72-85『モーターヘッド』

日常生活、足があれば便利であろうという事で、バイクの免許を取ってみた。
教習所では意外にも佐々木がいた。どうやら学校まで電車で通うのが辟易したらしい。
同じ日に卒業し、バイクを買う段階で佐々木は俺に言った。
「別に高校生風情が、良いバイクに乗る必要もなかろう?僕に任せてくれたまえよ。母のツテがあり、安く手に入るバイクがあるんだ。」
「ほう。」
それは楽しみだな。一週間後、佐々木の家を訪ねると…そこにあったのは…
「カブ?!」
「くっくっ。その通り。」
郵便局で使うようなカブだ。
「古くなったようでね。母に話があったんだ。偶々二台あって良かった。」
…この何処にでも履いて捨てるような、ボロボロのバイク…いや、乗り物。払い下げ一万円か…こんなものなのか?
「…なあ、親友。」
「なんだい?」
「せめて、もう少し見目良いバイクはなかったのか?」
俺の当然の疑問に、佐々木は含み笑いをしつつ答えた。
「くっくっ。キミ、カブはカスタムベースに大人気なんだよ?
我々のような少ない小遣いを遣り繰りしている立場からすると、経済的でカスタムパーツも豊富、かつ二人乗りも可能という、まさに夢のような代物だ。」
しかし、見た目がなぁ。郵便局カブでは格好つくまい。佐々木はコンパウンドを構えて言った。
「さて、大掃除だ。ついでにカスタムの下地も作るか。」
「え?」
「くっくっ。僕も初めてだから、戸惑う事ばかりだろうが…キミがリードしてくれたまえ。」
「誤解を招く言い回しするんじゃねぇ!」
…結局。毎日佐々木の家に通い、二人でコツコツと仕上げていったんだが…パーツを分解し、磨くのが佐々木、そして組み立てるのが俺という分担になった。
塗装だけはプロにお願いしたが、そこは近所の塗装屋が格安でやってくれて…
「こんなものかね?」
およそ二ヶ月を費やし出来上がった大作。それは。
「素人細工にしては上出来だろう。」
ほぼ、色だけ変わったような印象のカブ。佐々木は空色。俺は明るい緑色。ピカピカのカブだが、こうしたものは使い込めば味が出るしな。
「色々興味深い時間だったね。知識と実践は別物だと思い知ったよ。」
佐々木がパステルカラーの二台のカブを、愛おしそうに眺める。…よく手入れするというが、手が掛かったからこそ愛おしくなる感覚が良くわかる。
細部は別物といっていい位に変えたんだが、そんなもん俺達が知っていればいい。
「キョン、来週にでもツーリングに行くかい?」
「ああ。」
こうして、俺達はツーリングに出掛ける事になった。…ちょっとした小旅行だな。
後に理解したが、バイクで荷物を積む場合はカブは理想だといっていい。佐々木はそれを見越してカブにしたのか、それとも本当に格安だったから買ったのかは、そこは佐々木のみぞ知る。


ツーリングは山に行く事になった。
カブは快調で、トコトコと走る。
途中、道の駅に寄り佐々木がご当地キャラクターのストラップを物欲しげに眺めていたのには笑わせて貰ったが。
途中、山道で雨が降ってきた。俺達はカブを停め、近くにあった農作物の無人販売所の軒下へと走る…
「畜生、雨かよ。」
「デジャヴだね…」
僕は雨女かも知れない、と佐々木が笑う。雨女、ねぇ。
「なら俺も雨男だな。」
山の天気は変わりやすいと聞く。雨に濡れていくパステルカラーのカブ達。

「綺麗に仕上げたのにね。」
「また磨けばいい。」
「また汚れるよ?」
「そん時もまた磨け。」
「永久機関だね。」
「手入れすりゃ、一生持つだろ。そんなもんだ。」
「僕達が、あのカブを仕上げたように?」
「磨かない権利もある。」
「…そうだね。」
「自分が出来る範囲内で大切にしてやりゃいいさ。」
「観念論者めが。」

雨が止み、街へと戻る。
佐々木と別れ、帰路につき、一日は恙無く終わった。
それからたまに佐々木とツーリングに行くようになり、沢山の思い出を詰め込んだカブは、やがて小屋の中に眠るようになった。

「さて、引っ張り出すとするかね…」
月日が流れ、俺は二台のカブを小屋から出した。時々しか手入れされていないそれは、薄汚れており所々の傷みもある。
「随分懐かしいものを。どうしたんだい?」
「あー、あいつらがバイク欲しいとほざき出してな。薄給の俺達では、あいつらが欲しがるバイクなど買えん。」
「くっくっ。だからその子達を出したのかい?また私達が磨くのも悪くない。」
「ダメだ。それはあいつらにやらせる。」
小屋の前にマニュアルと工具を置く。用意が出来たと察した二人が、小屋に向かって来た。
「親父、何だよその汚いカブは。」
「可愛い…けど汚いよお父さん、お母さん。」
「知るか。乗りたいなら、自分で整備して勝手に乗れ。」
ギャーギャーうるさい二人を放置し、俺達は家に戻った。居間の棚の写真立てにある、かつての俺達とパステルカブ達。

「写真立てが、二ついるようになるね。」
「…そうだな。」
これから、あのカブ達がどんな思い出を紡ぐか。それはカブのみぞ知る、とな。
「おっさんかい?」
「うるせぇ。」

END


おまけ。

娘「さて、帰るかな。」
橘「私を乗せていって欲しいのですよ。」
ハルヒコ「俺の特等席だ。歩け橘。」
橘「全くこの類人猿は。娘さんの後ろは私が守るのですよ!」
ハルヒコ「ああん?やんのか?テメェ!」
娘「二人とも嫌だよ。歩きな、橘さんにハルヒコ。」
二人「何故!」
娘「橘さんだと、胸を鷲掴みにしてくるし、ハルヒコは髪の匂いを嗅ぐから気持ち悪い。」
橘「ふんもっふしてやりましょうか、この類人猿がぁぁぁぁぁ!」
ハルヒコ「胸を鷲掴みだと三下がぁぁぁぁぁ!表ン出ろ、橘ぁぁぁぁぁ!」

息子「…あいつら、元気だな…」
ポンジー「…乗せてくれると助かるんだが、現地人…」
息子「ああ、スーパーの特売か。構わんと言いたいが、長門が本を返却に図書館に行くしな。」
ポンジー「くっ…これも規定事項か…。卵かけご飯よ、さらば…!」
長門「…藤原くん、良かった皆で食べる?今日は涼子がご飯作るし…」
朝倉「構わないわよ。…親御さんに迷惑が掛からないように監視しとかないと、ね?」
長門、息子「////」
藤原「はじけて混ざれ、リア獣め!」(血涙)

おわれ。

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最終更新:2013年10月20日 17:30
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