町を歩いていると物陰から変な人に呼び止められた。
普段なら華麗にスルーを決め込むところだが今日の俺には時間がある。
少なくともどんな奴に呼び止められたのかは見たい気がした。
一歩進んで路地の裏を見る。
水晶玉にタロットカード、虫眼鏡と節操の無い置き方をした「いかにも占い師」がそこにいた。
その占い師は俺に言った。
「珍しい相が出ているね、いいような悪いような・・・・・・失敗する・・・?でも幸運に会いそうな・・・・・どうだろう、詳しく占わせてくれないか?」
物言いにはすごく興味が引かれる。
しかしこの手の占い師は一件何千円とか取ったりするものだ、俺にそんな金は無い。
「おっと、料金なら要らない。今日はもう店じまいだ、これは僕の純粋な興味だよ」
俺が金が無いという前に占い師は見透かしたかのように発言をかぶせた。
まぁ、俺みたいな何処にでもいる高校生の兄ちゃんが金持ってなさそうだなんてのは誰にだってわかることだ。
しかしそれでも俺はこの発言によってさらに興味を引かれた。
気がついたら占い師の前の椅子に座っていた。
占い師は俺が座ったのを見るとにやりと笑った。
俺は占いなんてさっぱり知らないので何をやっているかはさっぱりわからない。
生年月日と血液型を書かされ、しげしげと手相を見られたと思えば今度はカードをいじっている。
「・・・・・・で、塔か・・・・・ふーん、本当に珍しい」
塔ってのは目の前に出されたカードのことらしいが俺はさっぱりわからん。
「おっと、すまない・・・・・君はね、これから君の最もも得意なことで失敗する」
俺が占いの結果を待っているのを思い出したのか占い師は語りだした。
おいおい悪いじゃねぇか。
「だが、その失敗は君を幸福にする。矛盾するような結果だが・・・・・何か思い当たる特技ってなにかあるかい?」
特技って言われても特にそんなものは無い、強いて言うなら超常のやつらとお友達になりやすいことか。
しかし多分それに失敗したら俺を待っているのはデッドエンドだろう。
俺の人生は意外とタイトロープなのだ。
「ふーん・・・・・・なにかそれっぽいことがわかったら教えてくれるかい?占い師として非常に興味があるんだ、僕は大抵ここにいるから」
適当に占い師に礼と言ってその場を後にする。
例え解っても教えにくるかどうかは気分次第だな。
「あれ?キョンじゃないか」
その後適当にぶらついていると後ろから声をかけられた。
「ん?おお、佐々木か」
声をかけてきたのは親友、佐々木だった。
「キョン、なにをやってるんだい?」
「いや、ただぶらついてるだけさ。佐々木は?」
「僕もそんなところだね、暇をもてあましているところさ」
佐々木が暇とは珍しいな。
ん?佐々木がなんだか目配せをしているような・・・・・・気のせいか。
そうだ、佐々木ならさっきのアレをうまい事分析してくれるかもしれない。
「そうだ佐々木、暇なら一緒にどっかいかないか?」
「え?・・・・・・あ、うんいいよ。キョンと一緒にいたほうが楽しそうだしね」
「んじゃとりあえず喫茶店でも行くか?」
「そうだね、任せるよキョン」
俺と佐々木は連れ立って歩き始めた。
ん?なんだか違和感がある、えーと・・・・・・なんだろう。
あ、そうか。
「佐々木、髪切ったか?」
「え、ああ。実は美容院の帰りなんだ。・・・・・・それにしてもよく気づいたね、キョンは絶対気づかないと思ってたよ」
む、なかなか心外なことをいわれた気がする。
俺にまったく洞察力が無いみたいではないか。
「おいおい、それじゃ俺がぜんぜんお前のこと見てないみたいじゃないか」
とりあえず抗議はしておかないとな。
あれ、佐々木顔赤くないか?
「・・・・・・キョン、君は恥ずかしいことをいうようになったね」
何のことだかさっぱりわからない。
そうこうしているうちに喫茶店に着いた。
当然最初の話題は例の占い師についてだ。
「得意なことに失敗して幸せに?」
「なんかそんなようなことを言ってたな」
佐々木はしばらく考えてからハッとしたようなしぐさをした。
「あ、なるほど。そういうことか。とすると・・・・・・くっく、キョンの特技はアレか」
「お、解ったのか?」
「うーん、多分だね。今日一日で実験してみることにするよ」
「おう、そうしてくれ」
まぁ別に解らなくてもなんの支障もないだろうが気になるからな。
ん?佐々木がなにか思い立ったような顔をしている。
そうか、それなら・・・・・・とか、今ならもしかしたら・・・・・・・とか言っている。
それから佐々木は何かを決心した顔になってこちらを向いた。
「キョン。実は今日僕の家は誰もいないんだけど・・・・・・」
俺は、俺たちは占いどおり幸せになった。
占いの結果
キョンの最も得意なこと(=フラグクラッシャー)が失敗して幸せ(=フラグが成立)になる。
最終更新:2007年07月19日 10:50