71-652『The game is on』

翌日。晴れ渡る空。
公園で試合。この公園は、テニスコート、グラウンド、野球場、遊具施設があり、休みの日は家族連れや草野球、早朝テニスや部活で大にぎわいだ。
野球場には外野席が無く、外野はフェンスだ。席はキャッチャー側後ろのバックスクリーンしかない。
当然ながらフェンスは福岡ドーム並に高い。
女子がこの球場でホームランをぶちこめるならば、怪物といっていいだろう。
「中学の時、佐々木さんから打ったっけ?」
「あれだけ綺麗に打たれたら、くやしくもないわ。」
怪物その1。涼宮ハルヒ。そして。
「有希が完全試合目前にキョン子に打たれたのも、ここよね。」
「……そう。」
怪物その2。キョン子。
「中学でも有名だったわよね、アダム・ダンとか、ランスとか、ブライアントとか言われてたし。」
朝倉がキョン子をからかい、皆が笑う。
「うっさいな。」
キョン子が溜め息混じりに答え、佐々木とハルヒが合いの手を入れる。
「公式戦通算60打数ヒット6本、打率1割、ホームラン3本、10打点。三塁打1、二塁打2。OPS600。」
「三振54。三振率9割。ユニーク。」
「うるさい、黙れ!」
キョン子の叫びに、全員が爆笑した。
「聞きしに勝る成績なのです……」
「ホームラン率5割、長打率10割って、バケモノなのね……」
橘達は、短打。シェアなバッティングといえば聞こえはいいが、単に非力であるだけだ。
「あー眠い……」
キョン子が目をこする。
「キョン子、目真っ赤じゃない。どうしたの?」
ハルヒ達が心配そうにキョン子を見る。
「いや……愚弟を締め上げてたら、完徹寸前になって……。
石門に行った岡本さん、須藤に連絡したりして、割と寝てないんだよ……。」
「キョンを締め上げた?何でまた?」
佐々木の言葉に、キョン子が溜め息をつく。
「昨日サボった理由聞いたんだよ。……そしたら、またくだらない理由でな。
喜緑さんの彼氏……生徒会長な。あいつを締め上げて喜緑さんに仕置きされたんだと。」
本当に下らない。全員が下を見る。
「古泉、国木田、谷口、藤原も同様に仕置きされて、尻が腫れ上がっていたから、動けなくて休んだんだと。」
「谷口はわかるとして、何でまた古泉くんまで……」
「さぁな。朱に交われば赤くなるっていうし、大方愚弟や谷口あたりが何かそそのかしたんだろ。」
仲良いからな、あいつら。キョン子はそう言うと、芝生に寝転がる。
「あたしゃ少し寝とく。皆が来たら起こしてくれ。」
キョン子の言葉に、長門が口角を上げて言った。
「了解した。」
朝倉、ハルヒが天を仰ぐ。……キョン子の運命は、推して知るべし。
持参していたMP3プレイヤーを、インピーダンスの強いイヤホンに繋ぎ、耳許で『HELLOWEEN』の『The game is on』を流し……
キョン子に爽快な目覚めをプレゼントしたのであった。

