阪神ジュベナイルフィリーズ発走直前
ゲートの中に奇数番号の娘達が収まっていく
17番の娘まで入ったら次は2番から
私は14番だから最後の方
何気なく17番まで埋まったゲートを眺めて、来られなかった18人目の顔を思い出した
17番の娘まで入ったら次は2番から
私は14番だから最後の方
何気なく17番まで埋まったゲートを眺めて、来られなかった18人目の顔を思い出した
『阪神ジュベナイルフィリーズ:下』
ゲートの中はキライだ
狭苦しくて、鉄のニオイが冷たくて、金属の擦れる音が不快で、
左右のライバル達の息遣いがうるさくて、
アタシの何かどうしようもない魂の奥のほうのケダモノが、早く走らせろと身震いするようで
ゲートの開くその瞬間に全てを出しきるため
アタシは少しの間目を閉じた
狭苦しくて、鉄のニオイが冷たくて、金属の擦れる音が不快で、
左右のライバル達の息遣いがうるさくて、
アタシの何かどうしようもない魂の奥のほうのケダモノが、早く走らせろと身震いするようで
ゲートの開くその瞬間に全てを出しきるため
アタシは少しの間目を閉じた
ゲートが開く
綺麗にスタートを切ることに成功したのに少しほっとする
でもここで腑抜けている訳にゃいかない
今日のオレは3番だから、当然のように外側に居る残り14人が内側の経済コースを走りたくて押し寄せてくる
バ群に呑まれて何も出来ずに終わるなんざ真っ平御免だ
ワザと少し外側に進路を取り、先行集団を敢えて前に行かせてやる
オーヴァチュア(うるさいの)を追い掛ける猟犬共よ、せいぜいオレ達の役に立ってくれ
後方集団の先頭という見晴らしのよい位置に収まりつつ、オレは最初の緩い坂を登った
綺麗にスタートを切ることに成功したのに少しほっとする
でもここで腑抜けている訳にゃいかない
今日のオレは3番だから、当然のように外側に居る残り14人が内側の経済コースを走りたくて押し寄せてくる
バ群に呑まれて何も出来ずに終わるなんざ真っ平御免だ
ワザと少し外側に進路を取り、先行集団を敢えて前に行かせてやる
オーヴァチュア(うるさいの)を追い掛ける猟犬共よ、せいぜいオレ達の役に立ってくれ
後方集団の先頭という見晴らしのよい位置に収まりつつ、オレは最初の緩い坂を登った
うん、今日は出遅れることも無くスタート出来た
ちょっと誇らしい気分
おーばちゃんが凄い勢いで先頭を行くのを見ながら全体の流れを俯瞰する
ラルちゃんが中団の前の方、後方集団の先頭に位置取ってる
内枠だから先行で行くのかと思ったら今日は差しの位置
やっぱりラルちゃんは怖い
最後にどこから斬り込むかを最初から決め打ちで位置取ってる
あんなクレバーさは私には無い
でも悲観はしない
私は私の出来ることをするだけ
私のトレーナーさんの信じてくれた私の末脚を信じて
ただ、その時を待つ
ちょっと誇らしい気分
おーばちゃんが凄い勢いで先頭を行くのを見ながら全体の流れを俯瞰する
ラルちゃんが中団の前の方、後方集団の先頭に位置取ってる
内枠だから先行で行くのかと思ったら今日は差しの位置
やっぱりラルちゃんは怖い
最後にどこから斬り込むかを最初から決め打ちで位置取ってる
あんなクレバーさは私には無い
でも悲観はしない
私は私の出来ることをするだけ
私のトレーナーさんの信じてくれた私の末脚を信じて
ただ、その時を待つ
3コーナーに入る頃には大分後ろのみんなとの位置関係も落ち着いてきた
トレーナーの言ってたとおりに大逃げ宣言したお陰なのか、
アタシより早く逃げようと競り掛けてくる邪魔者はいない
これで良いし、これが良い
”TRY 2 STOP ME!”
いつだって、どんな相手だって、背中以外を見せてやるつもりはない!!
段々テンションもアガって来たし、この下り坂、一気に行っちゃうかぁ!!
一度チラリと後ろを見ると、16人の殺気のような視線がアタシを滅多刺しにする
上等!
『止めれるもんなら止めてみやがれ!』
アタシはテンションに身を任せ、脚の回転を上げて更に加速した
トレーナーの言ってたとおりに大逃げ宣言したお陰なのか、
アタシより早く逃げようと競り掛けてくる邪魔者はいない
これで良いし、これが良い
”TRY 2 STOP ME!”
