「う゛ぁー」
どよーん
生気のない顔で机に突っ伏して呻いているウマ娘が一人
表情は抜け落ちたように虚ろで、今にもゾンビ化しそうな辛気くささを振り撒いています
端的に言って思いっきり虚脱状態なこのウマ娘に横から声を掛けるツンツン頭が一人
どよーん
生気のない顔で机に突っ伏して呻いているウマ娘が一人
表情は抜け落ちたように虚ろで、今にもゾンビ化しそうな辛気くささを振り撒いています
端的に言って思いっきり虚脱状態なこのウマ娘に横から声を掛けるツンツン頭が一人
「おーい、カラン生きてるー?」
「う゛ぁー」
「ゾンビじゃないんだからなんか喋ろうよ、カラン……」
「う゛ぁー」
「誰も呻き声出せとは言ってないから」
「う゛ぁー」
「ダメだ、重症だ」
手に負えないとばかりに肩をすくめるツンツン頭のウマ娘
そこにもう一人、話し掛ける者が現れました
「あら、カランドローネさん、どうなされたの?」
「アローか、見ての通りカランは腐ってる」
「レッドベレヌスさん?幾ら親しいお友達でも言って良いことと悪いことがありますわよ?」
「いや、それは確かにそうなんだけどこの状態見てるとそうとしか表現出来ないんだよ」
そう言いながらゾンビのほっぺたをつつくベレヌス
「う゛ぁー」
「重症ですわね……」
「誰かさんが情け容赦なく4バ身ちぎったから重症化したんじゃないの?」
「そこはレースの中の事ですから謝りませんわよ?
大体あのレースはちぎったと言うよりはカランドローネさんの自爆ではなくて?」
「言われてるよー、カラーン」
つんつんつん
「う゛ぁー」
「カランドローネさん、ショックなのは分かりましたからしゃっきりなさって下さいな
お友達がその調子だとワタシまで変になりそうですわ」
「う゛ぁー」
ゾンビの呻き声を聞いたアローちゃんは一言
「……これお返事されてますの?」
「多分反射的に呻いているだけじゃないかなあ……」
「重症ですわね……」
「う゛ぁー」
「う゛ぁー」
「ゾンビじゃないんだからなんか喋ろうよ、カラン……」
「う゛ぁー」
「誰も呻き声出せとは言ってないから」
「う゛ぁー」
「ダメだ、重症だ」
手に負えないとばかりに肩をすくめるツンツン頭のウマ娘
そこにもう一人、話し掛ける者が現れました
「あら、カランドローネさん、どうなされたの?」
「アローか、見ての通りカランは腐ってる」
「レッドベレヌスさん?幾ら親しいお友達でも言って良いことと悪いことがありますわよ?」
「いや、それは確かにそうなんだけどこの状態見てるとそうとしか表現出来ないんだよ」
そう言いながらゾンビのほっぺたをつつくベレヌス
「う゛ぁー」
「重症ですわね……」
「誰かさんが情け容赦なく4バ身ちぎったから重症化したんじゃないの?」
「そこはレースの中の事ですから謝りませんわよ?
大体あのレースはちぎったと言うよりはカランドローネさんの自爆ではなくて?」
「言われてるよー、カラーン」
つんつんつん
「う゛ぁー」
「カランドローネさん、ショックなのは分かりましたからしゃっきりなさって下さいな
お友達がその調子だとワタシまで変になりそうですわ」
「う゛ぁー」
ゾンビの呻き声を聞いたアローちゃんは一言
「……これお返事されてますの?」
「多分反射的に呻いているだけじゃないかなあ……」
「重症ですわね……」
「う゛ぁー」
『壁の向こう側に・上』
お久しぶりです
カランドローネです
今の私はこの上なく凹んでおります
カランドローネです
今の私はこの上なく凹んでおります
桜花賞の2週間後、皐月賞と天皇賞春の間の一週間で、私達の世代のスカウトされる権利を賭けた最初の模擬レースが開催されました
私が出場したのは1800m右回りの模擬レース
私の長所である直線での加速力が有利に働きそうなコースのレースを選んでエントリーしました
私の長所である直線での加速力が有利に働きそうなコースのレースを選んでエントリーしました
エントリー後に出走者一覧をみてびっくり!
なんと同じレースにアローちゃんが出走していました……
なんと同じレースにアローちゃんが出走していました……
中長距離ウマ娘の名家出身であるアローちゃんに、今回の模擬レースでの最長距離でぶち当たるとか運が悪いにも程があります
1800mはこの日だけじゃないのに何故よりによって私と同じレースに……
阪神JFに出られなくなって幼児化してぶーたれていたくーちゃんの気持ちが判ります
いや、あの時のくーちゃんよりは自力で何とか出来る分私の方が大分マシなのかな?
1800mはこの日だけじゃないのに何故よりによって私と同じレースに……
阪神JFに出られなくなって幼児化してぶーたれていたくーちゃんの気持ちが判ります
いや、あの時のくーちゃんよりは自力で何とか出来る分私の方が大分マシなのかな?
