70-358『桜満開』

SOS団の花見。ドンチャン騒ぎをやらかした後、ハルヒは朝比奈さんと長門に引き摺られながら退場、古泉は森さんに送られて退場していった。
痛飲するにしたって、限度がある。俺はビールを軽く飲んだだけだったが、ハルヒは蟒蛇だしな。
古泉も付き合わされ、本当に可哀想だった。ただ、森さんに抱き付き、車に乗せられたあいつを見ると、本場のザラキを喰らわせたくなったが。

夕闇に包まれる公園。ダメリーマン達が酒盛りで盛り上がっている。
そんな中、意外な奴が桜を見ていた。

「佐々木。」
「やぁ、キョン。」

佐々木だ。佐々木は同級生と花見をしていたらしい。「付き合いは必要だが、不味い酒を飲みたくはないものだね。」そうあいつは笑って答えた。
「流石に、首から下を見続ける連中と飲む酒に辟易していてね。飲み直したいんだが、付き合ってもらえるかい?」
「構わんぞ。」

近場のスーパーで揚げ物に缶ビールにカクテル、いくつかのチーズにチョコレートを買い、公園に戻る。
「乾杯。」
公園で夜桜。なかなかの風情だ。
「ブラックルシアンの缶カクテルがあれば、売れると思わないかい?」
「蟒蛇が。カルーアにウォッカかよ。」
「くっくっ。」
佐々木はカシスソーダを飲んでいる。俺はビール。因みに黒ビールだ。つまみにはチーズ。サラミよりはチーズが好きでな。
「桜の森の満開の下、だな。」
「坂口安吾かい?『近頃は桜の花の下といえば人間がより集って酒をのんで喧嘩していますから陽気でにぎやかだと思いこんでいますが、桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になりますので、
能にも、さる母親が愛児を人さらいにさらわれて子供を探して発狂して桜の花の満開の林の下へ来かかり見渡す花びらの陰に子供の幻を描いて狂い死して花びらに埋まってしまう
(このところ小生の蛇足)という話もあり、桜の林の花の下に人の姿がなければ怖しいばかりです。』とあるね。」


変わらず佐々木は博学だ。
「お前はどちらかというと、寒梅が好きだろう?」
「御名答。くっくっ。」
真冬の寒さの中に立つ、凛とした姿が好きだと言う。
「春の日に咲く、桜については坂口安吾と同意見だね。桜についてはあまり良いイメージがない。」
「それだって花見をしちまうんだからな。人間なんて不思議なもんだ。」
「くっくっ。」
カカオ分が高く、クソ苦いチョコレートを口にする。
「なぁ。こないだ読んだ本なんだが、『夏用の浴衣を買った。夏は過ぎたが勿体無いので、次の夏まで生きようと思った。』
という内容があってな。これに近い感覚なんじゃないか?花見は。」
「太宰治か。……そうだね。あとは散りゆくものに日本人は感覚として儚さを覚えるのかも知れない。」
二本目のビールに突入する。佐々木は身を乗り出しながら話をしてきた。
子どものように目を輝かせ、次々に自分の見解を話す。
「キョン、キミは桜は好きかい?」
「まぁな。お前は桜にマイナスイメージがあるようだがな。桜の染料って何から採れるか知っているか?」
佐々木は首を振る。
「桜の木の皮だよ。」
「……ほう。」
冬の寒い間に耐え、桜は樹皮に桜色を蓄える。寒梅のような凛々しさではないが、花を咲かす為に耐えているという見方も出来るわけだ。
「成る程。興味深い。」
三本目に突入する。次第に酔いは深くなり、佐々木もまた饒舌になる。
「カナダ産のメイプルシロップが、何故美味しいかという理由みたいだね。」
何だそりゃ?
「寒暖の差が激しいから、木は実にコクのある樹液を蓄えるそうだ。」
……おい。やたらと旨そうなんだが……。語る佐々木も物欲しそうな顔だ。
「……何か無性にメイプルシロップ食いたくなるな。」
「……僕も。」
顔を見合せ、大笑い。お互い物欲しそうな顔していたみたいだな、やれやれ。


「……さて、あまり遅くなるのもいかんな。送るぜ。」
「助かるよ。ただ、自転車には乗るな。僕も乗らない。」
何故だ?
「自転車でも飲酒運転は適用されるからだ。」
「そ、そうか。」
佐々木はびしり、と指をさす。
「そして途中のコンビニで水を買い、なるだけ遠回りして帰るんだ。いいね?」
「途中でアルコールを少しでも薄める、っていうわけだな。」
水はともかく、歩くと余計回るような。……この時、佐々木が後ろ向いて舌を出していたのは、知るよしもない。

帰り道。佐々木と共に歩く道。
「……酔った上の不埒なんだが……桜が嫌いなのは、僕にとって桜は別れの象徴なものでね。」
ほう。
「……大切な人と離ればなれになる象徴さ。」
桜は満開の桜を見て、切なそうに呟く。
「俺は逆でな。」
「……そうかい。」
俺にとって桜は――――

「中学の卒業式の時に離れちまった奴と、高2の時に再会させてくれた木、そして今、また再会させてくれた木でな。」

佐々木の瞳が揺れる。い、いかん……これでは……高2の時に佐々木が張ったラインを乗り越えてしまう。

「……酔った上の不埒だ。」
「……キミって奴は。」
佐々木はくっくっ、と笑う。どこまでも馬鹿なんだよ、俺はな。
「やれやれ。全部酔った上の不埒にするかい?
……大好きだよ、キョン。キミが大切。キミを愛してる。言葉だけじゃ足りない位。……酔った上の不埒だが。」
「…………」
俺は佐々木を抱き締めた。……ラインを乗り越えたのはお前だからな?

「本気にするからな。」
「酔っ払いが。」

俺は一言もジョークだと言ったつもりもないがな。
「……僕もだよ。」
桃色の喝采が俺達を見詰めている。翌日に何があったか、言う必要はないな?佐々木が桜を好きになった。それが答えだ。

「どうせ私なんか……!」
「笑った?あんた、今あたしを笑ったでしょ?」
花見の席を潰して回る橘とハルヒが出没したのは、また別の話だ。

END


ガヤを入れると……

ハルヒ、橘「失恋は……最高の暗闇よ……」
長門「佐々木○○に、本場のザラキを……」
みくる「ふええ!胸に風穴開けちゃうんですか?!お、落ち着いてください、長門さんん!」
谷口、藤原「「いいよなぁ。俺らなんか、涙もとっくに枯れ果てた……」」
鶴屋「ゆきっこだけネタが違うっさ!」

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最終更新:2013年04月29日 14:39
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