「鼓膜を破る気か!」
「The game is on.(ゲームの始まり)皆が揃った。早く行くべき。」
「うまいこと言ったつもりか!」

キョン子が長門に手を引かれ、ミーティングルームに入る。そこには……ユニフォームの背番号に憮然とした朝倉がいた。


「私が控えというのは、納得いきません。」
朝倉が森に問う。森はどこ吹く風といった表情で言った。
「そうね。……朝倉さん、あなたがキョン子ちゃんに劣っているからではない。それは確かよ。」
「では何故……」
「キョンくんが調査したけど、皆が丸裸にされている可能性が高いそうよ。
となれば、朝倉さんの配球パターンも読まれている可能性が高い。
となれば、高校では投げてない佐々木さん、そして彼女と相性の良いキョン子ちゃんのバッテリーが良い。そう判断した。」
「…………」
森の言う事に納得は出来る。しかし。尚も食い下がろうとする朝倉に、古泉が言った。
「朝倉さん。朝倉さんは本格派の長門さんしかリードした事はありませんよね。
……技巧派である佐々木さんのリードの仕方を、少し学んでみるのはどうでしょうか?」
「…………」
朝倉にしてみると、ピッチャーが多少荒れていようが、それを乗りこなすのがキャッチャーであり、ホームを守る事こそがキャッチャーの仕事。それが朝倉のキャッチャー像だ。
キョン子は、ピッチャーの良さを引き出し、気持ちよく投げさせて実力以上を出させる事を命題にしている。
なので長門はキョン子とバッテリーを組みたがる。
キョン子と朝倉に差があるとするならば、朝倉はピッチャーの能力依存型、キョン子は能力+α型である。
これは善し悪しあり、ピッチャーが自分に酔いやすいタイプならば、キョン子のリードでは滅多打ちに遭う場合もある。
佐々木、長門共に自制心の強いタイプだけにキョン子が上に見られる、という事も付け加えておく。
朝倉は引き下がったが……キョン子は冷や汗をかいていた。
「(あ、あたしゃ長門の球なんか受けたくないぞ……)」
キョン子が長門とバッテリーを組みたがらない理由。それは。長門からホームランを打った後に、何気無くバットを見たら……金属バットが凹んでいたのだ。
球速もさる事ながら、球威の凄まじさにキョン子は震えた。
「(でも、相性の問題ってだから、佐々木だよな。)」
楽観視したキョン子に、森は言った。
「佐々木さんが悪ければ、長門さんにスイッチするから。そん時はキョン子ちゃん、宜しくね。」
長門の目が輝き、キョン子の目が失望に歪む。
「佐々木○○。安心して打たれて。後ろには私がいる。」
「ありがとう長門さん。絶対打たれたくなくなってきたよ。」
女の戦いである。ハルヒは関われず退屈そうだ。
「あたしもピッチャーやろうかしら。キョン子に投げるの楽しそう。」
「才能の無駄遣いはやめろ、マルチプレーヤー。」
キョンが、やれやれと溜め息をついた。


外野は二年生ズ。
「佐々にゃん、気楽にいくんだよ?」
センターは鶴屋。4番はハルヒに譲っているが、元々は4番。ハルヒに劣っていたというよりは、本人から4番を降りた。曰く。
「ハルにゃんなら、4番でもプレッシャーないっさ!あたしはプレッシャーあってねぇ。」
である。
「全力で盛り立てていきますよ!」
レフトはみくる。守備に少し不安はあるが……
「やるだけやりましょう。」
ライトは喜緑。……キョン、古泉をにらんでいるが……
内野。ファースト長門、セカンド橘、サードハルヒ、ショート周防。
「セカンドに打たせて下さい!絶対カバーするのですよ!」
気合い十分の橘。
「――――」
周防も佐々木に手を置く。この二遊間は、『タチクヨ』とまで言われる名コンビだ。
派手な守備の周防が目を引くが、橘の堅実な守備は二塁手ならば唸らざるを得ない。
阪中は控えだが……キャッチャー、センター、セカンドとどこでも守れ、足ならば誰にも負けない。
俊足が自慢のハルヒ、橘よりも早く、鉄砲肩のキョン子ばりに肩も強い、アスリートだ。
「橘さん、頑張るのね。」
そう言いながら、ちゃっかり古泉の横をキープしている。橘は全力で阪中を睨んでいるが……阪中はどこ吹く風といった表情だ。
「古泉。谷口が言っていたが、今日は実況がつくらしいぜ。」
古泉の横にキョンが行く。橘は笑顔、阪中は苦虫を潰した顔だ。ふ、とハルヒ達を見ると……
「「「…………」」」
絶対零度の視線に、荒れ狂う嵐のような視線に、破裂寸前の爆弾のような視線が阪中を襲い……そそくさ、と阪中は古泉とキョンの横を引いた。
「実況ですか?確か今売り出し中の小神あきらさんと谷口くんでしたね。
彼らだと……アメプロの実況しか思い浮かびませんねぇ。」
「JBLが小神あきらか。」
「試合そっちのけ聞きたくなりますね。」
あはは、と二人が笑う。
「藤原に国木田も来るみたいだし、試合終わったらまた皆でメシ食うか。」
「いいですねぇ。今日はせっかくですし、誰かの家に集まってお菓子持ち寄りましょうか。」
「いいなぁ。また皆で桃鉄やるか?」
「いたストや、Wiiパーティーもいいですよね。それは後程、皆で決めましょう。さて、今日も頑張りますか。」
フラグが折れる音が、鐘の如く鳴り響く。
佐々木、ハルヒ、キョン子、長門、橘、阪中、鶴屋が大地に手をつき……森が盛大に溜め息をついた。そして。

THE GAME IS ON.
試合開始となる。

To Be continued

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最終更新:2013年09月04日 23:58
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