倒れている。
だがそれ以上に目を惹いたのは、剥き出しの丸太のような腕。
日焼けしたその腕は、分厚い筋肉の鎧に覆われていた。
その両腕は鬼殺隊の柱の中でも2番目の腕力を持つ、宇髄天元を連想させた。
(………。)
だが、炭治郎の強張った表情は変わらなかった。
この男の臭いは、決して真っ当な人間の発するものではない。
気絶しているのにも関わらず、この男の周りには鬼から発するような暴力と血の臭いが充満していた。
目で見えるほど近くに寄ると、それが良く分かった。
上弦の鬼、妓夫太郎のような喉の奥が痺れるような強烈な臭いでは無いが、それでも悪寒が走る臭いなのは変わらなかった。
(この男を放っておけば、きっと大変なことになる……)
話を聞かずとも、確かな悪臭からこの男が騒動の元凶だとは分かった。
だが、この男は人間だ。
救いようがない人喰い鬼とは違う。
悪事を行っているからと言って問答無用で首を斬りたくは無いし、それは間違っていることは分かっていた。
そして、炭治郎が気になったのはもう1つ。
この男に襲われた者達は、今どこにいるのかということだ。
周囲に死人がいないことから、この男は別の誰かに倒されたのだと察しは付いた。
だが、少なくとも別の血の臭いは感じるので、無傷で倒した訳ではないことも分かった。
逃げている最中に、戦いで負った傷が原因で倒れたり、別の殺し合いに乗った者に襲われているかもしれない。
幸か不幸か、すぐに起き上がる様子はない。
この男を捨て置き、その人達を追いかけるべきか悩んだ。
(この男に襲われた人がいるなら助けたい……けどこの男はどうすればいい?)
目を覚ませば、また誰かがこの男に傷付けられるかもしれない。
ならば殺しておく?そんなことはしたくない。
ならばこの凶器とも見紛う両腕を斬り落としておく?それは殆んど殺すようなものだ。
ならば拘束だけしておく?五大院が持っていた布ならともかく、自分の羽織ぐらいなら簡単に千切ってしまいそうだ。
ここまで炭治郎が悩んだ理由は簡単だ。
目の前の敵が鬼ではなく人間なのは言わずもがな。
もしもこの男、マスキュラーが個性を出して、見た目も力も人間離れした攻撃をしてくれば、彼も刀を振らざるを得なくなっただろう。
だが、気絶しているマスキュラーは、異形の鬼とは異なる筋肉質なだけの男の姿をしていた。
それは目の前の敵が、意図していないこととはいえ、意識を取り戻していないからだ。
彼は不意を突いた攻撃を良しとしておらず、ましてや意識を失っている敵など攻撃するなど以ての外だ。
彼が戦って来た鬼は、睡眠や休憩を必要とせず、決して尽きることのない体力で暴虐を尽くしてきた。
彼が動けなくなった敵を目の当たりにし、尻込みしたのは、まだ鬼殺隊になる前のことだ。
斧で磔にされたその鬼でさえ、日に焼け爛れて死ぬまで敵意を露わにしていた。
鞘に納めた刀を握る手が強くなる。
だが、その先を行動にどうにも移せなかった。
【C-3/住宅街/1日目・未明】
【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:頬に刀傷(ダメージ小) 葛藤
[装備]:三代鬼徹@ONE PIECE
[道具]:基本支給品一式、風間玄蕃の狐面@逃げ上手の若君、スイカの仮面@Dr.STONE
[思考・状況]
基本方針:戦意の無い人を守る
1:この悪人(マスキュラー)をどうする?
2:この男に襲われた人たちは?
3:鬼殺隊の仲間たちと合流
4:人を殺す鬼は斬る。人を殺す人は……
5:北条時行を見つけた場合保護する
【マスキュラー@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:負傷(大)疲労(中)気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式。ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺す(やりたいことやって)暴れる
1:???
2:Mr.プリンスは絶対に俺が殺す
3:緑谷も絶対に俺が殺す
[備考]
※参戦時期は76話緑谷に敗れてから297話でダツゴクする前。
※名簿を確認したため、緑谷がいることを知っています。
※Mr.プリンスの本名がサンジだとは知りません。
最終更新:2022年07月24日 22:11