「キョンは、昔から変な子が好きだからね。」
高校生活。どうやら変わらずに国木田とは仲良く過ごせそうだ。
「変な子?それって女か?」
「うん。佐々木さんって人で、キョンの……」
慌てて口を塞ぎ、俺は国木田に耳打ちした。
「……何を言うつもりだ。」
「ん?『嫁』って。」
谷口が立ち上がる。
「よ、嫁?!まさかお前……」
「中学公認カップルだったしね。いや、小学校同じ人からしたら、幼稚園かららしいけど。」
……ったく。
「佐々木とは付き合ってもいないし、婚姻関係を結んだ覚えはない。」
中学から言われ続けた事だし、今更目くじらも立てんがな。
……後ろから安堵の溜め息がしたのは気のせいだろうか。
「まぁいいや。それはそうと、お前随分可愛い弁当だな。」
谷口の声に、俺は弁当を見る。このラブリーな絵柄の弁当箱は……
「……ちっ。あいつ間違えやがったな。佐々木の弁当箱じゃねぇか。」
とても足りんが、仕方なかろう。俺は箸をそのまま使い、食べる。
「……き、気にならんのか?異性の箸……」
「今更気にならん。」
好き嫌い多いからな、あいつは。昔からしょっちゅうあいつの残飯処理をやっていたんだ。別に気になりもせん。
……後ろの席のダウナーさが増す。気分悪いな、全く。
「へ、閉鎖空間が!」
「……あら?間違ったのかしら。」
昼休み。弁当を見た私は、それがキョンのドカベンだと気付く。
「(共通のバッグもこまりものね。)」
同じ中学の子が、弁当をのぞきこむ。
「佐々木さん、こんな食べたっけ?」
「いや、多分間違い。これはキョンの弁当だわ。」
「えー?キョンって?」
違う中学の子が、同じ中学の子に尋ねる。
「ああ、佐々木さんの旦那。」
やれやれ。またか。
「キョンとは付き合ってもいないし、婚姻関係を結んだ覚えはないわ。」
「薄桃色の閉鎖空間は、居心地最高なのです!……安らぎ過ぎて目的すら忘れそうなのです……ぐぅ……」
涼宮の巻き起こす珍妙な事件に巻き込まれ……
「私は対(ry」
「未来(ry」
「(ry」って、僕だけ扱い酷くないですか?!
という、不可思議な状況になった。
「へぇ。不可思議だね。」
今日も佐々木と勉強しながら、ゆっくりと話す。佐々木は深く興味をそそられているようだ。
「あいつらの世迷い言が本当か嘘かはわからん。眉唾物なんだが、俺は実際に朝倉に襲われ、未来の朝比奈さんを見て、涼宮の作る閉鎖空間を見たからなぁ。」
「ふむ……。では次の放課後に僕も北高にお邪魔しようかな。何かの部活の使いという事で。
すまないけど、放課後に校門にいてくれないかい?」
こうした場合の佐々木は、何を言っても聞きはしない。結局、次の日の放課後、佐々木は北高にやって来た。
「やぁ、キョン。」
「おう。行くか。」
俺は佐々木の手を引く。そういや、こうして二人で学校を歩くのは中学以来か。途中、谷口と国木田に会う。
「やぁ、国木田くん。卒業以来だね。」
「佐々木さんもお元気そうで、何より。」
また皆で遊びに行こうという話をし、二人と別れた。谷口は唖然としていたが、何かおかしかったか?
「……あんまり自然に手を繋いでいるから、理解出来なかったぜ……」
「言ったろ?佐々木さんはキョンの嫁、キョンは佐々木さんの旦那って呼ばれていた、って。」
文芸部室に入る。皆、何故か一斉に目を丸くしている。
「ち、ちょっとキョン!その人誰?!」
ああ、こいつは……
「「幼馴染み。」」
声がハモる。
「か、彼女じゃなくて?」
全く。こいつもほざくか。思わず肩を竦める。佐々木も同じリアクションをしているが、まぁこのクセは佐々木譲りだしな。
「「親友。」」
……涼宮は、ますます疑惑を強めたらしい。
結局普通の団活をしたわけだが……
古泉と将棋をしていると、涼宮が佐々木にカードで勝負を挑んでいた。
「涼宮、やめとけ。」
「何で?」
「ブラフとイカサマが凄まじく上手いぞ。佐々木は。こないだも巻き上げられて、スタバ奢らされた。」
「くっくっくっくっ。キミに仕込まれた手練手管さ。」
「……面白いじゃない!佐々木さん、勝負!イカサマもあたしが見抜けばいいだけだわ!」
ポーカー。イカサマ対神様。
勝敗は、佐々木の7勝8敗。長門、古泉に言わせると、涼宮に土をつけ、かつイカサマを読ませなかった事自体が凄いそうだが。
「強いね、涼宮さん。」
「やっぱりイカサマしたの?」
「したわよ?ヒラで打って勝てたのは、二回だけ。あとは全部イカサマとブラフ。
あなたが賢い人でよかった。警戒しているからこそ、かえってやりやすかったわ。」
佐々木の手口は、ボトムディールと呼ばれる仕込みと、ブラフ。
偶発的な事故を装いカードをわざと見せたり、カードに傷を法則性があるようにつけたり、表情で演技したり。涼宮が佐々木をよく観察していないと出来ない手口だ。
「見事に逆手に取られたってわけね、この女狐……!」
涼宮にすると、見事にしてやられた、というところか。
まぁこれをきっかけに、二人が仲良くなるんだから、女ってわからねぇな。
佐々木はSOS団の準団員となり、土曜日は不思議探索に関わっている。
古泉は、最近涼宮の閉鎖空間がカラーになり、危険性がなくなりつつあると言う。佐々木と仲良くなり、満ち足りたからか?
まぁ、俺も佐々木といられるのは嬉しいんだが。
「キョン、行くわよ!佐々木さんも!いちゃつくのは後!」
「おう。」
「くっくっ。」
まぁ、平和が一番だ。涼宮達の背中を、俺と佐々木は手を繋いで追い掛けた。
「め、目に痛い位のピンク色なのです!居ると、それだけでロマンチックが止まらないのです!」
どこかの超能力者が七転八倒しているのは、また別の話だ。
END
最終更新:2013年04月07日 03:28