「キョン。キミはもっと僕に優しくしてくれてもいいんじゃないかな」
「どうした佐々木、今日はまた随分とお前らしくもない事を言うじゃないか」
「いいじゃないか」
ああ。言ってる意味くらいは解るぞ。
「無論、恋人的な意味でだ」
「だろうな」
左手で頬杖をつき、右手でくりくりと栗ぜんざいの椀を木ベラでかき回しながら
佐々木はらしくもなくブーたれていた。
何? 時間軸?
何? 俺はハルヒを選んだんじゃないかって?
お前が誰かなんぞ俺は知らんし知るつもりも全くないが、学生の頃の人間関係がずっとそのまま続いているか?
まあ、そういう事だ。
「キョン?」
ジト目で見るなよ親友。
「ほほう」
かといって口元を緩めるな。視線に熱を込めるな。公共の場に相応しくない感情が湧くだろ。
と、目線で返してやると、ますます佐々木の口元が緩んだ。
……こういうところがコイツは可愛い。
「仕方ないさ、僕は器がちっぽけだからね。あっという間に溢れてしまうんだよ」
「何がだ」
言葉の正解を確認する。
いつものように謎めいた佐々木の言葉の意味を想像し、俺は正解を確認する。
すると佐々木は顔全体で蕩けるように笑った。
「まったく。キミとこうして他愛も無いやりとりをするだけで、なんでこうも笑えてしまうのだろうね」
「俺に聞かれてもなあ」
「くっくっく」
視線を外してトボけてみせても、俺もきっと口元が笑っているのだろう。
いつだって佐々木は楽しそうに笑っているから。
楽しい、という気持ちが伝わるから。
昔はきっと佐々木が隠そうとしていたものが、今はダダ漏れになっている。
いつか、俺の自室に向き合って座って、頬をぐいぐいと手で整えていた佐々木の姿が重なる。
本人曰く、ちっぽけだという佐々木の心から、溢れた気持ちが俺に伝わる。
それだけで俺も楽しくなっている。
まるで永久機関だな。
「そう、それも人間の持つ強さの一つだよ。キョン」
『だから僕はまたここにいるのさ』
『今度こそ、僕はここにいる』
びしっと木ベラで俺を指差す佐々木の口元から、声になってない言葉が聞こえた気がした。
さて、今度はこれが正解か、こいつに尋ねてみるとするかな。
そんな事を考えていると、先に佐々木が口を開いた。
)終わり
『
Part70-x ジト目で見るなよ親友。』
最終更新:2013年05月14日 00:16