橘京子「それが佐々木さんの役割だって言うんですか?」

 橘京子「きっと、あたしはもう涼宮さん達を見ても、寂しいな、としか思えないんだろうなって」
 藤原「ふん。そういう事はもっと筋道立てて話すんだな現地人」

 橘「だってそうですよ」
 橘「どんなに涼宮さん達が楽しそうにしてようが、それを我慢してくれた佐々木さんが遠くで見てるって思ったら寂しくもなります」
 橘「驚愕以前の全ての物語ですらそうです。遠くで彼女は空を見てるんだろうなって思ったらクソ喰らえに思えます」
 橘「彼女のその思いが、結局報われない、報われないためだけに生まれたのが悲しいんです」

 藤「ふん。奴の人格からすればそれが正しい展開であるべきだ。違うか?」
 橘「そうですよ」

 橘「佐々木さんに関わる設定や人格は全てがそうです。でもそれって煎じ詰めれば『諦めることで、涼宮さんを美しく演出する為だけに生み出された』って事じゃないですか?」
 橘「あたしだって彼と涼宮さんの仲くらいほほえましいと思ってましたよ。だから沢山ニヤニヤしてました」
 橘「けどね、その為にあからさまな踏み台を用意されてまで笑える訳がないんですよ」

 橘「そんな踏み台を出さなきゃ演出できなかったんですか?犠牲専用キャラを出さなきゃ盛り上げられない恋なんてクソ喰らってろです!」

 藤「だから筋道立てて話せ現地人」
 橘「うわ。未来人なのに人の本意を悟ったりとかできないんですか?」
 藤「そんな超能力を期待するな。そもそもそうした未来的アイテムを使わせてもらえれば僕だって苦労しないんだ」
 橘「うっわ使えない」
 藤「…………」ガタッ
 橘「過去リカンジョークです」ドウドウ

 橘「結局、佐々木さんがああいう子だなんて分裂の時点で解ってることじゃないですか」
 藤「まあそうだな。どう言いつくろおうが、奴が後付けヒロインじゃないと言えない奴はいないだろう。端から勝負ではないんだ」
 橘「でも、そうやって読めちゃう子だからこそ予想を裏切って欲しかったんじゃないですか」
 藤「仕方ない。それが奴、そして僕とお前の役割というものだ」
 橘「そうですね。だからあたしは彼らに期待したんですよ」
 藤「誰にだ?」

 橘「結局、佐々木さんは『フラれる事で彼らの恋路を盛り上げるためのキャラ』って立ち位置丸出しじゃないですか」
 橘「それも初期からいるキャラならともかく、今回の事件の為だけに出てきて、それで退場ですよ? 他の何だって言うんです」

 藤「ふ、くく。人聞きが悪いな。なら頭の悪い現地人の為に言い換えてやろう」
 藤「思いだせ。そもそも分裂事件は佐々木が奴に関わったことが発端なんだとな」
 藤「つまり分裂と驚愕は、佐々木が奴らを巻き込んだ物語、奴の失恋物語だったんだよ。そう考えれば浮かばれるだろう?」

 橘「ならこっちからも言わせてもらいますよ」
 橘「彼女が主人公だったって言うなら、『自分は解りやすい敵役になりたくなんかなかった』なんて悲しいことを言わせないで下さい」
 橘「結局彼女は自分を端役だって、物語を通り過ぎるゲストとしか捉えてなかったって事じゃないですか」
 橘「彼女は誰よりも彼らに優しかったと思います。だからこそ報いてあげて欲しかったんですよ」
 藤「だから、誰にだ?」

 橘「だいたい、彼女は確かに物語を通り過ぎただけかもしれません。けどあたし達は知ってるでしょう?」
 橘「彼女は何度も何度もじっとこっちを見ていたって。何度も何度も、キミの傍に来ていいかい、って問いかけてたじゃないですか」

 藤「……分裂、いや長門とかいう端末人形が倒れる以前か。確かに奴らしくないほど問いかけていたな」

 橘「らしくないなんて当たり前です!」
 橘「だって彼女のキャラは、彼女が自分を枠に嵌めて演じてるだけだって示唆されているでしょう?」
 橘「佐々木さんは、本当は「佐々木さん」じゃないんだって何度も強調されてたでしょう?」

