誰かが『UFOキャッチャーは貯金箱である』といった格言を残していたのが頭の中でリフレインする。
本日は学校が短縮授業という形をとっていたため、週に何度かのスパンで訪れる学習塾という場所へ出向くまで多少の時間が余ってしまったので、俺は相方である佐々木と塾の近くに聳え立つ巨大なゲームセンターにおじゃましている。
そこで、佐々木が過去にないほどの負けん気をだしているのだ。
「UFOキャッチャーというのはとれそうに見えて本当に取り難い。だけどここにしかない商品を取る為には多少の出費は避けられない」
いつになく真剣な目で景品である謎の人形を睨みつける佐々木には鬼気迫るといった表現が似合わないでもない。そしてワンコインを投入する。
しかしながら、狙った獲物がある意味では佐々木らしいのだが、俺の主観からすると佐々木らしさはまったくもって皆無だった。そしてまたワンコインを投入する。
「なぜそんなヌイグルミを欲しがるんだ?」
そんなにホイホイ散在をするほど欲しがるようなシナモノではないだろう。
佐々木は俺を一瞥してくつくつと笑い声のようなものを漏らして、やる気の見られない、しかしどこか憎めない顔立ちのヌイグルミに語りかける。またワンコインを投入しながら。
「何ゆえかと問われればキョン、キミに似た雰囲気を持っているからだ」
何かけなされたような気がしたので黙っていると、
「そういってほしかったんじゃあないのかい?僕はキミが好きだから、キミに似た雰囲気を持つこのヌイグルミを取って、キョンの変わりに毎日可愛がってあげようと思った、とまで言って欲しかったのかい?」
誰もそんなことは思っちゃいないさ。第一そんなことを真面目に言われたら多少の気味の悪さを感じるくらいだ。
「くっくっ。キミらしい。ところで僕はキミに話しかけられたせいで最後のワンコインをムダにしてしまったのだが、どう責任を取ってくれる?」
「ならヌイグルミの変わりに俺がお前の家に陳列されて毎日可愛がってもらおう」
「……とでも言って欲しいのか?」
時間差でオチを言ってみた。佐々木は予想もしていなかった答えが返ってきたからか、珍しく驚いた表情をして、
「それもいいかもしれないね」
なんて、これまた珍しく余裕の無さそうな、というか心がここに無さそうな笑いをノドの奥で鳴らした。
佐々木の部屋で等身大の人形として陳列されている自分は想像も付かないので、代わりに佐々木の獲物でも狩猟してやることにしよう。
心ここにあらずの佐々木は正気に戻る気配を見せずになにやら不穏な独り言を呟いている。そのスキに銀色の硬貨を一枚入れ、佐々木が哀れになるほどアッサリと獲物を獲得してしまった。
「佐々木、ほれ。責任とってお前の獲物をゲットしてきたぞ」
無理やり佐々木の意識を現実世界に戻すと、
「あ、ああ。ありがとう、キョン。何かうれしい様なガッカリしたような気もするが大切にさせてもらおう」
あまりありがたそうなお言葉はもらえなかったが、そのあと訪れた塾や翌日からの学校生活でそのヌイグルミを肌身離さず持ち歩き、また時折ヌイグルミをうれしそうな表情で眺めているところを見るに、佐々木に女らしさがあることを改めて実感した。
ただ弊害として、クラスメートからの誤解のお言葉は多くなったがな。
最終更新:2007年07月30日 21:59