71-547『ぷちだん!』

周防に長門達が小型化された。
「…………な、なんだこれは…………」
見た目三歳から四歳位か。いや、幼稚園児位か?
「きょん!あたしひまよ!」
こいつはハルヒか。小さくなっても変わらない女王様気質は流石だ。
「ぴいぃ~!」
何もない場所で転んでピーピー泣いているのは、朝比奈さんか。……スモックは反則です。
足元に座り込み、本を読むのは長門。……よく見れば全員スモックか。
「こまったことになったね、しんゆう。」
全くだ。しかし佐々木よ、お前はいつからそんなに声が高く…………
「……って、おい!」
振り返ると、テーブルの上にミニ佐々木が。必死に爪先立ちして俺の視線に合わせている。
それを見たハルヒ達が……
「あー!ささきさんだけずっるーい!」
「わたしもやりますー!」
長門はマイペースに絵本を読んでいる。……太平楽だな、長門……きっと将来は大物に……
「くつくつ(棒読み)。たいへんだね、きょん。」
……含み笑いを上手く言えないなら、普通に笑っていいんだぞ、親友。……って、お前もスモックか。
テーブルにハルヒ達が登る。
「あ、わ、すずみやさん、おさないで!」
「わわ……ささきさん、そこどいて……」
「危ない!」
俺は咄嗟に佐々木を抱き上げた。……なんだろう。何と形容しようのない柔らかさだ。
「くつくつ(棒読み)。こうしてきみにだきあげられると、きみのめがちかくていいね。」
無邪気に笑う佐々木。それを見たハルヒと朝比奈さんがむくれ……
「みくるちゃん!きょんがかいじゅうささだんごんにたべられちゃうわ!」
「ふええ!すずみやさん、たすけないと!」
……待て、お前ら何をするつもりだ?!ハルヒと朝比奈さんは俺に向かい、テーブルの上から跳んだ。
「「らいだーじゃんぷ!」」
「ぐえっ!」
万有引力に引かれ、ハルヒと朝比奈さんは自由落下。俺は佐々木、ハルヒ、朝比奈さんを抱いて転がった。
「「らいだーきーっく!」」
……既に床にいる時点で、キックもクソもない。そう突っ込むのは不粋かね?三人が大の字になった俺の身体の上でケラケラ笑う。
「…………」
泰然自若としていた長門が、腕と脇腹の間に座り直し……
俺の家のインターホンが、存在意義を証明するかのようにけたたましく鳴り響いた。


「……なんともはや……惨状ですね……」
そこにいたのは、いつものイケメンスマイルの古泉でなく、新川さんだった。
「……つかぬことを伺いますが、古泉は……」
新川さんは、首を横に振る。……まさか!
「……サイズが縮み、橘京子と共に森に拉致され……行方は杳として……」
「…………」
……気の毒といっていいのか?役得といっていいのか?
新川さんと話す間。ハルヒは長門、佐々木とおままごとをしている。
「うちのていしゅをどうされるおつもり?!」
「ごしゅじんとのあいじょうはさめられているんでしょう!」
「ゆにーく。」
……お前ら、昼ドラの見すぎだ。
「私共は、森の行方を追います。何かあれば私へ。」
新川さんは、俺に携帯電話の番号を渡すと去っていった。

その頃。
「おねーちゃん、なにするの?」
「と、とてもいいことよ、一樹くん……京子ちゃん……」
「へんたい!へんたい!へんたい!なのです!」

「……なぁ、ハルヒ。」
「なぁに?いま、どろぬまのさいちゅうだから、あんまりはなしかけないで。」
「……朝比奈さん、どこに行った?」
「「「え?」」」
見ればドアが開いている。となれば外に出たのか?!
「佐々木!長門!ハルヒ!お前らも来い!」
「だめだよ、きちんとけっちゃくをつけないと、またどろぬまに……」
「うるせぇ!」
俺は三人を掴むと外に朝比奈さんを探しに行った。

「……ふええ……ここどこですかぁ……。きょんくん……すずみやさん……ながとさん……」
みくるはやはり迷子になっていた。
「こ、これは……姉さんが小型化しているだと?!」
藤原は周りを見渡す。……人通りはない。
「いかんな。ここは危険だ。僕が安全な場所まで送ってやろう。」
「ひょえええ!」
如何にも悪人顔の藤原がみくるに迫る。藤原は善意の行動だったが……
「そこまで堕ちやがったか、テメェーっ!」
「ぐはぁーッ!」
「きょんくん!」
キョンが藤原を後ろから殴りつけた。
「このろりこん!みくるちゃんにてをだそうなんて、いちおくにせんまんねんはやいのよ!」
「みそこなったよ、みらいじん。」
「てきせいとだんてい。」
……地面に倒れた藤原。
「僕が何をしたというんだ……!」
その目には涙が浮かんでいた……。


上機嫌な朝比奈さん。考えてみたら、この人がこんな感情を全面に出すのは珍しい。
佐々木もハルヒも長門もそうだが、メンタルも年相応になっているのだろうか。
疲れたらしい長門をおんぶし、どこから持ってきたであろう竹馬に乗った佐々木と歩く。ハルヒと朝比奈さんは、手を繋ぎながら歩いている。

