時間は止まる事なく流れ、ついにキョンの記憶が消される予定の日を迎える。
「快晴ですね…」
みくるが待ち合わせの光陽園駅前へと向かう。
未来からの指示が錯綜し、拾得選択に迷う結果になっているが…どの指令が本来の指令なのか、みくるには皆目見当もつかない。
ある指令では、涼宮ハルヒを守り、佐々木の排除をする事。
ある指令では、佐々木を説得し、キョンとの付き合いを保つ事。
みくるにしてみると、前者であればキョンの気持ちを無視する結果となり、後者であれば自分達の未来への影響が出る結果となる。
ただ。自分の心情としては後者だ。
ハルヒにしても、自身の気持ちのみをキョンにぶつける程愚かでないし、何よりキョンもハルヒをとても大切に思っている。
異性としてのベクトルでないだけであり、人同士の繋がりとしては羨む位に絆が強い。
その中に自分も含まれており、古泉にしても長門にしても同じくである。
五人、スクラムを組み合う仲間であり、その仲間に恋人が出来ただけであり、それは歓迎すべき事態である…のだが。
「(どこに行っても置いてけぼりは、私ですよね。)」
みくるは自嘲気味に笑った。
何故自分はハルヒや長門、佐々木と同じ土俵にすら立てないのか。答えは明白だが、つい妄想してしまう。
もしも、彼が未来にいたら、と。
但し、これは絶対に叶わない願いであり、みくるもまたそれを願う愚か者ではない。
もうすぐ未来に戻され、この時代とも接触はしなくなるのだろう。もう二度と会えない仲間達。そして、もう訪れる事のない場所。
目に焼き付け、今を一生忘れたくないと思った。
任務については、完全に流れに任せる…行き当たりばったりだが、それしかない。佐々木にせよハルヒにせよ、お互いを排除し合って喜ぶ人間ではない。みくるはそう考えている。
責任が自分にあるという事は、行動の自由もある。
今日、この日を目一杯楽しみ、皆で楽しい時間を過ごせば、自ずとどちらを選択するかは決まるだろう。
「罪作りですよねぇ…。」
ちっともカッコ良くない、騒動の渦中にいる人物を思い浮かべ、みくるは少し笑った。
同じ頃、影はセーラー服の影、藤原、みくる(大)と一緒にいた。
「…一応確認するが、お前は誘われたのか?」
「ふん。僕が誘われないのも規定事項だ。」
「……」
影が藤原の肩を抱き、言った。
「会いたくないもんな、古泉に。」
藤原は影を睨む。
「機関の男のみならず、あの現地人にも会いたくないんだよ。お前と比較すると、どうしてもガキ臭い。」
「仕方ねーだろ。事実ガキなんだ。年なりに子どもで当然だろうが。」
寧ろ、10代で老成していたら怖いとしか言えん。そう影は言う。
「恥かいて当たり前なのに、恥かくのを嫌がるからなぁ。ま、古泉は近くに大人がいるから、あの年頃にしては凄く大人びてるがな。」
その分の反動もあって、非常に多趣味で良く付き合わせられ、たまに二人で怒られもしたが。
過去を懐かしむ色が影の目に浮かぶ。
なんだかんだと腐れ縁で、ずっと親友だった。たまに酒を呑んで勢いに任せてお姉ちゃんのお店に行ったりしたり、泊りがけでゴルフに行ったり、釣りに谷口達を誘って行ったり…
その古泉と、事を構えるかも知れない。影は一息吐くと首を振った。
「古泉は情報統合思念体よりは未来を恐れるはずだ。だが、牙を向かない未来ならばあいつも牙を向かないはずだ。
この時点で、情報統合思念体は天蓋領域のプロコトルの解析を終え、ワクチンを作っているというのが、規定事項になる。
未来…朝比奈さんの動向だが、未来の指示は、今のところはαにβが混在している。現時点で俺達以外に未来が介入しているならば、別次元の朝比奈さんがいる可能性もある。それは…」
「姉さんからの接触は不可能だろう。会えば消し飛ぶ。」
藤原が半分拗ねたようにペットボトルのお茶を飲む。早く帰って姉さんの淹れたお茶が飲みたい、と言いながら。
「お互いに指示するしかない、というわけか。」
「そうなりますね。ただ、お互いに干渉出来なくとも、こちらにはーーさんがいます。」
みくるがセーラー服の影を指す。
「朝比奈みくるの異空同位体の無力化など、雑作もない。許可を。」
「おい、待て。」
何故かやる気満々のセーラー服の影。三人が盛大に突っ込む。つまらなそうに俯くセーラー服の影…。
違う場所では、何故か悪寒に襲われていたみくるβが胸をなでおろしていた。何か八つ当たりされる、という確信めいた予感があったからだ。
「まぁ待てよ。同じ朝比奈さんだろ?俺に良い考えがある。わざわざ暴力に訴えなくてもだな…」
ーーーー
「ーーーくん、最低…」
みくるがこめかみを抑える。確かにそれなら引っ掛かる。間違いなく。だが。
「異空同位体に『キョン』として会い、未来を捻じ曲げるだと?貴様は姉さんの気持ちをだな!」
それは、更なるifの可能性が出る。
「…不許可。朝比奈みくるβの貞操の為にも許可しない。」
それだ。影は老成しているだけに、人の心理を読む事に長けている。つまりは経験則に基づいて行動されては…
実際に骨抜きにされている人間がいるだけに、みくるβもそうなる可能性がある。影がスケベ心を起こしたら……という可能性もあるのだ。一筋ながら女性関連では、とことん信頼の無い影であった。
皆からの大反対に影が叫んだ。
「お前ら、俺を何だと思ってやがる!」
「「「歩くフラグ建築士。」」」
同時にフラグクラッシャー。影は盛大に溜息を吐くと言った。
「やれやれ。」
To Be Continued
最終更新:2013年12月08日 01:20