「キョン、喉が渇かないかい?」
「確かに渇いたが。」
大学構内。たまたま休講が被った佐々木と二人で話し込んでいたら、佐々木がこんな事を言い出した。
「学食にでも行くか?お茶ならタダだぞ。」
「くっくっ。僕たちも二十歳だし、ただでジュースを飲む手段はあるよ。」
佐々木はそう言うとニヤリと笑う。
「ほう?」
興味を引かれるな。
「多少の対価は必要になるがね。」
佐々木は俺の手を引くと、献血センターに連れていった……。
「お前、みみっちい真似するなぁ……」
「貧乏学生の知恵だよ。」
佐々木は悪びれずに言った。
「まぁ二月に一度しか出来ないという欠点もあるが。」
「二月に一度……?」
順番待ちの間、佐々木は血について話した。
「女性だと生理があるからね。経血にしても馬鹿にならないんだ。幸いにして僕は軽いほうだが。
貧血になって倒れる人もいるし、相当に大変なものだよ。」
「俺には一生理解出来んな。」
俺の言葉に佐々木がニヤリと笑う。
「興味があるなら、僕の使った後のナプキンでも見るかい?ちょっとしたスプラッタだよ。」
「やめろ。泣くぞ。男は血が嫌いなんだよ。」
「くっくっ。」
二人でこうした他愛ない話をする。やはり佐々木とは手が合うな。
「そういや、血液は本来黄色らしいな。」
「そうだね。紫だと……」
「「ピッコロさぁーん!」」
「「HAHAHAHA!」」
献血の順番になり、佐々木とベッドに横になる。血を抜かれる感覚……やはり好きにはなれんな。
生暖かい感じ。チューブが手にかかり、体温そのものが抜かれる感じがする。
佐々木もそうなのだろうか。献血が終わり、俺達はロビーに出た。
「なかなか洒落が利いてるじゃないか。」
ロビーで受け取ったのは、トマトジュース。似たような色合いのものを抜いたあとにこれかよ。
「少し休んでいくかい?」
「そうだな。」
二人でロビーのソファに腰をかける。
「血にまつわる話をすると、カクテルでも血の名前がついたものもあるみたいだね。」
「ブラッディ・マリーか。ウォッカにトマトジュースだな。」
「そう。あれにしたって、なかなか洒落が利いてる名前だよ。」
確かにな。元々はアメリカの都市伝説を元にしていたんだよな。アメリカなのにロシアの酒とは、確かに頓知が利いている。
「今度飲みに行くか?」
「宅飲みがいい。僕の好みに合う。」
「そうかい。」
古泉に良いバーを聞いているんだがな。
「話は変わるが、僕はドナーカードを持っていてね。」
ほう。
「こんな話を知っているかい?心臓を移植した人間が、移植元の人間の記憶を引き継ぐと。」
ああ。漫画にもあったな。サッカー漫画にもあるはずだ。
「仮に僕が志半ばで逝ってしまい、僕の臓器が誰かに渡った場合、その時……僕の遺志は、臓器を持つ誰かに引き継がれるのかな。」
……そこはわからんな。だがな、佐々木。
「そうなれば、俺はその臓器を持つ人間と親友になるんだろうな。」
俺の言葉に佐々木は
「そうだね。」
とだけ言うと、トマトジュースを飲んだ。無塩のほうが好みだ、と言い多少鼻白みはしたが。
「想像は想像に過ぎないが、お前がいない事は想像したくはない。」
「くっくっ。そりゃどうも。」
「む。」
佐々木が腕にしがみつく。
「僕はブラッディ・マリー(若くして非業の死を遂げた女性、我が子を殺した寡婦)になりたくない。キミがしっかり捕まえていたまえ。」
「そうだな。お前がババァになって、ドナーカードの意味がなくなる位にはな。」
「くっくっ。」
結局、たまに献血に行っては偽善の代償にトマトジュースを貰うデートが追加される事となった。
血を売る代償としてジュース。あまりに安くないかね。あちらとしては血液のストックは多いだけいいだろうが。
「偽善だよなぁ。」
「やらない善より、やる偽善だよ、キョン。」
END
最終更新:2013年04月29日 12:54