いつだって、どんな相手だって、背中以外を見せてやるつもりはない!!
段々テンションもアガって来たし、この下り坂、一気に行っちゃうかぁ!!
一度チラリと後ろを見ると、16人の殺気のような視線がアタシを滅多刺しにする
上等!
『止めれるもんなら止めてみやがれ!』
アタシはテンションに身を任せ、脚の回転を上げて更に加速した
アホだ
アホがいる
オーヴァチュア(うるさいの)が4コーナー入る前辺りで加速しはじめた
アイツこのペースで脚が残ると思ってんのか?
先行集団はアイツに吊られてペースを上げているが自殺行為だ
逃げるウサギに翻弄されて、バテて転がる使えねえ駄犬共
お前らG1に出てる自覚あるのか?
ほれ、そんなペースで下りのコーナーに突っ込むもんだから
ポッカリ最内の経済コースが空いてるぜ?
ちと早いがここしかねえ
トレーナーは『最終直線に入って坂の手前からスパートしろ、そこまでは我慢』
って口うるさく言ってきたがレースは生き物
その時その時の最善を掴み取りに行かないような奴がG1獲れるわけねえだろ!!
さあ、ここからがオレの檜舞台だ
着いてこれるかい?
グローリア嬢
アホがいる
オーヴァチュア(うるさいの)が4コーナー入る前辺りで加速しはじめた
アイツこのペースで脚が残ると思ってんのか?
先行集団はアイツに吊られてペースを上げているが自殺行為だ
逃げるウサギに翻弄されて、バテて転がる使えねえ駄犬共
お前らG1に出てる自覚あるのか?
ほれ、そんなペースで下りのコーナーに突っ込むもんだから
ポッカリ最内の経済コースが空いてるぜ?
ちと早いがここしかねえ
トレーナーは『最終直線に入って坂の手前からスパートしろ、そこまでは我慢』
って口うるさく言ってきたがレースは生き物
その時その時の最善を掴み取りに行かないような奴がG1獲れるわけねえだろ!!
さあ、ここからがオレの檜舞台だ
着いてこれるかい?
グローリア嬢
おーばちゃんが4コーナーの下りで更に加速し始めたのを切っ掛けに、先行集団が吊られて崩れだした
ラルちゃんはその崩れた穴を上手く突いて内ラチ沿いをスパートしようと仕掛け始めてる
私が居るのは最後方
このままで間に合う?
今からでもペースを上げる?
もっと内側に寄った方が良い?
色々な思考のノイズが流れ出すが、それを全て無視する
私は不器用だ
臨機応変、その場その場の最適解を選んでいくような真似は出来っこない
でも、私のトレーナーさんと二人で努力して磨き上げた末脚が私にはある
私のトレーナーさんの指示をもう一回思い出す
『勝負は残り300m地点になってから』
『そこからは大外の誰も居ない所を全力で突き抜ける!』
逃げられない、先行も出来ない、差しのポジション争いも出来ない不器用な私の
たった一つの信じられる武器
それを振りかざすタイミングは、今じゃない
ラルちゃんはその崩れた穴を上手く突いて内ラチ沿いをスパートしようと仕掛け始めてる
私が居るのは最後方
このままで間に合う?
今からでもペースを上げる?
もっと内側に寄った方が良い?
色々な思考のノイズが流れ出すが、それを全て無視する
私は不器用だ
臨機応変、その場その場の最適解を選んでいくような真似は出来っこない
でも、私のトレーナーさんと二人で努力して磨き上げた末脚が私にはある
私のトレーナーさんの指示をもう一回思い出す
『勝負は残り300m地点になってから』
『そこからは大外の誰も居ない所を全力で突き抜ける!』
逃げられない、先行も出来ない、差しのポジション争いも出来ない不器用な私の
たった一つの信じられる武器
それを振りかざすタイミングは、今じゃない
4コーナーを抜けて先頭で最終直線に入る
テンションは最高潮
心拍数も最高潮
そして全身の疲労感も最高潮だけど、そんなもん根性で無視!
後は坂を越えればゴールなんだ
こんなとこでくじけてる余裕なんかあるわけないっしょ!
練習で走った坂路よりは緩いはずの坂が崖みたいに見える
坂に差し掛かってから、脚が上手く回らない
でもそれがどうした
ここを越えればアタシの勝ちなんだ!
気合!根性!勇気!希望!
美人薄命!天然酵母!
