71-686『太陽のジェラシー』

暑い。今日もまた太陽は良い仕事をしている。日焼け止めに余念のない私と橘さん。
「こんな暑いと、化粧も流れるのですよ!」
「マスカラ塗ってると悲惨だよね……」
日焼け止めを塗った後にウォータープルーフ。世の男性が憎らしいよ、全く。
特にこんな暑いと、汗をかいて化粧も流れやすく、更には化粧や日焼け止めで汗腺を塞ぐから染みや黒ずみの理由にもなりやすい。
「むう。……あの現地人はなかなか……肌の露出も良いな。」
暑苦しいから黙れ、未来人。
「――――」
そんな中、黒づくめながら涼しげな宇宙人が。
現在、摂氏36度。見ているこっちが暑苦しい冬服の周防さん。
「あああ!んんっ、もう!暑苦しい!脱ぐのです!」
橘さんが服を剥きにかかる。まぁ、当然だけど……。あなたがやってなければ、私がやっているよ。
暑くてたまらない中、より暑苦しくなるのはゴメンだ。
「…………」
周防さんの服を半脱ぎにさせた橘さんだが、橘さんは恍惚の表情を浮かべ、周防さんに抱き付いている。
「ひやっこいのですよ~……」
「――――」
化粧が移るのも構わず、周防さんに頬ずりする橘さん。
「……何かしてるの?」
私の声に周防さんは……
「冷房――25――度――」
とだけ答えた。
「失礼。」
周防さんの身体に触ってみる。……これは……
「ひんやりとしていて……柔らかくて……気持ちいい……」
橘さんが顔を占拠しているので、私はお腹を占拠してみた。
「――卑猥――」
外気と体温と10度以上差があるのだ。気持ちよくないはずがない。私達は周防さんを公園の芝生の日陰に連れて行き、衆目の下にも関わらず抱き着いていた。
未来人?さあ?そこらへんで油売ってるんじゃない?
「周防さん、私の首筋に手をやって。」
「――こう?」
「うん……上手……」
のぼせた頭に通う血が冷やされていく。
「気持ちいいのです……」
橘さんも同様だ。……さりげなく手背で私の胸を触らないで欲しいんだが。
「――――」
周防さんが何か呟く。蚊が不快だったらしく、シールドを張ったという。
「…………」
「…………」
蚊の心配もなく、風が心地好く髪をくすぐる。ひんやりとした感触に包まれ、私達は周防さんの腕枕のもとに眠った。

……と、まぁ……こんな他愛ない話だったんだけど……
次の日、出会った親友から言われた言葉。
それは、少なくとも私にとって……ちっとも笑えない話だった。

「親友、お前がどんな性癖でも俺はお前の親友だからな。」
「キミは何を言っているんだ?」

意味がわからないし、第一笑えない。


「佐々木さん、性癖は自由よ!人はもっとフリーダムにあるべきだわ!」
「あなたが何を言いたいかさっぱりよ。涼宮さん。」
「んっふ。……僕は応援しますよ?」
「その前に病院に行ってはいかがかな?頭の。」
「…………」
「ふええ~ん……。怖いですぅ~……」
だから、何が……。喫茶店の椅子に座り、キョンは混乱する私に言った。
「公園で、橘と一緒に周防と抱き合ってたんだろ?」
……はい?
「誰がそんな事を?」

「「「「長門(さん)(有希)。」」」」

私は長門さんを見る。長門さんは……誇らしげに頷いた。
「私はレズビアンじゃないわよ!」
仮面も何もなく叫んだ。あんなつまらん話で誤解されてたまるか!
「佐々木さーん!昨日の周防さんの話ですが……」
ああああ!最悪のタイミングだ!
「やっぱり!でも大丈夫よ!私は差別しないから!」
ぐっ、とサムアップする涼宮さん。……私がレズビアンだって、彼女の中で確定してるわけ?
キョンはつまらなそうに外を見ている。そのキョンに古泉くんが異常接近……
「耳許で息を吹き掛けるな、暑苦しい。顔が近いんだよ気持ち悪い!」
「つれませんねぇ。そこがいいのですが。」
……鳥肌が止まらない。
「見ての通り、我がSOS団の副団長はホモセクシャルよ!」
「んっふ。」
「ごめん。何を言いたいかさっぱりだわ。」
頭が痛くなってきた。何故わざわざ性癖のカミングアウトが必要なのか。全く理解出来ない。
橘さんは目を輝かせている。
「佐々木さんが私と同じなら、最早隠す必要などないのです!」
橘さんが飛ぶ……器用にも下着姿で……。服は足元。ここまで来ると変態の領域だ。
「あれは、ルパン脱ぎ!」
涼宮さんが驚愕の目付きで叫ぶ。
「僕ですらルパン脱ぎは出来ないというのに……!」
いや、そんなのどうでもいいから助け……
横から私は強い力に引っ張られた。
「ブグェ!」
ソファーに頭から突っ込んだ橘さんが気を失う。……慌てて服を着せてやる朝比奈さん……優しいね、彼女は。
「……少し佐々木と話してくる。」
手を引いたのはキョンらしい。有無を言わせず、キョンは私の手を引いて喫茶店の外に出た。


「……話を聞こうか。あいつらがいたんじゃ、延々脱線しちまう。」
日陰に行くキョン。私もそれに倣う。
「聞けばつまらない話だよ。」
私は公園の顛末を言った。
キョンは、やっぱりか、という表情をしている。
「……おかしいとは思ったんだよ。お前がそうだったら、俺に言わないはずがないからな。」
「ほう?随分な自信だね、親友。」
確かにその通りだが、言の葉に乗せられると流石に照れる。
「とんだ枯れ尾花だ。」
キョンは、やれやれとゼスチャーすると言った。
「西アジアや緯度の高い所では、熱帯夜には人と抱き合って寝るそうだ。」
「体温より外気が高いからかい?」
「その通りだ。だから、あまりおかしい事ではない。
……それと似た事だとハルヒには説明しとく。」
お前がレズビアンになられても困る。そう付け加えながら。
「(……ん?)」
私がレズビアンになられても困る?
「それはどういった意味でかな?親友。」
「さぁな。」

追いかけて。逃げるふりをして。捕まえて。そっと。

「くっくっくっ。暑さも悪くはないね。」
「汗だくで抱き合って寝るのがか?……ったく。」
キョンは忌々しそうに太陽を見ると、一言呟いた。
「前から嫌いだったが、余計に嫌いになったぜ。」
その言葉が可笑しく、私はついからかいを入れてしまう。
「ほう。太陽だけに妬ける、と?」
「山田くーん!座布団持っていってー!」

真夏の白昼夢。

喫茶店では同じように体温を下げた周防さんに、涼宮さんに朝比奈さんがくっつき、同じネタでからかったら古泉くんが大変な事になった。
まぁそれはどうでもいい話かな?
未来人は不良に絡まれて殴られ、焼けたアスファルトに土下座していたらしいけど、更にどうでもいい話だね。

藤原「汚してやる!太陽なんて!」

END

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最終更新:2013年09月05日 00:06
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