70-307『俺が佐々木で僕がキョンで』

「恐らくは一時的なもの。」
長門は眼前の二人にそう言った。失望に歪むキョンと、コメカミを押さえる佐々木。

「「なんてこった……」」

二人は頭を抱えた。
こんな漫画的SF展開なんてあんまりだ。責任者は誰だ、今すぐ来い。そして分かるように説明しろ。
そう考えつつ、二人は下を向き、これまでを回想した……。

『やぁ、キョン。』
『佐々木か。帰りが遅いんだな。』
『毎日こんなものだよ。キョンは何をしていたんだい?』
『妹のパシリだよ。妹がアイス食べたいって言い出してな。』
『くっくっ。変わらず優しいね。』
『ついでだ。チャリだし送ってやるよ。』
『すまない。助かるよ。』
『……ん?少し育ったか?佐々木。』
『どういう意味かね?体重か?体重だと言いたいのか?!』
『ち、違っ……おい、暴れるな!危な……』
『あ、わっ!……きゃあ!』

がちゃーん。

『痛ってぇー!』
『痛た……』
『佐々木、大丈夫か?』
『おかげで……じゃなくて、キョン!キミは……ん?僕が目の前に?』
『…………あ?え?俺がいる?』
それぞれお互いに顔を触り合い、胸を、股を自分で触る。

『『な、な、なんじゃこりゃああああああ!』』

松田優作風に叫び、慌てふためき長門の家に駆け込んだ。そして冒頭に至るわけなのだが……

「一先ずは、解決策を練る。それまでお互い入れ替わって過ごすしかない。」

という長門の言葉に、また二人は頭を抱えた。
お風呂などはどうしよう……がっくり頭を垂れる。
「目隠しして、お互いの身体を洗うか?」
「どんな羞恥プレイだい、それは。」
「私が洗う。」
「「断る。」」
すったもんだの末、情報操作で身体を綺麗にする事になった。

「「憂鬱だ……」」

何だかんだとお互い息ピッタリな二人であった……。


SIDE SASAKI(ver,KYON)

女の身体とは、また鬱陶しいもんだな。視界が低くて歩くのもまた遅い。
それに女言葉で話さないといけないというのもまた、罰ゲームだ。
……どうでもいいが、俺、あいつの交友関係なんて数える位しか知らんぞ。
電車に乗り、佐々木の学校に向かう。
「あ、ササッキーおはよう!」
「あ、岡本さん。」
中学の同級生の岡本さんだ。……今でも親交があるんだな。意外といえば意外だが。
「ねぇ、昨日の話の続きだけど、結局キョンくんに告白するの?」
…………はぁ?
「ササッキーがキョンくんを好きだって、中学の同級生だと誰でも知ってる話だしさ、国木田くんも中河も気になってるみたいだよ?」
「お……いや、私がキョンを?!」
岡本さんが目を丸くする。
「だって言ったじゃない?『涼宮ハルヒに負けたくない』って。
まぁ、こういっちゃなんだけど、涼宮ハルヒなんかに取られる位ならねぇ。」
親しく接すれば美点も見えるが、対外的にはクズにしか見えないだろうしなぁ……ハルヒは。そう思われて致し方ないところがあるのだが……
「なんか、って……ハ……涼宮さんだって付き合ってみれば美点のある人よ。」
「優しいねぇ、ササッキー。恋敵だって悪くは言わないか。それだから皆、ササッキーを応援するんだけどさ!」
…………WHAT?
「じゃ、進展あったら教えてね。」
岡本さんは、そう言うと去っていった。…………驚天動地だ。
学校の下駄箱にはラブレター……なんだこりゃ……佐々木モテモテじゃねぇか。
「佐々木さん、おはよう。」
……何なんですか?このイケメンは?

何かムズムズする。ああああ、何だろう、この感覚。嫉妬?!嫉妬なのか?!リア充佐々木への嫉妬なのですか?!


SIDE KYON(ver,SASAKI)

やれやれ。北高にこうして向かうとはね。しかもキョンの身体。まぁ、彼がどんな生活を送っているか気になるし、そこは見ていくに越した事はないだろう。
私みたいな灰色の生活を過ごしている事はあるまいし、あの天然フラクラ体質だ。どんな女の子が泣かされているか、見てやろう。
「よー、キョン。」
「やぁ、谷口。国木田も。」
親しげに話す二人。どうやら彼に女の子の影は涼宮さん以外無いみたいだ。
「(ライバルは涼宮さんのみか。)」
状況に納得しながら、教室へ向かう。教室ではダウナーな雰囲気の涼宮さんが寝ていた。
「おはよう、ハルヒ。」
声をかけるが、返答はない。どうやら御機嫌斜めらしいね。
放課後になり、帰ろうとすると……涼宮さんから声を掛けられた。
「あんた、団活は!」
「ぐえっ!」
いや、訂正する。首根っこを掴まれた。
「キョンのくせに団活サボろうなんて、一億飛んで二千年早いのよ!」
「そ、それは人類有史を越え……ぐえっ!締まる!締まる!」
こ、こんな扱いを恒常的に受けているのかい?!キョン!
文芸部室に拉致され、6時まで時間を潰す。
……な、何だ?この空間は……。
ねめつけるような古泉くんの視線……全身を舐め回すかのような、いや、視姦されているような……
「どうしました?……今日は積極的ですね。んっふ。」
背筋に氷を入れられたような感触。一気に全身に鳥肌が立った。
慌てて朝比奈さんを見ると……
「ふえ?どうしました?キョンくん。」
笑顔だけど、その笑顔が怖い。お茶に何か入っていないかまで警戒してしまう。
「湯呑みの縁を拭く事を推奨する。」
「…………チッ。」
し、舌打ち!い、一体何をしたんだ?!いや、このカオス空間は一体?!涼宮さんは涼宮さんで、こっちをじっと見ては時々見惚れたように溜め息を吐いてるし……!
針のむしろだ!恒常的にこんな生活を過ごすなんて、精神力が強いなんてレベルではない!
それにライバルが涼宮さんだけでないなど、驚天動地だ!その気になれば、ハーレム……ソドミィまでの?!
日常という名の非日常。まさにそれだ。ああああ、キョン!僕がそんな爛れた生活は絶対にさせないから!


結局、長門の「同じだけの衝撃を与えたらいい」というベタな発案で、二人は元に戻った。
「……佐々木。お前に言いたい事がある。」
「奇遇だね。僕もだよ。」
二人はガッチリ手を取り合い、宣言しあった。

「「俺(僕)と付き合ってくれ!」」

……次の瞬間。二人は折り重なるように倒れた……。
「(しまった……長門さんか……)」
彼女は、自分がキョンでないと知っていた。だからこそあの空間で第三者的にいられたのだろう。
痛恨の思いに口唇を噛み締める。

「情報操作を施す。この一日の記憶をなかった事にする。」

薄れゆく意識の中、そんな声を聞いたような気がする。が、結局は何も覚えていなかった。

その日の帰り道……

「やぁ、キョン。」
「佐々木か。帰りが遅いんだな。」

ガチャーン イッテェー! イタタ…

ナ、ナ、ナンジャコリャアアアア!

そして長門の家のチャイムが鳴る……。
珍しく長門は驚愕の表情を浮かべ、そしてドアを開けながら呟いた。

「…………ユニーク。」

END

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最終更新:2013年04月29日 12:56
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