70-126『晴れ時々涙』

春先になると、マスクマンが増える。それは私の親友も例外でなく。
「……」ズルリ
「風邪かい?くっくっ。」
私には一生無縁だと考えていた、花粉症。しかし。

「お前、花粉症って誰でも羅患する可能性があるからな。なってみたらわかるぜ、この辛さは。」

神様というのは存外残酷な存在だ。

「…………」ズルリ
風邪だ。そうに違いない。
本日何回目か分からないティッシュペーパーの消費。きっと鼻風邪を引いたに違いない。
私としたことが、自己管理を怠るとは。
「……くしゅんっ!」
きっと鼻風邪なんだ。朝に会うキョンに風邪を移しても悪いな。マスクをしないと。

「咳に鼻水に涙目。花粉症だな。ざまぁ。」
「…………」ズルリ

やれやれ、親友。僕がそんなやわなわけはないだろう?ただの鼻風邪さ。
「春の間続く鼻風邪はねぇよ。試しにマスク外してみろ。咳が止まらないだろ。」
「…………」
…百歩譲って、花粉症と認めよう。それにしてはキミは去年に較べて、随分症状が緩和しているようだが?
「マスクと眼鏡と薬だ。」
ほう。それは良い事を。
「早速試してみるか。」ズルリ

キョンと別れ、病院に行く。マスクと眼鏡と薬を貰い、学校へ。
症状は緩和しているが、やはり辛い。何人も同じような格好だ。やっぱり辛いよね。同病相憐れむというところだよ。
そんな中、元気なのは橘さん。
「うーん、空気が澱んでいるのです。」
窓に近寄る橘さん。……まさか……。橘さんは窓を全開にし、風を堪能しだした。

「うわぁ、いい風。」

春風に靡く彼女の金髪。美しいね。心の底から憎いよ、風を堪能出来る神経が。殺気立ったクラスの皆が、橘さんを囲む。
「どうしたのですか?」
にっこり笑う橘さん。今なら憎しみで人を殺せる気がするよ。
……橘さんの運命はわかるよね。クラスの花粉症の皆から袋叩きさ。


「わ、私が何をしたというのです……」
「花粉症デビューしたの。眼球を外して冷水で洗いたいと考えている人間に、春風は毒なのよ。」
「へー……」
いまいち緊張感のない返事だ。まぁ、なればわかるさ。

学校帰り、キョンと会う。塾は自主休だ。花粉症がつらい。
「お前も、橘と全く同じ事やったけどな。」
それは失敬。二度とやらないとこの場に誓うよ。しかし眠い……
「薬の副作用だな。……寝とけ。多分夜になったら鼻水の海で溺死しちまうぞ。」
そうか……。お言葉に甘えるかな?……ん?
「…………」
「…………これは何の真似かな?親友。」
私は、キョンに後ろから抱き着かれる形になっていた。
「人間カイロだな。暖かくて気持ちいい。」
「やれやれ。」
普段もこの位積極的だと助かるが。少し嬉しくて泣けたが、目がシパシパしたからという言い訳をしておくよ。
晴れた空が眩しい。明日も花粉が舞うんだろうな。

晴れ時々涙。

キョンの温もりを背中に感じ、私は目を閉じた。
……たまにはこんなのも悪くないよね。

「くしゅんっ!」
「うわっ!鼻水が!」

前言撤回。やっぱり健康が一番ね。

END

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最終更新:2013年04月29日 12:35
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