運命の悪戯のあとしまつ ◆6.p6TXpyas


「はァ……はァ……!」

 哀れな少年は歩いていた。
 そう、ただ歩いていた。
 だがそれだけでサングラスの底の眼光はどす黒く濁り、眉間に寄った皺がその機嫌の悪さを遺憾なく示している。
 やがて少年は足を止めた。彼の歩みはひどく緩慢だった。
 十メートルちょっと歩いては何十分と休憩する、また嫌々歩き出してはすぐに休憩する。その繰り返し。
 少年はぎゅっと顔を歪めると、それから唾を飛ばしながら叫んだ。

「――ふざけるんじゃないえ~~!! おれを誰だと……誰だと思ってるんだえ!!」

 その怒りは彼の中では至極正当性のあるもの。
 ただでさえ空気の汚れた下界だというのに、何故自分はこの尊い両足で歩かされているのか?
 奴隷の一人も居ない、神の騎士団は何時になっても来ない。
 もはやドンキホーテ・ドフラミンゴ少年の怒りは絶頂に達していた。

「おれは!! おれはァ!! "天竜人"だぞォ~~~~!!!!」

 ふざけるな、ふざけるな。
 こんな非礼を許すわけにはいかない。
 このことは必ず父上に報告する、関わった人間は全員奴隷落ちにしてやる。
 天竜人である自分をこうまで疲れさせたのだから当然の報いだ。
 叫び、ゼェゼェと息を整えるドフラミンゴ。
 そんな彼の叫びが通じたのか……視界の先から、彼の方へと近付いてくる人影があった。

「遅い! 何してたんだえ、お前!!」

 見覚えのない顔をした男だった。
 少なくともドフラミンゴの奴隷にこんな男は居なかったが。
 しかし、彼にとってはそんなことなど関係ない。
 天竜人以外の人間など……下々民など皆同じなのだから。

「……!? お前……何だえ! その頭の高さは!!」
「あ?」
「頭を垂れて手を地面に着けろ! 図に乗ってんのか!? おれを舐めてんのかえ!?」
「何言ってんだお前」
「――――ッ!!!」

 ドフラミンゴの頭にカッと血が上った。
 そうか、と思った。
 こいつは頭が悪すぎて、自分が天竜人を前にしていることに気付いていないのだ。
 下界の汚れた空気を吸わないためのマスクをしていないから。奴隷の一人も連れていないから。
 だから自分が今舐めた口を利いている人間が誰であるかに気が付いていない。

「土下座しておれの靴を丁寧に舐めろ。そうしたらおれのドレイになるだけで勘弁してやるえ!!」
「…………」
「まだ気付かねェとはマヌケな奴だえ!!! おれは――おれは!!!!」

 ニィ、と笑って歯を見せて。
 ドフラミンゴ少年は高らかに叫んだ。

「天!!!!」
「うるせえ」

 ――それが最後だった。
 彼の額に穴が空いて脳漿が噴き出した。
 笑みを浮かべたまま地面に倒れ伏した少年の言わんとしたことは、結局最後まで下手人の彼には伝わらずじまいだった。


「何だったんだこのガキは。知恵でも遅れてたのか」

 青年は笑顔のまま呆気なく事切れた少年を見下ろして、言う。
 悪魔の力を使うまでもなかった。何しろ丸腰で、何か能力を使う素振りもなく、説得力のない見得を切るだけだったのだから。
 支給されていた銃を頭に向けて一発撃つだけで、その命は簡単に終幕を迎えた。
 銃を撃ったのは久しぶりだった。彼の元居た世界ではどこぞの銃野郎のせいで、とにかく拳銃(チャカ)の取締が厳しかったのだ。
 反動も、発砲した後の硝煙の香りも懐かしい。
 優しく撃ち方を教えてくれた、今は亡き祖父の顔を思い出しながら、青年はドフラミンゴから奪ったデイパックの中身を検めた。

「……あ? 何だこりゃ。果物か?」

 道具はあればあるほどいい。
 デイパックに中身を押し込んでいた青年だったが、一つどうにも理解し難いものを見つけて手を止めた。
 それは果実のように見えた。奇妙な形をした、果実。
 嗅いでみるも匂いはない。説明書は同伴されていなかった。
 というより、ドフラミンゴはこれが"悪魔の実"であることを確認するなり――「天竜人に大上段から物事を教えようだなんて生意気だえ」と鼻息を荒くして、説明書を捨ててしまった。

 だから彼を殺して果実を奪い取った青年にしてみれば、これはただただ怪しいだけの代物でしかなく。

「怪しいな。要らねえ」

 ぽいと無造作に地面に転がすと、靴底で踏み潰した。
 それまでだった。ベガパンクの失敗作であった悪魔の実は、失敗作らしく誰の口にも入らずにその役目を終えた。

「……チッ。こんな能の足りねぇガキを殺したって何にもならねえよ」

 青年は、歩き出す。
 その頭の中にはもう、天竜人の少年の存在など欠片もなかった。
 青年はドフラミンゴ少年の顔すら覚えていない。
 ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
 いずれ高みから堕ちることが約束されている、幼い天竜人。
 彼はこの会場で何を成し遂げることもなく、誰の記憶にも残らないままあっさりと死んだ。

【ドンキホーテ・ドフラミンゴ@ONE PIECE 死亡】


【G-8/遊郭近辺/1日目・黎明】

【サムライソード@チェンソーマン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、PMM@現実、ランダム支給品2、ドフラミンゴのランダム支給品2
[思考]
基本:デンジを殺す。
1:デンジの殺害を優先。その仲間たち(パワー、アキ、マキマ)も殺す。
2:マキマに要警戒。マキマ対策に協力できる手駒も欲しいところ。
3:ポイントを貯めて脱出する時にじいちゃんも生き返らせる。
[備考]
※参戦時期は少なくとも4巻28話でコベニに斃された後。

支給品紹介
【PMM@現実】
サムライソードに支給。
マカロフPMを改造した軍用拳銃。

前話 次話
沸血インヘリット 投下順 致死量にいたる病【Mixing is Dangerous】
闇深くなれども 時系列順 致死量にいたる病【Mixing is Dangerous】

前話 登場人物 次話
蜘蛛糸は垂らされず ドンキホーテ・ドフラミンゴ GAME OVER
復讐するは我にあり サムライソード 花に嵐


最終更新:2022年12月14日 01:00