※『雨と猫』のアナザー
「こんな形で、キミとコミュニケーションを取るとはね。」
「全くだ。お近付きの印に猫缶でも如何かな?」
「お気持ちだけで。」
…どのような経緯を辿ったか知る由もないのだが、主人の番いが猫になっていた。
「何やら一服盛られてね。下手人に目星はついてるし、今度会ったら仕置きしてやろうと思っているよ。」
「それはそれは。」
それは良いとして、だ。
「何かな?」
「つがいよ、そこは私の特等席なのだが?」
つがいは、主人の膝の上に寛いでいる。そこは私の特等席なのだが?全く憤懣やる方ない。
「いつもはキミに独占されているからね。独占禁止法を知っているかい?」
「商法と民事法は違う。良いか?つがいよ。私が主人の膝を独占するのは、それはこの家の家猫たる私に与えられた資格、そして権利だ。」
つがいは、ニヤリと笑う。
「騙されなかったか。」
「詭弁を…。」
主人の腹に首を擦り付けるつがい。主人はつがいの頭を撫でる。…幸せそうに目を瞑り、ゴロゴロと鳴く…。
母猫に甘えた時の甘美な記憶を呼び起こす、猫に許された特権たる行動を猫に見せつけるとは!
「良いではないか。存外気が小さい。」
「良くはない!貴様は望めば主人にそうされる事が可能だ!猫の立場を濫用する権利など…」
「人は素直でなくてねぇ。」
主人よ!即刻この雌猫を膝から降ろし、私を撫でる事を要求する!
「メスネコか。言い得て妙だね。こうしてキョンの腕の中にいると、僕は女なんだと実感を伴いながら理解出来るよ。」
恍惚とした表情のつがい。んんんんん!ゆ、許るせーん!
餓狼伝説の伝説の誤植ではない。単に巻き舌になり、『る』が被っただけだ。
ヒトの時も主人を独占し、あまつさえ猫になってまでも独占しようとは!堪忍袋の尾が切れた!実力行使にて排除する!
「あ!こら、シャミセン!」
……主人の部屋を無茶苦茶に荒らし、私は罰として暫く主人の部屋に入れて貰えなかった。
あまりの不条理に扉を爪で掻いていると、いつの間にかヒトに戻ったつがいが、私にマタタビをくれた…。
つがいにしてみたら、私とコミュニケーションを兼ねた遊びだったのだろうか。全く性格の悪い。
こんなものでは誤魔化されんぞ。有難く頂くがな。
「…お前が来ると、シャミセンが膝から離れん…」
「猫にも色々事情があるんじゃないかい?」
つがいが、私を見てくっくっ、と笑う。
誰のせいだ、誰の!
END
最終更新:2013年10月20日 17:24