どっちにしても何とかして勝てはせずとも見せ場を作るくらいはしないと、スカウトしてもらえることはないでしょう
私は単にシンボリ家と血縁と言うだけの何処をどう見ても平凡なウマ娘なのですから
私は単にシンボリ家と血縁と言うだけの何処をどう見ても平凡なウマ娘なのですから
模擬レース当日の朝
私は絶好調でした
教官や先生に教えて貰った調子の整え方を桜花賞直後から実践し、バイオリズムを整え、筋肉にムダな疲労を残さないこの調整具合はまさに最高!
勝ったな!ワハハハハ!
と言えるような相手だったらどれだけ良かった事か
私は絶好調でした
教官や先生に教えて貰った調子の整え方を桜花賞直後から実践し、バイオリズムを整え、筋肉にムダな疲労を残さないこの調整具合はまさに最高!
勝ったな!ワハハハハ!
と言えるような相手だったらどれだけ良かった事か
アローちゃんと私の併走の勝敗は2勝9敗
勿論私が2勝の方です
その2勝もアローちゃんが新しい戦法やテクニックを試していたから勝てたようなもの
現時点では明確な力の差があります
しかし力の差があるからと言って諦められるようならば、最初からデビューしようとは思いません
怪物じみたグローリア先輩に挑むオーヴァチュア先輩やパストラル先輩、くーちゃんの姿を見ているとそう思えてきます
そこ!挑む方も怪物じゃね?とか思っても言わない!!
私だってそう思ってるんですよ!!
勿論私が2勝の方です
その2勝もアローちゃんが新しい戦法やテクニックを試していたから勝てたようなもの
現時点では明確な力の差があります
しかし力の差があるからと言って諦められるようならば、最初からデビューしようとは思いません
怪物じみたグローリア先輩に挑むオーヴァチュア先輩やパストラル先輩、くーちゃんの姿を見ているとそう思えてきます
そこ!挑む方も怪物じゃね?とか思っても言わない!!
私だってそう思ってるんですよ!!
昼食後、無限に沸いてくる弱気の虫を必死で叩き潰しつつアップを続けている内に、コースの方から歓声が聞こえてきました
今やっているのは第7レース
ベレヌスが出場している1600m左回りの模擬レースです
歓声が止んでから10分後、そのベレヌス本人がこちらにやって来ました
今やっているのは第7レース
ベレヌスが出場している1600m左回りの模擬レースです
歓声が止んでから10分後、そのベレヌス本人がこちらにやって来ました
「カラン、調子はどう?」
ベレヌスの表情からすると悪い結果ではなかったようですが、レース直後にあんまり直接聞くのもなあ
いかにベレヌスが有望株と言えど不覚を取ることはあるわけですし
「調子自体は悪くないよ、ベレヌスは……」
さっきのレースどうだった?と反射的に聞こうとしてしまい口をつぐみます
機嫌が悪いようには見えませんが、レース直後に私達がアップしているサブグラウンドに来ているのはちょっと変です
勝てたならトレーナーさん達からのスカウトが来ているはずなので、もしかしてレース結果が芳しくなかったのでは……と考えこんでいる私に向かって
「私は絶好調!さっきのレースも一着獲ってきたよ!!」
と胸を張るベレヌス
ベレヌスの表情からすると悪い結果ではなかったようですが、レース直後にあんまり直接聞くのもなあ
いかにベレヌスが有望株と言えど不覚を取ることはあるわけですし
「調子自体は悪くないよ、ベレヌスは……」
さっきのレースどうだった?と反射的に聞こうとしてしまい口をつぐみます
機嫌が悪いようには見えませんが、レース直後に私達がアップしているサブグラウンドに来ているのはちょっと変です
勝てたならトレーナーさん達からのスカウトが来ているはずなので、もしかしてレース結果が芳しくなかったのでは……と考えこんでいる私に向かって
「私は絶好調!さっきのレースも一着獲ってきたよ!!」
と胸を張るベレヌス
私の気遣いと心配を返しやがれコノヤロウ
聞いてみればベレヌスには進級直前にスカウトしてきて、もう既に仮契約まで済ませているトレーナーさんがいるとか
「やー、みんなに言おうとは思ってたんだよ?
でも模擬レース前に言っちゃうと自慢みたいに聞こえそうでさ、ヒミツにしてたんだ」
その気遣いをもう少し継続して欲しかった
自分のレース前にムダに悩んで精神的に疲労した身としてはそう思うのでした……
「やー、みんなに言おうとは思ってたんだよ?
