71-605『Potato head!』

梅雨時期。お弁当にはやはり気を使うものだ。
「(特に馬鈴薯は腐りやすいからね。)」
馬鈴薯をベーコンとニンニク、塩胡椒で炒めたものなんか大好物なんだけど、この時期に持って行きたくはないものだ。
今週は、お昼に給食がない故にお弁当を作っているが、親友は昨日もパンだった。
唯でさえ悪い頭が、食生活により更に悪くならないか、と言ったら……
立派なもんを食っても発育不全の見本が目の前にいるから、食生活は関係ない。
と返してきた。野暮天め。
「(作ってはあげないよ。精々反省したまえ。)」
私はその野暮天を思い、弁当を詰める。
野菜のかき揚げの甘辛煮に、人参と蒟蒻と椎茸のお煮しめに金平牛蒡。色合いは寂しいが、栄養価は満点だ。
「(火も通ってるし、完璧ね。)」
我ながら良いお弁当だ、と自画自賛する。いつお嫁に行ってもよかろう。

―妄想―
「ネクタイがずれているよ。全くだらしがない。お弁当だよ。しっかり食べて稼いできたまえ。
ほら、パパが出掛けるよ?挨拶しなくていいの?じゃ、一緒に言おうか?」

―現実―
「行ってらっしゃい、き……」
「…………」
台所の入口に、母がいる。母は……ニッコリ笑うと、そっとドアを閉めた。
……母上。その気遣いは逆に辛いです。盛大にコケにして頂いたほうが、まだ宜しいかと。

学校、昼休み。
親友は、やはりパンだ。
「コッペパンには飽きたみたいだね、キョン。」
「今日はバケットだ。」
そこにあるのは、フランスパン。そして牛乳。あまりに男らしいチョイスだ。
「せめて一手間加えたらどうだい?バケットサンドにしたら美味しいと思うが。」
「その手間が面倒だ。」
「何と怠惰な。」
机を向かい合わせ、キョンが私の弁当を見る。くっくっ。自信作だよ。よく見たまえ。
「……茶色くて、豪快な飯だな。」
「喧嘩がしたいのかい?」
この野暮天。心の中で叫び、私はキョンのバケットを一つ奪う。
「文句は味を見て言いたまえ。」
金平をバケットの上に乗せる。キョンはバケットをかじり……
「……うまい。パンにもIt's quite the potato.だな。」
と、目を見開く。くっくっ。お誂え向きとはね。もっと褒め称えたまえ。私はキョンの更なる賛辞を待つが……
「そんな美味しいんだ?ひとつご相伴……」「俺も。」「私も。」「私もなのです!」「拙者も」「吾輩も」
あれよあれよと、弁当は空に……!誰だ、白飯まで食べた奴は。potato diggerめ!キョンは、苦笑している。笑い事ではないよ、全く……
「全く、hottest potatoだ。」
「親友、合いなかに単語を挟め。それだけだと熱い馬鈴薯だ。重大な問題にならん。」
「知ってるよ。」
キョンの前にあるバケットを奪う。元々はキョンのせいだけに責任は取って貰うか。
バケットをひとかじりした時、クラスから割れるような悲鳴が上がった。キョンを見ると、顔を真っ赤にして俯いている。
咀嚼し、飲み込み、キョンに問うと……キョンは、バツが悪そうに言った。
「……いや、なに。お前が俺がかじった後をかじっただけだ。」

かじる前に早く言いたまえ、このPotato head!

END


potato digger…嫌な奴
Potato head…馬鹿、野暮天

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年09月04日 23:49
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。