 橘「本当は彼女は通り過ぎたくなんかなかったって、一緒に遊びたかったんだって、他でもないあたし達は知ってるでしょ?」

 橘「それでも我慢して通り過ぎた子に、それでこそ彼女らしいんだ、なんて寂しいことをいわないで欲しかっただけなんです」
 橘「だってあたしだって、みんなだって、望みを諦める悲しさも辛さも誰だって知ってるでしょう?」
 橘「……むしろそれを味わうのはメインキャラであるべきなんです。最後に幸せになれるだろうって希望が持てるのですから」
 橘「ぽっと出のサブキャラにそんな哀しみ背負わせてまで、可愛いでしょ、ラブラブでしょ、なんて演出する事のどこに正しさがあるって言うんです!」

 橘「………………」ハアハアゼイゼイ
 藤「……まあ飲め」
 橘「…」ドーモ

 橘「……だからあたしは、きっともう涼宮さん達を見ても笑えない」
 橘「キョンさんは表面的にはどうでもよさげでもボロクソに言ってようとも、最後は『ほら、一緒にいこうぜ』って言ってくれる人だって」
 橘「涼宮さんはどんなに自分勝手に見えたって、少なくとも仲間にだけは優しい人だって、そう、思えていたから」
 藤「仲間?」

 橘「ええ、そうです」
 橘「だってそうでしょう?佐々木さんは結局彼に自分の望みを言わなかった。自分を女と見てないと嫌というほど知ってても女だって言わなかった」
 橘「それは彼女が彼の意思を尊重したから、自分の望みより彼を尊重してくれたからなんじゃないですか?」

 橘「あたしもあなたも悪党です。自分勝手です。けれど佐々木さんはずっと彼らの味方だった。違いますか?」

 橘「佐々木さんは敵みたいに出ていたし、裏があるとも思える言動を繰り返してきました」
 橘「でもホントは全部が素直な気持ちで。それでも素直な言葉なんか形にしないで、彼女は誰よりも彼の意思を尊重してくれた」
 橘「彼の味方でい続けてくれたじゃないですか。仲間以外の何だって言うんです」

 橘「そうです、涼宮さんの味方以外の何者でもなかったじゃないですか」

 橘「佐々木さんは佐々木さんです。下の名前も公開されないモブキャラもどき、一般人、それで終わりだって誰もが予想したはずです」
 橘「だから涼宮さんに名前を呼んで欲しかった。有希、みくるちゃん、そんな風に彼女の名前を呼んで欲しかった」
 橘「彼女を、ただ仲間として呼んで巻き込んであげて欲しかったんです」

 橘「涼宮さん達が『楽しんでいる』ならなおの事、『そんなとこで見てないで、一緒に行こうぜ』って言ってほしかったんですよ」

 橘「今回の事件が、佐々木さんが涼宮さんを巻き込んだ格好だったって言うならなおの事です」
 橘「誰でも巻き込んで自分のペースにしちゃうあの涼宮さんを、自分のペースに巻き込んでひっかきまわしたんですから」
 橘「だから自分を巻き込んだ佐々木さんに『自分を巻き込んだくせに、勝手に傍観者気取りで退場するなんて許さないわよ』って言って欲しかった」
 橘「彼女を名前で呼んで、楽しい非日常に巻き込んで欲しかったんです」

 橘「……だって佐々木さんは、どんなに辛くても最後まで涼宮さんの味方でいたんですもの」

 橘「中学時代の自分と同じ、『自分と同じ世界を見てくれる人がいない寂しさ』を誰よりも涼宮さんが知っているならなおの事です」
 橘「たとえ間接的にとはいえ涼宮さんにそんな真似をして欲しくなかったんです」
 橘「どんなに無茶苦茶だって楽しんだものが勝ち。映画撮影がそうだったみたいに、それでこそ涼宮さんの物語じゃないですか」
 橘「その彼女に、彼女の味方でいてくれた佐々木さんを『無意識』なんてご都合主義で排除して欲しくなかった」

