春。合格者発表。
佐々木は残念そうな顔で立ち、俺は茫然自失になり、立ち尽くす……
「今時はネットで調べられるだろう。」
「風情のない男だ。」
第二志望の一流私大に見事に落ち、皆から苦笑され……第一志望の旧帝大。
「狭き門には違いないが、キミとてセンター6割は取っている。それプラスに後期試験の点数だ。僕の計算では、ギリギリいけるはずだがね。」
し、しかしだな、佐々木。
「ええい、度胸のない。」
……こうして俺は佐々木に連れられ……佐々木が先に合否を見に行き……そして冒頭の状況に至るわけだ。
「……お前に勉強教えてもらったのにな。すっかり無駄になっちまった。」
我ながら情けない。推薦合格していた佐々木に勉強を教わり、死ぬ気で努力はした。
夜も寝らずに勉強し、復習を続け、それこそ詰め込んだわけだが……
佐々木がたまに夜食を持って来て、延々と勉強を教えてくれたんだが……
不甲斐なさに口唇を噛み締める。
「これも何かの記念だ。自分の目で確認したまえ。」
佐々木に促され、俺は死刑台に立った。
死刑台の前に整列した死刑囚達。泣き叫ぶ奴もいれば、死刑回避され喜んでいる奴もいる。
大学入試の発表日
掲示板の前でうなだれてる
浪人が決まった受験生
今の気持ちをお聞かせください
ねぇねぇ今どんな気持ち?
ホンネのところを聞かせてよ
ねぇねぇ今どんな気持ち?
ねぇねぇったらー
「幻聴が!初音ミクが俺を嘲笑ってッ!」
「し、しっかりしたまえ、キョン!錯乱してないで!」
「ねぇねぇ、今どんな気持ちと嘲笑って!」
「落ち着いて!キョン!」
炸裂音が響き、頬に鋭い痛みが走った。
「……どんな結果だろうと、全力を尽くした結果だ。僕はキミの努力を知っている。」
「…………」
「落ち着いて見て来たまえ。僕はここで待っている。」
佐々木に抱き締められ、漸く落ち着いた俺は、死刑台に再び立った。
「…………」
目が疲れているんだろう。そこにはあるはずのない番号があった。
「……親友。目薬を貸してくれないか?」
「くっくっ。」
佐々木から目薬を借り、再び番号を見る。
「…………」
……やはりある。という事は、つまり……
「佐々木ぃーッ!てめぇーッ!」
「くっくっくっくっくっくっ!」
俺は佐々木を追いかけ回した。タチが悪い事この上ない!
「そろそろ機嫌を直したまえ。結果を知っていたからこそ出来たジョークさ。」
「ふん。どうせ俺なんか。」
とんだヘビーウェザーだ。幸い、ヘビーでなかったが、本当に死にたいとまで思ったぜ!
自宅で佐々木がベッドに座り、足を組む。俺はシャミセンを抱えて佐々木に背を向けていた。
「本日は晴天なり。所により俄雨有り。局地的に降る俄雨にご注意下さい。」
背後から佐々木の声がする。確かに今日は受験生達の涙雨の日だが。
「特に傘を持っていない方は、雨にご注意……くださ……い……」
涙声に気付き、慌てて背後を向く。そこには……涙を流している佐々木がいた。
佐々木は俺を抱き締め、何度もしゃくりを上げながら「よかった」「おめでとう」と、何度も言う。
「……お前のおかげだ。ありがとうな、佐々木。」
本心からの言葉。ラストスパートを決められたのは、佐々木の尽力なくしては有り得ない話だった。
「キョン……」
佐々木が目を閉じる。……よ、よし……
……部屋の外から長門の無機質な声が響く。
「本日は晴天なり。」
次に響いたのは……
「所により、血の雨が降るでしょう。」
という、ハルヒの声だった。
慌てて二人の前に入った古泉が俺達に言った。
「また春から一緒ですね。宜しくお願いします。」
「「はい……?」」
聞けば、ハルヒ達も後期試験を受けていたそうだ。そして決まっていた一流私大を蹴り、旧帝大にしたらしい……
「そんな事はどうでもいいわ。今、大切なのはあんたの胸の中にいる女狐の処遇よ!」
「誰が女狐よ、誰が。」
局地的な俄雨どころでない。佐々木、ハルヒ、長門の凄まじいヘビーウェザーに、古泉が苦笑し、俺は溜め息をついた。
「……何だかんだで、お前らとは一生つるみそうな気がするぜ……」
「同感です。宜しくお願いしますね、親友。」
「けっ。」
END
最終更新:2013年09月05日 00:19