15-593「ポーカー」

『ポーカー』

「レイズだ……どうするね?キョン」

「……コールだ」

佐々木の余裕綽々の顔でわかる。
あいつはいい手だ。
だが。
手を空ける、俺はフラッシュ
佐々木はスリーカードだった。

「っ・・・・・・君には相変わらず勝てないな」

「お前が弱いんだよ」

「君とやりだすまでそんなに弱いと思ったことはないんだけどなぁ……君が強いんだろう」

意外に思われるかも知れないが佐々木がこういったゲームが弱い。
とはいっても古泉のようにやるゲームやるゲーム全てで俺に必敗するわけではない。
俺は将棋やチェスでは絶対佐々木にかなわないし、オセロもそうだ。
またババ抜きのような完全に思考の入り込む余地のないものでは5分だ。
しかしギャンブル性の強いゲームになると佐々木は途端に駄目になるのだ。
佐々木は経験を重んじる人間である。
そういった人間はゲームに強いかと言うとそうではない。
もちろん全てのゲームにおいて経験則がまったく役に立たないわけではない、チェスや将棋ではそうだ。
しかしこと不確定要素の強いギャンブルではそうは行かない。
ゲーム理論と言うやつがある。
数学系の学問で確率的にどうすればゲームに勝ちやすいかを研究する学問だ。
佐々木のやっていることは……恐らく独自のものだろうし、俺にしたってちゃんと学んだわけではないからどうかは知らないが
まぁこれと似たようなことをやっているのだろう。
しかし事ゲームの実践に当たってこの理論は何の役にも立たない。
ゲーム理論は全ての人間が効率的に動くことを前提に作られているから、効率的に動かない人間がいた場合は破綻する。
さらに、ゲーム理論を重んじて行動するということはゲーム理論を知っている人間には動きが読まれやすいのだ。
佐々木の性格を知り、佐々木のゲームの傾向を知った俺は中学の後半からはほとんど負けていない。
もちろん運の要素も多々あるこのポーカーでは必勝と言うわけには行かないがな。

「さ、次のゲームだ」

ディラーが俺に代わりカードを渡される。
カードを適当に切っていく、カードが風を切る独特な音が心地いい。
お互いにカードを配りながら考える。
佐々木にポーカーを教えたのは俺だ。
正確に言えばその時既にポーカーの役は知っていたのだがレイズやドロップ等のルール込みでやったのは俺が最初だそうだ。
ポーカーはこのルールが無いことには面白さは激減する。
カードを出して勝った負けた罰ゲームではジャンケンと何も違わないからだ。
このルールを教えたあと佐々木はひどく気に入ったようで何度も俺に勝負を持ちかけていた。
何度かやっているうちにお決まりの賭けもできた。
そのくらいやりこんでいるわけだ。
もちろん今もそのルールに準じてやっている。
にしても、佐々木はなぜやりたがるのだろうか。
はっきり言って佐々木の勝率はだいたい2割だ。
何かを賭けるというなら何もポーカーでなくてもいいのに佐々木は苦手なポーカーに固執する。
「キョン、2枚頼む」

配り終わると佐々木がこちらに2枚カードをよこした。
俺はヤマから2枚カードを佐々木にやる。

「ふむ……」

佐々木は配られたカードを見て考えている。

「俺も2枚」

一応宣言してカードを引く。
カードを確認。

「よし、2枚レイズだ」

「僕もその上2枚レイズしよう」

強気だな。
佐々木は今、2枚チェンジするということは……とか考えているのだろう。
合理的な2枚チェンジはスリーカードからの変更、ブタからのストレート、あるいはフラッシュ狙いだ。
お互いが2枚チェンジしている状況ではストレート以上ならまず勝てると思っているのだろう。

「レイズだ、1枚な」

「受けよう、コールだ」

なんかいかレイズを繰り返して勝負を迎える。
しかしそういう経験則にとらわれているから。

「どうだい、フラッシュだよ」

「……フルハウスだ」

「っ!?」

不測の事態で負けるんだ。
せっかくトータルで勝ってたのにな。
この一戦でゲームは終了、そろそろ佐々木の勝率は2割を切るかもしれない。


「じゃ、佐々木。これから一週間頼むぞ」

「……わかってるさ、今日はいけると思ったんだがね」
やれやれ、また負けてしまったか。
これでキョンとのポーカーは絶賛負け越し中。
勝率は1割6分5厘だ。
我ながら低すぎるな。
「負けたほうが片付ける」というルールになっているから僕が散らばったカードを集めて箱に戻す。

「なぁ、佐々木」

「ん?なんだいキョン」

かき集めたカードの向きをそろえているとキョンが話しかけてくる。

「お前さ、賭け好きみたいだけど友人と少しやるくらいにしとけよ、向いてない」

普通の人ならバカにされてるのかと思うかもしれないがことキョンに限っては違う。
くくっ……これは完全に心配されてるね。
さて、親友を心配させたままでは悪いな。
でもはっきり言うのも少し気恥ずかしい。
だから

「大丈夫さ、というより僕は賭け事はあんまり好きじゃないよ」

「おいおい、しょっちゅう俺に賭けポーカーもちかけるやつがなにいってんだよ」

「くっくっ、少しだけ勘違いしてるね」

「何がだよ」

「僕が好きなのは『賭け事』じゃなくて『君とのポーカー』だよ」

このくらいにしておこうかな。
さすがに「負けて一週間君の勉強を見る」のも「勝って君のおごりで買い物に行く」のも僕にとって都合がいいって言うのは恥ずかしいからね。

「ふーん、まぁならいいが。佐々木、お前も物好きな奴だな」

…・・・ま、キョンならこの程度だろうね。




ちょっぴり期待したけど。

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最終更新:2007年07月30日 21:59
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