あー!訳わかんねーけど脚を回せアタシ!!
テンションは最高潮
心拍数も最高潮
そして全身の疲労感も最高潮だけど、そんなもん根性で無視!
後は坂を越えればゴールなんだ
こんなとこでくじけてる余裕なんかあるわけないっしょ!
練習で走った坂路よりは緩いはずの坂が崖みたいに見える
坂に差し掛かってから、脚が上手く回らない
でもそれがどうした
ここを越えればアタシの勝ちなんだ!
気合!根性!勇気!希望!
美人薄命!天然酵母!
あー!訳わかんねーけど脚を回せアタシ!!
捉えた
坂の手前で先行集団を一気に交わした
そのまま坂に入るがオレの脚色は衰えない
目の前には坂で脚が止まったウサギ(うるさいの)が1羽
最後の根性振り絞って粘ってはいるが無駄な抵抗だ
このままのペースで坂を抜ける辺りで差し切る
後はそのままゴール板まで一直線だ
そう考え、坂を越えると同時に先頭に立った時
何か、異様な音が聞こえた
坂の手前で先行集団を一気に交わした
そのまま坂に入るがオレの脚色は衰えない
目の前には坂で脚が止まったウサギ(うるさいの)が1羽
最後の根性振り絞って粘ってはいるが無駄な抵抗だ
このままのペースで坂を抜ける辺りで差し切る
後はそのままゴール板まで一直線だ
そう考え、坂を越えると同時に先頭に立った時
何か、異様な音が聞こえた
残り2ハロンの標識が私の右手側を過ぎていく
あと少し
完全に脚が止まった先頭集団と、それを交わそうとする後方集団で内側から中央はごちゃついている
私はそれを横目に大外へと進路を取り、誰も居ない位置から坂と先頭の二人を眺める
『この距離なら、いける』
残り300m
今だ
誰のものでもない
私だけの武器を振りかざせ!!
脱力した脚を振り上げて、踏み込む時に思い切り力を込める
ず
芝に蹄鉄が食い込む感触がする
ずず
蹄鉄で芝を地面ごと踏み締める
ぐぃん
蹄鉄が地面に突き刺さる感触
それを
全力で
蹴り飛ばす!!
ざん
ざん
二歩、体重移動を滑らかに、脚力を全て推進力に替える
ぞん
ぞん
四歩、加速し始めた体がブレないように腕の振りと体幹の制御に神経を集中させる
どん
どん
六歩、全体重を踏み込みに乗せて、地面からの反動を無駄なく体を打ち出す力に変える
どんどん
坂もなにも関係ない
ただ、最高速へ
どんどんどんどん
倒れる事等考えるな
勇気を持って次の一歩を踏み込め
どどどどどどどどど
私の体の、心の、魂の全ては
ただひたすらに前に進む為にある!!
あと少し
完全に脚が止まった先頭集団と、それを交わそうとする後方集団で内側から中央はごちゃついている
私はそれを横目に大外へと進路を取り、誰も居ない位置から坂と先頭の二人を眺める
『この距離なら、いける』
残り300m
今だ
誰のものでもない
私だけの武器を振りかざせ!!
脱力した脚を振り上げて、踏み込む時に思い切り力を込める
ず
芝に蹄鉄が食い込む感触がする
ずず
蹄鉄で芝を地面ごと踏み締める
ぐぃん
蹄鉄が地面に突き刺さる感触
それを
全力で
蹴り飛ばす!!
ざん
ざん
二歩、体重移動を滑らかに、脚力を全て推進力に替える
ぞん
ぞん
四歩、加速し始めた体がブレないように腕の振りと体幹の制御に神経を集中させる
どん
どん
六歩、全体重を踏み込みに乗せて、地面からの反動を無駄なく体を打ち出す力に変える
どんどん
坂もなにも関係ない
ただ、最高速へ
どんどんどんどん
倒れる事等考えるな
勇気を持って次の一歩を踏み込め
どどどどどどどどど
私の体の、心の、魂の全ては
ただひたすらに前に進む為にある!!
その日、阪神レース場にいた全ての人は
黄金の流星が地を駆けるのを見た
黄金の流星が地を駆けるのを見た
阪神ジュベナイルフィリーズ結果
1着 14サクラグローリア(3人気)
1:31:9 (レースレコード)
1:31:9 (レースレコード)
2着 3パストラル(1人気)
1:32:1 1バ身
1:32:1 1バ身
3着 6オーヴァチュア(10人気)
1:32:1 ハナ
1:32:1 ハナ