でも模擬レース前に言っちゃうと自慢みたいに聞こえそうでさ、ヒミツにしてたんだ」
その気遣いをもう少し継続して欲しかった
自分のレース前にムダに悩んで精神的に疲労した身としてはそう思うのでした……
模擬レースには実際のトゥインクルシリーズのようなパドックも、返しウマもありません
しかしそれは緩いと言うことではなく、そちらに掛ける労力があるならばレースに集中したい、させたいと言うウマ娘側とトレーナーさん側の利害が一致したからです
しかしそれは緩いと言うことではなく、そちらに掛ける労力があるならばレースに集中したい、させたいと言うウマ娘側とトレーナーさん側の利害が一致したからです
つまりレース発走直前のゲート前に三々五々集まってきているこの時点で
この辺り一帯に恐ろしい気迫が充満しております
その中でも特に強いプレッシャーを放っているのがアローちゃん
ですが周りの出走者も負けてはいません
あるものはアローちゃんを睨み付け
あるものは我関せずと自分のことだけに集中し、
あるものは首を頻りに動かして周囲を観察し、
そしてあるものはそんな周りの気迫に気圧されっぱなしでたじろいでいます
と言うか私ドン引きしております
皆人生賭けてるのは理解してたつもりでしたが、いざその現場に身を置くとここまで空気が違うモノなのか
もう視線のぶつかり合いで物理的に火花が飛び散ってそうな魔境となっています
この辺り一帯に恐ろしい気迫が充満しております
その中でも特に強いプレッシャーを放っているのがアローちゃん
ですが周りの出走者も負けてはいません
あるものはアローちゃんを睨み付け
あるものは我関せずと自分のことだけに集中し、
あるものは首を頻りに動かして周囲を観察し、
そしてあるものはそんな周りの気迫に気圧されっぱなしでたじろいでいます
と言うか私ドン引きしております
皆人生賭けてるのは理解してたつもりでしたが、いざその現場に身を置くとここまで空気が違うモノなのか
もう視線のぶつかり合いで物理的に火花が飛び散ってそうな魔境となっています
私ホントにここにいて良いウマ娘なんでしょうか
思わず現実逃避したくなりますが、彼女らに混ざって今から1800mを走るのは紛れもない現実です
ここで逃げてちゃ両親にもくーちゃんにも色々教えてくれたベレヌスや教官にも顔向け出来ません
男は度胸女は愛嬌
ならばウマ娘は両方だ!
度胸満点の走りと愛嬌満点のウイニングライブ見せてやんよ!!
等と脳内でテンションを無理矢理ブチ上げてレースに集中しようとしていた時
「カラン」
声が聞こえました
思わず現実逃避したくなりますが、彼女らに混ざって今から1800mを走るのは紛れもない現実です
ここで逃げてちゃ両親にもくーちゃんにも色々教えてくれたベレヌスや教官にも顔向け出来ません
男は度胸女は愛嬌
ならばウマ娘は両方だ!
度胸満点の走りと愛嬌満点のウイニングライブ見せてやんよ!!
等と脳内でテンションを無理矢理ブチ上げてレースに集中しようとしていた時
「カラン」
声が聞こえました
思わずそちらに顔を向けると、そこに立っていたくーちゃんは一言だけ
「頑張って」
と言って後は真面目な顔で私を見つめていました
「頑張って」
と言って後は真面目な顔で私を見つめていました
ふぅー
ゆっくりと息を吐いて肺を空っぽにします
すぅー
今度はゆっくりと息を吸って肺を満たします
ふぅー、すぅー
ふぅー、すぅー
ふぅー、すぅー
ゆっくりと息を吐いて肺を空っぽにします
すぅー
今度はゆっくりと息を吸って肺を満たします
ふぅー、すぅー
ふぅー、すぅー
ふぅー、すぅー
これを三回、昔シンボリ家で教えられた心を落ち着けるためのルーティンです
こんな事も思い出せないくらい、私は舞い上がっていたようでした
こんな事も思い出せないくらい、私は舞い上がっていたようでした
そうだ、周りがどんなに人生を賭けていても、どんなに練習を積んできていたとしても、
私が走る前から負けるいわれはありません
くーちゃんの桜花賞を思い出せ
得意とは言えない距離でグローリア先輩やパストラル先輩に勝つために
本来の先行押し切りの走り方を捨ててでもガムシャラにレースを勝ちに行った姿を
レースの後、冷静に話しているようにみせておいて、
ルドルフさんの「よく頑張った、レクイエムならきっとオークスでリベンジ出来るだろう」
と言う一言で決壊して
顔をくしゃくしゃにして大泣きしていたあの姿を
私が走る前から負けるいわれはありません
くーちゃんの桜花賞を思い出せ
得意とは言えない距離でグローリア先輩やパストラル先輩に勝つために
本来の先行押し切りの走り方を捨ててでもガムシャラにレースを勝ちに行った姿を
レースの後、冷静に話しているようにみせておいて、
ルドルフさんの「よく頑張った、レクイエムならきっとオークスでリベンジ出来るだろう」
と言う一言で決壊して
顔をくしゃくしゃにして大泣きしていたあの姿を
私の勝ち負けやスカウトされるされないは関係ない
私はあの姉の名を汚さないように、全力で走るだけだ
私はあの姉の名を汚さないように、全力で走るだけだ
そう心を定めるとともに、ゲート入りの号令がかかりました
さあ、レースの時間です
私は私の全てを出しきろう
ゲート入りを促されながら、私はそう強く思うのでした
私は私の全てを出しきろう
ゲート入りを促されながら、私はそう強く思うのでした