72-112『Countdown to Extinction』2

天気は快晴。雨天の場合でも決行したであろう、本日の不思議探索。
「不思議探索って、どんな事をするんですかぁ?」
「別に、世の中にある不思議を探す探索よ。」
捻りはない。だが、そんなものだ。身近にこそ見落としがあるのかも知れないし、それを探す探索だった。
不思議を見つけようと躍起になっていたが、不思議は意外に身近にあった。
それは、人の心だ。
人の心こそ不思議であり、杓子定規には測れない。特に異性間では。
自分は女として誰かを求めたというよりは、人間として誰かを求めていた。そして、それは叶った。
キョン、古泉、みくる、長門といったSOS団の仲間達だ。
正直、団員とは強い絆で結ばれていると思っている。
やりたい放題してきた自分だが、皆はそんな自分を見離さないでくれた。だからこそ、自分も皆にできる限りの事を返したい。
キョンが佐々木を選んだというなら、佐々木をしっかりと見てやろう。もしもキョンにそぐわないと判断したら、そこは一言釘を刺そう。
団員達だって、自分に思うところがあれば言っていい。SOS団の絆は、それしきでは壊れないと自負している。
渡橋と話す事により、ハルヒは自身の内面と嫌になる位に向き合った。そして導き出された答えは。
団員への感謝と、一人の仲間としての団員との過ごし方。これである。
一人の人間として皆と向かい合う。言葉では容易いが、自分には容易にいかない。其れ迄が我儘放題だったわけである。自身と向き合うよりも更に難しいかも知れない。
「(相手あってのものだからね。)」
自身の問題は自身の管轄にある。相手あっての問題は、相手の受け取りも関わる。持ち前の行動力。それが良くも悪くもハルヒの魅力である。

「(子どもって、こんなものかしら…)」
渡橋は、内心溜息を吐いていた。この頃は、もう少し大人…少なくともハルヒの考える境地にはいた、と考えていた。
だが、現実は。まさに赤っ恥もいい所である。何回話している途中にハルヒが世界改変しようとしたか。数えるのも面倒だ。
「(苦労掛けてたのね…)」
仲間達の心労を考えると、今すぐに土下座して詫びたい気分になる。
自分で子育てを一通りやったから分かる。ハルヒの自我は、子どもに近い。内向から外向に向かう手前だ。
閉鎖空間というのが良い例だろう。内向に内向を重ね、爆発を起こす。
自己分析していると死にたくなる気分になるのは何故だろう。それはそうであろう。大人になってもたまに自己嫌悪して死にたい気分になるというのに、子どもから大人になりかけの時代など、恥の山積みだ。
それを恥と考えない時代。それがハルヒにとっての今である。
渡橋は恥じ入り、頬を染めた。もしも未来のみくるがいたら、三つ指ついて謝ろう。そう心に決め、ハルヒの後ろを歩く。

光陽園駅前にはみくるがいた。柔和に手を振り、二人を迎える。
「みくるちゃん、おはよう!」
「おはようございます、涼宮さん。」
ハルヒの笑顔に、みくるもまた極上の笑顔で応えた。


古泉は、車から降りて待ち合わせの光陽園駅前へと向かう。
「定時連絡は欠かさないように。」
「分かっていますよ。」
新川に見送られ、歩く街。
橘のテロ予告は機関に衝撃を与えており、森は機関の中でテロに備えて待機である。
古泉、新川は不思議探索の為に出ているが、機関の代表クラスである古泉、いざとなれば古泉の代役となり得る新川の保護でもある。
全てブラフであり、誤情報であるとは今のところバレてはいない。バレていれば自分も拘束されているはずだ。
「(森さんなら、いざとなれば一人でも切り抜けられるはず。)」
深い信頼。森もまた古泉ならば、適切な答えをハルヒやキョンに与えられるはず、と信頼している。形は違えど、信頼しあっている。そう古泉は思っている。

『一蓮托生よ。あんたが命を賭けるなら、あたしも賭けてあげる。』

泡沫の夢だったかも知れない。だが、自分は確かに聞いた。それは、森の本音であると古泉は信じている。そして自分ははっきりと聞いた一言がある。

『返事が聞きたいなら、ちゃんと帰ってきなさい』

それだけでいい。今は。今はそれだけでいい。それだけで頑張れる。
自分に課せられた任務は、機関を裏切るそれだ。これまで積み上げたものを壊す行為だとしても、自分はSOS団の副団長として、一人の人間の親友として遂行しなくてはならない。
友の自立を促す為に。
窮地にある友を守る為に。
観測を続ける友の為に。
去って行く友を、笑って送り出す為に。
「(僕は、機関の一員であると同時にSOS団の副団長です。)」
古泉は、光陽園駅前にいるハルヒとみくるに手を上げる。
「おはようございます、涼宮さん。朝比奈さん。」
「おはよう!古泉くん!」
「おはようございます。古泉くん。」
少し離れた位置から、古泉の背中を見る新川。
「(良い背中を見せるようになってきたな。)」
本人達は気付かれていない積もりだろうが、森との関係など皆はとっくに知っている。
女を変えるのが男ならば、男を育てるのは女である。その意味では、古泉と森の相性は非常に良いといえる。が、新川に言わせると二人ともまだまだ子どもの領域だ。
新川は、少しばかりの世話焼きと、後処理の算段を考え、含み笑いをしながら古泉を見送った。

To Be Continued

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最終更新:2013年12月08日 01:21
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