鈍い頭痛で目が覚めた。頭に靄にかかったように重い。
目の焦点が合わず、視界の中でちかちかするような光が瞬いていた。
何回か瞬きをし、重たいまぶたを開きながら辺りを見回すと全然知らない場所だった。
……広い部屋だ。大きなガラス戸があり、そこから暖かな光が降りそそぐ。
ガラス戸からは心が洗われるような、都会では絶対に見られないような自然の風景が広がっていた。
部屋は白というよりはクリームのようなセピア色で、温かな雰囲気で満ちていた。
自分が寝かされていたベッドが中央付近に置いてある。
その他にも本棚や机、といった物から椅子やテーブル、食器棚等の誰かがここで生活している様子も見えた。
ふと室内に満ちた甘い香りに気づく、どこかで嗅いだ事 のある様な、懐かしさを感じさせる、自然と優しい気持ちに慣れるような香りだった。
全然知らない場所だったが不思議と不安だとは感じなかった。
がちゃり。と扉が開いた。
全然知らない、が美しいと形容されるような女性が立っていた。
「おはよう。」と言われ「おはよう。」と返す。
「調子はどう?」と聞かれ「まあまあだ。」と返した。
女性は「そう。」と言って微笑んだ。
それきり女性はにこにこして黙ってしまった。
ずっと見つめれて少し恥ずかしい。
少し考えてから口を開いた。
「貴方はだれ?」
女性は何も言わない。
もう一度「貴方はだれ?」
女性は何も言わずただ笑った。
女性はゆっくり首を振ってただ笑った。
しばらくどちらも何も言わず見つめあって過ごした。
もう恥ずかしいとは思わなかった。
気が着くとガラス戸の向こうは暗くなっていた。
昼間の暖かい雰囲気はなりを潜め、代わりに静かな、冷たい空気が満ちていた。
頭がぼうっとして眠気が出てきた。
「おやすみ。」
そう言って女性は部屋を出ていった。
することも無いので寝る事にした。
から。から。から。から。
独特の音と振動で目が覚めた。
目を開けると視界の全てが暖かな自然だった。
周りの風景がゆっくりと変わっていく。
自分はどうやら車椅子みたいなものに乗せられているらしい。
振り返ると昨日の女性がいた。
女性は目が合うと「おはよう。」と笑った。
「どこに行くの?」と聞いてみた。
女性は少し困った顔をして「わからない。」と答えた。
でもまた笑って「楽しい所に。」と答えた。
それきり女性も自分も黙ってしまった。
不思議と気まずくはなかった。
しばらくして女性が歌っていた事に気がついた。
周りの自然にあった優しい暖かな歌だった。
目をつぶって聞いてるうちに眠ってしまった。
誰かが言い争っている。
どうやら女性同士のようだ。
自分はまた座っているようだ。
昨日の美しい女性と、知らない人形のような女性だ。
「ふざけるなっ!!彼をこうしたのは君たちのせいだ!」
昨日の女性が想像もしなかった怖い顔で叫ぶ。
「……貴方が何を言っているのか理解できない。貴方が彼をこうした。」
人形のような女性は淡々と表情を変えずに応じた。
深海のような青い大きな目で見つめながら「貴方が全部やった。」
「……違う。」頭を必死に振る。
「彼にはもう何もできない。」まるで本物の人形のように。
「違う。」耳を押さえた。
「彼から彼女を抱きしめる手を奪ったのも貴方。」人形のように淡々と。
「違う。」耳を押さえたまましゃがみ こんだ。
「彼から彼女に近づく足を奪ったのも貴方。」淡々と事実を。
「違う。」逃げるように。
「彼から彼女の記憶を全て奪ったのも貴方」追い詰めて。
「違う!!!!!」
あぁぁぁああぁぁぁあっぁああぁっぁぁああああああああああああ
あっぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっぁああああああああぁあああああ
あああああああぁあああああああああぁああああああああああああああああ
あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあああああああああああぁああああああああ
壊れる音がした。
それは体から空気と涙と鼻水と胃液をぶちまけて叫んだ。
「私、悪くない。私悪くないもの。何もしてないよ?だってだってみんなみんなあの女がわるいの。
違うものええ。ちがうよ。私がだってあのお、お、お女よりも早く出会ってるしな、なによりもそう親友!うん親友だもの。彼の。うん僕の親友!えへへ。
なのになのになのになのになのになのになのにああああの女ったら私とキョン君をひきはがそうとするんだから、ね。ね。わたしわるくないよ。
キョン君もゆるしてくれたものわたしの方がスキだって。だから私の世界で過ごしてた方が幸せだよね?
そうだもんねキョン君?でもキョン君も悪いんだよね。
約束約束約束約束したのにや、や、やや約束破るんだもの。
あんな気持ち悪い女の所に行くんだもんね、しょうがないよ。
手なんて なくてもいいじゃない?足なんてもっといらないよ。
でも一番いらないのはその女をえrrrrr、えら、、、選ぼ、、、、、うとしたその頭だよね?
キョン君は私がいればいいもんね?あの女の事なんか覚えてなくていいし覚える価値なんてないもんね?
ふふ。でもキョン君もいけない人だよね・・・あの女の事忘れてくれたと思ったらふざけて私の事まで忘れたふりするんだもん・・・いいよ、、私は優しいから。
ずっと好きな人のおふざけにもつきあってあげるの・・・えへへ!いいお嫁さんでしょ?いいよね?私でいいよね?
私のほうが可愛いし頭もいいもんね。。。えへへ!何よりキョン君の親友・・・えへへ。。ふふ。ふふふふ・・・」
自分が最後に見たのは、
右手を上げて何かを唱える人形のような女性がひどく寂しそうな顔だったのを覚えている。