72-69「猫と君と僕と~俺の後ろに佐々木がいる~」

 学校からの帰り道、商店街のすぐ近くにある公園の入口で、野良猫を見かけた。
 警戒心を見せるわけでもなく、こちらにくる素振りを見せたわけでもない。
 ただ、その猫はまだそれほど大きくなく、まだ子猫かな?と思った。
 母親から買い物を頼まれていたので、私はス-パ-によることにした。

 母親から頼まれていたもの以外に、私は一つ予定外の物を購入していた。
 スライスチ-ズ。ちょうど特売だった。
 あの公園に向かうと、野良猫はまだそこにいた。
 袋を破り、チ-ズを一枚取り出す。
 「ほら、おいで」
 野良猫は私の側にやって来て、チ-ズの匂いをしばらく嗅いでいたが、端の方に食らいつくと、ゆっくりと食べ始めた。

 まだ私が「佐々木」という苗字でなかった頃。
 やはり学校の帰り、私は小さな箱に入れられて、捨てられていた、かわいい子猫を見つけた。
 両親に飼ってもいい?と聞いて、何度もお願いして、ようやく父が「いいだろう。ただし、お前が責任持って世話をす
るんだぞ」と言い、私は喜んで猫が捨てられていた場所に行った。
 だけど、その子猫は既に鳴くこともなく、冷たくなっていた。
 その日、私は泣き続け、その子猫の遺体を庭に埋めてあげた。

 昔のことを思い出したのは何故だろう。あのことがあって以来、私は生き物を飼おうとは思わなかった。そして、父は
それから程なくして家から出て行ってしまった。
 毛が少し長く、どうやら雑種らしい。私が飼いたいと思った子猫に、どことなく似ていた。
 「もう一枚だけあげる」
 猫は満足げに喉を鳴らしながら、再びチ-ズに食らいついた。
 「猫だけに、気まぐれかしらね」
 私は小さく呟いて、その場を去った。


それからしばらくたったある日、私はキョンの家に遊びに行った。
 最近、キョンの家にお邪魔することが多くなった。
 キョンも私と同じ塾に通うようになり、また文化祭も近づいてきて、必然的にキョンと二人で勉強したり、共に行動する
ことが多くなったからだ。そして、それ以外にも二人でよく遊びに出かけるようになった。
 「佐々木のお姉ちゃん、いらっしゃい!」
 キョンの部屋でくつろいでいると、妹ちゃんがそう言って入って来た。
 「あれ、その猫?」
 妹ちゃんは子猫を抱いていた。毛が長い、雑種の子猫。
 「ああ、これか。この間、商店街の近くの公園で見つけたんだ。ちょうど妹(こいつ)が猫が欲しいな、とか言い出したん
で、どうしようかなとか考えていたら、公園で見かけたんだ。野良猫だった割には人懐っこいし、毛並みも綺麗だったんで、
家に連れてきたわけさ」
 「へえ、そうなんだ。妹ちゃん、一寸触らせて貰っていい?」
 「うん、いいよ!」
 妹ちゃんから受け取り、私は子猫を抱く。子猫は擦り寄って来て、喉を鳴らした。
 「かわいい猫だね。とても人に慣れている。キョン、時々この猫触りに来てもいいかい?」
 「どうぞ、構わないよ。いつでも来いよ」
 「ところで、この子猫、名前はなんていうんだい?」
 「あー、それがな。妹が付けたんだけどな―」
 「シャーミて言うの!可愛いでしょう!」
 「シャーミって、確か君が書いて応募した小説に出てくる三毛猫の雄の名前かい?」
 「あんまりいい名前じゃないけどな」
 由来が三味線だからね。
 そんなことを知ってか知らずか、自分の名前を呼ばれ、子猫は小さな声でニャ-と鳴き声をあげた。

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最終更新:2013年10月20日 17:27
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