人は意外な場所で遭難する。例えば。このエレベーターだ。
よくエロい話でお約束だよな?エレベーターに乗った男女が、という。
現実にあれば、エレベーター会社の杜撰さに笑うしかないんだけどな。
「……そうなんだよなぁ。お約束って、あるんだよなぁ……」
「お約束のようで、その実はなかなかないトラブルだね。」
佐々木も呆れ顔だ。
とあるエレベーター会社のエレベーターみたいに、落ちやしないだろうな……ったく。
「助けられた頃には、真っ赤な華が二つか。」
「近くにいたら、一つだな。」
「僕とキミの中身が混ざりあうわけか。くっくっ。」
中身が混ざり合った俺と佐々木……。想像したくないな。
「一人でいたら、多分発狂していただろうが……こうして二人いれば話し相手には困らんな。」
「確かに。密室のうえにこんな暗いのでは、恐ろしくて敵わない。だが、親友。人は何故闇を恐れるのだろうね。」
「視覚に頼るからじゃないのか?」
暗闇でも、何かお前の話す言葉はよくわかるがな。
「……僕もその多分に洩れないようだ。すまないが、手を握ってもらえるかい?親友……」
「やれやれ。」
暗闇の中で、佐々木の手を握る。
「…………」
「…………」
…………暗闇の中だと、無駄にイマジネーションが働くものだな…………
柔らかい手を握ると、佐々木の体温が伝わる。触れる右半身が、佐々木の温もりを捉え……その柔らかさと香りに、否応なしに獣性が刺激される。
「……鼓動が早いんだが?親友……」
お前こそな。
「……生物は、生命の危機に直面すると無意識に、種を残そうとするそうだ。」
「それは知っている。」
「吊り橋効果や、ストックホルム症候群など……後付けはいくらでも出来るが……今、キミは何を考える?」
頭がクラクラするような、甘い一言。
俺の口から出た言葉は……
「そうだな。お前の手が、予想以上に細くて柔らかい事か。」
だった。佐々木は、含み笑いをすると
「キミの手が暖かい。」
とだけ言うと、後は押し黙った。
5分後。長門達が助けてくれ、事なきを得たが……
「二人の顔面に充血を確認。」
と言われ、ハルヒ達から尋問されたのはまた別の話だ。
「(仮にキョンが襲いかかって来ていたら……衆目の下だったわけか。さすがにそれは……。どこの痴女だ。
いや、しかしアドバンテージ的な意味では……
いやいや、手を握れただけでも……そのうえに密着だし、僥幸とも言える……)」
ある意味やらかした事に気付き、身悶えする佐々木と……
「(よかった……ハルヒはともかく、長門に見られなくてよかった……あいつは幼いからな。仮に見ていたらショックを……。
いや、しかしだな、千載一遇のチャンス、しかもストックホルム症候群や吊り橋効果なんて言い訳を佐々木が用意してくれていたにも関わらず、この体たらく……)」
布団の中で身悶えした俺がいた事は、お互いの知らん話だ。
『ふらくら時間~♪』
END
最終更新:2013年08月04日 16:53