「みくるちゃん、うれしそうね。」
「うん!こわかったときに、きょんくんがたすけてくれたの!おうじさまみたいに!」
「むぅ。あたしがまいごになっても、きょんはみつけてくれるもん!」

「……佐々木。」
「なんだい?」
「竹馬、危なくないか?」
「しんぱいはうれしいが、きゆうだよ。しかいがたかいから、みはらしもりょうこうだ。
なによりきみとおなじしせんでいられるし、ぼくはこれでかまわないよ、きょん。」
……小難しい言葉を並べ立てるのは変わらんな。
「えらー。」
背中では長門が寝ぐずって俺の服を掴んでいる。保父さん気分だな、全く。
「きょんくん!」
後ろから朝比奈さんが叫ぶ。
「すずみやさんが、あっちのほうにいっちゃった!」
……朝比奈さん、あっちってどっちですか?

「たんけん。ふしぎたんさくよ!」
ハルヒは山の手に入った。
「しぜんって、のこってるものね。」
山の中の自然。それは、子どもにとって格好の遊び場だ。
「あ、はんみょう。」
森の昆虫。ハンミョウは森の案内人。近付くと飛んで道を教えてくれる。ハルヒはハンミョウを追い、知らずと森の深くに行った。
山の自然は、遊び場と同時に試練の場である。
「……あんのクソバカ……」
長門を起こし、皆で手を繋いでハルヒを探す。
「ハルヒー!」
「「すずみやさーん!」」
佐々木、みくるが叫ぶ。長門は何やら考えているようだ。
「……ここ、どこかしら……」
ハルヒが山の中をさまよう。方角など分からず、当然来た道も分からない。
「きょーん!ゆきー!みくるちゃーん!ささきさーん!」
……帰ってくるのは、山彦だけ。
「…………」
ハルヒがぐずりはじめた時……
「声がした!こっちだ!ハルヒ、いたら返事しろ!」
キョンの声が響く。ハルヒは涙声で叫び……見つかった後に待っていたのは、拳骨だった。
「心配させんな、アホが!」
しゃくりをあげ、キョンに抱っこされながらハルヒが泣く。長門はハルヒに何かを手渡している。
「長門、それは?」
「きいちごがじせいしていた。」
山の恵み、木の実。長門は付近に自生していた木苺を見つけて採取していたようだ。
「ありがとう、ゆき。」
……泣いていたカラスが、もう笑った。キョンは微笑むハルヒを見て、やれやれと溜め息をつく。
「さて、帰るか。」
はぐれないよう、キョンが最後列を歩き山を出る。騒動ばかりだ、とキョンは溜め息をついた。


家に帰りつくと、ハルヒ、みくる、長門は眠気をきたしたようで、布団に横になった。
冷えないようにタオルをかけてやる。
夢の中でも冒険をしているのだろうか、ハルヒは笑顔だ。みくるも幸せな夢を見ているのか、笑顔で眠っている。長門は表情を変えないが、良い夢を見ているのだろう。心なしか表情が柔らかい。
「……お前は寝ないのか?佐々木。」
槽を漕ぐ佐々木。佐々木は寝惚けなまこを擦りながら「寝ない」と言う。
「寝とけ。辛いだろ?」
「いやだ。」
頑として佐々木は譲らない。
「……ねたら、きみとすごせない。」
うつらうつらとしながら、佐々木が言う。
「……ったく、意地っ張りが。」
キョンは佐々木を抱き上げて膝に乗せた。
「寝とけ。」
「…………」
ぎゅむ、と佐々木が服を握る。
「……おきるまで、こうしてくれる?」
「ああ。」
「ぜったい?ぜったい?」
佐々木が何度も念を押す。
「ああ。こうしているから、寝とけ。」
「…………」
つらつらと眠る佐々木。幸せそうに目を閉じ、安らかに寝息を立てる。
「俺も少し寝るかね……」
胸に抱いた佐々木の髪を撫で、キョンもまた目を閉じた。

「――飽――きた――」
どこかで、そんな声がした。


「「「…………」」」
気づけば、キョンのベッドに三人で眠っていたSOS団三人娘。
下を見ると…………
「……死刑確定ね。」
キョンの胸に抱かれた佐々木。
「異議なし。」
幸せそうな表情は……
「ふええ……」
嫌が応にも事後を思わせ……

起きた後のキョンがどういう目に遭わされたかは、皆様の想像に任せる。
後日、周防を問い詰めたキョンだが……
「あなたの目は――とても綺麗ね――」
という、パーフェクトに無意味な答えが返ってきたという……。

因みに古泉達は、間一髪新川に救われ、暫く森が機関の雑用を一身に担った。田丸兄弟から
「これだから行き遅れは。」
と言われ、大乱闘。新川と古泉の胃薬の量が増えたのは、また別の話だ。

END

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年08月04日 17:27
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。