64-998「炬燵」

「久しぶりにキョン、君の部屋に来たが特にレイアウトは変わっていないようだね。」
「いやいや、覚えているさ、これくらいはね。親友として当然と言ったところさ。」
「おや、この炬燵は前の冬に来た時にも使っていたやつだね、くっくっ、少し懐かしい感じがするよ。」
「良いよね炬燵は、季節感も申し分無い。ちゃんと籐籠にミカンが入って置いてあるのが心憎いと言うものだ。」
「いや、すまない。今日は一緒に勉強をしようと言う話で来ている事は覚えているよ。」
「僕にもまだ君に教えられる科目があるなら喜んで協力させて貰おう。それは僕にとっても自分の学力を整理し復習する良いプロセスになるからね。」
「それでは始めるとしようか。あまり時間を無駄に過ごしては勿体無いからね。」

「くっくっ、やはり良いものだね、炬燵と言うものは。その反面、強烈に睡魔を誘う魔力染みたものでもあると僕は思うね。」
「君が眠そうにな目をしていたら僕が全力で目をさまさせてあげよう。代わりに僕が寝てしまったら優しく起こして欲しいな。」
「…。」
「…いや、何でも無い。」

「僕は僕で持参の問題集を始めるとするよ。何かあったらいつでも気にせず声をかけてくれたまえ。直ぐに応対するよ。」
「いやそれは違う。さっきも言ったが君の質問に応えて思考する事が僕自身を鍛練する事になるのさ。」
「君は解答の糸口を掴み、僕は復習の機会を得る。一石二鳥なのさ、だから僕に声をかける事を躊躇わないで欲しいな。」
「うん、それでいい。では始めよう。」

「…。」
「なかなか順調のようだね。これはすまない、集中を途切れさせてしまったかな、失敬失敬。」
「…。」
「……。」
「大丈夫かい? あやふやなまま進めてそれが定着してしまうと他の解法にも悪影響がでないとも…、快調…、ならば問題はないようだね。」

「……。」
「………。」
「とても気合いの入った目をしているね。眠気を微塵も感じさせないよ…。」
「僕も? いや、これでも多少眠気が襲って来ていてね、もうしばらくすると寝てしまうかも知れない。そうなったらキョ…。」
「…コーヒー? あ、休憩、そうだね。一息入れても良い頃合いかな。」

「ありがとう。…、うん、これは良い、温まる。」
「キョンの淹れてくれたコーヒーは一味違うね。…インスタント、…そう、いや、込めた意味はそうじゃ無いんだけどね、…気にしないで欲しいな。」

「貴重だね、この時間は。…勉強だけではないさ、今この空間に二人しか居ないと言う現象が、と言う意味でかな。」
「そう、そうだね。人数が多いと騒音が増える。君の言う通りだ。」
「だからこそ今二人しか居ない状況が実現したんだよ。」
「その事に君は必然を感じないかい?」

「成る程、そうか、そうだね。君はそう言う解釈に至るのか。くっくっ、僕はまだまだ未熟だね。いや、何でも無い、こっちの事さ。」
「…。」
「さて、そろそろ休憩には十分な時間も経過した事だろう。勉強を再開しようじゃないか。」

「…。」
「うわっ、びっくりした。どうしたんだい、急に大きな声を出して。」
「ふーん、何かが君の足を触ったと…。そう言えば君の家では猫を飼っていたよね。その猫ちゃんがこの炬燵の中に居て、身動きを取った際に触ったのかも知れない。」
「ふむ、最後にこの部屋のドアを閉める時に廊下を歩いていく猫、シャミセン…だったかな、を見たんだね。いや、中を確認するのはもう少し後にしてみないかい?」

「そうだな、君の妹さんはなかなかのお転婆さんだったと記憶しているが、失礼、貶めようとして言っているのではないと理解して欲しい。」
「そこまで言うものでは無いよ、キョン。大切な肉親をそう言い放つのは感心しないな。」
「もし君の妹が僕の妹だとしたら僕はとても彼女を可愛がる事だろう。」
「もしもの話だよ。」
「その彼女がこっそりと炬燵の中に潜んで居て、いたずらを仕掛けてきたと言う説はどうだろう。」
「くっくっ、やはり少々無理があったかな。なぁに、他愛も無いお喋りの一環だよ。」

「ところでキョン。君のズボンの膝、破けてて手が入るよ、ほら。」

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最終更新:2012年03月11日 00:22
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