31-95「海王星以遠天体」

その日、涼宮さんは神ではなくなりました。私達が望んでいたのと別な意味で……
本日はその話をしたいと思います。
その日が何月何日だったかは忘れましたが、ちょうどその日、冥王星が惑星から外されたことだけは覚えています。


その日、私達はキョンさんの家にいました。
「カイオウセイイエンテンタイ?2年くらい前にも聞いたような気がするぞ、その言葉。何だっけ?」
「2年前にも言ったと思うよ。
  海王星以遠天体:海王星の外にある天体の総称だよ。有名な冥王星もその一つだよ。
  実は今日、冥王星が惑星から外されるらしい。ニュースでやるはず。くつくつ」


「きょこたーん。おままごとー」
「はいはい、一緒に遊びましょう」
私はいつものように妹ちゃんと遊びます。佐々木さんの邪魔をしたら悪いですからね。


テレビをつけるとニュースでそのことをやってました。
「あ、本当だ」
「以前からこのことは議論になっていたんだよ。くつくつ」
「しかし、何で冥王星が惑星から外されるのだ?」
「同じ軌道上に似たような大きさの天体があれば惑星じゃないらしいよ」
「よくわからない理由だな」
私も良くわかりませんでした。

「きょこたーん。肩車ー」
「痛い、痛い、妹ちゃん。髪を引っ張らないで下さい」
しかし、この調子だと佐々木さんに子供ができたら私が育てることになりそうです。やれやれ


帰り際、いつものように佐々木さんはキョンさんを誘います。
「キョン、明日は暇かな?良かったら…」
「すまん、明日から泊まりで団活だ」
「そうか…」
またキョンさんに断られて際の寂しそうな佐々木さん。トボトボとうつろな足取りで帰る。それを見て、自分のことのように私は泣きたくなりました。
考えていることはわかります。涼宮さんみたいに神能力あればキョンさんにかまってもらえるんじゃないか、ということですよね?
キョンさん酷いですね。佐々木さんの方が100倍良いのに。



その晩、佐々木さんのことを考えていると、気がついたらオクスフォード・ホワイトの空の茜色の巨人になっていました。
自分の意思とは無関係に街を破壊する私。涼宮さんと違ってピンポイントに。
ーーーキョンさんの隣の家を破壊し、キョンさんの高校の近所の家を破壊し、そして、青い玉が見えたと思った時に、私は元の世界に戻っていました。
これは後に聞いた話ですが、青い球の超能力者から見れば、佐々木さんの閉鎖空間が発生し、茜色の巨人が破壊活動をしていたらしいです。


次の日、キョンさんが目覚めると佐々木さんがキョンさんの家にいて、朝食を作っていました。
改変世界では佐々木さんとキョンさんの関係がほんの少し進展していました。つまり、何も知らない人が見れば間違いなく婚約していると見られる関係。
世界改変にびっくりしていたキョンさんも、佐々木さんの魅力にKOされたのか結局佐々木さんと正式に付き合うことになりました。


世界は改変されていました。ほんのわずか。気がついていたのはキョンさんと宇宙人、未来人、超能力者だけでした。佐々木さん本人も涼宮さんも改変に気がつかなかったみたいです。
変わったのは、佐々木さんの家とキョンさんの隣の家が入れ替わり、佐々木さんの学校がキョンさんの学校の近所の家々と入れ替わっただけ。わずかな変化。
キョンさんは涼宮さんと一緒にSOS団を立ち上げました。SOS団の人達は仲良しでした。友達として理想的に近いくらい。
一部の人はキョンさんが涼宮さんに浮気していると見ていましたが……
改変された世界で、佐々木さんはキョンさんと中学時代より仲良くなっていました。でもそれは、二人が同じ高校に行ってれば当然なっていたはずの関係。


ある日の夜、私と古泉さんは深刻な顔で今後のことを相談しました。
「改変世界の涼宮さんは中学時代と精神状態がさほど変わってませんね。
彼は佐々木さんのものですから、もう彼には頼れません。今のところ、彼の中途半端な優しさが原因で涼宮さんが彼を吹っ切れないのが問題ですね。
佐々木さんが北高に行ってれば、佐々木さんが北高に行かなかったのが涼宮さんによる神能力作用や世界改変じゃないという証拠も無いですから
本来こんなものだったと考えれば、落胆することじゃないかもしれません。そう思いましょう」
「私達の組織も涼宮さんの機嫌を取るために手伝います」
毎日忙しくなりそうです。

「しかし、佐々木さんの改変がこの程度で済んで良かったです。佐々木さんの自制心に感謝すべきです。しかし、涼宮さんが神である時代は終わりましたね」
「え?でも涼宮さんの能力は変わってませんよ」
「一人なら神でも、何人もいればただの特殊能力者ですよ。機関でもそう認定するでしょう」
「……」
「一つ言えることは、我々の仕事がさらにきつくなったということです」
「大丈夫、佐々木さんの方はキョンさんに任せておけば、ほぼ間違い無いです」
古泉さんは夜空の星を見上げて言いました。
「もしかして、佐々木さん以外にも、その能力を発現する人は出てくるのでしょうか?今の世界には、果たして何人の特殊能力者がいるのでしょうか?」
私達は夜空を見上げて溜息をつきました。肉眼では冥王星など見えるはずもなく……


その日、涼宮さんは神ではなくなったのです。いえ、能力を無くしたというわけでなく、ちょうど冥王星が惑星から外されたように……
……幸か不幸か、私達の苦労は当分の間続きそうです。それでは、また……
(終わり)

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最終更新:2008年03月16日 20:49
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