64-867『佐々木さん討ち入り計画』

時は12月14日、午後8時過ぎ。
夕食を終え、一息ついた俺は数日後に控えている期末考査の勉強をするため学習机に向かっていた。
二月ほど前の試験結果を挽回すべく、今回は特に頑張らなければならないのだが、妙に気が乗らない。
参考書を前にノートへ記した解答は4問ほどで手が止まっている。
 何故か心がざわついているような、落ち着かない気分。

こういう時は何かしら気分転換するのが上策である。
ここで選んではいけないのがネットと掃除だ。理由は言わずもがなだろう。
とりあえずコーヒーでも淹れて手ごろな雑誌でも読むかと決め、椅子から立ち上がった瞬間、ぶるりと悪寒が走った。

「寒っ」
何気に窓の外を見ると雪がチラついていた。
そうか、寒かったからか。部屋を暖めれば余裕も出てくるだろうと、ヒーターの設定を上げるために一歩踏み出したところで、

ピンポーン

と玄関のチャイムが鳴った。こんな時間に来客とは珍しい。
間髪入れず妹の「はーい!」という元気な声と、とたとたと廊下と階段を駆ける足音が家に響いた。
程なく玄関のドアの開く音と、何やらぼそぼそと聞き取れない話し声が階下から聞こえる。
そしてまたとたとたと階段を駆け上がってくる軽い足音。おそらく妹だ。
足音はそのまま俺の部屋の前までやって来て止まり、扉が勢いよく開かれた。
俺の部屋に入る時はノックしろと文句を言う間もなく、妹めが何やらまくし立てる。

「とのー!うちいりでござるっ!うちいりでござ~る!!」

呆気に取られる俺を残し、きゃっきゃと笑いながら駆け去る妹。また階段を駆け下りる音が聞こえる。
その騒がしい音が止むと、替わりに今度はすたすたと何者かがこちらへ向かっている足音が聞こえてきた。
おい妹よ、配下なら曲者に立ち向かえよ!
そんな俺の抗議も通じず、曲者(?)が開けっ放しの扉の影から姿を現す。

「やあ」

曲者(?)の正体は佐々木だった。右手を軽く上げ、お決まりの挨拶をするのはいつも通りではあったが、格好が妙だった。
制服の上に黒地にだんだら模様の羽織をかけ、左手には百均で売ってるような鞘入りの短い刀を持っている。
ちょっと顔が赤い。恥ずかしいのだろうか?

開いた口の塞がらない俺をよそに、部屋へと入ってくる佐々木。後ろ手に扉を閉め、ガチャリと内鍵を閉めた。おい。
そのまま俺の前へと進み、意を決したように真顔を作ると玩具の刀を鞘から引き抜き、俺の顔前へと突きつけた。

「ついに追い詰めたぞ、キョン!」

何なんだいったい!?何のマネだっ……て、あの格好は忠臣蔵なのか?俺が吉良で佐々木が赤穂浪士か?
事態が分からず混乱する俺を無視するように佐々木は続ける。

「2年前、あれだけ一緒に居ながらも手を出すどころか何も気づかず、卒業したら連絡一つ寄越さず1年間も放置!」
「ええっ!?」
「人が悩み喘いでいる中、自分は楽しく部活でハーレム三昧!」
「おい」
「それはまだ良い。だが、春に再会してからアレだけ分かりやすくアピールしたのにことごとく袖にしたその鈍感っぷり、断じて許す訳にはいかない!」

鬼気迫る顔でじりじりと滲み寄る佐々木。
ま、待て!話せばわかる!

「問答無用!成敗っ」

一気に間合いを詰めてくる佐々木に思わず目を瞑る。と、次の瞬間、

ちゅ

唇に柔らかく湿った感触が。
驚いて目を開けると眼前に目を閉じ顔を真っ赤に染めた佐々木のどアップが広がっていた。

「んん!」

呻く俺の後頭部に手を回し、さらに唇を押し付けてくる。
より深く、より熱く……。

「ぷぁは」

たっぷり20秒ほどのキスを終え、息を入れる。互いの顔は5センチと離れていない。
佐々木はぼうっとした虚ろな顔をしていたが、やがて薄く笑みを浮かべ、

「キョン、討ち取ったり♡」

と囁いた。
そして、どちらからともなく再び顔が近付き2度目のキスをした俺たちは、そのままベッドへと――――

………………。
…………。
……。

 

「――――というのはどうでしょう?」
「却下!」
 同時にチョップ。橘さんのドヤ顔にチョップ。ずびし。
「あうっ」

『佐々木さん討ち入り計画』

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最終更新:2012年03月11日 00:03
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