70-299『Bloody Mary』

「キョン、喉が渇かないかい?」
「確かに渇いたが。」
大学構内。たまたま休講が被った佐々木と二人で話し込んでいたら、佐々木がこんな事を言い出した。
「学食にでも行くか?お茶ならタダだぞ。」
「くっくっ。僕たちも二十歳だし、ただでジュースを飲む手段はあるよ。」
佐々木はそう言うとニヤリと笑う。
「ほう?」
興味を引かれるな。
「多少の対価は必要になるがね。」
佐々木は俺の手を引くと、献血センターに連れていった……。

「お前、みみっちい真似するなぁ……」
「貧乏学生の知恵だよ。」
佐々木は悪びれずに言った。
「まぁ二月に一度しか出来ないという欠点もあるが。」
「二月に一度……?」
順番待ちの間、佐々木は血について話した。
「女性だと生理があるからね。経血にしても馬鹿にならないんだ。幸いにして僕は軽いほうだが。
貧血になって倒れる人もいるし、相当に大変なものだよ。」
「俺には一生理解出来んな。」
俺の言葉に佐々木がニヤリと笑う。
「興味があるなら、僕の使った後のナプキンでも見るかい?ちょっとしたスプラッタだよ。」
「やめろ。泣くぞ。男は血が嫌いなんだよ。」
「くっくっ。」
二人でこうした他愛ない話をする。やはり佐々木とは手が合うな。
「そういや、血液は本来黄色らしいな。」
「そうだね。紫だと……」
「「ピッコロさぁーん!」」
「「HAHAHAHA!」」


献血の順番になり、佐々木とベッドに横になる。血を抜かれる感覚……やはり好きにはなれんな。
生暖かい感じ。チューブが手にかかり、体温そのものが抜かれる感じがする。
佐々木もそうなのだろうか。献血が終わり、俺達はロビーに出た。

「なかなか洒落が利いてるじゃないか。」
ロビーで受け取ったのは、トマトジュース。似たような色合いのものを抜いたあとにこれかよ。
「少し休んでいくかい?」
「そうだな。」
二人でロビーのソファに腰をかける。
「血にまつわる話をすると、カクテルでも血の名前がついたものもあるみたいだね。」
「ブラッディ・マリーか。ウォッカにトマトジュースだな。」
「そう。あれにしたって、なかなか洒落が利いてる名前だよ。」
確かにな。元々はアメリカの都市伝説を元にしていたんだよな。アメリカなのにロシアの酒とは、確かに頓知が利いている。
「今度飲みに行くか?」
「宅飲みがいい。僕の好みに合う。」
「そうかい。」
古泉に良いバーを聞いているんだがな。
「話は変わるが、僕はドナーカードを持っていてね。」
ほう。
「こんな話を知っているかい?心臓を移植した人間が、移植元の人間の記憶を引き継ぐと。」
ああ。漫画にもあったな。サッカー漫画にもあるはずだ。


「仮に僕が志半ばで逝ってしまい、僕の臓器が誰かに渡った場合、その時……僕の遺志は、臓器を持つ誰かに引き継がれるのかな。」
……そこはわからんな。だがな、佐々木。
「そうなれば、俺はその臓器を持つ人間と親友になるんだろうな。」
俺の言葉に佐々木は
「そうだね。」
とだけ言うと、トマトジュースを飲んだ。無塩のほうが好みだ、と言い多少鼻白みはしたが。

「想像は想像に過ぎないが、お前がいない事は想像したくはない。」
「くっくっ。そりゃどうも。」
「む。」

佐々木が腕にしがみつく。
「僕はブラッディ・マリー(若くして非業の死を遂げた女性、我が子を殺した寡婦)になりたくない。キミがしっかり捕まえていたまえ。」
「そうだな。お前がババァになって、ドナーカードの意味がなくなる位にはな。」
「くっくっ。」

結局、たまに献血に行っては偽善の代償にトマトジュースを貰うデートが追加される事となった。
血を売る代償としてジュース。あまりに安くないかね。あちらとしては血液のストックは多いだけいいだろうが。

「偽善だよなぁ。」
「やらない善より、やる偽善だよ、キョン。」

END

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最終更新:2013年04月29日 12:54
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