 橘「結局、佐々木さんのあらゆる設定は、誰よりも『涼宮さんを美しく演出する為に都合のいい話』なんですよ」

 橘「だから、そんな彼女を涼宮さん自身で覆して欲しかった」
 橘「佐々木さんは、枠を嵌めて自分を演じているだけの普通の少女なんですから。その『普通』を引っ張り上げて欲しかった」
 橘「それが涼宮さんに不都合であっても、そのまま『涼宮さんにとって都合のいいゲストキャラ』で終わらせないで欲しかったんです」
 橘「……佐々木さんの寂しさをきっと誰よりも知ってる涼宮さんだからこそ」

 橘「でも結局、涼宮さんの世界を盛り上げるためだけのゲストキャラ、都合のいい諦めキャラ、そんな踏み台が必要でしたか?」
 橘「そんな踏み台を必要とするくらい、盛り上がっていないお二人でしたか?」
 橘「あたしはそんなの悲しいです」


 藤「悲しかろうさ」コトッ
 藤「ふ、くく、誰もが納得できるオチが存在する、なんてご都合主義を信じられる年齢ではなかろう?だから大事なのは大勢だ」トクトク
 藤「僕は傲慢勝手な未来人、お前は愚かで無力な超能力者、そして佐々木は恋に破れる美しいモブ」グビ
 藤「大事なのは大勢だ。そしてこれが大勢だ」

 橘「でしょうね」グビ
 藤「だろう?」グビ
 橘「だからあたしはただ呟くだけです」

 橘「そんな風に誰かを醜く演出しなくても、SOS団の皆さんも、あの二人の恋路も、キラキラ輝いてたよって」
 橘「……けれど、もう二度とそんな視点を持てないことが寂しいよって」

 橘「どんな素敵な物語も、本当は欲しかったのに諦めた人がいるんだよって。諦めるためだけに生まれた彼女がいるんだよって」

 橘「気恥ずかしい夢だって話せるくらいに、『言葉が通じる人』がいるのがとても幸せだって事くらい解るんです」
 橘「本心を見せない作り笑いが得意な人が、気付けば笑ってしまっているくらいの幸せって、想像もつかないんです」
 橘「そんな幸せを諦められる人が、それでも『そっちに行きたいよ』って言葉にしてしまうくらいの渇望って、想像もつきません」
 橘「幸せを我慢して、誰かの幸せを願った彼女だから。だから、報いて欲しいって思ったんです」

 橘「世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団、その『盛り上がる世界』に彼女を含めてくれなかった物語に」
 橘「他でもない、誰よりも涼宮さん達の味方でいてくれた彼女を、『世界』に含めてくれなかった物語が」
 橘「あたしはとても悲しくて、さびしいって、そう呟きたいんです」

 藤「ふ、くく。お前はハーレムエンドが望みか?」
 橘「あたしはもっと悩んで欲しいだけですよ」
 橘「自分の気持ちよりも他人の気持ちを大事にしてくれる人が一年も傍にいて。そんな人の気持ちよりも、なお大事だと思えるなら」

 橘「そんなに大事な気持ちなら、彼はその気持ちをちゃんと涼宮さん自身にぶつけるべきなんですよ」
 橘「その勇気も出せない彼、そんな風をまるでカッコイイ人みたいに見せる為に、彼を甘やかす物語。その為だけに生まれた佐々木さん」
 橘「そんな主人公補正の綺麗事に悲しくなったってだけです」

 「型破りな変人のかっこよさ、素直になれない少女の可愛さ、普通の少女と言う内面。そんな風に都合よく使い分けてしまう涼宮さんに」
 「ずっとそんな涼宮さんをきれいでかわいいって思ってきたから、そのあり方が佐々木さんを踏み台にしたのが悲しかった」
 「そんなご都合主義を、綺麗事みたいに持ち上げる物語が悲しかっただけなんです」

 「不満を抱くなら、それより自分の物語を書けばいい」
 「マイノリティな事くらい知ってる。けれど、ただ、寂しかったんです」
 「とてもとても輝いてみえていたから、そんな事をしなくても輝いていたから、だから、寂しかったんです」
 「だから、とても悲しかったんだってそっと呟きたいんです」

 「たった一編だけのゲストキャラにそんな役割を背負わせて『はい綺麗』なんて演出、クソ喰らえなんだって、ね」
 「……あなたは、どうですか?」
『終わり』

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最終更新:2012年08月14日 11:53
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